株式会社の機関設計(詳細)
経営法務 第21回
「何百億円もの借金を抱え、何千人もの従業員がいる巨大企業の経営トップが、誰の監視も受けずに自分たちだけで決算書を作ってよいとしたら、恐ろしくて誰も取引しないですよね」。動画はこんな問いかけから始まります。このページでは動画の流れにそって、最小の機関設計、取締役会を置いたときの連鎖ルール、会計参与と監査役の違い、大会社と会計監査人、監査役会や委員会型までをまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
巨大企業が、決算書を自分たちだけで作ってよいか
何百億円もの借金を抱え、何千人もの従業員がいる巨大企業があるとします。その経営トップが、誰のチェックも受けずに自分たちだけで決算書を作ってよいとしたら、どうでしょう。銀行はお金を貸さないでしょうし、取引先も従業員も安心できません。動画はこの問いかけから入ります。
実は会社法は、会社が一定の規模を超えると、外部の厳しい監視の目が組み込まれる仕組みにしています。株式会社には、株主総会、取締役会、監査役といった機関がありますが、この組み合わせは自由ではなく、論理的な制約があります。今回のテーマは、この機関設計です。
動画は、機関設計が次の3つの要素で決まっていくと整理します。
- 会社が大会社かどうか
- 株式が公開か非公開か(譲渡制限の有無)
- 取締役会を置くかどうか
暗記科目に見えて、実は「なぜその機関が必要なのか」という意図でつながっています。連鎖のルールを一つずつ見ていきましょう。
いちばん小さな形は、株主総会と取締役だけ
どんな株式会社にも置かなければならないのが株主総会と、取締役1人以上です。この2つがあれば、株式会社として成立します。
ここで聞き手は「1人で会社を作って自分が取締役になれば、それで機関設計は完了ですか?」と質問します。ところが、この最小構成が認められるのは非公開会社に限られる、というのが最初の落とし穴です。
公開会社と非公開会社って、上場しているかどうかの違いですよね。
そこが誤解されやすいところです。法律上は、上場しているかどうかは関係ありません。発行できる株式のうち、1種類でも譲渡制限のないものがあれば、公開会社です(会社法2条5号)。
上場していなくても、自由に売買できる株式があれば公開会社になるんですね。
理由は、誰でも自由に株を買えるなら、見ず知らずの人がある日突然、会社の所有者になるかもしれないからです。そうした投資家の利益を守るには、複数人で話し合う合議体による経営判断が必要になります。逆に、勝手に株を売買できないよう制限している非公開会社なら、株主は身内や顔見知りが中心です。複数の取締役を集めた複雑な合議体を作らなくても、素早く決められる。これは非公開会社にだけ許された特権だ、と動画は説明します。
動画は車にたとえます。株主総会が車の所有者、取締役が運転手です。運転手1人の軽装備で走れるのは、非公開会社という車種だけ、というわけです。
試験の注目点
- 公開会社は、上場しているかどうかではなく、譲渡制限のない株式があるかで決まります。会社法2条5号は、発行する全部又は一部の株式について譲渡制限の定めを設けていない株式会社を公開会社としています。
- 株式会社は取締役を1人以上置きます(326条1項)。取締役会を置く会社は3人以上です(331条5項)。
(補足:動画にない話です。公開会社は、取締役会を置かなければなりません(327条1項1号)。つまり「株主総会と取締役だけ」の最小形が使えない理由は、公開会社が取締役会を必ず置くからでもあります。)
取締役会を置くと、ブレーキ役がセットになる
非公開会社が成功して大きくなり、複数の取締役で話し合って決めたくなった場合は、取締役会を置きます。取締役会を置くには、取締役が3人以上必要です。運転手が3人に増えるイメージです。
ただし、動画が強調するのはここからです。取締役会を置いた会社は、それだけで機関設計を完了できません。合議で経営の力が強まる分、経営陣が暴走したときのブレーキとして、別の機関をセットで置く必要があります。これが動画のいう連鎖ルールです。
