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中小企業診断士 1次試験

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AD曲線の右下がりと垂直のメカニズム

経済学・経済政策 第44回

経済学・経済政策・マクロ経済学 02410分39秒2026年3月28日公開

「もしあなたがある製造業の経営トップから相談を受けていると想像してみてください。中央銀行が金利をほぼ0%まで下げてくれたのに、将来が不安で新しい工場を建てる気になれない」。動画はこんな想像から始まります。このページでは動画の流れにそって、AD曲線の意味、右下がりになる理由、シフト、そして垂直になる2つの例外をまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。

金利がほぼゼロでも、工場を建てる気にならない?

動画は、こんな想像から始まります。あなたはある製造業の経営トップから相談を受けています。中央銀行が金利をほぼ0%まで下げてくれた。お金はただ同然で借りられる。でも将来が不安すぎて、新しい工場を建てる気にはどうしてもなれない、という悩みです。

原因があって結果がある、という予測しやすい機械のように経済が動けば苦労はありません。動画は、アクセルをベタ踏みしてもエンジンが空回りして、車体が1mmも前に進まないような異常事態が現実には起こり得る、と言います。その入口になるのが、今日の主役のAD曲線です。単にグラフの形を丸暗記するのではなく、なぜその形になるのか、どんなときに前提が崩れるのかを一緒に見ていきます。

AD曲線とは何か:総需要と、物価が縦軸にくる理由

ADはアグリゲート・ディマンド、つまり総需要のことです。動画の説明では、AD曲線は財市場と貨幣市場の両方を均衡させる国民所得と物価の組み合わせを表す曲線です。財市場を表すのがIS曲線、貨幣市場を表すのがLM曲線でしたね。2つの市場を同時に均衡させるので、IS-LM分析の延長線上にある考え方です。

ここで、IS-LM分析まで勉強を進めた人は違和感を覚えるはずだ、と動画は指摘します。これまでのグラフは縦軸が利子率、横軸が国民所得でした。なのになぜ、縦軸が突然、物価にすり替わるのか。動画の答えは、労働市場は物価との関連が深く、あとで労働市場と組み合わせて分析できるようにするためです。

動画は、労働者の立場でたとえます。お給料の額面が同じでも、世の中のものの値段が2倍に跳ね上がれば、実質的に買えるものが半分になって生活が苦しくなります。企業側も同じで、物の値段が変われば雇える人数も変わります。つまり、そのお金でどれだけのものが買えるかという実質的な価値、すなわち物価の変動を組み込んでおく必要があるわけです。より現実に近いモデルを作るための布石だった、というのが動画のまとめです。

(補足:この「物価と国民所得」のグラフに、労働市場から導く総供給の側を合わせて分析するのが、AD-AS分析と呼ばれます(AS=アグリゲート・サプライ、総供給)。動画は「あとで労働市場と組み合わせる」と予告するにとどまっているので、ここでは名前だけ紹介しておきます。)

なぜ右下がりなのか:5つのドミノ倒し

AD曲線は、通常は右下がりです。縦軸が物価、横軸が国民所得なので、物価が下がると国民所得が上がる関係になります。聞き手が「これはなぜでしょうか」と尋ね、講師はIS曲線とLM曲線の式を使って説明します。

まず、LM曲線の式を思い出します。動画ではこの式が示されますが、一字一句は確認できませんでした。(補足:教科書でよく使われる形は、貨幣需要を「kY−hr」、実質貨幣供給を「M/P」として、M/P=kY−hr です。式を変形すると r=(k/h)Y−(1/h)(M/P) となり、M/P が大きいほど利子率 r が低くなる向きに、LM曲線が下へずれることがわかります。)

ポイントは、LM曲線の式のなかに物価Pが入っていることです。動画のたとえで確かめましょう。

財布のたとえ

財布の中の1万円札の枚数は変わらなくても、世の中の商品が全部半額になれば、実質的に2万円分の価値を持ったのと同じです。お金の量(名目)は同じでも、お金の価値(実質)は上がります。

