クフウヤ聞き流しラボWebテキスト(無料)NEW
中小企業診断士 1次試験

7科目を、聞き流しで一周する。

企業経営理論から中小企業政策まで、1次試験の論点を科目別の講義動画にまとめています。過去問の解説も1問ずつそろえています。

科目別の講義動画過去問完全解説ファイナルペーパーメンバーシップ
診断士 聞き流しラボ

貨幣供給と信用創造

経済学・経済政策 第37回

経済学・経済政策・マクロ経済学 01718分58秒2026年3月17日公開

銀行に預けた1万円が魔法のように何万円にも化けて、世の中を飛び回っている。動画はそんな問いかけから始まります。このページでは動画の流れにそって、貨幣の定義、法定準備率、ハイパワードマネー、信用創造、貨幣乗数の式と覚え方をまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。

銀行に預けた1万円は、何万円にも化ける?

もしあなたが銀行に1万円を預けたら、その1万円が魔法のように何万円にも化けて世の中を飛び回っている。まるで詐欺みたいな話だと思いますか、と動画は問いかけて始まります。

動画のねらいは、M・H・C・Rとアルファベットが入り乱れる数式を、丸暗記ではなく「ストーリー」として理解することです。貨幣供給の分野は、銀行のビジネスモデルと、お金が世の中で増えていくしくみを描いた話だと説明され、聞き終わるころには試験本番で式をど忘れしても自分の頭で導き出せる、と動画は言います。

先に、動画に出てくる記号を表にまとめておきます。読み進めながら、ここに戻ってきてください。

記号意味動画の式
M貨幣の総量(マネーサプライ)M=C+D
HハイパワードマネーH=C+R
C流通している現金―
D預金の総額―
R日銀に預ける法定準備金―
r法定準備率r=R÷D
c現金預金比率c=C÷D
m貨幣乗数(信用乗数)m=M÷H

貨幣とは何か:現金だけではない

経済で市場に出回っている貨幣、つまりマネーサプライやマネーストックと呼ばれるものは何をさすのか。お財布の中のお札や硬貨を思い浮かべがちですが、動画は「現金だけではない」と説明します。流通している現金に加えて、銀行などに預けられている預金の合計が、経済学でいう貨幣の定義だとされます。銀行口座に表示されるデジタルな数字も、立派なお金として数えるわけです。

(補足:動画は預金を「日本銀行や市中銀行に預けられている預金」と言っています。しかし、後半の式では、日銀に預ける準備金はRとして別に扱い、貨幣M=C+Dの預金Dは「世の中(民間)の預金」として使われています。ここでは、Dを民間の預金と読んで進めます。また、日本銀行の統計では、現在は「マネーストック」という名称が使われ、M1・M2・M3など範囲の違う指標があるとされています。動画が使うM=C+Dは、その中身を単純にした教科書的なモデルです。)

銀行のビジネスモデルと、取り付け騒ぎ

ここで動画は、銀行のビジネスモデルの核心に入ります。銀行は預かった預金を金庫に眠らせているわけではなく、預金者に利子を払ったうえで、別の顧客や企業に貸し出し、その差で利益を得ています。お金を右から左へ流して経済を回す役割を果たしつつ、銀行自身も利益を生み出している、という説明です。

ところが、これは見方を変えるとかなりリスキーです。聞き手は、こんなたとえ話を出します。講師も面白いたとえだと応じ、取り付け騒ぎの説明につなげます。

聞き手のたとえ:レストランのクローク

お客さんから預かったコートを、食事中に勝手に別の人へレンタルして儲けているようなもの。もしお客さん全員が「食事が終わったからコートを返して」と同時に押し寄せたら、手元にコートがなくて大パニックになります。

同じように、銀行が預かった預金をすべて貸し出してしまうと、預金者が一斉に引き出そうとしたときに対応できなくなります。動画は、これが歴史上何度も起きた取り付け騒ぎだと紹介します。

