クフウヤ聞き流しラボWebテキスト(無料)NEW
中小企業診断士 1次試験

7科目を、聞き流しで一周する。

企業経営理論から中小企業政策まで、1次試験の論点を科目別の講義動画にまとめています。過去問の解説も1問ずつそろえています。

科目別の講義動画過去問完全解説ファイナルペーパーメンバーシップ
診断士 聞き流しラボ

取引需要と投機的需要

経済学・経済政策 第36回

経済学・経済政策・マクロ経済学 01618分32秒2026年3月17日公開

金庫の中に100万円の現金がただ眠っている状況を想像してみてください、と動画は問いかけて始まります。このページでは動画の流れにそって、貨幣需要を2つに分ける考え方と、取引需要(L1)、投機的需要(L2)、貨幣供給量が増えたときの連鎖をまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。

100万円が金庫で眠っているのは、おかしい?

金庫の中で、100万円の現金が眠っている場面を想像してみてください。インフレが進めば、お金の実質的な価値は少しずつ目減りします。しかも、その現金を債券などに替えていれば得られたはずの利息も、あきらめていることになります。利益を求める合理的な人なら、利回りゼロの現金をずっと持ち続けるのは、不合理に見えます。

動画は、ここにマクロ経済学の面白い逆説があると言います。それでも社会には、利回りを生まない貨幣への需要が、いつも大量にあるのです。これは単なる矛盾ではなく、その裏には精緻な論理があります。動画の目標は、テキストに並ぶL1やL2という記号を丸暗記することではありません。なぜ人は現金を持ちたがるのか、その2つの理由を、論理で分解することです。

貨幣需要(L)取引需要(L1)買い物用の財布決めるもの国民所得投機的需要(L2)チャンスに備える待機資金決めるもの利子率
お金を持ちたがる理由を、使い道で2つに分けます。

お金を持ちたがる理由は、使い道で大きく2つに分かれます。ひとつが取引需要(L1)、もうひとつが投機的需要(L2)です。この線引きを正確に押さえることが、あらゆる応用問題の土台になる、と動画は強調しています。

(補足:動画にない話です。L1・L2という記号は、ケインズの流動性選好説に由来するとされます。貨幣需要の全体を L とおき、L=L1+L2 と、2つを足し合わせて考える整理です(ケインズ自身は M=M1+M2=L1(Y)+L2(r) と書きました)。ケインズの『一般理論』(1936年)では、貨幣を持つ動機を取引動機・予備的動機・投機的動機の3つに分けたとされ、テキストによっては、取引動機と予備的動機をまとめてL1として扱います。動画は取引需要と投機的需要の2つだけを扱っているので、このページもその2つを中心に進めます。)

取引需要(L1):お買い物用のお財布

1つ目は取引需要です。動画の定義は、物を買うときに必要な、交換のための貨幣の需要、というものです。私たちは現金を食べるわけでも、現金で家を建てるわけでもありません。現金はあくまで、ほかの商品やサービスと交換するための媒体です。動画は「日々のお買い物用のお財布」というイメージで説明しています。生活の潤滑油として、現金が必要だという話です。

経済学の分析で大事なのは、この潤滑油の量が、国全体の経済規模とどう関係するかです。動画は、こんな問いを投げかけます。国全体が豊かになって、国民所得が増えたら、お買い物用のお財布の中身はどうなるでしょうか。

お給料が上がれば、おいしいものを食べたい、新しい車がほしいと、消費の意欲が増えます。消費の回数や規模が大きくなれば、その支払いのために手元に置くべき現金も多く必要になります。国民所得の増加が消費の増加を生み、取引の増加につながる、という流れです。そこで結論は、貨幣の取引需要は、国民所得の増加関数になります。

取引需要 L1国民所得 Y所得が少ない所得が多い右上がり(増加関数)
所得が増えれば買い物が増え、手元に置く現金も増えます。

増加関数と聞くと身構えますが、中身は単純です。Xが上がればYも上がる、という正の相関を表しているだけです。取引需要は経済活動の規模にほぼ機械的に決まります。聞き手はこれを、実体経済の摩擦を減らすための必要経費のようなものですね、と言い換え、講師も同意します。ここまでは直感的に理解できる部分です。

投機的需要(L2):なぜ利息ゼロの現金を選ぶのか

経済学の真骨頂は、もうひとつの需要、投機的需要の分析にある、と動画は言います。こちらは日々の買い物という視点を離れ、自分の資産をどんな形で持つかという、投資家としての選択の問題です。現金のような流動資産のまま持つか、それとも債券などの形で持つか。この二者択一がテーマになります。

