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LM曲線の導出

経済学・経済政策 第39回

経済学・経済政策・マクロ経済学 01918分37秒2026年3月18日公開

「ちょっと想像してみてほしいんですけれど、目の前にものすごく巨大なシーソーがあるとして」。動画はこんな問いかけから始まります。このページでは動画の流れにそって、貨幣の供給と需要、LM曲線が右上がりになる理由、線の上下のエリア、LM曲線のシフト、流動性の罠をまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。

巨大なシーソーを思い浮かべてみよう

動画は、こんな想像から始まります。目の前にものすごく巨大なシーソーがあって、片側には世の中に存在する全てのお金が、反対側には人々の「今すぐ現金を手元に置いておきたい」という欲望が載っている。このバランスが崩れると、経済全体や私たちのビジネス環境まで大きく揺さぶられてしまう、という入り口です。

今回のテーマは、マクロ経済学の要ともいえるLM曲線です。動画は、数式を単なる暗記事項として処理しようとするとつまずくので、音声だけで、人間の心理のドラマとしてイメージできるようにしよう、と呼びかけます。右上がりの線の裏には、投資家の恐怖心や消費者の欲望がある、という見立てです。

貨幣の供給M/P(実質マネーサプライ)貨幣の需要L = L1 + L2取引需要+投機的需要中央銀行が決める買い物と資産運用両者がつり合う = 貨幣市場の均衡
シーソーの左がお金の供給、右がお金を手元に置きたい需要です。

動画では、LM曲線は「貨幣市場を均衡させる国民所得と利子率の組み合わせを表す曲線」と説明されます。名前のLは流動性の需要、Mはマネーサプライ(貨幣の供給)です。供給のMと需要のLのバランスを見る、というわけです。

(補足:教科書では、Lはケインズの流動性選好(liquidity preference)の頭文字と説明されることが多いです。動画は「流動性の需要」と言っているので、貨幣の需要を表す記号と覚えておけば十分です。)

供給側:中央銀行が決める「実質」マネーサプライ

まずシーソーの供給側、貨幣の供給から見ます。動画では、貨幣供給は中央銀行の金融政策で決まり、世の中の利子率には左右されない、と説明されます。中央銀行が「市場にこれだけ供給する」と決めたら、金利が上がろうが下がろうが、その量は基本的に変わらない。これが第1の重要な前提です。

(補足:これはモデル上の前提です。「貨幣供給量は中央銀行が外から決める」と単純化しています。現実の金融政策では、中央銀行が金利を操作の目標にする場合もあります。)

LM曲線を考えるときは、マネーサプライを名目ではなく実質で扱います。式で書くと貨幣供給はM/Pで、Mが名目のマネーサプライ、Pが物価水準です。動画のたとえはこうです。手元に100万円あっても、インフレで物価が全部2倍になれば、買えるものの量は半分になります。100万円÷2で、実質的には50万円分の購買力です。お札の枚数や額面そのものに意味はなく、大事なのは何と交換できるかという実質的な価値、というわけです。

ここは動画でも、勉強していると立ち止まりがちなポイントとして取り上げられます。やりとりを要約すると、次のとおりです。

なぜわざわざPで割るのか、ちょっと立ち止まってしまいます。

物価が2倍になれば、100万円で買える量は半分です。額面ではなく購買力で見るために、MをPで割ります。

動画の言い方では、シーソーの供給側に乗っているのは、単なるお札の束ではなく、実質的な購買力です。

需要その1:取引需要 L1=kY

人が現金を欲しがる理由は1つではありません。動画は、貨幣の需要を取引需要L1と投機的需要L2の2種類に分けて説明します。まずは取引需要です。

取引需要は、日々のスーパーでの買い物や、企業が仕入れの決済で必要とするお金のことです。式はL1=kY(Yは国民所得)。国民所得が増えれば、それに比例して取引も増えるので、国民所得の増加関数です。

注目してほしいのが係数のkです。動画では、貨幣の所得弾力性などと呼ばれると説明されます。聞き手が「お財布の紐の緩み具合」と言い換え、講師も「いい表現ですね」と受けます。景気が良くなって所得Yが上がったとき、「もっと現金を手元に置いて買い物をしよう」と思う心理の強さが、kに現れている、という説明です。

