国際収支と財政
経済学・経済政策 第51回
「あなたの年収の約2.5倍の借金がすでにのしかかっているとしますよね」。動画はこんな想像から始まります。このページでは動画の流れにそって、経常収支の3つの項目と、政府の歳入・歳出の構造、国債残高、そして2つの話のつながりをまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
「年収の2.5倍の借金」から始まる動画
動画は、こんな想像から始まります。あなたの年収の約2.5倍の借金がのしかかっている。しかも毎年の支出の4分の1が、過去に膨らんだ借金の返済だけに消えていく。さらに生活費の3分の1は、削れない医療や介護といった社会保障費で固定されている。「これは極端な家計簿の例え話ではなく、日本の令和7年度予算のデータから読み解いた、この国の現在値なんです」と続きます。
今回のテーマは、日本経済を支える2つの大きな構造です。ひとつは日本と海外のお金のやり取りを表す国際収支(動画の中心は経常収支)、もうひとつは政府の歳入と歳出です。動画は、数字の丸暗記ではなく、数字の裏にあるメカニズムを解剖するのがねらいだと話します。
家計にたとえると(動画のたとえ)
- 借金の総額=年収の約2.5倍(国でいえば経済規模の約2.5倍。動画の数値)
- 毎年の支出の約1/4=過去の借金の返済(国債費)
- 生活費の約1/3=削れない社会保障費
(補足:動画が使う数字は令和7年度の当初予算(国会修正後の成立予算)のものです。令和8年4月1日現在、令和7年度はすでに終わった年度で、令和8年度の予算額は動画の範囲外です。本稿では令和8年度の数字を確認していないので、以下の数字は「動画の数値」として読んでください。)
経常収支は「国境を越えるお金の決算書」
聞き手は、経常収支を「国境を越えるお金の動きの巨大な決算書」にたとえ、3つの柱を挙げます。講師は、貿易・サービス収支、第一次所得収支、第二次所得収支の3つだと応じます。
(補足:この3つは、正確には国際収支の中の経常収支の内訳です。国際収支統計は、経常収支、資本移転等収支、金融収支の3つに、統計上の誤差を調整する誤差脱漏を加えた構成になっています。動画が話しているのは、このうち経常収支の部分です。現在の構成は、IMFの国際収支マニュアル第6版に合わせた2014年1月分からのもので、それ以前は「資本収支」「投資収支」「外貨準備増減」という区分でした。金融収支は、資産の増加をプラス、減少をマイナスで表します。)
3つの関係は、自作の数字例で確かめられます(補足・設例)。経常収支が+20兆円、資本移転等収支が-1兆円、誤差脱漏が+1兆円なら、金融収支は 20+(-1)-金融収支+1=0 から+20兆円になります。金融収支は、日本から海外へ出ていった資産の増加をプラスで表す整理です。経常収支の黒字は、お金が海外の資産になって積み上がった結果として、金融収支のプラスに対応する、という見方ができます。
貿易・サービス収支:外からのショックに弱い
動画の説明によると、貿易・サービス収支は、実態のある財とサービスのやり取りの差額です。自動車の輸出や牛肉の輸入といった貿易の差額が貿易収支で、そこにサービスの取引が加わります。動画が挙げるサービスの例は、インバウンドの外国人観光客の宿泊費です。
「日本はものづくり大国だから、この部分は強固な黒字だろう」というイメージは、多くの人が陥りやすい固定観念だ、と動画は言います。動画が示す流れは次のとおりです。
- 2011年の東日本大震災の前までは黒字。震災後の2011年以降に一気に赤字へ転落した。
- 数年かけて経済が適応し、2016年から黒字に回復した。
- 2020年は新型コロナで工場や物流が乱れ、さらに観光客が来られなくなって宿泊費などのサービス収支が蒸発し、再び赤字になった。
物を作って運ぶという物理的な活動だからこそ、自然災害のショックを直接受けてしまうわけですね。
そうです。コントロールできない外部要因で、黒字と赤字を行き来するとても不安定な項目になっています。
(補足:サービス収支のうち、外国人旅行者の宿泊費や飲食費などは「旅行」の項目に計上される、とされています。また、動画は2011年以降の赤字と2016年の黒字回復、2020年の赤字を話していますが、2020年は財務省の速報でも赤字に転じ、その後も貿易・サービス収支の赤字が続いたとされています。2011年などその他の年の額は、財務省の国際収支統計で確認してください。本稿では確認していません。)
第一次所得収支:日本経済を支える最大のエンジン
そんなに不安定なら、日本全体の収支はどう支えられているのか。この疑問に動画が出す答えが第一次所得収支です。動画は、これを「現在の日本経済を支える最大のエンジン」と呼びます。
中身は、海外への投資から得られる収益です。たとえば、日本の企業が海外に作った会社からの配当金が当たります。動画によれば、第一次所得収支は長らく黒字を維持しており、貿易・サービス収支が震災やパンデミックで赤字に沈んだ時期にも、投資のリターンが安定して日本にお金をもたらし続けました。
