マンデル・フレミングモデル
経済学・経済政策 第52回
「なぜ海外の金利が少し変動しただけで、私たちの国の経済まで大きく揺さぶられてしまうんでしょうか」。動画はこんな問いかけから始まります。このページでは動画の流れにそって、国際収支とBP曲線、IS・LM・BPが同時に均衡する点を考えるマンデル・フレミングモデル、資本移動の度合によるBP曲線の3つの形(水平・垂直・右上がり)をまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
海外の金利が動くと、国内経済まで揺れるのはなぜ?
「なぜ海外の金利が少し変動しただけで、私たちの国の経済まで大きく揺さぶられてしまうんでしょうか」。動画は、この問いかけから始まります。今回は、国境を越えたお金と物の動きの裏側にあるルール、つまりマンデル・フレミングモデルの入り口を、動画の流れにそって見ていきましょう。
これまでの講義は、分析を単純にするために、外国との貿易が一切ない閉鎖経済を前提にしていました。聞き手は、これを「国内だけで完結する箱庭」とたとえています。今回はその箱庭から飛び出して、外国との貿易によって国際収支が生じる開放経済を考えます。聞き手が、診断士の一次試験でも外せない重要テーマだと言い、講師も同意しています。
これまでに学んだのは、物(財)市場のバランスを示すIS曲線と、お金の市場のバランスを示すLM曲線の2本でした。今回、そこに国際収支の分析としてBP曲線が加わります。
BPとは国際収支のこと
聞き手が「BPは何の略ですか」とたずねると、講師は、バランス・オブ・ペイメント、つまり国際収支の頭文字だと答えます。国際収支とは、簡単に言うと、一定期間における一国の対外的な取引をトータルでまとめたものです。動画は、これを2つの要素の合計として説明します。
- 経常収支:財やサービスの輸出額と輸入額の差。日本から車を輸出し、海外から資源を輸入するような、実体のある物やサービスのやり取り(聞き手の言い方)。
- 資本収支:投資や借入れなどによる資産と負債の差。物ではなく、金融の世界の目に見えないお金の動き(聞き手の言い方)。
この2つの合計が国際収支です。そして、国際収支が均衡する、つまりプラスマイナス0になるような、国民所得(Y)と利子率(i)の組み合わせを表したのがBP曲線です。聞き手は、Yが国の稼ぎ、iが金利水準で、そのバランスを見るのだと整理していました。
(補足:動画の説明は教科書的な単純化です。実際の経常収支には、貿易・サービス収支のほかに、海外との投資の利子や配当などの所得のやり取り(第一次所得収支)や、贈与のような対価のないやり取り(第二次所得収支)も含まれます。また、令和8年4月1日現在の日本の国際収支統計では、動画の言う資本収支にあたるものは「資本移転等収支」と「金融収支」に分けて公表されている、とされています(2014年以降の統計)。金融収支は、資産の増加(対外投資の増加)をプラス、減少をマイナスで表し、「経常収支+資本移転等収支-金融収支+誤差脱漏=0」の関係があります。資本収支と金融収支は符号の考え方が異なるため、試験では、問題文や使っているテキストの用語にそろえて読むのが安全です。)
IS・LM・BPが同時に均衡する点を探す
講師によれば、このBP曲線とIS曲線、LM曲線の3つが同時に均衡する点を考える分析手法があります。財市場、貨幣市場、そして今回の国際収支の3つが全部ぴたりと合うポイントを探すわけです。動画は、これをIS-LM-BP分析、あるいは提唱者の名前を取ってマンデル・フレミングモデルと呼ぶと説明します。聞き手は「いかにも経済学らしいかっこいい名前」と感想を述べていました。
(補足:マンデル・フレミングモデルは、ロバート・マンデルとマーカス・フレミングの名前に由来します。IS-LMの枠組みを、外国との取引がある開放経済に広げたものです。)
BP曲線の形は、資本移動の自由度で3つに分かれる
ここからが動画の本番です。BP曲線がグラフ上でどんな形になるかは、国と国との間で資本移動がどれくらい自由に行われるかという度合で、大きく3つに分かれます。聞き手の言い方では、お金が国境を越えやすいかどうか、ということです。