(補足:kは正確には「弾力性」ではありません。弾力性は変化率どうしの比ですが、L1=kYの所得弾力性を計算すると、常に1になります。kは「所得が1増えたとき、取引需要が何増えるか」を表す係数で、所得感応度などと呼ばれます。hも同じで、利子率が1変わったときの貨幣需要の変化の大きさを表す係数で、利子感応度などと呼ばれます。資料によって呼び方は異なります。)

需要その2:投機的需要 L2=−h×i

次が、聞き手が試験でも一番の曲者と呼ぶ投機的需要L2です。これは決済のためではなく、資産運用の視点から生まれる需要です。動画で読み上げられた式は、L2が利子率iの減少関数になる形(L2=−h×i)です。動画では、係数のhは貨幣需要の利子弾力性、あるいは利子感応度と呼ばれます。貨幣需要が利子率にどれだけ反応するかを表す係数です。

(補足:教科書では定数項をつけて「L2=L0−h×i」と書くことが多いです。ここでは動画の式にそろえ、定数項は省いています。式の形は動画の説明の流れから補いました。)

ここが直感に反して戸惑うところです。金利が低ければ、現金のまま持っていても利息はつきません。それなのに、金利が低いほど現金への需要が増えるのはなぜでしょうか。動画は、視点を現金から債券市場へ移すよう促します。

金利が低いなら、現金のまま持っていても全然利息がつかないのに、現金を欲しがる理由はないのでは?

そこが多くの学習者がはまる罠です。利子率と債券価格は、シーソーのように逆方向に動く関係にあります。

利子率が低い利子率が高い債券価格は高い債券価格は安い値下がりが怖い現金で持つ(L2が増える)債券を買う現金は減る(L2が減る)
利子率と債券価格は逆に動くので、利子率が低いほど現金を抱えたくなります。

動画の流れはこうです。金利が低いということは、市場に出回っている債券の価格がとても高い状態です。もし自分が投資家なら、高値づかみはしたくありません。いずれ金利が正常化して上がれば、債券価格は暴落し、大きな損失(キャピタルロス)を被るからです。合理的な投資家なら、高値で買って損するリスクを背負うくらいなら、今は利息がつかなくても、安全な現金(流動性)のまま退避させておこう、と考えます。

つまり、マイナス記号の裏には、絶対に損をしたくないという投資家の強烈なリスク回避の心理が隠れている、というのが動画の説明です。逆に金利が高ければ債券は安売りされている状態なので、みんな喜んで現金を債券に換え、投機的需要は減ります。

均衡の式から、LM曲線へ

これで貨幣市場の役者がそろいました。供給は、中央銀行が決める実質マネーサプライM/P。需要は、買い物のための取引需要kYと、資産防衛のための投機的需要(−h×i)を合わせたものです。市場が均衡するとは、供給と需要がぴったりつり合うことなので、次の式が成り立ちます。

M/P = kY − h×i これがLM曲線の心臓部です。

講師は、数学的な式変形にばかり気をとられる必要はなく、式が何を意味するかを読み解くことが大事だと言います。聞き手は、試験対策としてはこれをiについて解いた形を思い浮かべればよい、と続けます。

i = (k/h)×Y − (1/h)×(M/P)

(補足:式変形です。M/P=kY−h×iから h×i=kY−M/P、両辺をhで割って上の式になります。傾きk/hは正なので右上がり、切片は−(1/h)×(M/P)です。hが大きいほど、つまり利子率への反応が大きいほど、傾きはゆるやかになります。)

大切なのは、このグラフがなぜ右上がりの直線になるのか、という理屈です。動画はシーソーを動かして説明します。

  • 経済が成長して国民所得Yが増えると、みんなの給料が増え、買い物したくなって取引需要が増える。
  • でも中央銀行が供給するお金の全体量は固定されているので、このままでは現金が足りなくなる。つまり貨幣の超過需要が起きる。
  • どこかから現金をひねり出すしかない。頼みの綱は、投資家が抱え込んでいる投機的需要の現金。
  • 投資家に現金をあきらめさせて債券を買わせるには、金利を上げるしかない。金利が上がれば債券の魅力が増して、現金を放出してくれる。

