ドメイン定義の本質をエーベル3次元枠組みで図解攻略
企業経営理論 第2回
「企業が日々どのようにして、自分たちの戦う場所を決めているか、考えたことはありますか」。動画はこんな問いかけから始まります。このページでは動画の流れにそって、経営戦略の根幹をなすドメインについて、役割、定義の仕方、広さ、企業ドメインと事業ドメインの違い、エーベルの3次元枠組みまでをまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
「ドメイン」って、ウェブサイトの話ではありません
「企業が日々どのようにして、自分たちの戦う場所を決めているか、考えたことはありますか」。動画はこんな問いかけから始まります。普段はあまり意識しない部分ですが、そこには深い戦略があります。今回のテーマは、経営戦略の根幹をなすドメインという概念です。
最初に断っておくと、ここでいうドメインは、インターネットの「ドメイン名」のことではありません。企業が対象とする事業の広がり、つまり企業がどの領域で戦うかを示すものです。動画は、単なる事業内容の説明ではなく、企業の未来を左右する羅針盤のようなものだと位置づけています。
診断士試験の企業経営理論では、経営戦略の冒頭に近い基本テーマです。ドメインの役割、定義の仕方、広さ、階層、そして定義に使う枠組みと、聞かれる論点がきれいに連なっています。流れにそって、順番に整理していきましょう。
ドメインに求められる3つの役割
では、そもそもなぜ企業にドメインが必要なのでしょうか。動画は、ドメインの役割を大きく3つに分けて説明します。
- 意思決定の焦点になること:何をやり、何をやらないかを判断する基準になります。
- 経営資源を蓄積するための指針になること:人・モノ・金・情報といった資源を、どの方向に集めていくかが決まります。
- 組織の一体感を醸成すること:メンバーが同じ方向を向いて協力しやすくなります。
聞き手は、この話を現実に引き寄せて、ドメインの設定を「航海に出る前の目的地の決定」にたとえます。行き先が決まらなければ、そもそもどんな船に乗るべきか、どんな食料や燃料(つまり経営資源)を積むべきかが見えません。さらに、乗組員である組織が、どちらに向かってどう協力すればよいのかも分からなくなってしまいます。講師も、この航海のたとえは分かりやすいと評価していました。
たとえ話:航海の目的地
- 目的地(ドメイン)が決まる:どこへ向かうかが決まります。
- 船と積荷(経営資源)が決まる:目的地に合う船を選び、必要な食料や燃料を積みます。
- 乗組員(組織)が一つになる:全員が行き先を共有しているので、役割分担と協力がしやすくなります。
いちばん大切なのは「何をやらないか」
ただし実際のビジネスで、目的地があることのいちばんの価値は、何をやるかだけでなく何をやらないかを明確にできる点にあります。これが、1つ目の役割である「意思決定の焦点になる」の中身です。
たとえば、魅力的な市場が目の前にあっても、それが自社のドメインから外れていれば、手を出さないという決断ができます。資源には限りがありますから、何でもかんでもやっていたら船が沈んでしまう、というわけです。やらないことを決める基準があるからこそ、限られた資源を目的地に向けて集中できます。
(補足:動画にない話です。ドメインを「組織にいる人たちが共有する合意」として捉える考え方があり、ドメイン・コンセンサスと呼ばれます。経営と組織メンバーのやりとり、あるいは企業と外部環境とのやりとりを通じて形成される「合意」のことです。ドメインは、決めるだけでなく共有されて初めて、3つ目の役割である一体感につながります。)
ドメインの定義の仕方は2通り
では、自分たちの戦場をどう定義するのか。ここで出てくるのが、対照的な2つのアプローチです。
- 物理的定義(モノ中心):たとえば「自動車を製造・販売する会社です」のように、製品やサービスという物理的な実体で定義します。
- 機能的定義(コト中心):たとえば「移動空間における快適性を提供する会社です」のように、製品やサービスが果たす機能、つまり顧客にとっての価値で定義します。
聞き手の素朴な疑問:「機能的な定義って、ポエムみたいでは?」
動画で印象に残るのは、聞き手が投げかけた次の疑問です。
