リカードの比較生産費説
経済学・経済政策 第48回
「経済学の学習を進める中で、数式や見慣れない専門用語の連続に、少し圧倒されていませんか」。動画はこんな問いかけから始まります。このページでは動画の流れにそって、絶対優位と比較優位の違い、特化すると全体の生産量が増える仕組み、現実とのずれをまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
いちばん優秀な国が、全部つくればいいのでは?
「経済学の勉強をしていると、数式や見慣れない専門用語が続いて、少し圧倒されていませんか」。動画はこんな問いかけから始まります。動画のやりとりでは、暗記しただけの知識は試験本番の少しのひねりで崩れてしまう、という言い換えも出ます。だから今回は丸暗記ではなく、「そういうことだったのか」と納得できるところまで、国際貿易の根っこの考え方を見ていきます。
取り上げるのは、リカードの比較生産費説です。動画の一言での説明は、「各国が自国の得意な財の生産に専念すると、全体としての生産量が拡大する」というものです。
(補足:リカードはイギリスの経済学者で、この考え方は1817年の著書『経済学および課税の原理』で示されたとされています。動画には出てきません。)
ところが、直感的には少し不思議に感じます。動画でも、すべてを一番効率よくつくれる優秀な国が、全部を独占したほうがいいのではないか、という疑問が出ます。動画はこれを「自然な発想」と受け止めたうえで、この理論は一見直感に反するけれど、とても美しい論理構造を持っている、と進めていきます。
何でも一番効率よくつくれる国が、全部自分でやったほうが豊かになる気がします。他の国に頼らなくて済みますし。
それは自然な発想です。でも、絶対的な数字だけで見ると、世界全体が豊かになるチャンスを見落としてしまうんです。
まずは世界をとことん単純にする
理論の骨格をつかむために、動画は現実の複雑さをいったん脇に置きます。置かれる仮定は3つです。
- 世界には中国と米国の2か国しかない。
- 取引されるのは自動車と小麦の2種類だけ。
- 生産に必要な生産要素は労働力のみ。
動画のやりとりでは、聞き手がこれを極端に単純化されたモデルだと言い換え、講師は、この単純化こそが物事の真理を見抜く第一歩になる、と応じます。
(補足:このモデルでは、ほかに「輸送費はかからない」「労働は国の中では自由に動けるが、国どうしでは動かない」といった前提が置かれることが多いとされます。書き方は資料によって異なります。)
絶対優位と絶対劣位:まずは単純に比べる
次に、数字が出てきます。動画によると、自動車を1単位つくるのに必要な労働も、小麦を1単位つくるのに必要な労働も、米国のほうが中国より少なくて済みます。このように、単純に生産性を比べて、生産性が高いほうを絶対優位、低いほうを絶対劣位といいます。この例では、米国は自動車でも小麦でも、中国に対して絶対優位です。
(補足:動画では「1単位つくるのに必要な労働」の具体的な数字は読み上げられていません。あとで出てくる「合わせて10」「合わせて2」「4分の1」などから逆算すると、下の表のようになります。以降の計算は、この数字を使っています。)
| 国 | 自動車1単位 | 小麦1単位 |
|---|---|---|
| 中国 | 労働 8 | 労働 2 |
| 米国 | 労働 1 | 労働 1 |
こうして見ると、米国はどちらの財も少ない労働でつくれるので、「米国は中国と貿易する意味があるのか」と思えてきます。ここまでは先ほどの直感のとおりです。動画は、ここから相対的に見た得意・不得意、つまり比較優位の見方に切り替えます。
比較優位:何を「1」にそろえるかがカギ
各製品の得意・不得意を調べるために、動画は各製品をつくるのに必要な生産要素の量で比べる、という方法をとります。具体的には、まず自動車の労働量を1にそろえます。
- 中国:自動車1に対して、小麦は1/4の労働で済む。
- 米国:自動車1に対して、小麦も1の労働が必要(自動車と同じ)。
米国のほうが絶対的な生産性は高いのに、相対的に見ると、小麦は中国のほうが得意です。これを、中国は小麦に比較優位を持つ、と表現します。
今度は逆に、小麦の労働量を1にそろえます。
- 中国:小麦1に対して、自動車は4倍の労働が必要。
