HHI指数で市場集中度を3分で攻略できる
企業経営理論 第34回
「今日のテーマなんですけど、ちょっと名前が長いんですよね。ハーフィンダール・ハーシュマン指数についてです」。動画はこんな切り出しから始まります。このページでは動画の流れにそって、この指数が何を測るのか、計算のルール、2つの業界での計算例、なぜ2乗するのか、そして最後の問いまでをまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
名前は大げさでも、中身はシンプル
動画は、通勤電車の中や隙間時間に耳で学んでもらう、という呼びかけで始まります。今日のテーマは、名前が長くていかにも難しそうな響きのハーフィンダール・ハーシュマン指数。聞き手も、言葉の響きだけで身構えてしまう、と本音を漏らします。
講師は、名前は仰々しいけれど、概念はすごくシンプルだと答えます。この指数は、ズバリ企業の集中度を表す指標です。ある市場で、どれくらい少数の企業にシェアが偏っているか、つまり集中しているかを見るものです。英語名のHerfindahl-Hirschman Indexの頭文字をとって、HHI(エイチエイチアイ)と略されます。試験や実務では、この略称で出てくることも多いので、あわせて覚えておきましょう。
(補足:動画にない話です。名前は、2人の経済学者に由来します。ハーシュマンが1945年の著書で、貿易の偏りを測る指標として示し、ハーフィンダールが1950年の博士論文(鉄鋼業の集中度)で産業の集中度の指標として独自に提案した、と説明されています。同じ形の指標を別々に考案した2人の名前がつながって呼ばれているわけです。細かい経緯は資料によって説明が少し異なります。)
計算ルールは「シェアを2乗して足し合わせる」
では、どうやって計算するのか。講師の答えは、これもルールは至ってシンプルで、各企業の市場シェアを2乗して、足し合わせる、これだけです。
公式
- HHI = (A社のシェア)² + (B社のシェア)² + (C社のシェア)² + …(市場にいる全企業について足す)
「そのまま足すだけ」ではだめな理由
聞き手は、ここで鋭い疑問を口にします。各社のシェアをそのまま足すだけなら、どんな業界でも合計は必ず100%、つまり1になってしまう。それなのに、あえて2乗するのは、何か大きな意味があるのでは、と。
講師は、そこに気づくのは素晴らしい、と応じます。ただ足すだけでは見えない力関係を炙り出すために、2乗するのです。少数の企業が市場を占めている、いわゆる独占度の高い状態では、この指数の値はぐっと高くなります。逆に、多くの企業がひしめいているような状態では、値は低くなります。
ただ足すだけなら、どの業界も合計は100%ですよね。それでは業界ごとの違いが出ません。
そのとおりです。2乗するからこそ、シェアの偏りが数字の差として見えてくるんです。
甲業界で計算してみる(3社に分散)
動画では、2つの業界で実際に計算します。まずは甲業界。A社が50%(0.5)、B社が30%(0.3)、C社が20%(0.2)のシェアを持っているとします。複数の企業にシェアが分散している状態です。トップのA社が半分を持っていますが、B社とC社もしっかりシェアを持っています。
- A社:0.5の2乗=0.5×0.5=0.25
- B社:0.3の2乗=0.3×0.3=0.09
- C社:0.2の2乗=0.2×0.2=0.04
これらをすべて足し合わせると、0.25+0.09+0.04=0.38。この0.38が、複数の企業にシェアが分散している甲業界の指数の目安になります。
乙業界で計算してみる(1社が突出)
次は、まったく違うパターンの乙業界です。D社が80%(0.8)、E社が残りの20%(0.2)を持っているとします。D社だけで80%と、かなり固まっています。
- D社:0.8の2乗=0.8×0.8=0.64(八八64)
- E社:0.2の2乗=0.2×0.2=0.04
足し合わせると、0.64+0.04=0.68。乙業界の指数は0.68になりました。
2つを比べると何が見えるか
ここで、甲業界の0.38と乙業界の0.68を比べてみます。聞き手は、市場全体のパイの大きさはどちらも100%で同じなのに、指数にすると乙業界のほうが圧倒的に高い、と驚きます。D社という1社で80%を占める、つまり独占度が高い業界のほうが、見事に数値が高くなったのです。