この流れが、動画のいうドミノ倒しです。ひとつずつ見ていきましょう。

  • 物価Pが下がる:1枚1枚のお金で買えるものの量が増えます。
  • 実質貨幣供給(M/P)が増加する:世の中に出回るお金の量は変わらなくても、お金の実質的な価値が上がります。
  • LM曲線が下方にシフトし、利子率が低下する:聞き手は、実質的な価値を持ったお金が銀行でだぶつくので、貸し出そうとして金利を下げるのだ、と言い換えています。
  • 企業の投資が増加する:お金を借りるコストが安くなるからです。
  • 国民所得Yが増加する:投資が増えるとお金が実体経済に回り始め、最終的に国民全体の儲けである国民所得が増えます。
物価Pが下がる実質貨幣供給が増える(M/P↑)LM曲線が下方へシフト、利子率が下がる企業の投資が増える国民所得Yが増える
5つのドミノがつながるから、右下がりになります。

(補足:この物価から利子率を通る経路は、資料によって「利子率効果」「ケインズ効果」と呼ばれます。)

動画は、この波及経路を筋道立てて説明できるようにしておくことが、試験対策としても重要だと強調します。

ここで、自作の数値例で形を確かめておきます(動画にはない設例です)。消費C=20+0.8Y、投資I=100−10r(rは%)とすると、財市場の均衡から IS曲線は Y=600−50r になります。貨幣市場は M/P=0.5Y−20r、名目貨幣量M=100とします。物価を変えて、IS曲線とLM曲線の交点を求めると、次のようになります。

物価P利子率r国民所得Y
2約5.6%約322
1約4.4%約378
0.5約2.2%約489

物価が下がるほど、利子率が下がり、国民所得が増えています。この3点を結ぶと、右下がりのAD曲線になります(検算:Y=(600+2.5×M/P)÷2.25 で3点を計算しました)。

物価 P国民所得 Y232213780.5489AD曲線(右下がり)
物価が下がるほど、国民所得は増えます(自作の数値例)。

物価が下がる、実質貨幣供給が増える、利子率が低下する、投資が増える、国民所得が増える。見事なドミノ倒しですね。

はい。このドミノ倒しがあるから、AD曲線は右下がりになります。

AD曲線のシフト:物価以外が動くとき

ここまでは、物価が変化したときに、グラフの線の上をどう動くかという話でした。では、グラフそのものがシフトするのは、どんなときでしょうか。動画の答えは、政府や中央銀行が外から直接アクションを起こした場合です。

  • 拡張的な財政政策・金融政策:投資が増え、国民所得も増えます。同じ物価の高さでも、より多くの国民所得が得られるので、AD曲線は右へシフトします。
  • 緊縮的な財政政策・金融政策(インフレを冷ますとき):投資が減り、国民所得も減ります。AD曲線は左へシフトします。
物価 P国民所得 Y緊縮的もとのAD拡張的右へ左へ
物価の変化は線の上の移動、政策はAD曲線そのもののシフトです。

聞き手は、本試験の問題文で「拡張的」と見たら迷わず右へ、「緊縮」とあれば左へシフトさせるイメージを持てば完璧だ、とまとめています。

自作の数値例でも確かめましょう。先ほどの設例で物価P=1のとき、Yは約378でした。名目貨幣量を100から150に増やすと(金融緩和)、約433に増えます。政府支出を10増やすと(財政拡大。IS曲線が Y=650−50r に変わります)、約400に増えます。同じ物価でも国民所得が増えたので、AD曲線は右へずれたことになります(検算:金融緩和は (600+2.5×150)÷2.25=433.3、財政拡大は (650+2.5×100)÷2.25=400)。

(補足:動画が挙げる政策は代表例です。物価以外で、IS曲線やLM曲線を動かす要因があれば、AD曲線はシフトします。大事なのは、物価の変化は線の上の移動、物価以外の変化はシフトと区別することです。)

例外:AD曲線が垂直になる2つの場合

動画は、ここからがこの理論の真骨頂だと言います。冒頭の「恐ろしい異常事態」にあたる、AD曲線が通常の右下がりではなく、垂直な線になる例が、2つ紹介されます。

① 流動性の罠に陥っている場合

1つ目は流動性の罠です。動画では、貨幣需要の利子弾力性、つまりhが無限大になっている状態だと説明されます。聞き手は、世の中の金利がこれ以上は絶対に下がらないという下限まで落ち切って、みんなが現金のまま抱え込んでいる状態だと言い換えています。このとき、グラフ上のLM曲線は完全に水平になります。

すると、物価が変化してLM曲線がシフトしても、IS曲線とLM曲線の交点の位置、つまり国民所得(Y*)は変わりません。最初のドミノの物価は下がったのに、その先の利子率が下がらないので、交点がまったく動かないのです。利子率が下がらなければ、企業の投資も増えません。結果として、物価Pと国民所得Yのグラフは、Yが一定のグラフ、つまり縦にまっすぐ伸びる垂直な線になります。

最初のドミノである物価は下がったのに、その先の利子率が下がらないから、交点がまったく動かないということですか?