国民所得Yが増えたときに、限られた貨幣供給の中でバランスを保つには、利子率iを上げて投機的需要を抑え込む必要があります。Yが増えればiも増える。同じ方向に動くので、LM曲線は右上がりになります。

数値でも確かめておきましょう(自作の設例です)。k=0.4、h=20(iは%で測る)、M=300、P=2とします。M/Pは150なので、M/P=kY−h×iはi=0.02Y−7.5になります。

国民所得Y0.4Y − 20iつり合う利子率i
500200 − 50 = 1502.5%
600240 − 90 = 1504.5%
700280 − 130 = 1506.5%

所得が増えるほど、貨幣市場をつり合わせる利子率も上がっています。これがLM曲線上の点の並びです。

線の上と下は、何が起きているエリア?

LM曲線の線上は貨幣市場が均衡している点ですが、現実の経済は常に均衡しているわけではありません。動画は、縦軸が利子率i、横軸が国民所得Yのグラフで、線の外側のエリアを考えます。

利子率 i国民所得 YLM曲線貨幣が余る(供給過剰)貨幣が足りない(需要過剰)
線の上は金利が高すぎてお金が余り、線の下は金利が低すぎてお金が足りません。

線より上は、利子率が高すぎる状態です。みんなこぞって債券を買いたがるので、現金への投機的需要がぐっと減ります。供給量は一定なのに需要が減っているため、世の中に現金がダブつき、貨幣供給LSが貨幣需要LDを上回る供給過剰のエリアです。

線より下は、利子率が低すぎる状態です。みんな債券を嫌って現金を抱え込みたがり、投機的需要が膨らんで、世の中のお金が足りなくなります。需要過剰のエリアです。

先ほどの設例で確かめます。Y=500のとき、均衡は利子率2.5%です。利子率が5%なら需要は0.4×500−20×5=100で、供給150を下回り、50だけお金が余ります。利子率が1%なら需要は200−20=180で、供給を30上回ります。

LM曲線のシフト:マネーサプライを増やすと?

動画は、試験で必ずと言っていいほど問われるのが曲線のシフトだと言います。式の切片にあたる部分(M/P)が変わると、LM曲線は動きます。

中央銀行がマネーサプライMを増やすと、切片が下に移動します。切片が下がるということは、右上がりの直線全体が右にシフトするということです。同じ利子率でも、より高い国民所得で貨幣市場が均衡できる状態になります。これが金融緩和の効果だ、と動画は説明します。

利子率 i国民所得 YLM0(元)LM1(Mを増やした後)右へ
Mが増えると、同じ利子率のままLM曲線が右へ動きます。

設例で確かめましょう。利子率が4.5%のとき、貨幣市場がつり合う国民所得は、Mが300なら600です。Mを400に増やすと(Pは2のまま)M/Pは200になり、つり合う所得は725です。差の125は、増えた実質貨幣量50を、kの0.4で割った値にあたります。逆に、物価が3に上がると(Mは300のまま)M/Pは100になり、つり合う所得は475に下がります。

名目MとP実質M/Pつり合う所得Y(i=4.5%)
M=300、P=2150600
M=400、P=2200725
M=300、P=3100475

動画は、なぜお金を増やすだけで国民所得が上がるのか、というプロセスも説明します。流れは次のとおりです。

  • 中央銀行がお金を供給すると、お金がダブつくので、まず金利を下げる圧力がかかる。
  • 金利が下がると投機的需要は増える。ただし、増えた供給を吸収して新しい均衡に移るには、取引需要も拡大する必要がある。
  • 取引需要の拡大とは、みんなが買い物をするということ。つまり国民所得が増える。

動画は、これを「金利が下がって企業がお金を借りやすくなり、投資や消費が活発になって所得が上がる」ともまとめています。

(補足:動画の説明のうち「企業がお金を借りやすくなり、投資や消費が活発になる」の部分は、LM曲線ではなく、財市場を表すIS曲線の話です。LM曲線が表すのは「貨幣市場が均衡する国民所得と利子率の組み合わせ」までです。LM曲線が右にシフトしても、それだけで国民所得が決まるわけではなく、実際の国民所得は、IS曲線との交点(IS−LM分析)で決まります。動画の説明は、この点を単純化したものです。)

