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AD-AS分析の攻略ポイント

経済学・経済政策 第46回

経済学・経済政策・マクロ経済学 0269分8秒2026年3月28日公開

「AD-AS分析って、どうしてあんなに難しく感じるんでしょうか。グラフがいくつもあって、すごく複雑に思えるんですけど」。動画の冒頭近くで、聞き手はこう切り出します。このページでは動画の流れにそって、AD曲線のシフト条件、AD曲線の傾きの考え方、AS曲線のシフト条件、物価水準とLM曲線の関係の4つのポイントをまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。

3つの市場を一度に見るから、難しく見える

動画の聞き手は「グラフがいくつもあって、すごく複雑に思える」と打ち明けます。マクロ経済学のなかでも、AD-AS分析に苦手意識を持つ受験生は多いようです。動画は、その理由を次のように説明します。AD-AS分析は、財市場・貨幣市場・労働市場という、ルールの違う3つの市場を同時に扱うからだ、というのです。

財市場(IS)貨幣市場(LM)労働市場AD曲線AS曲線交点でP・Yが決まる
動画の整理:3つの市場を同時に見るので複雑に思えます。

(補足:動画にない話です。AD曲線は「総需要曲線」ともいい、物価Pと、財市場と貨幣市場の両方が釣り合う国民所得Yとの関係を表します。AS曲線は「総供給曲線」で、物価Pと、企業が供給する生産量との関係を表します。どちらも縦軸が物価、横軸が国民所得です。2本の交点で、その経済の物価と所得が決まります。)

そこで動画が勧めるのが、余計な情報はいったん全部そぎ落として、4つのポイントだけを押さえる方法です。動画はこれを「試験直結型の最短ルート」と呼んでいます。4つのポイントは、次のとおりです。

  • AD曲線のシフト条件:金融政策か財政政策で動く。拡張的なら右、緊縮的なら左。
  • AD曲線の傾きの変化:極端な例(完全に水平・完全に垂直)で考える。
  • AS曲線のシフト条件:労働力以外の面で生産性が変わったときに動く。
  • 物価水準Pの動き:LM曲線の動きとして考える。IS曲線は関係ない。

このページでも、この順に見ていきます。動画にない説明は、「補足」と書いて区別します。

ポイント1:AD曲線は「政策」で動く

AD曲線は、金融政策か財政政策を行ったときにシフトします。動画は、方向の決まり方を次のように説明します。拡張的な政策を取ると右、緊縮的な政策を取ると左へ動きます。

聞き手は、「本番の緊張感のなかでど忘れしそう」と心配します。そこで講師は「文字だけで暗記しようとするとそうなる。方向をイメージでとらえるのが一番」と答えます。聞き手が出したのが、アクセルとブレーキのたとえです。拡張的な政策は、経済のアクセルを踏んで前、つまり右へ進むイメージです。緊縮的な政策は、ブレーキを踏んで後ろ、つまり左へ下がるイメージです。聞き手は「それなら本番でもパッと頭に浮かびますよね」と続け、講師は「完璧です。その直感的なイメージがあれば迷うことはありません」と応じています。

Y(国民所得)P(物価)ADAD'AD''拡張的 → 右緊縮的 → 左
アクセルなら右、ブレーキなら左。

たとえ話:アクセルとブレーキ

拡張的(景気を押し上げる)政策はアクセルで、グラフの右へ。緊縮的(景気を抑える)政策はブレーキで、グラフの左へ。「右・左」の暗記ではなく、「前へ進む・後ろへ下がる」という動きで覚えるのがコツ、という話です。

(補足:動画にない話です。AD曲線は、政策のほかにも動きます。民間の投資意欲の変化や、輸出の増減など、財市場や貨幣市場の需要側に変化があれば、シフトするとされています。ここで押さえるのは、「政策でシフトする」という動画の整理です。ただ、問題文に政策以外の要因が出てきたときは、その要因が需要を増やすのか減らすのかを考えます。)

(補足:物価Pが変わっても、AD曲線もAS曲線も動かずに、曲線の上を動くだけです。曲線そのものが動く(シフトする)のは、物価以外の要因が変わったときです。ポイント1からポイント3は、この区別が前提になります。)

ポイント2:傾きは「極端な例」で考える

2つ目は、AD曲線の傾きの変化についての思考法です。試験で傾きの変化が問われたときは、「少し急になる」といった中途半端な角度を想像しません。AD曲線が完全に水平か、完全に垂直だったらどうなるか。この極端な例で考えると、やりやすいと動画は言います。