- 米国:小麦1に対して、自動車も1で済む(小麦と同じ)。
こちらから見ると、自動車は米国のほうが相対的に得意です。つまり、米国は自動車に比較優位を持ちます。動画では、お互いに必ず何かしらの比較優位を持つことを、聞き手が「なんだか面白い」と語ります。これが、現実の国際貿易を根底で支えている論理だ、というのが動画の説明です。
(補足:ここで出てきた「小麦は自動車の1/4」という比は、経済学では機会費用、つまり、ある財を1つつくるために、あきらめる別の財の量という形でも言い換えられます。中国は、自動車1台をあきらめれば小麦を4単位つくれる(労働8÷2)、と見ることもできます。なお、2か国の比がまったく同じ場合は、どちらにも比較優位が生まれません。「必ず何かしら持つ」は、比が違うときの話です。)
(補足:機会費用で並べ直すと、小麦1単位をつくるためにあきらめる自動車は、中国が1/4台(2÷8)、米国が1台(1÷1)。自動車1台をあきらめて得られる小麦は、中国が4単位、米国が1単位です。機会費用は小麦では中国が小さく、自動車では米国が小さいので、中国は小麦、米国は自動車に比較優位があります。機会費用が小さいほうが比較優位を持つ、と覚えてください。)
少し言い換えてみます。比較優位は、「相手の国と比べて、自分の国の中でどちらが得意か」を見る考え方です。中国は、自動車でも小麦でも米国に生産性で負けています。それでも、自国の中で見ると、小麦は自動車に比べて軽い負担でつくれます。一方の米国は、自国の中で見ると、小麦と自動車のどちらも同じ負担です。そのため、相手と見比べたときに「自動車のほうが相対的に有利」と言えるのです。ここが、絶対優位だけを見ていると見落としてしまう点でした。
数字を使って確かめる手順も整理しておきます。動画の流れを手順にまとめると、①ひとつの財の労働量を1にそろえる、②もう一方の財の労働量を2か国で見比べる、③少ないほうが、その財に比較優位を持つ、となります。そろえる財を自動車から小麦に変えて、もう一度②③をくり返すと、もう一方の国の得意な財が出てきます。
具体的には、どう計算するんでしょうか?
まず自動車をつくる労働力を1にそろえてみましょう。そうすると中国では、小麦は自動車の1/4の労働で済みます。
特化すると、4単位が7単位になる
いよいよ「魔法のような結末」です。動画は、両国が比較優位を持つ財に労働力を特化させたら何が起きるかを、数字で追います。
特化する前は、各国が両方の財をつくっています。各製品を1単位ずつ生産すると、中国で自動車1と小麦1、米国で自動車1と小麦1。両国合わせて4単位です。
特化した後は、中国は小麦だけ、米国は自動車だけをつくります。
- 中国は、自動車1単位と小麦1単位をつくるのに使っていた労働力、合わせて10を、すべて小麦に注ぎます。小麦が5単位つくれます。
- 米国は、自動車1単位と小麦1単位をつくるのに使っていた労働力、合わせて2を、すべて自動車に注ぎます。自動車が2単位つくれます。
分業後の合計は、中国の小麦5と米国の自動車2で7単位。元の4単位から、3単位も生産量が増えています。
ここで大事なのは、資源や労働力は一切増えていないことです。誰が何をつくるかという役割分担を変えただけで、全体のパイが大きくなりました。動画は、強い国が全部つくればいいという直感がいかに全体を見誤っているかがはっきり分かる、と動画は言います。中小企業診断士試験の学習では、単なる暗記ではなく、この数字の動きと論理を頭の中でイメージできることが武器になる、と聞き手が受け、講師も同意します。
(補足:「自動車と小麦を足して7単位」と聞くと、種類の違うものを足していて変だと感じるかもしれません。実際には、特化前は自動車2・小麦2、特化後は自動車2・小麦5です。自動車の数は同じまま、小麦だけが3単位増えています。ですから、合計が増えたという結論は、足し算の見かけだけの話ではありません。)
数字をもう一度(動画の数字から逆算)
- 特化前:中国は労働10で車1+小麦1。米国は労働2で車1+小麦1。
- 特化後:中国は労働10をすべて小麦へ(10÷2=5単位)。米国は労働2をすべて自動車へ(2÷1=2単位)。
- 世界全体では、車2+小麦2から、車2+小麦5へ。
補足:貿易が成り立つのは、どんな交換比率のとき?