法定準備率と法定準備金:パニックを防ぐルール

パニックを防ぐために、法律でルールが定められている、と動画は説明します。銀行は預かっている預金の一定の比率を、銀行の銀行である中央銀行(日本銀行)に準備金として預けておくことが義務づけられています。この最低限の比率を法定準備率、実際に預けるお金を法定準備金と呼びます。

預金の全体をD、日銀に預ける法定準備金をR、法定準備率を小文字のrとすると、比率なので割り算です。

r = R ÷ D

預金Dのうち何%を日銀に預けるRにするのか、という意味です。たとえば預金が1万円で法定準備率が10%なら、日銀に預けるRは1,000円です。コートのたとえでいえば、全部は貸し出さず、最低限の割合は日銀の安全な金庫に置いておきなさい、というシステム全体の安全のためのルールです。

(補足:日本の準備預金制度は準備預金制度に関する法律にもとづき、対象は同法の「指定金融機関」(銀行、信用金庫、農林中央金庫など)です。動画の「預金全体に一律のr」より実際の制度は細かいので、ここでは動画のモデルで進めます。なお法律上の用語は「法定準備預金額」で、動画の「法定準備金」とは言い回しが違います。)

日銀が出す大元のお金:ハイパワードマネー

では、私たちが使うお金、あるいは日銀の金庫に預けられるお金の大元はどこから来るのか。お金を刷っている日本銀行です。動画は、日銀が直接供給している大元のお金をハイパワードマネー(マネタリーベース)と呼びます。

中身は2つです。世の中に流通している現金Cと、日銀の金庫にある法定準備金Rです。この2つの和として表されます。

H = C + R

(補足:日本銀行の統計では、マネタリーベースは「流通現金+日銀当座預金」とされています。日銀当座預金には法定準備を超える分も含まれるとされますが、動画のモデルでは、準備金Rを法定準備だけに単純化しています。)

では、何が「ハイパワー」なのか。動画は、これがストーリーの最大の山場だと言います。日銀が供給したお金は市中銀行を経由して世の中に出ますが、そこで信用創造(預金創造)という現象を引き起こすからです。

信用創造:預金が連鎖して何倍にもふくらむ

動画は具体的な数字で見ていきます。ある人が銀行に1万円を預金し、法定準備率が10%だとします。

  • 銀行は10%にあたる1,000円を日銀の金庫に準備金として預ける。
  • 残りの9,000円を、企業などに融資する。
  • 9,000円を借りた企業が設備の支払いなどで別の会社に渡し、受け取った会社が自分の銀行口座に9,000円を預金する。
  • その銀行は9,000円の10%である900円を日銀に預け、残りの8,100円をまた別の誰かに貸し出す。
預金10,000円日銀へ準備 1,000円(10%)貸出 9,000円(90%)預金9,000円日銀へ準備 900円(10%)貸出 8,100円(90%)預金8,100円日銀へ準備 810円(10%)貸出 7,290円(90%)…と続き、預金の合計は10万円に近づく
預金→貸出→預金…の連鎖で、預金の合計がふくらみます。

ここで動画のやりとりでは、物理的なものとの違いが話題になります。コートのたとえなら、誰かがレンタルしたコートを着て別の店へ行き、そこでもう一度そのコートを質に入れる、などということは物理的に不可能です。

コートなら不可能ですが、お金は口座のデジタルな数字だから、A銀行が貸したお金がB銀行に預金されて、それがまた貸し出される、という連鎖が実際に起きるのですか?

その通りです。お金は物理的なものではなく、銀行の帳簿上の預金として記録されるので、貸出しと預金の連鎖がずっと続いていきます。

1万円が9,000円を産み、8,100円を産み…と繰り返され、世の中の預金残高は、大元のお金の何倍にもふくれ上がります。これが信用創造のメカニズムです。日銀がぽんと出したお金が、銀行の貸出しの連鎖を通じて何倍もの経済効果を生む。だからハイパワードマネーと呼ばれる、というのが動画の説明です。