完全に水平わずかな物価の変化で所得が大きく動く完全に垂直物価が変わっても所得は変わらない
傾きは、極端な形(水平と垂直)から考えます。

完全に水平とか垂直って、現実の経済ではありえませんよね。なぜわざわざそんな極端な状況を想像するんですか。

白黒はっきりした両極端を考えると、複雑なグラフの動きの法則性が一目瞭然になるからです。

聞き手は「0か100かみたいな極端な条件を代入した方が、計算結果がどっちに転ぶか分かりやすいということですか」と言い換え、講師は「まさにそれです。変数の影響力がはっきり可視化されるので、正解の選択肢を瞬時に見抜けるようになる」と応じます。聞き手はさらに、引っかけ問題の罠を避けられると続けます。

(補足:傾きの読み方は、図のとおりです。水平に近いほど、少しの物価の変化で所得が大きく動きます。垂直に近いほど、物価が動いても所得は動きません。動画は、どんな経済状況でAD曲線が水平や垂直になるかまでは説明していません。たとえば、流動性の罠(金利がこれ以上下がらない状態)では、物価が下がって実質貨幣供給が増えても金利が下がらず、国民所得が変わらないため、AD曲線は垂直になると導けます(罠の範囲内の話です)。投資が金利にまったく反応しない場合も垂直になります。資料により書き方が異なるので、必ず手元のテキストで確認してください。)

ここまでの2つで、需要側の話は終わりです。動画も「AD曲線の動きと傾きの鉄則は完全に押さえた」と区切っています。迷ったときは、「シフトは政策」「傾きは極端な形」の2つに戻ってください。

ポイント3:AS曲線は「労働力以外」で動く

需要側がそろったので、次は供給側です。3つ目のポイントは、AS曲線は労働力以外の観点から生産性が変化したときにシフトする、というものです。動画の例は2つです。技術革新で生産性が上がればAS曲線は右へ、原料や原価の高騰で生産性が下がれば左へ動きます。

Y(国民所得)P(物価)ASAS'AS''技術革新 → 右へシフト原料高騰 → 左へシフト黒い点と矢印:曲線上の移動(シフトではない)
曲線そのものが動くのか、曲線の上を歩くのか。

ここで聞き手が、鋭い質問をします。

ちょっと待ってください。人をたくさん雇って生産量を増やしたケースは、ここには当てはまらないんですか。人が増えればたくさん作れるので、右にシフトしそうに思えるのですが。

おっしゃる通り、そこが重要なポイントです。労働力を増やすのは、物価や賃金の変化に合わせて曲線上を移動しているだけで、曲線そのものがシフトしているわけではないんです。

聞き手は、「線をなぞって歩いているだけで、道そのものが動いているわけではないんですね」と言い換えます。曲線をシフトさせるのは、AIのような新技術の導入(技術革新)や、原価の高騰といった、労働力以外のショックだ、というのが動画の整理です。

(補足:「労働力以外」という言い方は、動画の単純化です。人口が増えるなど、労働の供給そのものが変わる場合は、教科書によっては、完全雇用で作れる量が変わるので、AS曲線(とくに長期のAS曲線)がシフトすると説明するものがあります。この点は資料により異なります。動画が言っているのは、「物価の変化に合わせて雇用が増え、生産量が増える」場合は曲線上の移動だ、ということです。なお、動画は「物価や賃金の変化」と言いますが、名目賃金の水準そのものが変わる場合(賃上げで企業の費用が一斉に増えるなど)は、同じ物価でも供給量が変わるため、短期のAS曲線はシフトすると説明するテキストが一般的です。資料により異なります。)

ポイント4:物価水準Pの動きはLM曲線

最後の4つ目を、動画は「試験では最大のトラップが待っているポイント」と紹介します。動画の言い方は、物価水準Pの動きはLM曲線に結びつけて考え、IS曲線は関係ない、というものです。

動画によると、「物価Pの話をしているのに、IS曲線がシフトしてどうのこうの」と書かれた選択肢は、ダミーの選択肢としてよく出ます。見つけたら即座に除外してよい、と動画は言います。理由は、物価の変動は、お金の実質的な価値に直結するからです。だから、貨幣市場であるLM曲線が反応するのが正しい論理展開だ、という説明です。

物価Pが上がる実質貨幣供給 M/P が減るLM曲線が左へシフト利子率↑ → 投資↓ → 所得Y↓IS曲線は物価の変化では動かない
物価が動くと、動くのはLM曲線(補足を含む整理)。

