45度線分析
経済学・経済政策 第32回
動画は、政治家がニュースで声高にGDPの成長を語る場面から、GDPが増えるとは具体的に何が起きている状態なのか、と問いかけて始まります。このページでは動画の流れにそって、有効需要の原理、45度線分析、総需要の式、ケインズ型消費関数、均衡国民所得の導き方、限界消費性向がゼロに近づく思考実験をまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
GDPが増えるって、何が起きている状態?
ニュースで政治家が「我が国のGDPを成長させなければ」と声高に語る。動画は、この場面から始まります。では、GDPが増えるとは具体的に何が起きていることなのか。工場がたくさん建つことなのか、それとも私たちが毎日もっと買い物をすることなのか。動画は、この疑問から出発します。
今回のテーマは、経済学の最重要論点の1つである有効需要の原理と45度線分析です。数式とグラフが並ぶ分野ですが、動画は「耳で聞くだけで論理展開と数式の組み立てがすっきり分かる」ことを目標にしています。暗記ではなく、仕組みを理解して式を自力で導くのが狙いです。
GDPを決めるのは「需要」:有効需要の原理
動画は、結論から入ります。GDPを決めるのは需要、つまり世の中が財(物やサービス)を欲しがる力です。好景気のときは、企業が「もっと売れる」と期待して設備投資を増やします。消費者も「給料が上がりそうだ」と期待して買い換えたり消費を増やしたりします。消費や投資が増えると財の需要が増え、需要が増えればGDPは増加します。逆に不景気では財布のひもが固くなり、消費と投資が減って需要が減り、GDPも減ります。
ここで聞き手が、レストランにたとえました。講師は「まさにその通り」と受け、こんなに立派な厨房があっても注文が入らなければ売上はゼロだ、と補っています。
たとえ話:レストランの1日の売上
1日の売上(GDP)を決めるのは、厨房の広さやシェフの腕といった生産能力ではなく、お客さんがどれだけ注文してくれたかです。このように、財の需要の大小によってGDPの大小も決まるという経済の基本ルールを、動画は有効需要の原理と呼びます。
(補足:有効需要の原理は、経済学者ケインズが『雇用・利子および貨幣の一般理論』(1936年)で唱えたものとされます。動画はここを単純化して「GDPは需要で決まる」と言い切っていますが、一般には、生産能力に余裕があり、需要が足りないために生産が抑えられている短期の状況を想定した考え方だとされます。資料により説明は異なるので、試験では教材の前提に合わせて読んでください。)
(補足:ケインズ自身は、総需要関数と総供給関数が交わる点での総需要の値を「有効需要」と呼びました(『一般理論』第3章)。動画の「財の需要の大小でGDPが決まる」は、これを分かりやすく言い換えたものです。)
(補足:動画は「GDPは生産額に等しい」と言いますが、GDPは生産額そのものではなく、中間投入を除いた付加価値の合計です。ここでは、生産面・支出面から同じGDPを見ている(三面等価)と受け止めてください。)
45度線:総供給=GDPをグラフにしただけ
この原理を、数式とグラフで示すために考えられたのが45度線分析です。名前を聞くと身構えますが、動画は「経済を供給と需要の2つのパーツに分けて見ているだけ」と言います。
1つ目のパーツは、生産面から見たGDPです。これを財の総供給とよび、YS(Sはサプライ)と置きます。動画では、総供給YSはGDP(記号Y)に等しい、つまりYS=Yだと説明されます。縦軸にYS、横軸にYをとると、縦と横の値がいつも同じなので、原点から斜め上にぴったり45度の直線になります。これが45度線の名前の由来です。
縦と横の値がずっと同じということは、原点から45度の角度でまっすぐ線が引けるということですか?
