コトラー競争地位4戦略が3分で丸わかり
企業経営理論 第7回
「あなたが小さなスタートアップの経営者で、予算はスズメの涙ほど。目の前のライバルは何千億円もの資金と誰もが知るブランドを持つ巨大企業だとしたら、あなたならどう戦いますか」。動画はこんな問いかけから始まります。このページでは動画の流れにそって、経営資源の量と質で分ける4つのポジション(リーダー・チャレンジャー・ニッチャー・フォロワー)と、それぞれの戦い方をまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
小さな会社は、巨大企業とどう戦う?
あなたは小さなスタートアップの経営者で、予算はスズメの涙ほど。一方、目の前のライバルは何千億円もの資金と、誰もが知るブランドを持つ巨大企業です。動画はこんな問いかけから始まります。「少し安くて、少しだけ品質のいいもの」で正面から勝負すれば、間違いなく一瞬で叩き潰されてしまいます。
ビジネスの世界では、すべての企業が同じ戦い方をできるわけではありません。資金力のある大企業と、限られた予算の小さな企業とでは、取るべき戦略の正解がまったく違います。だからこそ、自分の手持ちのカードを冷静に見極めて、戦う場所と戦い方を決める必要があります。そのための思考の枠組みが、フィリップ・コトラーが提唱した競争地位別戦略です。自分のポジションによって戦い方を変える、というのが基本の発想です。
ポジションを決める2つの軸:経営資源の量と質
では、何を基準に自分のポジションを決めるのでしょうか。動画が挙げる基準は、企業が持つ経営資源の量と質の2つの軸です。
- 量:人・物・金の規模。従業員の数、工場の生産能力、そして何より予算の大きさです。
- 質:目に見えない強力な武器。特に情報的な資源で、他社が真似できない特許技術、天才的なエンジニアチームのノウハウ、ロゴがついているだけで徹夜で並んでも買いたいと思わせるブランド力などです。
この量と質の組み合わせで、企業はリーダー・チャレンジャー・ニッチャー・フォロワーの4つのポジションに分かれ、それぞれ取るべき戦略がガラリと変わります。
(補足:動画にない話です。量と質の2軸で4つに分ける図は、日本では嶋口充輝(1986年の著書『統合マーケティング』)のモデルとして紹介されることが多く、コトラー自身の4類型(1980年)はマーケットシェアに着目したものと説明する資料もあります。資料により帰属の説明が異なりますが、4つのポジションの中身は同じ流れで学べます。)
質というのは、製品が丈夫、といった意味ではないんですね。
そうなんです。製品の頑丈さではなく、特許やノウハウ、ブランドといった無形の武器のことです。量は物理的・財務的なパワー、質は情報的・知識的なパワーと考えるとイメージしやすいですよ。
手持ちのカードの量と質で、自分がどのキャラクターになるかが決まるわけですね。
リーダー:絶対王者の城の守り方
最初は、量も質も圧倒的な業界トップ企業、リーダーです。業界内で最大の市場シェアを持つ絶対王者で、最大の目標は、現在の巨大な市場シェアと莫大な利潤、そして名声やイメージを維持し、ナンバーワンの地位をがっちり防衛し続けることです。
動画は、リーダーの基本戦略を次のように整理します。
| 戦略 | 中身 | 動画のたとえ |
|---|---|---|
| フルカバレッジ(フルライン化) | 豊富な資源を全方位に投入し、市場のあらゆるニーズを自社でカバーする | アパレルで、数千円の若者向けファストブランドから数十万円の富裕層向け高級ライン、スポーツウェア、ビジネススーツまで自社グループで揃える。市場というピザを端から端まで自社のトッピングで覆い尽くす |
| 周辺需要拡大 | 他社から小さなシェアを奪うより、市場全体(パイ)を大きくする | すでにピザの6割を食べているなら、残りのスライスを争うよりピザ自体を巨大化したほうが手っ取り早い |
| 同質化 | ライバルが新しいトレンドや新製品を出したら、すぐ同様の製品を売り出す | 全方位に築いた巨大な城壁。抜け道を見つけられても、莫大な資金ですぐ同じ道を作り、より分厚い壁で塞ぐ |
| 非価格対応 | 下位企業の安売り競争には、絶対に応じない | (次の節で詳しく見ます) |