流動性の罠:シーソーが壊れる世界

ここまでは、利子率と所得のシーソーが正常に働く世界でした。最後に、動画はシーソーが完全に壊れる極端な世界を取り上げます。経済学ではこれを流動性の罠(リクイディティ・トラップ)と呼びます。

利子率が下がり続けて、限界ぎりぎりの非常に低い水準に達したとします。誰もが「利子率はもうこれ以上、絶対に下がらない」と確信している状態です。利子率が下がらないということは、逆に動く債券価格は今が絶対的なピークで、これ以上は上がらないということです。

そんな市場で、投資家はどう動くでしょうか。債券の価値がここから下がるとわかっているなら、持ち続ける理由はありません。1秒でも早く全員が債券を売り払い、価値が目減りしない現金に逃げ込もうとします。その結果、貨幣への投機的需要L2が無限大に膨れ上がる、と動画は説明します。

利子率 i国民所得 Y水平(傾き0)L2が無限大=現金に殺到LM曲線
利子率が下がりきると、LM曲線の左側が水平になります。

これをLM曲線のグラフに当てはめると、利子率がある低い値に達した瞬間、それまで右上がりだった曲線が、傾き0の水平な線になります。聞き手は、人間のこれ以上損をしたくないという強烈な恐怖心が、モデルの直線をへし折ってしまう、と表現します。水平なグラフは単なる例外パターンの暗記項目ではなく、背後に市場の心理がある、という捉え方です。

(補足:式で整理すると、利子率が下がりきったこの範囲では「hが無限大」と考えます。傾きk/hがゼロに近づくので、LM曲線はその範囲で水平になります。動画の「L2が無限大」は、利子率がわずかに下がるだけで貨幣需要がいくらでも増える、という意味と受け止めてください。)

動画の最後の問い

動画は、リスナーへの問いを残して終わります。流動性の罠でLM曲線が水平になっているとき、中央銀行が必死にお金の供給量を増やし、LM曲線を右にシフトさせたら、国民所得を増やせるでしょうか。動画は「水平な線をいくら右に引っ張っても、上下の位置は変わらない」と言い、答えは視聴者の想像に任せています。

(補足:一般には、この場合の金融政策は効果が小さいか、失われるとされています。IS曲線がLM曲線の水平な部分と交わっているときは、LM曲線が右へ動いても交点が動かず、利子率も国民所得も変わらないためです。)

動画が「試験で問われる」と言っている点

  • 投機的需要L2は、聞き手が「試験でも一番の曲者」と呼んでいます。
  • LM曲線の上下のエリアが、どちらの不均衡を表すか。動画では、問われることがあるとされています。
  • 曲線のシフトは、動画では「必ずと言っていいほど問われる」と言われています。
  • 水平なLM曲線のグラフを、聞き手は暗記項目でなく市場心理として捉え直しています。

まとめ

この動画のまとめ

  • LM曲線は、貨幣市場を均衡させる国民所得と利子率の組み合わせを表す曲線。Lは貨幣の需要、Mは貨幣の供給。
  • 供給は中央銀行が決める実質マネーサプライM/P。額面ではなく購買力で見るためにPで割る。
  • 需要は、取引需要L1=kY(所得の増加関数)と、投機的需要L2(利子率の減少関数)の2つ。
  • 利子率が低いと債券価格が高く、値下がりを恐れて現金で持つ。だから利子率が下がるとL2が増える。
  • 均衡の式は M/P=kY−h×i。iについて解くと右上がり。Yが増えると超過需要が出るので、利子率が上がって投機的需要を抑える。
  • LM曲線より上は貨幣の供給過剰、下は需要過剰。
  • Mを増やすとLM曲線は右にシフトする(物価Pが上がれば左)。国民所得が実際にいくつになるかは、IS曲線との交点で決まる。
  • 利子率が下がりきると投機的需要が無限大になり、LM曲線は水平になる。これが流動性の罠。
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