その通りです。利子率が下がらないから企業の投資も増えず、結果としてYが一定のグラフになります。

先ほどの設例で、利子率が2%で下がらないとすると、IS曲線 Y=600−50r から、物価がいくつでも国民所得は600−50×2=500で一定になります(検算済み)。

② 投資が利子率に完全に非弾力的な場合

2つ目は、投資が利子率に完全に非弾力的な場合です。動画では、利子率をいくら下げても、企業がお金を借りて投資しない状態だと説明されます。銀行がただ同然で貸すと言っても、企業が将来を悲観して絶対に投資しない状態です。投資の利子率弾力性が0のとき、IS曲線が垂直になります。

このときも、物価が変化してLM曲線がシフトしても、IS曲線とLM曲線の交点の位置は変わりません。IS曲線が垂直なので、LM曲線がずれても、Yは動かないからです。やはり物価とYのグラフは、Yが一定の垂直なグラフになります。

数値例でも確かめます。先ほどの設例で投資が I=100のまま利子率に反応しなければ、Y=20+0.8Y+100 から 0.2Y=120、Y=600です。物価がいくつでも、国民所得は600で変わりません(検算済み)。

流動性の罠投資が利子率に完全非弾力的rYISLM(水平)LMが動いても交点のYは同じrYIS(垂直)LMLMが動いても交点のYは同じ
どちらも、物価が変わっても国民所得は動きません。
ふつう例外の2つの場合PY右下がりPYYが一定(垂直)
ドミノが途中で止まると、AD曲線は垂直になります。

(補足:式の h は、利子率が上がったときに貨幣需要がどれだけ減るかを表す係数で、資料によって「利子弾力性」「利子感応度」と呼ばれます。図は2つの場合を別々に描いています。)

どちらの例でも、途中のドミノが倒れないので、最後の国民所得には一切影響しません。動画は、この2つの状態では、通常の物価変動を通じた経済の自動調整のメカニズムが完全に死んでしまっていることを意味する、とまとめます。

動画の最後の問いかけ

動画は最後に、リスナーへ問いを残します。もし経済が流動性の罠に陥り、さらに企業も将来を悲観しすぎて投資が完全に非弾力的になったら。物価がいくら下がっても国民所得が一切増えないこの壁の前で、政府はどうやって経済を救えばいいのか。動画は答えを言わず、自分の頭で想像してみてください、と締めくくります。

(補足:ここは動画にない私の整理です。上の図のモデルでは、LMが水平、ISが垂直という最悪の組み合わせでも、政府支出の増加などでIS曲線そのものを右へ動かせば、国民所得は増えます。先ほどの設例で政府支出を10増やすと、Y=(20+100+10)÷0.2=650になります。一方、名目貨幣量を増やしても、このモデルでは国民所得は動きません。現実の経済でどうなるかは、別の話です。)

まとめ

動画のまとめ

  • AD曲線は、財市場と貨幣市場の両方を均衡させる国民所得と物価の組み合わせを表す曲線です。物価を縦軸にするのは、労働市場との関連を組み込むためです。
  • 通常は、物価の低下から実質貨幣供給の増加、利子率の低下、投資の増加、国民所得の増加へと続くドミノ倒しで右下がりになります。
  • 拡張的な政策ではAD曲線は右へ、緊縮的な政策では左へシフトします。
  • 流動性の罠(LM曲線が水平)や、投資が利子率に完全に非弾力的な場合(IS曲線が垂直)は、ドミノが止まり、AD曲線はYが一定の垂直な線になります。

動画の締めの言葉は、理論の正常な骨格と、それが崩れる例外の条件の両方を論理的に押さえておけば、本試験でも安心だ、というものでした。物価の変化は線の上の移動、政策はシフト、という区別も合わせて覚えておきましょう。

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