(補足:自作の設例で確認します。現金には回らず、貸したお金が全部また預金に戻る、という単純な場合を考えます。最初の預金1万円を含め、3回目までの預金の合計は 10,000+9,000+8,100=27,100円です。この連鎖を果てしなく続けると、預金の合計は 1万円÷10%=10万円に近づきます。最初の1万円を除いた、連鎖で新たに生まれた預金は9万円です。この式は、後で出てくる貨幣乗数で現金が全くない場合(c=0)にあたります。)

M=C+D と H=C+R をつなぐ

こうして連鎖の結果として生み出された、世の中の貨幣の総量が、最初に出てきたマネーサプライMです。Mは流通している現金Cと、ふくれ上がった預金Dの和、つまりM=C+Dです。

整理すると、大元のお金であるハイパワードマネーはH=C+R、信用創造の連鎖でふくらんだ結果のマネーサプライはM=C+Dです。日銀の金庫に眠る準備金Rがベースにあり、それが連鎖を経て、世の中の巨大な預金Dになったイメージです。

上の建物:M(世の中のお金の総量)現金 C預金 D現金 C準備 R信用創造でふくらむ下の土台:H(日銀が出す大元のお金)M÷H=貨幣乗数 m(Hが分母・下)
土台のHが、信用創造で上の建物Mへふくらみます。

動画は、中央銀行がコントロールできるのは大元のハイパワードマネーHだけだと言います。しかし、私たちが実際に経済活動で使っているのは、市中銀行の貸出しによって何倍にもふくらんだMのほうです。そこで、日銀が供給したHから何倍のMが生み出されるのか、その倍率が気になります。

(補足:動画は、ここでは日銀がコントロールできるのはHだけと言いながら、終盤では日銀が法定準備率rを動かして倍率を調整できると説明します。二つは両立しにくいので、「Hだけ」は話を単純にした言い方と読むのがよさそうです。)

貨幣乗数 m と「ホームベースは下」

その倍率を表すのが貨幣乗数(信用乗数)、小文字のmです。関係式で書くと、マネーサプライMは、ハイパワードマネーHに貨幣乗数mをかけたものです。

M = m × H を解くと m = M ÷ H

ここで聞き手は、受験生の切実な悩みを口にします。試験本番の緊張状態では、MとHのどちらが分子でどちらが分母だったか、ど忘れしてしまうというのです。そこで出てくるのが、とっておきの覚え方です。

ホームベースは下。ハイパワードマネーの別名であるマネタリーベースのベースから、野球のホームベースを連想し、ホームベースは下にあるので、Hが分母になる、という覚え方です。

これは単なる語呂合わせではないのですね。日銀が供給する土台のHがいちばん下にあって、その上に市中銀行が信用創造で作り上げた巨大なMの建物が乗っている。だから土台のHが分母、つまり下にくるわけだ。

その捉え方は非常に素晴らしいです。メカニズムを視覚的に理解できていますね。

貨幣乗数の公式を導く

では、貨幣乗数mがどんな要素で決まるのか、これまでの式を代入して見ていきます。求めたいのは m=M÷H です。分子のMは現金と預金の合計でC+D、分母のHは現金と日銀の準備金の合計でC+Rですから、分数になります。

m = (C+D) ÷ (C+R)

このままでは金額の規模が大きいので、比率に直します。分子と分母のすべての項を、預金総額Dで割ります。

  • 分子:(C+D)÷D = C÷D + D÷D = C÷D + 1
  • 分母:(C+R)÷D = C÷D + R÷D

ここで動画は、新しい指標を1つ紹介します。預金Dに対する現金Cの割合である現金預金比率、小文字のcです。c=C÷Dで、動画は、人々が現金を手元にどれくらい持ちたがるかという人間心理や行動の傾向を表している、と説明します。もう1つのR÷Dは、先ほどの法定準備率rです。これらを当てはめます。

m = M ÷ H = (C+D) ÷ (C+R)全部を D で割る分子 (C+D)÷D = C÷D + 1 = c + 1分母 (C+R)÷D = C÷D + R÷D = c + rm = (c + 1) ÷ (c + r)c=C÷D:現金預金比率(現金の持ちたがり方)r=R÷D:法定準備率
分子と分母を D で割ると、記号が c と r にそろいます。

