LMX理論と変革型リーダーシップが5分でわかる
企業経営理論 第38回
「昨日までの大正解が、今日は会社をあっさりと倒産させるかもしれない。もしあなたが、そんな正解のない時代のリーダーだとしたら、どうやって組織の舵を取りますか」。動画はこんな問いかけから始まります。このページでは動画の流れにそって、変革的リーダーシップの4つの能力と、リーダーとメンバーの関係性に注目するLMX理論(外集団と内集団)をまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
昨日の大正解が、今日の倒産原因になる時代
「昨日までの大正解が、今日は会社をあっさりと倒産させるかもしれない。もしあなたが、そんな正解のない時代のリーダーだとしたら、どうやって組織の舵を取りますか」。動画は、こんな少しシビアな問いかけから始まります。
動画の狙いは、用語を機械的に暗記することではありません。この理論が、なぜ現代のビジネスで不可欠なのか。その背景にあるメカニズムまで理解すれば、試験でも、将来コンサルタントとして現場に出たときにも使える「生きた知識」になる、という立場です。
取り上げるのは、近年のリーダーシップ理論の、次の2本の柱です。
- 変革的リーダーシップ:リーダー個人に求められる能力の話。管理能力と変革能力の両立と、4つの能力。
- LMX理論:リーダーとメンバーの関係性の話。1対1の関係を、外集団と内集団で整理する。
一見ちがう角度から組織を見ているようですが、動画の終盤で、この2つが密接につながっていることが分かります。順番に見ていきましょう。
変革的リーダーシップ:管理能力と変革能力の両立
まずは変革的リーダーシップです。動画は、その基本の定義を次のように説明します。リーダーには、これまでの従来の管理能力だけでなく、変化に対応するための変革能力も必要で、この2つの両立が求められる、という考え方です。
(補足:動画にない話です。この「管理能力と変革能力の両立」を主張したのは、ハーバード・ビジネススクール元教授のジョン・コッターとされます。コッターは、マネジメントは「複雑さへの対処」、リーダーシップは「変化への対処」だと整理しました。1990年前後の著作で広まった考え方です。この整理は、ビジネススクールの解説などで、現代の経営者には複雑さに対応する管理能力と、変化に対応する変革能力の両方が必要だ、と説明されています。)
ここで聞き手は、すぐに疑問を挟みます。「両立ですか? むしろ足かせになりませんか。思い切って古い管理体制を捨て去らないと、本当の変革なんてできない気がします」。
思い切って古い管理体制を捨てないと、本当の変革はできないのでは?
古い枠組みを壊すことは、変革の一部ではあります。しかし、組織の基盤となる管理そのものを完全に放棄すると、変革を成し遂げる前に、組織自体が崩壊してしまいます。
船のたとえで考える
航海の規律と、新大陸への挑戦
動画は、船の運航にたとえます。決められたスケジュールどおり、無駄なく安全に航海を進める。燃料を正確に計算し、乗組員のシフトを滞りなく回し、規律を厳格に守る。これが管理能力、つまり日常のオペレーションです。
ところが、経験したことのない嵐に巻き込まれたり、全く新しい大陸をめざして未開の航路を開拓したりするときは、ルールを守るだけではどうにもなりません。現状を打破して、新しい道筋をつくる力が必要です。これが変革能力です。
船長が「新大陸へ行くぞ」と変革能力だけを発揮し、燃料の計算や船員の健康管理といった管理を無視したら、どうなるでしょうか。新大陸に着く前に、嵐のど真ん中で燃料が尽きるか、船員が反乱を起こして船が機能しなくなってしまいます。
日常の業務を確実に回して、組織の土台となる安定を保つ。同時に、現状を壊して新しい航路へ舵を切る。一見すると相反するこの2つの力を、同時にもつことは極めて難しく、そのうえ絶対に欠かせない、と動画は言います。強固な管理という土台があってこそ、思い切った変革に挑める、というわけです。
変革的リーダーに求められる4つの能力
では、この難しい両立を実現して、組織に変革を起こすために、リーダーにはどんな力が必要でしょうか。動画によれば、変革的リーダーには大きく分けて4つの能力が求められます。この4つはバラバラに存在するのではなく、明確なプロセスとして順番に働きます。
