フィッシャー方程式
経済学・経済政策 第38回
毎日のようにインフレやデフレ、金利という言葉を耳にする。動画はそんな問いかけから始まり、インフレとデフレが企業の借金と投資にどう作用するのかを解きほぐします。このページでは動画の流れにそって、負債の実質価値、実質所得の移転、実質利子率と投資、フィッシャー方程式をまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
インフレ・デフレ・金利、本当に説明できますか?
毎日のようにインフレ、デフレ、金利という言葉を耳にする。動画は、そんな問いかけから始まります。物価が上がる現象、銀行の利息が変わること、というざっくりしたイメージはあっても、それらが組み合わさったとき、企業の財務や投資がどう動くのかを説明できる人は意外と少ない、と動画は言います。
そこで今回のミッションは、インフレとデフレが、企業の負債(つまり借金)と投資にどんな作用をするのかを解きほぐすことです。最後に、公式であるフィッシャー方程式にたどり着きます。流れは次のとおりです。
- インフレが負債に与える影響(債権者から債務者への実質所得の移転)
- インフレが消費・金利・投資に与える影響
- デフレの場合(インフレの逆になる)
- フィッシャー方程式で、実質利子率を一行で表す
インフレは借金を軽くする
あなたが経営者で、1000万円の借金を抱えているとします。ここで経済全体がインフレ基調になり、これまで1000万円で買えていた設備が、物価の上昇によって1500万円出さないと買えなくなったとしましょう。
物の値段が上がったということは、相対的にお金の価値が下がったということです。借金の帳簿上の数字は1000万円のままですが、世の中の物価で測り直すと、実質的な重みは減っています。聞き手は、1000万円の負債の実質的な重みが2/3になったようなものだ、と言い換え、講師も、実務的な感覚として正確だと応じます(1000÷1500で、確かに2/3です)。借りている側からすれば、何もしないのに負担が軽くなったことになります。
債権者から債務者への実質所得の移転
では、お金を貸している銀行などの債権者から見ると、どうでしょうか。将来返ってくる1000万円の実質価値は、貸したときより目減りしています。動画はこの現象を、債権者から債務者への実質所得の移転と呼びます。ただ物価が上がっているだけに見えて、裏側では貸した側から借りた側へ、実質的なお金の移動が起きているわけです。
1000万円の借金は帳簿の上では1000万円のままですけど、物価で測り直すと実質的な負担は軽くなっているようなものですよね。
おっしゃる通りです。それがインフレの持つ効果で、債務者にとっては非常に有利な状況と言えます。
(補足:ここは動画の単純化です。この説明は、貸し借りをした時点では物価が上がると思っていなかった場合のものとされています。インフレが前もって予想されていれば、貸し手は名目利子率に物価上昇の分を上乗せして貸すと考えられるので、実質的な移転は小さくなります。動画の最後の問いかけも、この考え方につながります。)
消費も増える
お金の価値が目減りしていくと、消費者にはどんな心理が働くでしょうか。動画では、手元に持っているより使ったほうが得だ、という心理が働くと説明します。聞き手がそう答え、講師も、その心理的な動きが経済全体に広がっていくことが重要だと応じます。
まとめると、インフレによって消費者が持っている貨幣の実質価値が低下するため、結果として社会全体の消費の増加が促される、というのが動画の説明です。
(補足:動画の単純化です。インフレで貨幣の実質価値が下がると、貯蓄など手元の資産の実質価値も減るため、かえって消費を控える方向の効果もあります。動画の「使ったほうが得」は、この先も物価が上がると予想して早めに買う動機を言ったものと読むと分かりやすいです。)
設例:物価が1年で10%上がると
このページで用意した数字の例です(動画の数字ではありません)。1000万円の借金は、1年後も額面は1000万円です。物価が10%上がると、1年前の物価で測った実質価値は1000÷1.1で約909万円。約91万円分、負担が軽くなった計算です。反対に貸した側は、約91万円分を実質的に失ったことになります。
動画では、1000万円が1500万円になる大きな物価上昇を例にしていました。数字は極端ですが、仕組みは同じで、物価が上がった割合の分だけ、借金の実質的な重みが減っていきます。動画の整理は、物価が上がるほど債務者に有利で、債権者に不利、というものです。
インフレで実質利子率が下がり、投資が進む
負債の実質価値が下がるのと全く同じ理屈が、金利にも当てはまります。インフレによって実質利子率が低下します。実質利子率が下がれば、お金を借りたほうがお得という経営環境になり、借入れが促進されます。
聞き手は、自分が経営者なら、お金の価値がどんどん下がり実質的な金利負担も軽いのだから、今こそ銀行から資金を調達して事業に投資すべきだと考える、と話します。講師も、企業財務のセオリーとしてその判断は正解だと答えます。利子率が下がることで多くの企業がお金を借りて投資をしようと考える、つまりインフレ期には企業の投資が促進されるわけです。
聞き手は、インフレは実質的な借金を軽くして投資を後押しする、経済のアクセルを踏み込むような効果だと言い換え、講師も「そういう側面がある」と応じます。
(補足:「インフレで実質利子率が下がる」は、名目利子率が変わらないと置いたときの話です。名目利子率がインフレに合わせて上がれば、実質利子率はそれほど下がりません。この点は後の節でもう一度触れます。)
デフレは逆回し:借金が重くなる
時計の針を逆に回して、デフレで考えます。1000万円の借金を抱える企業で、これまで1000万円出さないと買えなかったものが、500万円で買えるようになったとします。
