AD-AS分析の攻略ポイント
経済学・経済政策 第46回
「AD-AS分析って、どうしてあんなに難しく感じるんでしょうか。グラフがいくつもあって、すごく複雑に思えるんですけど」。動画の冒頭近くで、聞き手はこう切り出します。このページでは動画の流れにそって、AD曲線のシフト条件、AD曲線の傾きの考え方、AS曲線のシフト条件、物価水準とLM曲線の関係の4つのポイントをまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
3つの市場を一度に見るから、難しく見える
動画の聞き手は「グラフがいくつもあって、すごく複雑に思える」と打ち明けます。マクロ経済学のなかでも、AD-AS分析に苦手意識を持つ受験生は多いようです。動画は、その理由を次のように説明します。AD-AS分析は、財市場・貨幣市場・労働市場という、ルールの違う3つの市場を同時に扱うからだ、というのです。
(補足:動画にない話です。AD曲線は「総需要曲線」ともいい、物価Pと、財市場と貨幣市場の両方が釣り合う国民所得Yとの関係を表します。AS曲線は「総供給曲線」で、物価Pと、企業が供給する生産量との関係を表します。どちらも縦軸が物価、横軸が国民所得です。2本の交点で、その経済の物価と所得が決まります。)
そこで動画が勧めるのが、余計な情報はいったん全部そぎ落として、4つのポイントだけを押さえる方法です。動画はこれを「試験直結型の最短ルート」と呼んでいます。4つのポイントは、次のとおりです。
- AD曲線のシフト条件:金融政策か財政政策で動く。拡張的なら右、緊縮的なら左。
- AD曲線の傾きの変化:極端な例(完全に水平・完全に垂直)で考える。
- AS曲線のシフト条件:労働力以外の面で生産性が変わったときに動く。
- 物価水準Pの動き:LM曲線の動きとして考える。IS曲線は関係ない。
このページでも、この順に見ていきます。動画にない説明は、「補足」と書いて区別します。
ポイント1:AD曲線は「政策」で動く
AD曲線は、金融政策か財政政策を行ったときにシフトします。動画は、方向の決まり方を次のように説明します。拡張的な政策を取ると右、緊縮的な政策を取ると左へ動きます。
聞き手は、「本番の緊張感のなかでど忘れしそう」と心配します。そこで講師は「文字だけで暗記しようとするとそうなる。方向をイメージでとらえるのが一番」と答えます。聞き手が出したのが、アクセルとブレーキのたとえです。拡張的な政策は、経済のアクセルを踏んで前、つまり右へ進むイメージです。緊縮的な政策は、ブレーキを踏んで後ろ、つまり左へ下がるイメージです。聞き手は「それなら本番でもパッと頭に浮かびますよね」と続け、講師は「完璧です。その直感的なイメージがあれば迷うことはありません」と応じています。
たとえ話:アクセルとブレーキ
拡張的(景気を押し上げる)政策はアクセルで、グラフの右へ。緊縮的(景気を抑える)政策はブレーキで、グラフの左へ。「右・左」の暗記ではなく、「前へ進む・後ろへ下がる」という動きで覚えるのがコツ、という話です。
(補足:動画にない話です。AD曲線は、政策のほかにも動きます。民間の投資意欲の変化や、輸出の増減など、財市場や貨幣市場の需要側に変化があれば、シフトするとされています。ここで押さえるのは、「政策でシフトする」という動画の整理です。ただ、問題文に政策以外の要因が出てきたときは、その要因が需要を増やすのか減らすのかを考えます。)
(補足:物価Pが変わっても、AD曲線もAS曲線も動かずに、曲線の上を動くだけです。曲線そのものが動く(シフトする)のは、物価以外の要因が変わったときです。ポイント1からポイント3は、この区別が前提になります。)
ポイント2:傾きは「極端な例」で考える
2つ目は、AD曲線の傾きの変化についての思考法です。試験で傾きの変化が問われたときは、「少し急になる」といった中途半端な角度を想像しません。AD曲線が完全に水平か、完全に垂直だったらどうなるか。この極端な例で考えると、やりやすいと動画は言います。
完全に水平とか垂直って、現実の経済ではありえませんよね。なぜわざわざそんな極端な状況を想像するんですか。