動画の言い方では、取締役会を置いたら、会計参与、監査役、監査役会、または三委員会(指名委員会等)や監査等委員会のいずれかをセットで置く、ということになります。運転手を増やして大きなエンジンを積んだら、法律が指定した安全装置を必ずつける、という安全設計です。
取締役会を置いたから機関設計は完璧、と胸を張る社長がいたら、どう言えばいいでしょう。
「社長、ブレーキ役が足りていませんよ」と指摘できます。実行部隊と監視部隊のバランスが、透明性を保つために欠かせないというのが、この仕組みの意図です。
(補足:条文では、取締役会設置会社は原則として監査役を置きます。ただし公開会社でない会計参与設置会社は、監査役を置かなくてよいとされています(327条2項)。監査等委員会設置会社と指名委員会等設置会社は、監査役を置けません(同4項)。)
会計参与と監査役:一緒に作る人と、後から確かめる人
名前が似ていてややこしい会計参与と監査役を、動画はレストランの厨房でたとえます。
会計参与は、料理、つまり決算書を作る段階から厨房に入り、取締役と一緒に味付けをするプロの料理人です。なれるのは、公認会計士、監査法人、税理士、税理士法人だけです(333条1項)。作る段階から専門家が入るので、そもそも不正な決算書が生まれにくい、という考え方です。
監査役は、出来上がった料理を後から確かめる保健所の検査員です。取締役の仕事ぶりを後から監査して、監査報告を作るのが仕事です(381条1項)。
| 役割 | なれる人 | |
|---|---|---|
| 会計参与 | 取締役と | 公認会計士・ |
| 監査役 | 取締役の職務の | ― |
取締役会を置いたら監査の機関をつなげる、と言いましたが、どれを選ぶかは自由ですか?
会社の条件で変わります。たとえば取締役会を置いて、ほかの監査の機関を一切置かない非公開会社は、会計参与を置く義務があります。プロと一緒に決算書を作る体制は、最低限確保しなさいということです。
さらに動画は、非公開会社が監査役を選ぶ場合、その範囲を会計だけに限定した監査役を置くことも認められると言います。動画では「会計限定監査役」のように呼ばれています(自動字幕の誤変換が多く、呼び名は断定できません)。条文上の用語ではなく、定款で監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定できる、という扱いです(389条1項)。身内の会社なら、業務全体を見る検査員でなく、お金の計算だけを確かめる検査員でもよい、というわけです。
(補足:会計に限定した監査役は、監査役会設置会社と会計監査人設置会社では使えません(389条1項かっこ書)。次に見る大会社は会計監査人が必須なので、結果として大会社では使えません。)
大会社になると、会計監査人が必須になる
その会社が成長して公開会社になり、さらに大会社の要件も満たしたら、身内向けのルールのままではまずいでしょう。動画は、大会社でかつ公開会社の場合、監査役を単体で置くだけの設計は認められなくなる、と言います。
では、大会社とはどのくらいの規模でしょうか。資本金5億円以上、または負債総額200億円以上です。どちらか一方でも満たせば大会社になります。
負債が200億円もあれば、倒産したときに銀行も取引先も連鎖して傷み、失業者があふれるなど、社会への影響が桁違いです。だからこそ、大会社になると機関設計の選択肢が極端に狭まります。大会社は必ず、独立した第三者機関である会計監査人を置きます。なれるのは公認会計士か監査法人だけです(337条1項)。
試験の注目点
- 大会社=最終事業年度の貸借対照表で、資本金5億円以上、または負債の部の合計200億円以上のいずれか(2条6号)。
- 大会社(公開会社でない会社、委員会型の会社を除く)は、監査役会と会計監査人を置きます(328条1項)。公開会社でない大会社も、会計監査人は置きます(同2項)。
影響力が大きいから、身内のお手盛りチェックや、権限の狭い簡易的な監査では許されないわけですね。
