VRIO分析が5分で丸わかり
企業経営理論 第4回
「なぜ何千億円もの資金を持つ巨大企業が、ライバルと同じ最新技術を買い集め、同じ優秀なエンジニアを引き抜いても、相手の成功を真似できないのでしょうか」。動画はこんな問いかけから始まります。このページでは動画の流れにそって、リソースベースド・ビュー、VRIO分析の4つの観点、模倣困難性を高める4つの要因、コアコンピタンスとケーパビリティ、ダイナミック・ケーパビリティ、そしてポーターのポジショニングとの関係をまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
外の地図を窓から投げ捨てる
動画の問いは、こうです。何千億円もの資金を持つ巨大企業が、ライバルと同じ最新技術を買い集め、同じ優秀なエンジニアを根こそぎ引き抜いても、相手の成功をどうしても真似できない。これはなぜでしょうか。お金や技術という目に見える武器だけで勝負が決まるなら、資本の大きな会社が常に勝つはずです。でも現実はそうなっていません。
戦略というと、多くの人はポーターのポジショニングを思い浮かべます。競合のいない場所や儲かる陣地を、市場のどこに取るか。つまり外の地図を見る考え方です。外部環境の分析は間違いではありません。ただ、どれほど良い陣地を取っても、肝心の自軍が貧弱では戦いに負けます。そこで動画は、外の地図をいったん窓から投げ捨て、自分たちの軍隊の内側に目を向けます。
市場での立ち位置ではなく、企業が持つ内部資源に着目して競争優位を保つ考え方が、リソースベースド・ビュー(RBV)です。具体的な道具として、VRIO分析、コアコンピタンス、ケーパビリティの3つが登場します。
(補足:動画にない話です。RBVという呼び名は、ウェルナーフェルトが1984年の論文「A resource-based view of the firm」で、企業を製品の側ではなく資源の側から分析することの有用性を論じたことに由来するとされます。)
VRIO分析は4つの問いで資源を試す
人・モノ・金を社内にずらりと並べても、実はあまり意味がありません。大切なのは、それが本当に戦力として働くかを見極めることです。そのための分析手法が、バーニーが提唱したVRIO分析です。4つの観点の頭文字で、自社の経営資源の競争優位性を評価します。
| 観点 | 呼び方 | 問い |
|---|---|---|
| V | Value(経済価値性) | 経済的な価値があるか |
| R | Rarity(希少性) | 他社が持たない珍しいものか |
| I | Inimitability(模倣困難性) | 真似に時間とコストがかかるか |
| O | Organization(組織) | 活かせる組織になっているか |
Vは市場に参加するための入場条件
Vは、その資源に経済的な価値があるか、という観点です。事業を行ううえでの大前提で、価値のないものを作っても誰も買ってくれません。市場というゲームに参加するための入場条件のようなものです。
Rだけでは勝負は終わらない
次のRは、その資源が他社の持たない珍しいものかどうか。希少性のある資源は、競争優位の源泉になります。ここで聞き手が、もっともな疑問を挟みます。
経済的な価値があって、しかも他社が持っていない珍しいもの。この2つが揃えば、もう勝負ありではないですか。
そう思いますよね。たとえば、あるスタートアップが、価値も希少性もある画期的なAIのアルゴリズムを開発したとします。それを見た資金力のある大企業は、どう動くでしょうか。
莫大な資金を投じて、同じようなアルゴリズムを作れるエンジニアを世界中からかき集めるか、似た技術を持つ会社を買収して、強引に対抗してきそうです。
まさにそれです。
希少な資源は競争優位の源泉になりますが、模倣困難性が低いと真似される恐れがあるため、その優位は一時的なものになります。スマートフォンの新機能が好例です。あるメーカーが新しいカメラ機能を出すと、数ヶ月後には全メーカーの端末に同じ機能が載ります。目玉だったはずのものが、一瞬でありふれたものに転落するわけです。
Iの模倣困難性が究極の防御壁になる
物理的な資源や単純な技術の多くは、お金と時間をかければコピーできてしまいます。だからこそ、企業が競争優位を維持するには、Iの模倣困難性が特に重要とされます。競合が真似するのに、どれだけの時間とコストを要するか、という観点です。これを高める要因は、大きく4つあります。
1つ目は独自の歴史的条件(経路依存性)です。経営資源の構築が、企業の長年の歴史や歩んできた経緯に根ざしているため、他社が短期間で真似することが難しい、という要因です。
どんなに資金力のある大企業でも、50年の歴史を今日明日でお金で買うことはできませんね。
失敗を繰り返して蓄積されたデータや、ブランドの歴史も、ショートカットできません。