白黒はっきりした両極端を考えると、複雑なグラフの動きの法則性が一目瞭然になるからです。
聞き手は「0か100かみたいな極端な条件を代入した方が、計算結果がどっちに転ぶか分かりやすいということですか」と言い換え、講師は「まさにそれです。変数の影響力がはっきり可視化されるので、正解の選択肢を瞬時に見抜けるようになる」と応じます。聞き手はさらに、引っかけ問題の罠を避けられると続けます。
(補足:傾きの読み方は、図のとおりです。水平に近いほど、少しの物価の変化で所得が大きく動きます。垂直に近いほど、物価が動いても所得は動きません。動画は、どんな経済状況でAD曲線が水平や垂直になるかまでは説明していません。たとえば、流動性の罠(金利がこれ以上下がらない状態)では、物価が下がって実質貨幣供給が増えても金利が下がらず、国民所得が変わらないため、AD曲線は垂直になると導けます(罠の範囲内の話です)。投資が金利にまったく反応しない場合も垂直になります。資料により書き方が異なるので、必ず手元のテキストで確認してください。)
ここまでの2つで、需要側の話は終わりです。動画も「AD曲線の動きと傾きの鉄則は完全に押さえた」と区切っています。迷ったときは、「シフトは政策」「傾きは極端な形」の2つに戻ってください。
ポイント3:AS曲線は「労働力以外」で動く
需要側がそろったので、次は供給側です。3つ目のポイントは、AS曲線は労働力以外の観点から生産性が変化したときにシフトする、というものです。動画の例は2つです。技術革新で生産性が上がればAS曲線は右へ、原料や原価の高騰で生産性が下がれば左へ動きます。
ここで聞き手が、鋭い質問をします。
ちょっと待ってください。人をたくさん雇って生産量を増やしたケースは、ここには当てはまらないんですか。人が増えればたくさん作れるので、右にシフトしそうに思えるのですが。
おっしゃる通り、そこが重要なポイントです。労働力を増やすのは、物価や賃金の変化に合わせて曲線上を移動しているだけで、曲線そのものがシフトしているわけではないんです。
聞き手は、「線をなぞって歩いているだけで、道そのものが動いているわけではないんですね」と言い換えます。曲線をシフトさせるのは、AIのような新技術の導入(技術革新)や、原価の高騰といった、労働力以外のショックだ、というのが動画の整理です。
(補足:「労働力以外」という言い方は、動画の単純化です。人口が増えるなど、労働の供給そのものが変わる場合は、教科書によっては、完全雇用で作れる量が変わるので、AS曲線(とくに長期のAS曲線)がシフトすると説明するものがあります。この点は資料により異なります。動画が言っているのは、「物価の変化に合わせて雇用が増え、生産量が増える」場合は曲線上の移動だ、ということです。なお、動画は「物価や賃金の変化」と言いますが、名目賃金の水準そのものが変わる場合(賃上げで企業の費用が一斉に増えるなど)は、同じ物価でも供給量が変わるため、短期のAS曲線はシフトすると説明するテキストが一般的です。資料により異なります。)
ポイント4:物価水準Pの動きはLM曲線
最後の4つ目を、動画は「試験では最大のトラップが待っているポイント」と紹介します。動画の言い方は、物価水準Pの動きはLM曲線に結びつけて考え、IS曲線は関係ない、というものです。
動画によると、「物価Pの話をしているのに、IS曲線がシフトしてどうのこうの」と書かれた選択肢は、ダミーの選択肢としてよく出ます。見つけたら即座に除外してよい、と動画は言います。理由は、物価の変動は、お金の実質的な価値に直結するからです。だから、貨幣市場であるLM曲線が反応するのが正しい論理展開だ、という説明です。
(補足:この流れは、AD曲線が右下がりになる理由と同じです。物価が上がると実質貨幣供給が減ってLM曲線が左へ動き、所得が減ります。物価が下がると逆です。つまり、AD曲線の上を「物価と所得が逆向きに動く」のは、LM曲線が動くからです。これが動画の言う「物価の動きはLM」の中身だと読めます。この読み方は、動画が明言したものではなく、補足としての整理です。基本のIS-LMで、資産効果や為替の変化を考えない場合の整理です。)