① 資本移動が完全なとき:水平
資本移動が完全とは、国境の壁が一切なく、お金が世界中を自由自在に飛び回る状態です。投資家は、純粋により高い利回りを求めて資金を動かします。ここで講師は、聞き手に問いかけます。
国際収支が均衡する国際利子率と比べて、自国の金利が少しでも高かったら、どうなると思いますか。
世界中の投資家が、あの国のほうが儲かると高い利子率を求めて、外国から自国へどっと資本が流入してきますよね。
その通りです。逆に自国の金利が低ければ、どうなるでしょう。
今度は高い利子率を求めて、あっという間に自国から外国へ資本が流出してしまいます。
少しでも金利に差があれば、一瞬で資金が移動します。その結果、自国の金利は国際的な金利水準と同じところで固定されます。聞き手は、ちょっとでも条件のいいインターネットの料金プランに一斉に人が動き、結局は同じ水準に落ち着く様子にたとえていて、講師も「わかりやすい例え」とほめていました。
この場合、動画は、国際収支は国民所得Yとは関係なく、利子率iだけで決まると説明します。Yが増えても減っても、利子率は世界水準のまま動きません。縦軸を利子率、横軸を国民所得にしたグラフでは、BP曲線は真横にまっすぐな水平線になります。
(補足:厳密には、貿易収支は国民所得にも左右されます。ただ、完全資本移動では少しの金利差で資金が動いて収支のずれを吸収するので、国際収支がゼロになる条件が「国内の利子率=国際利子率」だけになります。動画の言い方は、そのことを短く言ったものです。)
② 資本移動がまったくないとき:垂直
次は正反対の極端なケースで、お金が一切国境を越えられない状態です。聞き手は「完全な鎖国状態みたいな話」と表現しました。お金の移動がないので、国際収支は利子率とは関係なく決まります。残るのは物のやり取りだけで、つまり、貿易収支(輸出と輸入の差)だけで決まります。
輸出と輸入が同額になる、基準の国民所得を置きます(動画では「Y」と置いていますが、記事では基準の国民所得をY*と書きます)。動画の流れは次のとおりです。
- 国民所得がY*より小さい範囲:所得が少ないので輸入が減り、輸出のほうが多くなって貿易黒字。(聞き手の答えを、講師が「完璧です」と確認)
- 国民所得がY*より大きい範囲:国が豊かになって輸入が増え、輸入のほうが多くなって貿易赤字。
金利がいくら上がっても下がっても、国際収支には関係しません。特定の国民所得Y*のところでだけ、輸出と輸入がつり合います。そのためグラフでは、横軸のその一点から上下にまっすぐ伸びる垂直線になります。
(補足:自作の設例で確かめてみましょう(検算済み)。輸出が100で一定、輸入が国民所得の0.2倍とすると、貿易収支は 100−0.2Y です。Y=400なら+20(黒字)、Y=500なら0、Y=600なら−20(赤字)、Y=700なら−40(赤字)。この例では、Y*=500のところで垂直になります。)
③ 資本移動が不完全なとき:右上がり
最後は、一番現実に近いとされるケースです。資金は移動するけれども、ある程度のハードルがある状態、つまり一部だけ移動する場合です。講師は、先ほどの貿易の話を思い出してと促しながら、国民所得Yが増加したときに何が起こるかを聞き手にたずねます。流れは次の図のとおりです。
聞き手は、物の買いすぎで出ていったお金を、金利という魅力で海外の投資家を引きつけ、投資マネーとして呼び込むイメージだと話していました。ですから、Yが増加するほど利子率も高くしなければならず、BP曲線は右上がりの曲線になります。聞き手は、この様子を、国の経済が自転車操業のように必死にバランスを取っているすがただ、とたとえました。講師は、物の取引による赤字を、お金の取引による資本流入で相殺する、これが現実のマクロ経済が直面しているジレンマそのものだと述べています。
(補足:右上がりの具体例を、自作の設例で示します(検算済み)。貿易収支を 100−0.2Y とし、利子率が国際水準の3%より1ポイント高いごとに、資本流入が50増えるとします。国際収支をゼロにするには、貿易赤字と同じだけ資本流入が必要です。Y=600のとき赤字は20なので、利子率を0.4ポイント上げて3.4%にします。)