| 能力 | 中身 | 船のたとえ |
|---|---|---|
| ① 変革設計 | 魅力的なビジ | 誰もがワクワ |
| ② 変革共有 | ビジョンを言 | なぜ新大陸を |
| ③ コーチン | 変革の実現に | 新しい航海術 |
| ④ 動機付け | 変革の実現に | 困難にぶつか |
前半の2つ、変革設計と変革共有コミュニケーションは、いわば変革のための準備段階です。ビジョンを描き、それを言葉にして伝える。ただ、素晴らしいビジョンを頭の中で描いて、熱く語ってチームが盛り上がったとしても、それだけでは船は1ミリも進みません。掛け声だけでは進まないのです。
そこで、実行に移すための後半の行動フェーズに入ります。3つ目のコーチングと、4つ目の動機付けです。
(補足:動画にない話です。この4つは、コッターの変革リーダーシップの枠組みとして、ビジネススクールの用語解説などで紹介されています。名称は資料により「変革ビジョン設計」「動機づけ」などと表記が少し違います。また、「変革型リーダーシップ」という同じような名前の理論には、バーンズやバスの理論もあります。下の囲みで違いを整理します。)
コーチングと動機付けは、なぜセットなのか
後半の2つについて、動画は聞き手と講師が掘り下げます。コーチングは、新しい航海術や未知の危機への対処方法を教える、部下への技術的な支援。動機付けは、部下への心理的な支援。技術と心理の対比です。では、なぜこの両方が絶対に必要なのでしょうか。動画は、ここがこの理論が機能するための核心部分だと言います。
仮に、心理的な支援の動機付けだけが完璧だったとしましょう。乗組員は「絶対に新大陸を見つけるぞ」とやる気に満ちあふれています。
やる気は十分ですね。でも、新しい船の操縦技術を教えるコーチングが全くなかったらどうなりますか。
やる気満々の素人が、船をフルスピードで岩礁に激突させるようなものです。大惨事ですね。モチベーションというエンジンだけがあっても、ハンドル操作ができなければ、確実に遭難してしまいます。
逆にコーチングだけで、最新の操縦技術を完璧に教え込まれていても、心理的な動機付けがなかったら?
「なぜこの過酷な航海を、自分がしなければならないのか」という部分ですね。最初の嵐が来た瞬間に、「こんな割に合わない航海はやってられるか」と、優秀な船員から順に逃げ出してしまいます。困難にぶつかったときの、心の支えがないわけですから。
だからこそ、変革を実現するには、魅力的なビジョンを設計し、それを共有し、実行のためのハンドル操作を教える技術的支援のコーチングと、エンジンとなるやる気を支える心理的支援の動機付けが、セットでなければならないのです。
動画は、4つの能力を単語の羅列として暗記するのではなく、「技術と心理が両輪となって、はじめて組織が動く」というダイナミズムとして理解しておくことを勧めています。
試験の注目点:変革的リーダーシップの整理
- 管理能力と変革能力の両立が前提。管理を捨てて変革だけをめざす、という説明は誤りです。
- 4つの能力は、変革設計、変革共有コミュニケーション、コーチング、動機付けの順。前半2つが準備、後半2つが実行。
- コーチング=技術面の支援、動機付け=心理面の支援。取り違えやすいので対で覚えましょう。
補足:「変革型リーダーシップ」という名前の別の理論に注意
(動画にない話です。)リーダーシップの勉強では、似た名前の理論がいくつか出てきます。
| コッター | バーンズ等 | |
|---|---|---|
| 特徴 | 動画の4つの | 報酬と罰によ |
| 主な要素 | 変革設計、変 | バスの「4つ |
| 年代 | コッター(1 | バーンズ(1 |
バーンズは、取引型と変革型を区別したことで知られます。バスは、バーンズの考えを発展させ、変革型と取引型は一人のリーダーが両方示しうると論じたとされます。どちらも「変革型リーダーシップ」と呼ばれることがあるため、名称は資料により異なります。試験の選択肢では、どの理論の話なのかを、中身から判断しましょう。
視点を切り替える:リーダーとメンバーの関係性へ
ここまでは、変革的リーダーシップ、つまりリーダー個人の能力の話でした。ところが、聞き手がここで新たな疑問を投げかけます。リーダーが組織を変革するとき、全員に同じようにモチベーションを上げたり、同じやり方でコーチングしたりするのでしょうか。人によって経験も性格も違います。