たとえるなら:クラスの発言量
10人のクラスで、全員が少しずつ発言する授業と、1人の生徒が授業のほとんどをしゃべり続ける授業を思い浮かべてください。どちらも「授業時間は同じ」ですが、後者は誰かの声に支配されています。HHIは、その「支配の度合い」を数字にする道具です。
なぜ2乗すると独占状態がはっきり出るのか
聞き手は、ここで納得の感想を述べます。シェアの大きい数字、たとえば0.8を2乗すると0.64になって、その影響力が一気に跳ね上がる。だからこそ独占状態が数値として如実に現れる。ただの計算式ではなくて、ビジネスのリアルな力関係を表している、と。
講師も、大きなシェアを持つ企業の存在感が、この2乗という計算によって浮き彫りになる、と説明します。逆に、シェアの小さい企業を2乗しても、全体に与える影響は微々たるものにしかなりません。E社の20%は、2乗してもたったの0.04です。
数字で確かめる:合計の何割を誰が稼いでいるか
(補足:動画にない話です。2乗の効き方を、割合で確かめてみます。)
- 甲業界(合計0.38):A社の0.25は合計の約66%、B社の0.09は約24%、C社の0.04は約10%。A社のシェアは50%なのに、指数への寄与は約66%に膨らんでいます。
- 乙業界(合計0.68):D社の0.64は合計の約94%、E社の0.04は約6%。シェア80%のD社が、指数のほとんどを決めています。
このように、大きなシェアを持つ企業ほど、指数に占める影響が、シェア以上に大きくなる。これが2乗の効果です。小さい企業が何社増えても、指数はほとんど動きません。だからHHIは、「トップ企業の支配力がどれくらいか」に敏感な指標だといえます。
シェアが動いたとき、指数はどう動くか
(補足:動画にない話です。甲業界の数字を少し動かして、2乗の効き方をもう一度確かめます。)
- 小さな会社が分かれた場合:C社(20%)が、10%ずつの2社に分かれたとします。シェアは50%・30%・10%・10%で、HHI=0.25+0.09+0.01+0.01=0.36。企業の数が1社増えたのに、0.38からわずか0.02しか下がりません。
- 最大手が伸びた場合:A社が60%に伸び、B社とC社が20%ずつになったとします。HHI=0.36+0.04+0.04=0.44。A社が10ポイント伸びただけで、0.38から0.06も上がりました。
このように、HHIは企業の数が増えたかどうかよりも、大きな企業のシェアがどう動いたかに敏感に反応します。業界の競争の度合いを見るときに、「何社いるか」だけでなく「どう分け合っているか」を見る必要がある、という考え方につながります。
ごく大まかにいえば、HHIが小さい市場は多数の企業が競い合う競争的な市場に、大きい市場は少数の企業が力を持つ寡占や独占に近い市場にあたります。業界構造を考えるときの、数字による手がかりの1つです。
試験ではここに注目
- HHI=各企業の市場シェアを2乗して合計したもの(2乗の和)。ただ足す(合計100%)のとは違う
- 独占度が高い(少数企業に偏る)ほど値は大きく、多くの企業に分散しているほど値は小さい
- シェアの大きい企業の影響が、2乗によって増幅される
- 試験では、シェアを与えられて実際に2乗して足す計算が問われやすい。八八64、五五25などの九九を落ち着いて
値の範囲と読み方
(補足:ここからしばらくは、動画にない話です。ただし、動画の最後の問いにつながります。)
最小値と最大値
HHIが取りうる値の範囲は、シェアを小数(全体=1)で表すなら、0に近い値から1.0までです。
- 最大値は1.0:1社が100%(1.0)を占めれば、1.0の2乗で1.0。これ以上は上がりません。
- 最小になるのは、全企業のシェアが等しいとき:企業数をn社とすると、1/nの2乗をn回足して、HHI=1/nになります。10社が10%ずつなら0.1、100社が1%ずつなら0.01、2社が半々なら0.5です。
つまり、同じ企業数なら、シェアがそろっているほど小さく、偏るほど大きくなります。また、企業が増えて均等に分かれるほど、指数は0に近づきます。
%で表すと0〜10,000になる
シェアを「0.5」ではなく「50%」の数字のまま2乗する流儀もあります。この場合、甲業界は50²+30²+20²=2,500+900+400=3,800、乙業界は80²+20²=6,400+400=6,800、1社独占は100²=10,000。小数で計算した値の1万倍になります。