その通りです。だから「45度線」と呼ばれます。斜めの線の正体は、総供給とGDPが等しいというルールをグラフにしただけなんです。
ここまでの内容を整理すると、総供給は「つくられたもの」の側、これから出てくる総需要は「使われたもの」の側からGDPを見たものです。この2つが一致するところで経済が落ち着く、というのが45度線分析の基本の発想になります。
2つ目のパーツ:総需要 YD=C+I+G
2つ目は、支出面から見たGDP、つまり財の総需要です。YD(Dはディマンド)と置きます。誰が何にお金を使ったか、という見方で、基本の式は次のとおりです。
YD=C+I+G+EX−IM
- C:消費
- I:投資
- G:政府支出
- EX:輸出、IM:輸入
聞き手は、いきなり輸出入まで入って変数が多すぎて頭がパンクしそうだ、と漏らしています。そこで講師が導入するのが、閉鎖経済という仮定です。
いきなり輸出や輸入まで入ってくると、変数が多すぎて頭がパンクしそうです。
安心してください。ここで検討を単純化するための魔法の仮定、閉鎖経済を導入します。外国との取引が一切ない世界を考えるんです。
外国と取引がなければ輸出入は0なので、EX−IMの部分は消え、総需要はYD=C+I+Gだけになります。動画は、本質だけを抜き出して考えるのが経済学のコツで、試験対策としても考えやすくなる、と説明しています。
消費を解剖する:ケインズ型消費関数
次に、いちばん身近な要素である消費Cを深掘りします。動画では、消費水準はケインズ型消費関数に依存するものとして考えます。絶対所得仮説とも呼ばれる考え方です。式は次のとおりです。
C=cY+C0
- C0(独立消費):所得とは関係なく、生きていくために最低限必要な消費。聞き手は、収入が0になっても削れない家賃や毎日の食品のようなものと言い換え、講師も同意します。(補足:教材によっては「基礎消費」と呼ぶこともあります。)
- cY:所得の増加に比例して増える消費。お給料が増えた分だけ少しぜいたくして外食に行く、というイメージです。
- c(限界消費性向):Yにかかる傾き。所得が増えたとき、その増えた分のうちどれだけを消費に回すかを表す数で、0から1の値をとります。
お給料が1万円上がって、そのうち8,000円を使う人なら、cは0.8になるということですか?
完璧です。その通りです。
もう1つ考えるべきことがあります。お給料は額面どおり全額使えるわけではなく、税金が引かれます。税金をTと置くと、実際に消費に回せるのは額面の所得Yから税金Tを引いた手取りのY−Tです。そこで消費の式は、手取りに限界消費性向をかけた形にアップデートされます。
C=c(Y−T)+C0
(補足:ここでの税Tは、所得の大きさに関係なく決まる一定の金額として扱う想定だとされます。投資IやGも、所得とは関係なく決まる一定の値として扱うのが通常です。動画はこの点にふれていませんが、式を導くうえでの前提です。)
ピースを組み合わせて、均衡国民所得を導く
いよいよパズルの完成です。経済が安定するポイント、つまり財市場の需要と供給が等しくなる点を考えます。動画では、このときのYをY*(ワイスター)と置き、均衡国民所得と呼びます。均衡では総供給と総需要が等しいので、YS=YDです。
総需要の式に、先ほどのリアルな消費の式を代入します。
YD=c(Y−T)+C0+I+G
均衡ではYS=YDで、そのときのYをY*と置くので、左辺の総供給はY*になり、右辺のYもY*になります。
Y*=c(Y*−T)+C0+I+G (式を展開する)→ Y*=cY*−cT+C0+I+G
知りたいのはY*なので、Y*のついた項を左辺に集めます。Y*−cY*を括弧でくくって、次のようになります。
(1−c)Y*=−cT+C0+I+G
最後に、両辺を(1−c)で割ります。
Y*=1/(1−c)×(−cT+C0+I+G)
(読み方:カッコの中の −cT+C0+I+G を、(1−c)で割ったものです。1/(1−c)は後で出てくる乗数にあたります。)
動画は、このたった1つの式の中に、税金、最低限の生活費、投資、政府支出がどう絡み合って国の豊かさ、つまりY*を決めるのかが詰まっている、と語ります。