機能的な定義って、少しポエムみたいで抽象的すぎませんか。現場の社員なら、『移動空間における快適性を提供するぞ』と言われるより、『自動車を作るんだ』と言われた方が、今日やるべき仕事が明確で分かりやすい気がします。
それは本当にその通りです。その分かりやすさこそが、物理的に定義されたドメインの大きなメリットなんです。ただ、その分かりやすさの裏には、致命的なデメリットが存在しています。
素朴な疑問に見えて、理論のど真ん中を突いています。物理的定義の強みは、まさに「具体的で分かりやすい」ことです。ところが、この強みには裏側があります。それが次に出てくる、マーケティング・マイオピアです。
マーケティング・マイオピア:目先のモノに囚われる危険
物理的に定義されたドメインは、自社のドメインを狭く解釈してしまうマーケティング・マイオピアに陥りやすい、というのが動画の説明です。マイオピアとは「近視眼的」という意味で、日本語では「マーケティング近視眼」とも訳されます。目の前のモノに囚われてしまう、ということです。
物理的に定義されたドメインの場合、市場環境が大きく変化して、対象の商品が陳腐化してしまうと、競争に取り残されてしまうリスクがあります。自動車というモノに固執していると、新しい移動手段が生まれたときに、一気に取り残されてしまうわけです。
それに対して機能的に定義されたドメインには、コト中心なので抽象的で分かりづらいというデメリットはあるものの、時代に合わせて発展的なものにしやすいという強力なメリットがあります。
物理的定義と機能的定義の比較
| 物理的定義(モノ中心) | 機能的定義(コト中心) |
|---|---|
| 例:自動車を製造・販売する会社 | 例:移動空間における快適性を提供する会社 |
| メリット:具体的で分かりやすい | メリット:時代に合わせて発展させやすい |
| デメリット:マーケティング・マイオピアに陥りやすい。商品が陳腐化すると取り残される | デメリット:抽象的で分かりづらい |
(補足:動画にない話です。マーケティング近視眼は、アメリカの経営学者レビットが1960年の論文「Marketing Myopia」で示した考え方です。有名な例が鉄道会社で、自社を「鉄道事業」と考えて「輸送事業」と考えなかったために、顧客の需要に応えられなかったと説明されます。鉄道が物理的定義、輸送が機能的定義にあたります。レビットの議論としては、映画を「娯楽」と捉える例もよく知られています。)
(補足:動画にない話です。榊原清則氏は、この鉄道の失敗の要因は、ドメインの定義を誤ったというより、ある定義に執着して固定的に捉えていたことにもある、と指摘していると紹介されています。物理的定義が推奨されにくいのも、固定的になりやすく、変化への適応性や弾力性に欠けがちだからだとされます。「物理的定義=悪、機能的定義=善」と単純に覚えるのではなく、強みと弱みの両面で覚えておくと、試験の選択肢にも対応しやすくなります。)
ドメインの広さ:網のたとえで考える
定義の方向性が決まったら、次は範囲、つまりドメインの広さも考える必要があります。聞き手は、これも魚を捕る網のようなものではないか、とたとえます。網が小さすぎると、少ない魚しか捕まえられません。かといって巨大すぎる網を海に投げても、波の抵抗で引っ張る力が分散して、結局何も引き上げられない、という状況です。講師も「すごく的確なアナロジー」と受け止めていました。
- ドメインが狭すぎる:顧客ニーズを逃してしまうおそれがあります。目の前に魚がいるのに、網が小さすぎて逃がしてしまうイメージです。
- ドメインが広すぎる:経営資源が分散します。さらに、さまざまな業界・事業の領域と重複して、競争が激化するおそれがあります。
つまり、広すぎても狭すぎてもいけません。先ほどの物理的定義はドメインを狭くしやすく、機能的定義は広がりやすい傾向があります。だからこそ、方向性(定義の仕方)と範囲(広さ)の両方を見て設計するのです。
企業ドメインと事業ドメイン:階層で分けて考える
ドメインは「領域」という切り口でも分類できます。大きく2つの階層に分けられます。
- 企業ドメイン:企業全体のドメインを示すものです。
- 事業ドメイン:事業部ごと(個別事業ごと)のドメインを示すものです。