公正取引委員会の企業結合に関する運用指針では、HHIは「当該一定の取引分野における各事業者の市場シェアの2乗の総和」で算出し、市場シェアは百分比(%)で表すとされています。つまり実務では、0〜10,000のスケールが使われます。試験で「0.38」と「3,800」のどちらで出ても読み替えられるように、2通りの書き方があると知っておくと安心です。問題文のシェアの単位(小数か%か)をよく確認しましょう。
「実質何社の市場か」を表す見方
(補足:考え方の1つです。試験で直接問われる論点ではありません。)HHIの逆数をとると、「同じ規模の企業が何社いる市場に相当するか」の目安になる、という見方があります。実効企業数などと呼ばれることがあります。甲業界は1÷0.38=約2.6社分、乙業界は1÷0.68=約1.5社分。3社いる甲業界も、実質的には2.6社程度の競争、2社いる乙業界は1.5社程度の競争、というイメージです。
上位集中度との違い
(補足:動画にない話です。市場の集中度を測る指標には、HHIのほかに上位集中度(累積集中度)があります。上位3社のシェアの合計を「CR3」、上位5社なら「CR5」のように表すもので、単純な足し算です。)
CRは、上位の企業が全体のどれくらいを占めるかが、ひと目でわかる反面、上位の中の内訳がわかりません。次の例で比べてみましょう。
- X市場:40%・30%・30%の3社だけ。CR3=100%、HHI=0.16+0.09+0.09=0.34
- Y市場:80%・10%・10%の3社だけ。CR3=100%、HHI=0.64+0.01+0.01=0.66
CR3はどちらも100%で区別がつきませんが、HHIなら、Y市場のほうがずっと偏っているとわかります。HHIは市場にいる全企業のシェアを使い、しかも偏りを強調するので、CRよりも市場構造をきめ細かく表せる、というのが一般的な整理です。
試験ではここに注目
- HHIは、全企業のシェアを使って集中度を測る(上位◯社だけの合計ではない)
- 最大値は1社独占の1.0(%表記なら10,000)。同じ企業数ならシェアが均等なときに最小(1/n)
- 小数で計算するか、%で計算するかで数字の桁が変わる(0.38と3,800は同じ内容)
HHIが実務で使われる場面:合併の審査
(補足:動画にない話です。)HHIは、試験の外でも使われています。代表的なのが、企業の合併など企業結合が競争に与える影響を調べる場面です。独占禁止法にもとづいて公正取引委員会が公表している「企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針」では、同じ市場で競争している会社同士が一緒になる水平型企業結合について、HHIを物差しにして審査の目安を示しています。
合併するとHHIはどう変わるか
2社が合併すると、2社のシェアが1つの会社のシェアになるので、HHIは必ず上がります。上がる幅をHHIの増分といいます。同じ運用指針には、当事会社が2社の場合、増分は両社のシェア(%)を掛け合わせて2倍した値で計算できる、とあります。
動画の甲業界でやってみましょう。A社(50%)とB社(30%)が合併すると、80%の会社とC社(20%)の2社になり、動画の乙業界とまったく同じ形になります。HHIは0.38から0.68へ。増分は、2×0.5×0.3=0.30(%表記なら2×50×30=3,000)で、0.68-0.38=0.30と一致します。
審査の目安になる数値(水平型企業結合)
運用指針では、次のいずれかにあたる場合は、水平型企業結合が競争を実質的に制限することとなるとは通常考えられない、としています(%表記のHHI)。
- 企業結合後のHHIが1,500以下
- 企業結合後のHHIが1,500超2,500以下で、かつ、HHIの増分が250以下
- 企業結合後のHHIが2,500超で、かつ、HHIの増分が150以下
これらにあたらなくても、ただちに競争を実質的に制限するものではなく、個々の事案ごとに判断される、という点が大切です。なお、同じ運用指針には、過去の事例に照らして、企業結合後のHHIが2,500以下で、当事会社グループの市場シェアが35%以下なら、競争を実質的に制限するおそれは小さいと通常考えられる、という説明もあります。