| 国民所得 Y | 貿易収支 | BP上の利子率 |
|---|---|---|
| 500 | 0 | 3.0% |
| 600 | −20 | 3.4% |
| 700 | −40 | 3.8% |
(補足:同じ設例で、利子率1ポイントあたりの資本流入を50から200に増やす(資本移動がより自由)と、Y=600の利子率は3.1%、Y=700は3.2%となり、傾きがなだらかになります。資本移動が自由になるほどBP曲線が水平に近づく、という動画の話と同じ向きです。)
グラフの形をただ丸暗記するのではなく、その裏にある国の資金の綱引きがわかると、すっと腹に落ちますね。
そうなんです。物の取引の赤字を、お金の取引で埋め合わせる。この発想を軸にすれば、水平・垂直・右上がりの3つの形は、自然に思い出せるはずです。
3つの形を言葉で整理しておきます。資本移動が完全なら、金利の差だけで資金が動くので水平。資本移動がなければ、物の取引だけで決まるので垂直。その中間の不完全な場合は、物の赤字を金利で補う必要があるので右上がり。つまり、お金が動きやすいほど、BP曲線は水平に近づくと覚えておくと、動画の最後の問いにもつながります。
(補足:動画にない話です。BP曲線は、国際収支の黒字と赤字の境目でもあります。同じ国民所得なら、利子率が高いほど資本が流入するので、BP曲線より上の点は黒字、下の点は赤字になります。)
最後の問い:資本移動の自由度は、政策の自由度に直結する
整理のあと、講師は、聞き手と動画を聞いている人に1つの問いを投げかけます。資本移動の度合は、自国の政策の自由度に直結している、というのです。資本の移動が自由になるほどBP曲線は水平に近づきます。それはつまり、国内の景気をよくしようとしても、独自の金利政策がだんだん効かなくなっていく、という見えないコントロールの限界を示している、と講師は説明します。冒頭の「海外の金利が少し変動しただけで…」という問いは、ここにつながります。聞き手も、アメリカの金利が上がると日本国内の景気だけを見て政策を決めるわけにはいかなくなる、と言い換え、講師も「その通りです」と応じていました。
(補足:動画の最後の主張は、為替相場の制度によって結論が変わります。動画は為替相場の制度には触れていません。一般的な教科書の整理では、資本移動が完全な小国で、為替レートを固定している場合は、財政政策の効果があり、金融政策の効果がなくなる、とされています。一方、変動相場制の場合は、財政政策の効果がなくなり、金融政策の効果がある、とされています。動画の「独自の金利政策が効かなくなる」は、前者(固定相場制)の話にあたります。資料により説明の流れは異なるので、手元のテキストで確認してください。)
| 為替制度(資本移動が完全) | 財政政策 | 金融政策 |
|---|---|---|
| 固定相場制 | 効果あり | 効果なし |
| 変動相場制 | 効果なし | 効果あり |
講師は、現実のニュースで金利や貿易赤字の話が出たとき、右上がりのグラフや水平のグラフを思い浮かべてみてほしい、と締めくくります。資本の移動のしやすさが国境を越えて経済の形をどう変えているのか、そのメカニズムが見えると、ニュースの解像度が上がる、という話です。
まとめ
動画の4つのポイント
- BP曲線は、国際収支がゼロになる国民所得Yと利子率iの組み合わせ。国際収支は経常収支と資本収支の合計(動画の説明)。
- IS曲線・LM曲線・BP曲線の3つが同時に均衡する点を考えるのが、マンデル・フレミングモデル。
- BP曲線の形は資本移動の度合で決まる。完全なら水平(利子率だけで決まる)、まったくなければ垂直(貿易収支だけで決まる)、不完全なら右上がり(Yが増える→輸入が増える→利子率を上げて資本を呼び込む)。
- 資本移動が自由になるほどBP曲線は水平に近づき、動画は、独自の金利政策のコントロールが効きにくくなると話す。
試験の注目点(動画の整理)
動画は、BP曲線の3つの形を、資本移動の度合と結びつけて覚えるよう勧めています。実際の出題の傾向は、今回は確認していません。