値段が半分になるのは、消費者の目線では歓迎したくなります。ところが企業財務の目線では景色が一変します。物の値段が半分ということは、1000万円の借金は実質的に倍の重みでのしかかってきます(1000÷500=2)。動画は、これがデフレのもたらす本質的な影響だと言います。逆に、手元の現金や預金のような資産の実質価値は上昇します。
つまりインフレの時とは完全に逆で、今度は債務者から債権者へ実質所得が移転します。負債を抱える企業から、現金を持っている側へ、実質的な富が静かに吸い上げられている状態です。
1000万円の借金を抱える企業から、現金をたっぷり持っている側へ、静かに実質的な富が吸い上げられているような状態ですね。
ええ、企業にとっては非常に厳しい環境です。そしてこの状況は、金利と投資にも深刻な影響を与えます。
金利と投資への影響も逆になります。デフレでは借金の実質的な重みが増すので、実質利子率が上昇します。お金を借りると損になるため、借入れは強く抑制されます。今借りても、将来返すときには借金の実質的な重みが増しているので、怖くて借りられません。その結果、事業への投資は強く抑制されます。動画は、デフレが実質利子率を押し上げて投資を抑制するこのメカニズムを、試験対策としても押さえておくべき重要ポイントとして挙げています。
フィッシャー方程式で一行にまとめる
ここまで、インフレなら実質利子率が下がる、デフレなら上がるという関係を、言葉で説明してきました。この関係を一行で表すのがフィッシャー方程式です。動画では、物価上昇率と利子率の関係に関する考え方を表した方程式で、実質利子率は名目利子率から期待物価上昇率(つまりインフレ率)を引いたものとして表せる、と説明しています。
フィッシャー方程式
実質利子率=名目利子率−期待インフレ率
聞き手は、リスナー向けにこう噛み砕きます。名目利子率は銀行の看板に書いてある見かけの金利、実質利子率は物価の動きを引いたあとの、実際の負担の金利です。講師は「完璧な翻訳」と応じます。
この式の引き算を頭の中で動かすと、動画の結論がそのまま読めます。インフレ率が大きいほど引く数字が大きくなり、実質利子率はどんどん小さくなります。だからお金を借りやすくなります。デフレではインフレ率がマイナスになるので、引き算がプラスに転じ、実質利子率が跳ね上がります。
数字で確かめてみましょう。次の3つは、このページで用意した設例です(動画の数字ではありません)。名目利子率が5%で期待インフレ率が2%なら、実質利子率は3%です。同じ5%でも、期待インフレ率が10%なら実質はマイナス5%、つまり借りるほど実質的に得をする状態です。デフレで期待インフレ率がマイナス2%、名目利子率が1%と低くても、1−(−2)で実質は3%になります。
| 想定 | 名目利子率 | 実質利子率 |
|---|---|---|
| インフレ2% | 5% | 3% |
| インフレ10% | 5% | −5% |
| デフレ(−2%) | 1% | 3% |
(補足:動画の式は、簡単に使える近似の形です。より厳密には(1+名目利子率)=(1+実質利子率)×(1+期待インフレ率)という関係になります。たとえば名目5%、期待インフレ率2%なら、実質利子率は約2.94%で、近似の3%とほぼ同じです。インフレ率が10%と大きいと、−5%と約−4.55%のように差が目立ってきます。)
(補足:式の「期待インフレ率」は、貸し借りを決める時点での物価の見通しです。あとから実際の物価上昇率で測り直した実質利子率は、見通しとずれることがあります。動画は両者を特に区別せず、インフレ率として話を進めています。)
最後の問い:銀行はどう動く?
動画は最後に、聞いているあなたへ問いかけをして終わります。フィッシャー方程式によれば、インフレ率が上がると実質利子率はどんどん下がり、お金を貸している債権者は実質的に損をします。では、これから猛烈なインフレが来ると予想した(期待した)とき、お金を貸すビジネスをしている銀行は、自分たちの身を守るために名目利子率をどう設定しようとするでしょうか。方程式の引き算を頭の中で動かして考えてみてください、という問いです。動画の中では答えは示されません。
(補足:式を変形すると、名目利子率=実質利子率+期待インフレ率です。期待インフレ率が上がれば、貸し手が実質的な損を避けようとして名目利子率を引き上げる、という方向になります。名目利子率が期待インフレ率の分だけ上がる、この関係はフィッシャー効果と呼ばれています。ただし実際にどのくらい上がるかは、時期や金融政策などで変わります。)
この補足から、前の節の「インフレで実質利子率が下がる」が、貸し手が予想していなかったインフレや、名目利子率が動かない場合の話だった、ということも分かります。
復習のコツは、式を丸暗記するより、「引く数が大きいほど、実質の負担は軽くなる」と言葉で言い直せるようにしておくことです。インフレなら借り手に有利、デフレなら借り手に不利、という向きも、式の引き算から読み取れます。
まとめ
動画の要点(動画の整理にそって)
インフレ:負債の実質価値が下がり、借金が軽くなる。債権者から債務者へ実質所得が移転する。実質利子率が低下し、企業の借入れと投資が促され、消費も増える。
デフレ:負債の実質価値が上がり、借金が重くなる。債務者から債権者へ実質所得が移転する。実質利子率が上昇し、借入れが損になって、企業の投資が冷え込む。
フィッシャー方程式:実質利子率=名目利子率−期待インフレ率。動画ではこの式がこれらの関係を数式で表したものとされています。
動画の締めの言葉は、ニュースでインフレ率や金利を聞いたとき「誰の所得が誰に移転しているのか」という視点を持ってみてください、というものです。数字の変動の裏側に、企業の投資行動が見えてきます。
このページの補足は、インフレが予想されていた場合には移転が小さくなること、式が近似であること、名目利子率が期待インフレ率に応じて動くこと、の3点でした。動画の筋を押さえたうえで、あわせて思い出してみてください。
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