たとえば、10社が10%ずつの市場(HHI=1,000)で2社が合併すると、HHIは8×10²+20²=1,200になり、1,500以下です。増分は2×10×10=200で、1,200=1,000+200と合います。一方、先ほどの甲業界でAとBが合併するケースは、合併後のHHIが6,800で2,500超、増分も3,000と150を大きく超えるので、これらの目安にはあたらず、慎重な審査が必要になります。
(補足:米国の競争当局の合併ガイドラインにも、HHIを使った目安があります。2023年改定版では、合併後のHHIが1,800を超え、増分が100を超える場合に、競争を損なうおそれが推定される、と紹介されています。日本の試験では日本の運用指針の話が基本なので、あくまで参考として。なお、数値を扱う指針は改定されることがあります。受験時点の最新の内容は、公正取引委員会などの公表資料で確認してください。)
試験ではここに注目(補足の範囲)
- HHIは企業結合の審査などでも使われる実務の指標。合併すると必ず上がる
- 2社合併の増分=2×(A社のシェア)×(B社のシェア)
- 日本の運用指針の目安は、1,500以下/1,500超2,500以下で増分250以下/2,500超で増分150以下(%表記)
動画の最後の問い:1社が独占したらHHIはいくつ?
動画のしめくくりでは、講師が「思考の種」としてリスナーに問いかけます。今日学んだ、2乗して足すというルールを応用して、少し極端なケースを想像してみてください。もしある業界が、たった1つの企業に100%、つまり1.0のシェアで完全に独占されていたら、そのときのHHIはいくつになるでしょうか。
聞き手は、1.0の2乗はパッと答えが出る方も多いのでは、と言い添え、リスナーに自分の頭で考えてもらうよう促して、動画は終わります。答えを確認しましょう。
答え
- 1.0の2乗=1.0×1.0=1.0(%表記なら100²=10,000)
- これがHHIの最大値。1社がすべてを占める完全な独占の状態を表す
動画も、この答えが指数の持つ意味をさらに深く教えてくれるはずだ、と話しています。HHIは、1社独占のとき最大の1.0、企業が増えて均等に分かれるほど0に近づく指標、と覚えておけば、甲業界の0.38や乙業界の0.68が、目盛りのどのあたりかも想像できるようになります。
押さえ方のまとめ
動画の結論は、HHI(ハーフィンダール・ハーシュマン指数)は各社の市場シェアの2乗の和であり、特定の企業にシェアが偏っている(独占度が高い)状態ほど値は大きく、複数の企業に分散しているほど値は小さい、というものです。講師は「この原則をしっかり押さえておけば大丈夫」と言います。
通勤中や隙間時間の学習には、今日計算した2つの数字を、イメージとセットで頭に焼きつけておくのがおすすめです。具体的なイメージと一緒に記憶すると定着しやすい、と動画も話しています。
- 甲業界(50%・30%・20%)=0.38:複数の企業に分散した状態
- 乙業界(80%・20%)=0.68:独占に近い状態
- 1社が100%=1.0:完全な独占(最大値)
(補足:計算ミスを防ぐコツです。①まず「全社のシェアの合計が100%になっているか」を確認する。②2乗は、小数の場合は桁に注意する(0.3の2乗は0.9ではなく0.09)。③最後に「偏りが大きいほど大きな値になる」という方向を確認する。出した答えが、直感と逆の向きになっていたら、どこかで計算を間違えている可能性が高いです。)
この講義の試験対策チェックリスト
- HHIが何を測る指標か(市場の集中度・独占度)を説明できる
- 公式「各企業の市場シェアを2乗して足す」で、与えられたシェアからHHIを計算できる
- ただ足すのではなく2乗する理由(大きなシェアを持つ企業の影響が増幅され、力関係が見える)を説明できる
- 甲業界(0.38)と乙業界(0.68)の比較から、独占度が高いほど値が大きいことを説明できる
- 1社独占のときのHHIが最大の1.0(%表記なら10,000)であることを答えられる
- (補足)HHIがCR(上位集中度)と何が違うか、合併でHHIがどう変わるかを説明できる
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