(補足:この流れは、AD曲線が右下がりになる理由と同じです。物価が上がると実質貨幣供給が減ってLM曲線が左へ動き、所得が減ります。物価が下がると逆です。つまり、AD曲線の上を「物価と所得が逆向きに動く」のは、LM曲線が動くからです。これが動画の言う「物価の動きはLM」の中身だと読めます。この読み方は、動画が明言したものではなく、補足としての整理です。基本のIS-LMで、資産効果や為替の変化を考えない場合の整理です。)

動画はこのポイントを、「何を考えて、何を関係ないものとして捨てるかを見極める」練習として位置づけています。限られた試験時間のなかでは、その割り切りが本番での点数に直結する、という言い方です。

補足:動画の言い方を、そのまま使うときの注意

このポイントは、動画の言い方のままだと、ポイント1と食い違って見えます。ポイント1では、財政政策でAD曲線がシフトする、とされていたからです。財政政策はIS曲線を動かすので、IS曲線が動けばAD曲線も動き、物価Pも変わります。

整理すると、動画が伝えたいのは次の点だと考えられます。「物価Pが変化したときに動くのは、LM曲線であって、IS曲線ではない」。物価の変化は、実質貨幣供給M/Pを通じてLM曲線を動かします。ただし、IS曲線がほかの理由(財政支出など)で動いた結果として物価が変わることは、あります。「IS曲線の動きは物価と無関係」と丸ごと覚えず、選択肢の文脈(何が原因で、何が結果か)を見て判断してください。

数値例:政策や技術革新で物価はどう動く?(補足)

動画にはない、自作の数値例です。単位のない仮想の経済で、IS曲線を Y=400+G-20r、LM曲線を M/P=0.5Y-10r としました。Gは政府支出の増加分、rは利子率、Mは貨幣供給です。この2式からrを消すと、AD曲線は Y=M/P+200+0.5G になります。AS曲線は Y=250+100P(技術革新では切片が20増える)と置きました。どの場面でも利子率rはプラスになる値です。

場面物価P所得Y
基準(M=150、G=0)1.00350
財政出動(G+40)約1.08約358
金融緩和(M=165)約1.06約356
技術革新(AS切片+20)約0.92約362

財政出動や金融緩和では、ADが右へ動き、物価も所得もふえます。技術革新では、ASが右へ動き、所得はふえますが、物価は下がります。「ADが右なら物価は上がる、ASが右なら物価は下がる」という向きの違いが、数字で確かめられます。また、財政出動(IS曲線の動き)でも物価が変わることが分かります。

ニュースで練習してみよう

動画の最後には、挑発的な問いかけがあります。明日のニュースで、政府が新たな財政出動を決めた、画期的な技術革新が生まれた、と聞いたとき、AD曲線とAS曲線のどちらが右にシフトするか、頭のなかでグラフを動かしてみてください、というものです。

答え合わせをしましょう。財政出動は財政政策なので、AD曲線が右にシフトします(ポイント1)。技術革新は生産性を上げるので、AS曲線が右にシフトします(ポイント3)。ニュースが試験問題のヒントに見えてくる、と動画は励ましています。

まとめ

  • AD-AS分析は、財市場・貨幣市場・労働市場を同時に扱うので複雑に見える。動画は4つのポイントに絞ることを勧めている。
  • AD曲線は、金融政策か財政政策でシフトする。拡張的なら右(アクセル)、緊縮的なら左(ブレーキ)。
  • AD曲線の傾きは、完全に水平・完全に垂直という極端な例で考える。
  • AS曲線は、労働力以外の生産性の変化(技術革新、原価の高騰)でシフトする。雇用を増やすのは曲線上の移動と、動画は説明する。
  • 物価Pが変わるときに動くのはLM曲線で、IS曲線ではない(動画の主張)。ただしIS曲線の動きで物価が変わる場合もあるので、選択肢の文脈で判断する。

動画の流れをもう一度、短くたどります。まず、AD曲線を動かすのは政策で、方向はアクセルとブレーキで覚えます。次に、傾きは極端な形で考えます。AS曲線は、労働力以外の生産性の変化で動きます。最後に、物価の話ではLM曲線に注目します。この4つを押さえておけば、複雑に見えるAD-AS分析にも、落ち着いて向き合えます。動画を聞きながら、ニュースを見たときに頭のなかでグラフを動かす練習も、ぜひ続けてみてください。

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