ここからは動画にない補足です。特化しただけでは、中国には小麦しかなく、米国には自動車しかありません。実際に豊かになるには、両国が貿易で交換する必要があります。動画も「比較優位を持つ財を輸出し、比較劣位の財を輸入する」と説明しています。
では、どんな比率で交換すれば、両国が得をするのでしょうか。先ほどの数字で考えます。米国の国内では、自動車1台は小麦1単位とつり合っています(労働が同じ)。中国の国内では、自動車1台は小麦4単位とつり合っています(労働8と2)。
そこで、自動車1台を小麦2単位と交換するとします。米国は自動車2台のうち1台を輸出して小麦2単位を得るので、手元は自動車1・小麦2。特化前は自動車1・小麦1でしたから、小麦が1単位増えました。中国は小麦5単位のうち2単位を出して自動車1台を得るので、手元は自動車1・小麦3。特化前の自動車1・小麦1より、小麦が2単位増えました。どちらも得をしています。
このように、自動車1台と交換される小麦の量が、1と4の間にあれば、どちらの国も特化前より豊かになれます。1より小さければ米国が、4より大きければ中国が、貿易しないほうがましになってしまうからです。ただし、この範囲のどこに決まるかは、このモデルだけでは決まりません。
モデルは単純化。現実はもっと複雑
最後に、動画は1つの重要な疑問を投げかけます。今回のモデルは、生産要素を労働力だけに単純化しました。しかし現実の世界では、資本や技術力といった要素が複雑に絡み合っています。もし資本やテクノロジーが時間とともに劇的に進化したら、国の比較優位は永遠に固定されたものなのか、それともダイナミックに変化し続けるものなのか。
動画は、この問いにあえて答えを出さず、テキストの枠組みを超えて、ぜひ自分で深く考えてみてほしい、と呼びかけて終わります。
(補足:リカードのモデルでは、各国の生産の条件は決まったものとして置かれています。技術や資本の蓄積で条件が変われば、比較優位が変わることもありうるとされています。ただ、動画はこの点に答えを出していないので、ここでは考え方のヒントにとどめます。)
まとめ
動画の要点
- リカードの比較生産費説は、各国が自国の得意な財の生産に専念すると、全体としての生産量が拡大する、という考え方(動画の説明)。
- モデルの仮定は、2か国(中国と米国)・2財(自動車と小麦)・生産要素は労働力のみ。
- 単純な生産性の比較が絶対優位・絶対劣位。この例では米国が両方の財で絶対優位。
- 相対的な得意・不得意で見るのが比較優位。自動車を1にそろえると中国の小麦は1/4、小麦を1にそろえると中国の自動車は4倍。だから中国は小麦、米国は自動車に比較優位。
- 特化すると、合計は4単位から7単位に増える。資源や労働力は増えていない。
- 現実には資本や技術も関わる。比較優位が固定か変化するかは、動画が視聴者に残した問い。
動画の流れは、「強い国が全部つくればいい」という直感から出発し、数字で「分業のほうが全体が豊かになる」ことを確かめるものでした。まず動画を聞いてから、このページの表と図で、数字の動きをもう一度なぞってみてください。自分で「何を1にそろえるか」を変えて計算してみると、比較優位の見分け方が身につきます。
動画で聞く
続けて読む
- 第43回 ISバランスとアブソープション経済学・経済政策・マクロ経済学 023
- 第44回 AD曲線の右下がりと垂直のメカニズム経済学・経済政策・マクロ経済学 024
- 第45回 AS曲線の基本 古典派とケインズ学派の違い経済学・経済政策・マクロ経済学 025
- 第46回 AD-AS分析の攻略ポイント経済学・経済政策・マクロ経済学 026
- 第47回 時事系問題の要点経済学・経済政策・マクロ経済学 027
- 第49回 自由貿易と関税の余剰分析経済学・経済政策・国際経済学 002
- 第50回 為替レート経済学・経済政策・国際経済学 003
- 第51回 国際収支と財政経済学・経済政策・国際経済学 004
- 第52回 マンデル・フレミングモデル経済学・経済政策・国際経済学 005
- 第53回 マンデル・フレミングモデルの政策効果経済学・経済政策・国際経済学 006
- 経済学・経済政策のWebテキスト一覧同じ科目の53本を一覧・検索
- 中小企業診断士 1次の講座トップ科目別プレイリスト・人気の講義・ファイナルペーパー