講師は、これを非常に良い視点だと受け止めます。現実の組織で、リーダーがすべてのメンバーと全く同じ均質な関係を築くことはありえません。そこで動画は、焦点をリーダー個人の能力から、リーダーとメンバーの関係性へと大きく切り替えます。ここで登場するのが、LMX理論です。
LMX理論:関係を1対1の解像度で見る
LMX理論の最も画期的な点は、組織全体やチームを、ひとつの大きな塊として大雑把に捉えないことだと動画は説明します。たとえば「あの課長は、営業課全体に対してどうアプローチしているか」といった見方をしないのです。
この理論では、見る解像度を極限まで上げます。リーダーとAさん、リーダーとBさん、リーダーとCさんといった、1対1の関係性です。その間で交わされる、相互作用の交換プロセスにのみ注目します。
聞き手は、これを実感を込めて言い換えます。新人のAさんには細かく技術的なコーチングをするけれど、ベテランのBさんには大枠のビジョンだけ共有して、あとは任せる。現実のリーダーは、無意識のうちに、一人ひとりとの関係性を変えていますよね、と。動画はこれを、非常にリアルで細やかな視点だと評価します。
(補足:動画にない話です。LMXは、Leader-Member Exchange(リーダーとメンバーの交換)の略です。1975年にダンセロー、グラーン、ハーガが提唱した「垂直ダイアド連結(VDL)」が出発点とされ、のちにLMXと呼ばれるようになりました。それまでの前提は、リーダーが部下の全員に同じように接する、というものでした。LMXは、この前提を疑い、リーダーが部下ごとに異なる関係をつくる点に注目した理論です。)
外集団と内集団:それぞれの定義
LMX理論は、1対1の関係を分析するために、メンバーとの関係を、2つの明確な集団の概念で定義します。それが外集団と内集団です。
| 外集団 | 内集団 | |
|---|---|---|
| 関係のあり方 | 組織の規定に | 単なる上下関 |
| 何で決まるか | 会社が定めた | リーダーとの |
| メンバーの動 | 言われた仕事 | 自分の役割以 |
聞き手は、ここで鋭く切り込みます。組織である以上、規定に基づく上下関係は当然あり、全員が外側の集団にいるのは自然なことです。指示命令系統がしっかりして、言われた仕事を全員がきちんとこなしていれば、会社は十分に回るような気がします。なぜ現代のリーダーシップでは、わざわざそれ以上の関係である内集団を築く必要があるのでしょうか。決定的な違いは何でしょうか。
決められたルーティンワークだけをこなす時代であれば、規定に基づく関係だけでも十分だったかもしれません。しかし、将来コンサルタントとして実際の企業に入ると、現場でこんな社員を必ず目にするはずです。
マニュアルにない想定外のトラブルが起きたとき、「それは私の仕事の範囲外です」「そこから先は私の責任ではありません」と、ドライに言い放って、一切協力しようとしない社員です。
すごくリアルですね。言われたことはやっていますが、それ以上の自発的なプラスアルファはしません、という態度。これが外集団の特徴なんですね。
そうです。規定の枠を超えることは決してありません。
変革期には、内集団が必要になる
ここで、先ほどの変革的リーダーシップを思い出してください。管理と変革の両立です。激しい環境変化を乗り越え、新しい大陸をめざす変革期に、マニュアルどおりの対応しかしないメンバーでは、組織は生き残れません。
聞き手の言葉を借りれば、想定外の嵐が来たとき、「マニュアルに嵐の対応が書いていないから、帆を張りません」と言われたら、その時点で全滅です。お互いの領域を超えてカバーし合う協力関係が不可欠になります。そこで内集団の出番です。
内集団のメンバーは、リーダーと、規定を超えた深い信頼関係で結ばれています。だからこそ、自分の役割以上のことを自ら果たそうとして、組織全体の困難に立ち向かってくれるのです。
(補足:動画にない話です。資料では、内集団のメンバーは、リーダーから責任や支援を多く受け、意見を自由に伝えやすく、リーダーの判断にも考えが反映されやすいとされます。反対に、外集団は雇用契約に基づく比較的形式的な関係で、意見が採用されにくく、与えられる資源や責任も少なくなりがちだ、と説明されます。)