ここで、動画は根本的な疑問をぶつけます。債券なら少なくとも利息がつくのに、現金は利息がゼロです。たとえ利回りが0.1%の債券でも、ゼロよりは大きいのだから、合理的な投資家は常に債券を選ぶべきではないか。現金のまま持つのは、タンス預金みたいでもったいないのではないか、という疑問です。

利回りが0.1%の債券でも、ゼロよりは大きいですよね。なぜわざわざ、利益を生まない現金のまま持つんですか。

それは理論の根幹をつく鋭い疑問ですね。選ぶ基準になるのは、いまの金利水準です。単にゼロより大きいかどうかではなく、機会費用や将来の価格変動のリスクも考える必要があります。

金利が十分に高いときは、話は簡単です。高い利息を受け取れる債券のほうが得なので、投資家は手元の現金を喜んで債券に替えます。その結果、流動資産として持っておきたい需要、つまり投機的需要は小さくなります。

問題は、金利がとても低いときです。債券を買っても、わずかな利息しか得られません。しかもそれだけではありません。低い金利で固定された債券に資産を縛りつけたあとで、世の中の金利が上がったらどうでしょう。もっと条件のよい投資先が現れても、乗り換えるための資金がありません。動画は、これが投資家にとって最大の機会損失だと説明します。だから金利が低いときは、あえて魅力の薄い債券に手を出さず、いつでも動かせる現金のまま待つ、という選択になります。

動画の言い方では、この現金は将来の投資に備える待機資金です。いつか金利が上がり、魅力的な投資機会が来たときに、すぐ動けるよう、いまは利息が得られなくても流動性を確保しておく。この、将来の投資のために持とうとする貨幣の需要こそが、投機的需要の正体です。聞き手は、チャンスが来たときにフルスイングするための、流動性というオプションのようなものだと言い換え、講師は「完璧な解釈」と応じます。

(補足:動画にない話です。債券の価格は、利子率と反対向きに動きます。金利が低いときに債券を買うと、あとで金利が上がったとき、債券の価格が下がって損をする(資本損失が出る)おそれがあります。ケインズ流の投機的需要では、将来の金利上昇を見込んで債券の値下がりを避けたい気持ちも、現金を持つ理由として説明されます。動画の「機会損失」の説明と合わせて、2つの見方があると押さえておくとよいでしょう。)

利子率が高い債券の利息が魅力的 → 債券に替える投機的需要は小さい利子率が低い債券の利息が小さい → 現金で待機投機的需要は大きい
シーソーのように、金利が上がれば現金の需要は下がります。

投機的需要は、利子率の減少関数

こうした投資家の行動を俯瞰すると、ひとつの法則が見えてきます。利子率が高いときは債券の魅力が上がるので、投機的需要は低くなります。逆に、利子率が低いときは将来に備えて、投機的需要は高くなります。動画では、ここで聞き手が「シーソーみたいな関係ですよね」と受けました。講師も、まさにそのイメージだと応じています。

金利というシーソーが上がれば債券の魅力が上がって、現金の需要は下がる。逆に金利が下がれば、現金の需要は跳ね上がる。そういうことですよね。

そのとおりです。だから試験用語では、貨幣の投機的需要は利子率の減少関数という表現になります。

利子率 r投機的需要 L2金利が高い:需要は小さい金利が低い:需要は大きい右下がり(減少関数)
金利というハードルが下がるほど、現金のまま待つ人がふえます。

減少関数も、増加関数と同じで、堅苦しい言葉の割に中身は単純です。利子率と投機的需要が、逆向きに動くことを言っているだけです。金利というハードルが下がるほど、いまは現金で待とうという需要が積み上がります。動画は、投機的需要イコール減少関数と文字列だけで暗記すると、少しひねられた問題でつまずくと注意しています。「いまの利回りか、それとも将来の機会のための流動性か」という投資家のジレンマの構造を理解していれば、どんな角度から問われても、自力で答えを組み立てられる、という考え方です。

(補足:動画にない話です。利子率がある水準まで下がると、人々は「利子率はやがて上がる(債券価格は下がる)」と考え、どれだけ貨幣が増えても債券を買わず、現金で持ちたがる、とされます。このとき貨幣需要は利子率の変化にきわめて敏感になり、グラフはほぼ水平になります。これを流動性のわなと呼びます。試験ではこの用語も問われますが、動画では扱われていません。)