動画は、これを試験で頻出する貨幣乗数の最終公式だと紹介します。式を丸暗記するのではなく、人々が現金をどれくらい持つかという人間心理のcと、日銀が定める銀行のルールのrが組み合わさって、世の中のお金が何倍にふくらむかが決まる、というストーリーとして覚えるのが動画のすすめです。

数値で確かめる:自作の設例

(補足:ここからは動画にない自作の設例です。数値はPythonで検算しました。)預金D=1,000円、現金C=200円、準備金R=100円とします。

  • H=C+R=200+100=300円
  • M=C+D=200+1,000=1,200円
  • m=M÷H=1,200÷300=4倍
  • c=200÷1,000=0.2、r=100÷1,000=0.1 を公式に入れると (0.2+1)÷(0.2+0.1)=4で、一致します。

cとrを変えたときのmは、次の図のようになります(いずれも公式で計算)。

c=0.2 r=10%基準の設例4.0倍c=0.2 r=20%準備率を上げる3.0倍c=0.2 r=5%準備率を下げる4.8倍c=0.4 r=10%現金を多く持つ2.8倍
準備率が低いほど、現金が少ないほど、乗数は大きくなります。

準備率rを下げるとmは大きくなり、上げると小さくなります。現金預金比率cが大きいと、mは小さくなります(rが1より小さい場合)。現金は預金のように貸出しの連鎖に乗らず、手元に残ってしまうためです。この点は動画にない補足ですが、式の形からも読み取れます。

日銀の「ダイヤル」:法定準備率

動画は、この公式にはさらに深い意味があると言います。中央銀行は法定準備率rを変えることができるので、分母にあるrを大きくしたり小さくしたりして、信用創造の倍率をコントロールし、世の中に出回るお金の量を調整している、という説明です。日銀がrというダイヤルを使って、経済のアクセルやブレーキを踏んでいるイメージです。上の設例のとおり、rを下げればmが大きくなるので、お金が増えやすくなる方向です。

(補足:動画は準備率を「法律で変えることができる」と言っています。準備預金制度に関する法律では、日本銀行が、通貨の調節を図るため必要があると認めるときに準備率を設定・変更・廃止でき(同法4条1項)、準備率は20%を上限とし(同条2項)、日本銀行の公告で行います(同法6条)。その議決は日本銀行の政策委員会が行います(日本銀行法15条1項3号)。法律で決まるのは上限などの枠で、準備率そのものは日銀が決める、と読むのが正確です。動画のとおり「日銀がrを動かす」と理解して大丈夫です。)

動画が残した問い

動画は最後に、リスナーに問いを投げかけて終わります。信用創造の連鎖は、お金を借りたい企業や人がいる、という前提で成り立っています。もし景気が悪くて、誰ひとり銀行からお金を借りたいと思わなくなったら、魔法のようにふくらむはずの貨幣乗数のマジックは、一体どうなってしまうのか、という問いです。動画は答えを言わず、次にテキストを開くときの視点として持ってみてほしい、と結びます。

(補足:答えは動画にありません。式の上では、貸出しが増えなければ連鎖が進みません。日銀がHを増やしても、Mはあまり増えないことになります。)

まとめ

動画は、貨幣供給の式を「丸暗記する記号」ではなく、「銀行が預金を貸し出して利益を得て、パニックを避けるために準備金を預け、そのお金が連鎖して増えていく」というストーリーとして示しました。H=C+R、M=C+D、m=M÷H、そして m=(c+1)÷(c+r)。どの式も、このストーリーのどこかに対応しています。

数式を思い出せなくなったら、ホームベースは下(Hが分母)、分子と分母をDで割れば比率になる、という2つの手がかりに戻ります。あとは、cが人々の現金の持ちたがり方、rが日銀の決めるルールという意味を押さえておけば、式の形から乗数の大小も読み取れます。

LISTEN

動画で聞く

NEXT

続けて読む