動画は、この2つを混同しないことが重要だと強調します。
企業ドメインが決めること
企業ドメインでは、企業全体の事業ポートフォリオを定めます。将来の新たな事業を含めて、企業の各事業へ経営資源をどのように配分するかを決めるものです。これが企業としてのアイデンティティを示します。さらに、事業間のシナジーや範囲の経済をどのように狙っていくかも、企業ドメインで定めます。
用語:範囲の経済
複数の事業を行うことで効率がよくなる効果のことです(動画の説明)。一般には、1つの事業だけで行うより、複数の製品・事業を同時に手がけたほうが、平均のコストが下がる効果を指します。たとえば、ある事業の設備や人材、ノウハウを別の事業にも使えると、ばらばらにやるより効率がよくなります。
聞き手の整理:総司令官と前線の隊長
ちょっと整理させてください。企業ドメインは、軍隊でいう総司令官が全体像や資源の分配を決める戦略レベルの話ですね。事業ドメインは、前線の隊長が、その特定の戦場でどうやって勝つかを考える戦術レベルの話、ということでしょうか。
完璧な理解です。まさにその通りです。
この聞き手のたとえは、試験の頭の整理にも使えます。総司令官は、将来の新しい事業も含めて、どの戦場にどれだけの戦力(経営資源)を回すかを決めます。前線の隊長は、与えられた戦場の中で、誰に何をどんな手段で届けるかを考えます。見ている視点の高さが違う、と覚えておくとよいでしょう。企業ドメインは「どの戦場に、どれだけの戦力を送るか」、事業ドメインは「その戦場で、どう戦うか」です。
(補足:動画にない話です。経営戦略の教科書では、事業ドメインを、企業ドメインから見て1つ下に位置するサブ・ドメインと整理するものがあります。企業ドメインは「企業の生存領域」を示すものです。また、企業が1つの事業だけでできている場合は、企業ドメインと事業ドメインは実質的に同じものになります。)
エーベルの3次元枠組み:CFTで事業ドメインを定義する
ここからが、今回のタイトルにもなっている山場です。前線の隊長が戦い方を考えるとき、つまり事業ドメインで「事業としてどこで戦うのか」を定めるときによく使われる切り口が、エーベルの3次元枠組みです。これは次の3つの切り口で表されます。アルファベットでC・F・Tです。
- C(Customer):顧客。誰に提供するのか。
- F(Function):機能。顧客のどんなニーズを満たすのか。
- T(Technology):技術。どのような技術や手段でそれを提供するのか。
この3つの次元で、事業ドメインを具体的に定義します。動画は、現場の隊長が戦い方を明確にするための非常に重要な枠組みだと説明します。
設例:自動車会社をCFTで考えてみる(本稿の設例です)
- C(誰に):都市部で暮らす高齢者
- F(何を):安全で快適に移動したい、というニーズ
- T(どのように):電動化や自動運転の技術
「自動車を作る」という物理的定義だけでは見えなかった戦い方が、顧客・機能・技術の3つに分けることで、はっきりしてきます。ここでFの欄に「機能」が入ることが、機能的定義の考え方とつながっています。
(補足:動画にない話です。エーベル(Derek F. Abell)は、1980年の著書『Defining the Business: The Starting Point of Strategic Planning』で、事業を顧客層・顧客機能・技術の3次元で定義することを示しました。日本語訳は石井淳蔵訳『[新訳]事業の定義』です。この訳書のあとがきでは、事業の定義とは、ある一塊の活動を「1つの事業」と見なすか、それとも「より大きい事業の一部」と見なすかを決める問題だ、と説明されています。「CFT分析」とも呼ばれます。)
(補足:動画にない話です。Fの欄を考えるとき、レビットのマーケティング近視眼の議論がそのまま効いてきます。鉄道なら「輸送」、映画なら「娯楽」のように、機能で捉え直すと、より大きな括り(上位概念)への「昇段」が起こります。「輸送」には鉄道のほか、航空機、バス、乗用車なども含まれますから、視野がぐっと広がります。)
ドメインは「一度決めたら終わり」ではない