導出を終えた動画は、数式をただの暗記ではなく意味のあるストーリーとして理解できれば、試験の数式問題も解けるようになりそうだ、とふり返ります。「暗記した式は忘れますが、自分で組み立てた論理は裏切りません」という言葉が、この回の合言葉です。式の中のどの記号がどの経済活動に対応するのかを、順に言葉にできるようにしておきましょう。
動画の導出の流れ(式の整理)
- YS=Y(総供給=GDP、45度線)
- YD=C+I+G(閉鎖経済)、C=c(Y−T)+C0
- 均衡:YS=YD → Y*=1/(1−c)×(−cT+C0+I+G)
数字で確かめてみる(補足:自作の設例)
動画にない数値例で、式の意味を確かめましょう。c=0.8、C0=20、I=30、G=40、T=30として、単位は兆円と置きます。
Y*=(−0.8×30+20+30+40)÷(1−0.8)=66÷0.2=330。
確かめてみましょう。手取りは330−30=300、消費は0.8×300+20=260です。これに投資30と政府支出40を足すと、260+30+40=330になり、総供給のY*と一致します。
グラフでは、総供給の45度線と、傾きcで縦軸の切片が66(=−0.8×30+20+30+40)の総需要の線が、Y*=330で交わります。
動画の宿題:限界消費性向が0に近づくと?
動画の最後は、リスナーへの思考実験でした。将来の不安からパニックになった人々が、限界消費性向cを極端に下げ、増えた収入を消費せず全部貯金に回したらどうなるか。cが0に近づくと、式の先頭にある分数1/(1−c)は、分母が1−0=1になり、1になってしまいます。
動画の指摘は、政府がいくら予算を使ってGを増やしても、式の先頭が1なら、経済への波及効果はまったく増幅されず、ただの1倍で終わる、ということです。個人の節約は家計にとって素晴らしいことでも、マクロ経済全体から見て本当に美徳といえるのか、という問いかけで話が締められています。
先ほどの設例で、cだけを変えて確かめてみます(C0=20、I=30、G=40、T=30は共通)。
| 限界消費性向 c | 1/(1−c) | 均衡国民所得 Y* |
|---|---|---|
| 0.8 | 5 | 330 |
| 0.5 | 2 | 150 |
| 0 | 1 | 90 |
(補足:動画にない話です。上の式から、Gが10増えるとY*は10÷(1−c)だけ増えます。c=0.8なら50、c=0のときは10です。このように、需要の変化が何倍にもなって国民所得に響く倍率を乗数と呼び、この1/(1−c)は政府支出の乗数にあたります。税については、Tが10増えるとY*は10×c÷(1−c)だけ減るので、c=0.8なら40の減少です。また、みんなが貯蓄を増やすとかえって国民所得が減り、全体の貯蓄も増えないという現象は、「倹約のパラドックス(貯蓄のパラドックス)」と呼ばれるとされます。この設例ではIを一定と置いているので、cが下がるとY*が小さくなります。)
まとめ
- 動画では、GDPは財の需要の大小で決まるとされ、これを有効需要の原理と呼ぶ。レストランの売上は注文の数が決める、というたとえで説明されていた。
- 45度線分析は、総供給YSと総需要YDの2つのパーツで考える。総供給YSはGDPのYに等しく、グラフにすると原点から45度の直線になる。
- 総需要は YD=C+I+G+EX−IM。閉鎖経済と仮定すると輸出入の項は消え、YD=C+I+Gになる。
- 消費はケインズ型消費関数(絶対所得仮説)で C=c(Y−T)+C0。C0は独立消費、cは限界消費性向(0から1)、Y−Tは手取り。
- 均衡ではYS=YD。代入して整理すると、均衡国民所得は Y*=1/(1−c)×(−cT+C0+I+G)。
- cが0に近づくと分数1/(1−c)は1に近づき、政府支出の波及効果は増幅されない。人々の心理(c)が変わるだけで、式の結果は大きく変わる。
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- 第28回 失業と効率賃金仮説経済学・経済政策・マクロ経済学 008
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