動画はこのポイントを、「何を考えて、何を関係ないものとして捨てるかを見極める」練習として位置づけています。限られた試験時間のなかでは、その割り切りが本番での点数に直結する、という言い方です。
補足:動画の言い方を、そのまま使うときの注意
このポイントは、動画の言い方のままだと、ポイント1と食い違って見えます。ポイント1では、財政政策でAD曲線がシフトする、とされていたからです。財政政策はIS曲線を動かすので、IS曲線が動けばAD曲線も動き、物価Pも変わります。
整理すると、動画が伝えたいのは次の点だと考えられます。「物価Pが変化したときに動くのは、LM曲線であって、IS曲線ではない」。物価の変化は、実質貨幣供給M/Pを通じてLM曲線を動かします。ただし、IS曲線がほかの理由(財政支出など)で動いた結果として物価が変わることは、あります。「IS曲線の動きは物価と無関係」と丸ごと覚えず、選択肢の文脈(何が原因で、何が結果か)を見て判断してください。
数値例:政策や技術革新で物価はどう動く?(補足)
動画にはない、自作の数値例です。単位のない仮想の経済で、IS曲線を Y=400+G-20r、LM曲線を M/P=0.5Y-10r としました。Gは政府支出の増加分、rは利子率、Mは貨幣供給です。この2式からrを消すと、AD曲線は Y=M/P+200+0.5G になります。AS曲線は Y=250+100P(技術革新では切片が20増える)と置きました。どの場面でも利子率rはプラスになる値です。
| 場面 | 物価P | 所得Y |
|---|---|---|
| 基準(M=150、G=0) | 1.00 | 350 |
| 財政出動(G+40) | 約1.08 | 約358 |
| 金融緩和(M=165) | 約1.06 | 約356 |
| 技術革新(AS切片+20) | 約0.92 | 約362 |
財政出動や金融緩和では、ADが右へ動き、物価も所得もふえます。技術革新では、ASが右へ動き、所得はふえますが、物価は下がります。「ADが右なら物価は上がる、ASが右なら物価は下がる」という向きの違いが、数字で確かめられます。また、財政出動(IS曲線の動き)でも物価が変わることが分かります。
ニュースで練習してみよう
動画の最後には、挑発的な問いかけがあります。明日のニュースで、政府が新たな財政出動を決めた、画期的な技術革新が生まれた、と聞いたとき、AD曲線とAS曲線のどちらが右にシフトするか、頭のなかでグラフを動かしてみてください、というものです。
答え合わせをしましょう。財政出動は財政政策なので、AD曲線が右にシフトします(ポイント1)。技術革新は生産性を上げるので、AS曲線が右にシフトします(ポイント3)。ニュースが試験問題のヒントに見えてくる、と動画は励ましています。
まとめ
- AD-AS分析は、財市場・貨幣市場・労働市場を同時に扱うので複雑に見える。動画は4つのポイントに絞ることを勧めている。
- AD曲線は、金融政策か財政政策でシフトする。拡張的なら右(アクセル)、緊縮的なら左(ブレーキ)。
- AD曲線の傾きは、完全に水平・完全に垂直という極端な例で考える。
- AS曲線は、労働力以外の生産性の変化(技術革新、原価の高騰)でシフトする。雇用を増やすのは曲線上の移動と、動画は説明する。
- 物価Pが変わるときに動くのはLM曲線で、IS曲線ではない(動画の主張)。ただしIS曲線の動きで物価が変わる場合もあるので、選択肢の文脈で判断する。
動画の流れをもう一度、短くたどります。まず、AD曲線を動かすのは政策で、方向はアクセルとブレーキで覚えます。次に、傾きは極端な形で考えます。AS曲線は、労働力以外の生産性の変化で動きます。最後に、物価の話ではLM曲線に注目します。この4つを押さえておけば、複雑に見えるAD-AS分析にも、落ち着いて向き合えます。動画を聞きながら、ニュースを見たときに頭のなかでグラフを動かす練習も、ぜひ続けてみてください。
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