リーダーの役割は「移行させること」
ここで、聞き手が大切な点を確認します。リーダーに求められている役割は、一部の仲の良いメンバーだけを特別扱いして、内側の集団にすることではありません。冷たい規定の上下関係にとどまっている外側の集団のメンバーを、いかにして、強い絆で結ばれた内側の集団に移行させるか、ということです。
講師はこれを肯定します。現状に甘んじることなく、一人でも多くのメンバーを移行させていく関係構築。これこそが、組織全体の力を底上げして、真の変革を可能にする最大の鍵になる、と動画は結びます。
(補足:動画にない話です。内集団と外集団の分かれ方は固定的ではなく、外集団のメンバーがリーダーと良い関係を築けば内集団に移れる一方、内集団でも関係が崩れれば外集団に移りうる、と説明する資料があります。また、グラーンとウール=ビーン(1995年)は、関係を、契約的な「他人」の段階から、信頼と交換の質が高まる「知人」の段階、相互の信頼と義務が高い「成熟したパートナー」の段階へと発展させる「リーダーシップ・メイキング」という考え方を示したとされます。段階の数え方や呼び方は、資料により異なります。)
試験の注目点:LMX理論の整理
- 注目するのは、チーム全体ではなく、リーダーとメンバーの1対1の関係とその質。
- 外集団:組織の規定に基づく上下関係。内集団:規定を超えた深い信頼関係。名前が似ているので、内と外の取り違えに注意。
- 動画の立場では、リーダーの役割は、外集団のメンバーを内集団へ移行させる関係構築。一部のメンバーを特別扱いすることではない。
- リーダーの能力に注目する変革的リーダーシップに対して、LMXは関係性に注目する理論、と対にして覚える。
2つの理論は、実はつながっている
動画の終盤で、講師は2つの理論の関係を整理します。変革的リーダーシップとLMX理論は、一見まったく違う角度から組織を見ているように思えますが、実は極めて密接につながっています。どちらも、複雑な現代ビジネスを生き抜き、組織に現状維持からの脱却をもたらすための、実践的な武器です。
| 理論 | 見るところ | ひとこと |
|---|---|---|
| 変革的リーダ | リーダー個人 | 管理能力を保 |
| LMX理論 | リーダーとメ | 関係の解像度 |
変革的リーダーシップは、ビジョンを設計し、共有し、技術的なコーチングと心理的な動機付けで、メンバーを支援します。しかし、その変革を空論で終わらせないためには、LMX理論が示すように、メンバーとの関係性の解像度を1対1まで引き上げる必要があります。単なる規定どおりの仕事しかしないメンバーから、自発的に協力し合う信頼関係で結ばれたメンバーへと、一人ずつ移行させていくのです。
診断士の目で、現場の組織を見る
動画は最後に、学習者に問いを残します。こうして整理すると、いま取り組んでいる勉強が、単なる試験突破のための暗記から、現場で経営者を救うための生きた処方箋に変わっていくのを感じませんか、と。
あなたが試験を突破して、将来コンサルタントとして実際の企業を診断する日が来たとき、ぜひ今日の視点を持って、目の前の組織を観察してほしい、と動画は呼びかけます。その組織のリーダーは、社員たちを、ただの規定の上下関係という枠の中だけに押し込めていないか。もしそういう組織に直面したら、あなたならどうアドバイスして、彼らを内集団へ移行させ、組織全体に変革をもたらしますか。
中小企業の現場では、とくに社長と社員の距離が近く、関係性が成果に直結しやすいといえます。変革の旗を振る前に、社長と一人ひとりの関係がどうなっているのかを見る。規定どおりの関係にとどまっている社員が多いなら、ビジョンの共有や、コーチングと動機付けを通じて、少しずつ内集団へ移していく。そんな助言の引き出しになります。
試験対策としては、理論の名前と中身を、取り違えないように整理しておくことが大切です。管理と変革の両立、4つの能力の順番、技術と心理の両輪、そして外集団と内集団の定義。動画が繰り返したとおり、理論の裏にある「なぜ」のメカニズムを押さえておけば、本番の選択肢でも迷いにくくなります。
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