聞き手は、ここで素朴な疑問を挟みます。一度決めたドメインは、もう永遠に変わらないものなのでしょうか。答えは「いいえ」です。企業ドメインも事業ドメインも、一度決めたら変わらないという性質のものではありません。時代はどんどん変わります。ですから、環境の変化に応じて、常に見直しを行っていくことが必要なのです。
ここは、冒頭のマーケティング・マイオピアとつながっています。ドメインを固定的に捉えて見直さなければ、気づかないうちに近視眼的な定義になってしまいます。物理的定義でも機能的定義でも、また広さでも、いったん決めた枠を環境に合わせて点検し続ける姿勢が大切です。
試験で問われる視点
動画は、ここまでのドメインの分類について、実務上の分析や各種試験などにおいても、それぞれの定義の違いを正確に理解しておくことが重要になる、と指摘します。特に、物理的定義と機能的定義の違いと、企業ドメインと事業ドメインの役割の違いです。これらを正確に理解することが、あらゆるビジネス分析の土台になります。
試験で押さえるポイント
- ドメインの3つの役割:意思決定の焦点、経営資源の蓄積の指針、組織の一体感の醸成。
- 物理的定義=モノ中心(分かりやすいが、近視眼的になりやすい)。機能的定義=コト中心(抽象的だが、発展性がある)。
- マーケティング・マイオピア=自社のドメインを狭く解釈してしまうこと。物理的な定義で陥りやすい。
- 広さは、狭すぎるとニーズを逃し、広すぎると資源の分散と競争激化を招く。
- 企業ドメイン=企業全体。事業ポートフォリオ、経営資源の配分、シナジー・範囲の経済を定める。事業ドメイン=個別事業ごと。エーベルのCFT(顧客・機能・技術)で定義する。
- ドメインは一度決めたら固定ではなく、環境の変化に応じて見直す。
(補足:動画にない話です。選択肢で迷ったら、「どの階層の話か(企業か事業か)」「定義の仕方か広さか」の2点を先に切り分けると整理しやすくなります。たとえば「全社の事業の組み合わせや資源配分」の記述は企業ドメイン、「顧客・機能・技術で戦い方を定める」の記述は事業ドメインに結びつきます。)
動画からの問いかけ:自分のドメインを再定義してみる
動画の最後には、聞いている人への問いかけがあります。今日学んだことを、自分自身のキャリアに当てはめてみましょう、というものです。もし自分の仕事のドメインを、物理的に「〇〇という作業をする人」と定義するのではなく、機能的に「誰に、どんな価値を提供する人」と再定義してみたらどうでしょうか。そうやって自分のドメインを見つめ直したとき、明日からの行動や、将来選ぶべき道は、どう変わるでしょうか。
自分のキャリアに当てはめて、物中心ではなく機能的に再定義する、ということですね。
そうです。あなたのビジネス、そしてキャリアの羅針盤がどこを指しているのか、ご自身の戦場をワクワクしながら再定義してみてください。
この問いかけは、試験勉強としても役に立ちます。「作業」で定義するのが物理的定義、「提供する価値」で定義するのが機能的定義、という対比が、自分のこととして腑に落ちるからです。
まとめ
- ドメインは、企業が戦う場所(事業の広がり)を示す羅針盤です。インターネットのドメイン名ではありません。
- 役割は3つです。意思決定の焦点になること(何をやらないかも決まる)、経営資源の蓄積の指針になること、組織の一体感を醸成することです。
- 定義の仕方は、物理的定義(モノ中心・分かりやすい・近視眼的になりやすい)と、機能的定義(コト中心・発展させやすい・抽象的)の2つです。
- マーケティング・マイオピアは、自社のドメインを狭く解釈してしまうことで、物理的定義で陥りやすい失敗です。
- 広さは、狭すぎるとニーズを逃し、広すぎると資源の分散と競争激化を招きます。
- 企業ドメインは企業全体(事業ポートフォリオ、経営資源の配分、シナジー、範囲の経済)、事業ドメインは個別事業の戦い方を決めます。後者の切り口がエーベルのCFT(顧客・機能・技術)です。
- ドメインは一度決めたら固定ではなく、環境の変化に応じて見直していきます。
まず動画を聞いて全体の流れをつかみ、あとからこのページで、役割・定義・広さ・階層・CFTの順に確認してください。「モノ中心か、コト中心か」「企業か、事業か」の2つの切り分けが身につけば、ドメインの問題はぐっと解きやすくなります。