2つ目は社会的複雑性です。経営資源が単純な要素の組み合わせではなく、企業風土や取引先との信頼関係といった複雑な社会的要因によって成り立っているため、模倣の方法が分かりにくい、という要因です。
いつも行列の老舗定食屋
チェーン店が同じ市場から新鮮な魚を仕入れ、同じレシピで作っても、その定食屋の味や雰囲気は出せません。強みは魚やレシピといった物理的な資源だけではないからです。漁師さんと何十年もかけて築いた関係や、厨房のスタッフ同士が目配せだけで完璧なタイミングで料理を出すチームワーク。こうした複雑な人間関係のネットワークが強みになっています。スパイが厨房に潜入しても、スタッフ間の暗黙の了解までは持ち帰れません。
3つ目は因果関係の不明性で、動画は「最も強力で厄介なバリア」と紹介します。強みの源泉が社内に浸透しすぎて特定しにくかったり、複数の要因が絡み合って優位を生んでいたりして、何を真似すればよいのかが判別できない状態です。
何を真似すればいいのかすら、分からないということですか。
ええ。外から見ると「あのシステムを導入すればうちも成功するはず」と勘違いしやすいのですが、実は現場の従業員の哲学や、目に見えない文化が複雑に絡み合って生み出されていたりします。
内部で働く従業員でさえ、息をするように当たり前にやっていることなので、自分たちの何が強みなのか自覚していないケースもありそうです。
まさにそれが、究極の防御壁として働くのです。
4つ目は特許です。法律によって模倣が禁止されるので、分かりやすいバリアといえます。
試験の注目点:模倣困難性の4要因
- 独自の歴史的条件=経路依存性。時間をかけた歩みが壁になる。
- 社会的複雑性=企業風土・信頼関係など、分解してマニュアル化できない。
- 因果関係の不明性=何が強みの源泉か、内部の人間にも分からない。
- 特許=法的に模倣が禁止される。
(補足:動画にない話です。バーニーの整理では、歴史的条件・因果関係の不明性・社会的複雑性の3つが中心で、特許を4つ目に並べるかは資料により異なります。試験対策では、動画と同じ4つを並べて覚えておくと安全です。)
Oの組織が宝の持ち腐れを防ぐ
価値があり、希少で、真似できない資源を持っていれば無敵に思えます。それでも最後のOは必須です。VRIで挙げた資源を有効に活用できる組織であるか、という観点で、これがVRIOの「O」にあたります。資源が物理的にあっても、有機的に結びついていなければ、十分な競争優位は発揮できません。
F1のレースカーみたいなものですね。
と言いますと。
何百億円もかけて最強のエンジン、つまり資源を開発しても、ピットクルーが2秒でタイヤを交換する連携体制や、膨大な走行データを瞬時に分析してドライバーにフィードバックする組織のシステムが機能していなければ、宝の持ち腐れでレースには勝てません。
その通りです。リソースを保有していることと、それを使いこなす組織力は、別の概念として捉える必要があります。
(補足:動画にない話です。VRIOの標準的な整理では、4つの問いに順に答え、どこで止まるかで評価が決まります。価値がなければ競争劣位、希少でなければ競争均衡、模倣が容易なら一時的な優位、組織が不十分なら活用されていない優位、すべて満たせば持続的な競争優位です。VRIOは、バーニーが1995年に、それまでの価値・希少性・模倣困難性・代替困難性(VRIN)の最後を組織に置き換えて示したとされます。)
コアコンピタンスとケーパビリティ
組織力を考えるうえで押さえたい2つのキーワードが、コアコンピタンスとケーパビリティです。コアコンピタンスは、企業の中核的な能力で、顧客に利益をもたらし、競合に真似されにくく、複数の商品や市場に展開できる自社の能力を指します。
複数の市場に展開できる、というのがポイントですね。ある会社の独自のモーター技術が、家電だけでなく、自動車や産業用ロボットという全く違う市場に横展開されて価値を提供している、というイメージでしょうか。
まさにそうです。この考え方は、個人のキャリアにも同じように当てはまります。たとえば、得意なスキルに独自の業界経験を掛け合わせれば、教育アプリにもヘルスケア市場にも展開できる、自分だけのコアコンピタンスになります。
対してケーパビリティは、高い品質や効率といった、企業の持つ組織的な能力です。競争優位となったケーパビリティは、複数の事業に展開できます。
コアコンピタンスが必殺技なら、ケーパビリティは組織全体に浸透している基礎体力、業務を遂行する身のこなしの良さ、というイメージでしょうか。
いい表現ですね。
(補足:動画にない話です。コアコンピタンスはプラハラードとハメルが1990年のハーバード・ビジネス・レビュー論文で示しました。見分け方として、多様な市場への入口になる、最終製品の顧客便益に大きく貢献する、競合が模倣しにくい、の3点が挙げられています。ケーパビリティは、ストーク、エバンス、シュルマンが1992年の同誌論文で、競争の拠り所を製品や市場ではなく事業プロセスに置いて論じました。)