そうです。大会社は、どの機関設計のルートを通っても、最後は会計監査人の設置にたどり着かなければなりません。これが大会社が超えられない絶対の制約です。
いちばん厳しい形:監査役会と委員会型
さらにその上のガバナンスの最高峰が、監査役会と、三委員会(指名委員会等)・監査等委員会です。
監査役会は、監査役3人以上で構成し、そのうち半数以上が社外の監査役でなければなりません(335条3項)。設置する会社には、前提として取締役会があります。社内の人間関係やそんたくが通用しにくい仕組みです。
三委員会とは、指名委員会、監査委員会、報酬委員会のことです。コーポレートガバナンスの強化が究極の目的で、どの委員会も取締役3人以上で組織します(400条1項)。監査等委員会も、3人以上の取締役で構成します(331条6項)。
わざわざ指名や報酬の委員会を独立させるのは、なぜですか。
経営トップが自分のお手盛りで高い給料を決めたり、都合の悪い意見を言う取締役を恣意的に外したりするのを防ぐためです。トップの暴走をピンポイントで防ぎます。
だからこそ、これらの委員会には、構成員の過半数が社外取締役という厳しい決まりがあります(三委員会は400条3項、監査等委員会は331条6項)。ここでも連鎖ルールが働き、これらの委員会を設置する会社は、取締役会に加えて必ず会計監査人も置きます(327条1項・5項)。
| 人数と社外の要件 | あわせて置くもの | |
|---|---|---|
| 監査役会 | 監査役3人以上 | 取締役会 |
| 三委員会(指名委員会等) | 各委員会 | 取締役会 |
| 監査等委員会 | 3人以上の取締役 | 取締役会 |
(補足:表の「あわせて置くもの」は、327条1項・5項から整理したものです。動画では、監査役会の前提としての取締役会と、委員会型での会計監査人に触れていました。)
まとめ:3つの要素で、機関設計は決まる
動画のまとめは、機関設計は決して自由に選べるものではない、ということです。会社が大会社かどうか、株式が公開か非公開か、取締役会を置くかどうか。この3つの要素で、置くべき監査の機関が論理的に決まります。
ここだけは押さえる
- どの株式会社にも株主総会と取締役1人以上が必要。この2つだけの最小形が許されるのは非公開会社だけ。
- 公開会社かどうかは、上場の有無ではなく譲渡制限のない株式があるかで決まる。
- 取締役会を置くと取締役は3人以上。さらに会計参与・監査役・監査役会・委員会型のいずれかが連鎖してくる。
- 大会社=資本金5億円以上または負債200億円以上。どのルートでも会計監査人にたどり着く。
- 監査役会は3人以上・半数以上が社外。三委員会・監査等委員会は3人以上の取締役・過半数が社外取締役で、会計監査人もセット。
動画の最後は、聞き手への宿題です。ニュースに出てくる大企業が、なぜあえて社外取締役が過半数の厳しい委員会を置いているのか。海外の投資家に透明性をアピールしたいのか。逆に、規模が大きいのに非公開会社のままなのは、外部の干渉を受けず独自の経営を貫きたいからなのか。機関設計の裏にある企業の意図を考えてみてください、という呼びかけです。
動画で聞く
続けて読む
- 第16回 親族の権利と調整のルール経営法務・民法 017
- 第17回 会社設立の基本フロー経営法務・会社法 001
- 第18回 会社の憲法定款と変態設立事項経営法務・会社法 002
- 第19回 会社設立の「出資」と「責任」の基本経営法務・会社法 003
- 第20回 会社設立の「登記」と「届出」の重要ポイント経営法務・会社法 004
- 第22回 徹底比較!会社の意思決定機関経営法務・会社法 006
- 第23回 株主総会の種類と決議ルール経営法務・会社法 007
- 第24回 株主の権利と少数株主権の重要ポイント経営法務・会社法 008
- 第25回 株式会社の「役員等」経営法務・会社法 009
- 第26回 取締役の義務と取締役会の役割経営法務・会社法 010
- 経営法務のWebテキスト一覧同じ科目の53本を一覧・検索
- 中小企業診断士 1次の講座トップ科目別プレイリスト・人気の講義・ファイナルペーパー