日本国内で物を作って輸出するのではなく、海外に拠点を作って、そこで出た利益を投資のリターンとして日本に吸い上げているということですか。
まさにその通りです。国の稼ぎ方の本質が、労働集約的な輸出から資本集約的な投資へ構造転換していることを物語っています。
(補足:第一次所得収支には、直接投資の収益(配当金・利子など)、証券投資の収益(株式の配当金・債券の利子など)、その他が含まれるとされます。また、海外子会社の利益のうち、配当として日本に送られずに現地に留保された分も、再投資収益として計上される整理です。「全額が日本に送金される」わけではない点に注意してください。)
第二次所得収支:見返りを求めないお金
3つ目の第二次所得収支は、動画の説明では、官民の無償資金協力や寄付のように、対価を伴わない資産の提供に関するものです。聞き手が「見返りを求めない援助だから、お金が出ていく一方ですか」と確かめ、講師は、割合は低く基本的には常に赤字だと答えます。
(補足:国際収支統計では、無償資金協力のうち、道路や港湾などの資本形成に使われるものは、第二次所得収支ではなく資本移転等収支に計上されるとされています。動画は無償資金協力を第二次所得収支の例としていますが、すべてがそうなるわけではありません。)
政府の歳入:最大の財源は消費税
視点を変えて、国内の財布である政府の歳入と歳出に移ります。動画は令和7年度の当初予算を取り上げ、歳入・歳出とも約115兆円という規模だと紹介します。まず歳入のうち最も大きな割合を占めるのは、租税及び印紙収入で約78兆円、全体の約68%です。その内訳は次のとおりです。
| 税目 | 金額 | 歳入全体に占める割合 |
|---|---|---|
| 消費税 | 約25兆円 | 約22% |
| 所得税 | 約23兆円 | 約20% |
| 法人税 | 約19兆円 | 約17% |
聞き手は、普通は大企業の法人税か個人の所得税が一番だと思っていたと驚きます。動画の説明は「安定性」です。
法人税や所得税ではなく、消費税が最大の収入源になっているのはなぜですか。
法人の利益や個人の所得は景気の変動で大きく増減し、不景気になれば法人税収は一気に落ち込みます。消費税は、景気が悪くても人々が生活のために物を買う限り確実に徴収できるので、極めて安定した財源なんです。
聞き手は「国民の日常から確実にお金を吸い上げているということですね」と返し、講師は「そういう見方もできますね」と応じています。
(補足:消費税の標準税率は10%で、そのうち国の分が7.8%、地方の分が2.2%とされています。国の一般会計の歳入に入るのは国の分なので、動画の約25兆円は国税分と考えられます。また、動画の22%などの割合は、税収の中での割合ではなく、歳入全体の約115兆円に対する割合です。税収の約78兆円と歳入の約115兆円の差は、国債の発行による収入(公債金)などで埋められています。)
政府の歳出:社会保障と国債費で動けない
次は約115兆円の使いみちです。動画は「日本の構造的な硬直性が浮き彫りになる」と言います。
| 項目 | 金額 | 歳出全体に占める割合 |
|---|---|---|
| 一般歳出 | 約68兆円 | 約59% |
| うち社会保障 | 約38兆円 | 約33% |
| うち公共事業 | 約6兆円 | 約5% |
| 地方交付税交付金 | 約19兆円 | 約16% |
| 国債費 | 約28兆円 | 約25% |
政策に使える実質的な予算である一般歳出のうち、圧倒的な割合を占めるのが社会保障です。一方、道路や橋といった未来のインフラを作る公共事業は約5%にとどまります。聞き手は「残酷なくらい明確な対比ですね」と述べ、動画では、聞き手が、高齢化という抗えない人口動態が、社会を維持するためのお金を自動的に増やしていると言い換え、講師も「そうですね」と応じます。
残りの歳出が、地方自治体の財源を調整する地方交付税交付金(約16%)と、過去の借金の返済にあたる国債費(約25%)です。聞き手はここで足し算をします。社会保障の33%、国債費の25%、地方交付税の16%を合わせると74%です。講師も「その通りです」と認めています。
国家予算の約4分の3が、過去の清算と現状の最低限の維持でロックされているなら、新しい成長戦略やイノベーションに思い切って投資するのは構造的に無理ではありませんか。
非常に鋭い洞察ですね。予算の硬直化とはまさにそのことで、景気刺激策を打ちたくても原資がない状態なんです。
(補足:国債費は、国債の元本を返す償還費と、利子の支払いにあたる利払費からなります。国債費の割合は計算上約24.5%で、動画は約25%と丸めています。地方交付税は、国税の一定割合を財源に、自治体間の財政力の差を調整する仕組みとされます。なお、一般歳出約68兆円に国債費と地方交付税を足すと約115兆円になることは、動画の数字どうしで確かめられます。)
国債残高と「対GDP比249%」