環境が激変したらダイナミック・ケーパビリティ
どんなに強力なコアコンピタンスやケーパビリティも、市場環境そのものが激変すると通用しなくなります。ガソリンエンジンの圧倒的な強みがあっても、世界中が電気自動車にしか乗らなくなれば、戦っている競技そのものがなくなり、過去の強みが一瞬で無価値になってしまいます。
そこで必要になるのがダイナミック・ケーパビリティです。市場環境の変化を察知し、新たなビジネス機会を捉え、必要な場合には既存の経営資源やプロセスを再構築する能力をいいます。持っている武器や過去の成功体験に固執せず、状況の変化に合わせて、自分たちの能力セットを柔軟に組み換えていく適応力です。
フィルム市場が消えた会社
動画は、カメラのフィルム市場が消滅したときに、写真の技術を化粧品や医療分野の経営資源として見事に再構築した企業の事例を、ダイナミック・ケーパビリティの極致として挙げます。社名は出てきません。
(補足:この例として知られるのは富士フイルムです。同社の公式サイトは、コラーゲンの知見や抗酸化技術、ナノテクノロジーなど、写真フィルムで培った技術を、機能性化粧品「アスタリフト」シリーズなどに活用していると説明しています。医療分野も、X線フィルムの発売以来の歩みを生かして展開しています。)
(補足:動画にない話です。ダイナミック・ケーパビリティは、ティースらが1997年の論文で「急速に変化する環境に対応するため、内外の能力を統合し、構築し、再構成する企業の能力」と定義しました。のちにティースは2007年の論文で、これを察知(sensing)・捕捉(seizing)・再構成(reconfiguring)の能力として整理しています。動画の説明は、この3つに重なります。)
ポーターに戻る:外の地図と内側の強みは両輪
ここで冒頭のポーターに戻ります。動画によれば、ポーターは、企業が持続的な競争優位を保つ源泉は、独自の価値を創造する戦略的ポジショニング、コストを最小限に抑えるオペレーション効率、またはその両方だと述べています。オペレーション効率とは、同一の活動や類似の活動を、他社より効率的にこなすことです。
(補足:ポーターの1996年の論文「What Is Strategy?」は、オペレーション効率と戦略(ポジショニング)はどちらも優れた業績に不可欠だが、働き方が違うとします。オペレーション効率の競争は業界全体の水準を押し上げ、絶対的な改善はもたらしても、相対的に抜け出す企業は生まないと述べ、ポジショニングを欠いたまま効率だけで持続的な優位を保つのは難しいとしています。動画の「いずれか、あるいは両方」は、ここを少し単純化した言い方と考えておくと安全です。)
外の戦場で独自のポジションを取ることと、自軍のオペレーション効率を極限まで高めること。今日見てきた内部資源の強さは、この両方を下から支えるエンジンだったわけですね。
そうです。独自の歴史的条件や複雑な要因、コアコンピタンスは、他社に真似できない圧倒的なオペレーション効率と独自のポジションを下支えします。
外の地図を見ることは誰にでもできますが、自分の内側にある複雑な歴史や因果関係は、自分たちにしか理解できず、一朝一夕には作れません。だからこそ最強の武器になり得るのですね。
全くその通りです。
まとめ
| 用語 | 要点 |
|---|---|
| リソースベースド・ビュー | 市場の立ち位置ではなく、内部資源に着目して競争優位を考える |
| VRIO分析 | 価値・希少性・模倣困難性・組織の4観点で、経営資源の競争優位性を評価する(バーニー) |
| 模倣困難性の要因 | 独自の歴史的条件(経路依存性)・社会的複雑性・因果関係の不明性・特許 |
| コアコンピタンス | 顧客に価値を届け、競合に真似されにくく、複数の市場に展開できる中核的な能力 |
| ケーパビリティ | 高い品質や効率など、組織全体に浸透した能力。複数の事業に展開できる |
| ダイナミック・ケーパビリティ | 環境変化を察知し、機会を捉え、経営資源を再構築する能力 |
動画は最後に、1つの問いを投げかけます。最高の防御壁は因果関係の不明性だと言いましたが、それは内部の人間にさえ、なぜ成功しているのか分からないほどの絡み合いです。もし自分の成功の本当の理由を分かっていなければ、よかれと思って導入した新しいツールや、劇的に変えた働き方が、気づかないうちにその防御壁を壊してしまう危険はないでしょうか。変化に対応するためのダイナミック・ケーパビリティを発揮する前に、自分の内側にある見えない強みを、もう一度じっくり点検してみてください。
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