貨幣供給が増えたら? ドミノ倒しの連鎖

ここまでで、国民所得の増加関数である取引需要L1と、利子率の減少関数である投機的需要L2という、貨幣需要の2本の柱が立ちました。次に動画は、システム全体に外から大きな変化を与えるとどうなるか、という検証に進みます。もし世の中の貨幣供給量が、ドバッと増えたら、利子率や投機的需要はどう変わるでしょうか。動画は、ドミノ倒しのような連鎖が起きると説明します。

貨幣供給量がふえる利子率が低下する債券を持つ魅力が下がる投機的需要がふえる
動画が「ドミノ倒し」にたとえた連鎖です。
  • 最初のドミノ:貨幣の供給量が増えて、市場に資金があふれる。モノの値段と同じで、供給が過剰になると、お金を借りるコストが下がり、利子率が低下する。
  • 2つ目:利子率が低下すると、いま発行されている債券の利回りが悪くなる。債券という形で資産を縛るメリットが薄れ、債券を持つ魅力が下がる。
  • 最後:魅力を失った資産を、投資家は将来の金利上昇や投資先に備え、いつでも動かせる現金のまま持とうとする。その結果、投機的需要が増える。

動画は、この一連の流れを、試験でもっとも問われやすい論理展開のひとつだと言います。「供給量が増えれば投機的需要が増える」という結果だけを丸暗記するのではなく、利子率の低下と債券の魅力の低下という、投資家のプロセスを通して理解することが大切だ、と講師は言います。聞き手は、理解の仕方で知識の定着や応用力が大きく変わると受けます。

(補足:動画にない話です。貨幣市場では、貨幣供給量と貨幣需要が一致するところで利子率が決まる、というのが標準的な整理です。この見方では、供給が増えると、需要がふえるところまで利子率が下がって、新しい均衡に落ち着きます。動画の「ドミノ倒し」は、その調整のプロセスを、投資家の心理に沿って物語にしたものだと考えてください。)

自作の数値例で確かめる

(補足:ここから先は、このページ用に作った設例です。動画の数字ではありません。)貨幣需要を、取引需要 L1=0.3×Y、投機的需要 L2=200−20×r(Yは国民所得、rは利子率で単位は%)とします。Y=1000、r=5のとき、L1=300、L2=100なので、貨幣需要は合計400です。

条件L1L2
Y=1000、r=5(基準)300100
Yが1100に増加330100
rが3に低下300140

国民所得が増えるとL1だけが増え、利子率が下がるとL2だけが増えます。それぞれの需要が、別々のものを引き金に動くことが数字で確かめられます。さらに、Yを1000のままにして貨幣供給量が400から450に増えたとすると、300+200−20r=450 から、r=2.5となります。このときL2は150です。供給の増加は、利子率の低下と投機的需要の増加を通じて、貨幣市場の均衡に落ち着くわけです。

あなたの現金は、どちら?

動画は、実務の話で締めくくります。企業がなぜいま現金を厚く持とうとしているのか。それは単なる取引のためなのか、それとも金利の動向を見すえた投機的需要なのか。そう考える洞察力が、将来、診断士として企業の財務戦略や資金繰りを分析するときにも役立つ、という見立てです。最後に、リスナーへの問いかけがあります。いま、あなたの銀行口座や財布にある現金は、近いうちに使うための取引需要でしょうか。それとも、低金利で定期預金や債券に固定する魅力がなく、よい投資の機会を静かに待っている投機的需要でしょうか。

こうして自分のお金を2つの需要に分けてみることが、知識をもっとも実践的に定着させる方法かもしれない、というのが動画のメッセージです。

動画が強調するポイント

  • 取引需要(L1)は国民所得の増加関数。所得が増えると、手元に置く現金も増える。
  • 投機的需要(L2)は利子率の減少関数。金利が低いほど、現金で待つ需要が増える。
  • 動画は、貨幣供給量の増加を、利子率の低下、債券の魅力の低下、投機的需要の増加の順に説明している。

まとめ

  • 貨幣需要は、使い道で2つに分ける。取引需要(L1)と投機的需要(L2)。
  • 取引需要は、買い物のための現金。国民所得が増えると増える(増加関数)。
  • 投機的需要は、将来の投資の機会に備える待機資金。利子率が低いほど増える(減少関数)。
  • 金利が高いと債券が魅力的になり、低いと乗り換えのための現金を持つ価値が高まる。
  • 貨幣供給量の増加は、利子率の低下、債券の魅力の低下を経て、投機的需要を増やすと動画は説明している。
  • 補足:L=L1+L2の整理、債券価格の値下がり(資本損失)の見方、流動性のわなは、動画にはない。
LISTEN

動画で聞く

NEXT

続けて読む