動画は、そうした借金の総額を示します。普通国債残高は増加の一途をたどっているとして、令和7年度末の残高を約1129兆円と見込んだ数字で紹介します(令和7年度末は過ぎていますが、実績値は本稿では確認していません)。そして対GDP比で約249%、経済規模の約2.5倍で、主要先進国の中でも最も高い水準だと説明します。
(補足・要注意:この対GDP比には疑問があります。1129兆円を249%で割ると約453兆円で、これは日本の名目GDP(600兆円前後とされます)と合いません。1129兆円を600兆円で割れば約188%で、普通国債残高の対GDP比は200%を下回る計算になります。国際比較でよく使われる一般政府の債務残高の対GDP比は、対象が普通国債より広く、200%を大きく超える水準で示されることが多いため、動画の249%はそちらに近い数字かもしれません。ただし、どの資料の指標かを動画は示しておらず、資料により異なります。試験では、指標の名前と出典を確認してください。)
(補足:財政法第4条は、国の歳出は原則として国債や借入金以外の歳入で賄うこと(非募債主義)を定め、公共事業費などの財源に限って国会の議決の範囲内で国債を発行できるとしています。この建設国債に対し、歳出の穴埋めのための国債は、特例法に基づく特例公債(赤字国債)と呼ばれます。)
2つの構造がつながる:国内の重圧と海外の収益
ここで前半の国際収支の話が生きてきます。動画の整理は次のとおりです。国内の財政は、国債費や社会保障の重みで身動きが取りにくく、内需の爆発的な拡大は見込みにくい。そうした中で日本の富の源泉は、長らく黒字を維持している第一次所得収支、つまり海外への投資収益に大きく依存している。
国内市場は借金と社会保障の重圧で身動きが取れないから、資本を海外に投資して、そのリターンで国としてのバランスをギリギリ保っている。これが構造の真実なんですね。
試験対策として、消費税が何%か、第一次所得収支が黒字か赤字かを覚えるのは簡単です。でも診断士として現場に立つなら、その数字が意味するメカニズムを理解しなければいけません。
(補足:「国内の財政が苦しいから、海外投資の収益に頼っている」という因果関係は、動画の整理です。統計がその関係を直接示しているわけではなく、海外投資が増えた背景には、企業の海外進出など別の事情もあるとされています。「動画では」と断って受け取るのが安全です。)
動画は最後に、こんな問いを投げかけます。国内市場では予算の約4分の3が借金返済と現状維持に消え、消費税が重くのしかかる。一方、海外では過去の投資が安定したリターンを生み続けている。中小企業診断士としてクライアントを支援するとき、国内のパイを奪い合うレッドオーシャンで戦い続けるのか、それとも中小企業なりに海外の成長にアクセスする仕組みを作るのか。マクロの数字は暗記科目ではなく、経営戦略を左右するもの、と動画は言います。
考えてみよう
- あなたが支援する会社なら、国内中心の戦略と、海外の成長に関わる戦略のどちらを提案しますか。
- その理由を、国際収支や財政のどの数字と結びつけて説明できますか。
まとめ
この動画の流れ(動画の整理)
- 国際収支のうち経常収支の3項目:貿易・サービス収支(外部ショックに弱く不安定)、第一次所得収支(海外投資の収益で長らく黒字)、第二次所得収支(対価のない移転で基本は赤字)。
- 政府の歳入(令和7年度当初予算、動画の数値):約115兆円のうち税収が約68%。消費税は約22%で、所得税(約20%)や法人税(約17%)を上回る。
- 政府の歳出:社会保障約33%、国債費約25%、地方交付税約16%で約74%。公共事業は約5%。
- 借金:動画は普通国債残高を令和7年度末に約1129兆円と見込む(実績値は未確認)。ただし動画の対GDP比249%は、指標の出典を確認したい数字です。
- 動画の結論:国内の財政に余裕がない中、日本は第一次所得収支(海外投資の収益)に大きく支えられている、という整理。
国際収支は、経常収支・資本移転等収支・金融収支の構成と、符号の関係を押さえておくと、問題文の数字を落ち着いて読めます。財政のほうは、各項目の金額より「何が大きな割合を占めているか」という構造をつかむのがコツです。動画の数字は令和7年度当初予算のものなので、実際に数字を使うときは、新しい予算書や財務省の資料で確かめてください。
動画で聞く
続けて読む
- 第46回 AD-AS分析の攻略ポイント経済学・経済政策・マクロ経済学 026
- 第47回 時事系問題の要点経済学・経済政策・マクロ経済学 027
- 第48回 リカードの比較生産費説経済学・経済政策・国際経済学 001
- 第49回 自由貿易と関税の余剰分析経済学・経済政策・国際経済学 002
- 第50回 為替レート経済学・経済政策・国際経済学 003
- 第52回 マンデル・フレミングモデル経済学・経済政策・国際経済学 005
- 第53回 マンデル・フレミングモデルの政策効果経済学・経済政策・国際経済学 006
- 経済学・経済政策のWebテキスト一覧同じ科目の53本を一覧・検索
- 中小企業診断士 1次の講座トップ科目別プレイリスト・人気の講義・ファイナルペーパー