(補足:動画にない話です。リーダーの定石には、このほかに、シェアを取りすぎず適正な水準を保つ最適シェア維持が挙げられることがあります。)
たとえ話:城壁とピザ
リーダーは、市場という大きなピザの6割を持つ王様です。持っている資源が大きいからこそ、ピザそのものを大きくしたり、ライバルの新しい抜け道に同じ道と分厚い壁をすぐ作ったりできます。逆にいえば、これは量と質の両方があるリーダーだけに許された技です。
でも、ライバルが画期的な新製品を出して急に人気になったら、王者でも少しは焦るんじゃないですか。
そこで発動するのが同質化です。リーダーは圧倒的な開発力と資本力を使って、すぐ同様の製品を売り出します。新しいアイデアを生み出すには莫大なコストとリスクがかかりますが、リーダーは他の企業に実験をやらせて、うまくいきそうならすぐに模倣するんです。
うわあ、えげつないですね。
そして圧倒的な販売網で押し潰します。それができるだけの量と質を持っているからこそ可能な技ですね。
リーダーは、なぜ安売りに乗らないのか
ここで聞き手が、もっともな疑問を挟みます。「質や開発スピードで王者に勝てない下位の企業が、利益度外視の超安売りで仕掛けてきたら、資金力のある王者は同じ値下げで相手の息の根を止められるのでは」。ところが動画は、リーダーは価格面で下位企業の安売り競争に応じてはいけない、つまり非価格対応を取るべきだと言います。
え、なぜですか。資金力で叩き潰せばいいのに。
経済のメカニズムを考えてみてください。リーダーは市場の60%のシェアを持っていて、下位企業は5%だとします。下位企業が10%値下げして、リーダーも付き合って全品を10%値下げしたらどうなるでしょう。
リーダーは市場の60%分の利益を、一瞬にして減らしてしまうんですね。
一方、下位企業はもともと5%しか売っていないので、失う利益は知れています。価格競争に付き合うと、圧倒的にリーダーの方が大出血を起こすんです。
(補足:図の数字は動画の例を単純化したものです。実際には値下げで販売数量が変わることもあり、ここでは「同じ数量を売る」と仮定した目減りの比較です。)
安売りは、せっかく築いた名声やブランドイメージまで壊してしまいます。王者だからこそ失うものが大きすぎて、価格競争には自ら足を踏み入れられないのです。そこでリーダーは、価格を維持したまま、次のように対応します。
- 価格:値下げに応じず維持する(非価格対応)。
- チャネル:できるだけ幅広い販路を使う開放的チャネルで、どこでも買える状態にする。
- プロモーション:マスメディアなどを使い、市場全体へ訴求して王者の地位を保つ。
チャレンジャー:量はあっても質で一歩及ばない
次は、リーダーの城に挑む2番手のチャレンジャーです。豊富な資金や人といった経営資源の量は持っているものの、ブランド力や特許技術といった質の面でリーダーに一歩及ばない企業が取る戦略です。目標は明確で、市場シェアを拡大し、最終的にはリーダーの地位を奪い取ることです。
資金はあっても、決定的な武器で負けている。しかもリーダーは、新しいことをしても同質化ですぐ塞ぐし、価格競争にも乗ってこない。どうやってこの難攻不落の城を崩すんですか。
正面から全方位でぶつかっても勝ち目はありません。そこでチャレンジャーはセミフルカバレッジ戦略を取ります。市場全体を均等に狙うのではなく、市場の主要な部分や大多数の顧客をターゲットにして、巨大な経営資源をそこに集中させるんです。
城全体を相手にするのではなく、東の門だけに全兵力を集中して突破口を開く、ゲリラ戦みたいなアプローチですね。
いい例えです。ただ、それだけだとリーダーに同質化されてしまうので、さらに大事なのが差別化です。単に違うものを作るのではなく、リーダーが取りたくても取れないような思い切った製品戦略や価格戦略を取ります。
「リーダーが取りたくても取れない」とはどういうことか。動画の例で見てみましょう。リーダー企業は長年かけて、高品質で保守的、上品なブランドというイメージを作り、多くの大衆客を獲得してきたとします。そこでチャレンジャーは、あえて極端にエッジの効いた、一部の熱狂的な若者だけが喜ぶ奇抜なデザインで勝負に出ます。
リーダーがこれを真似して奇抜なデザインを出せば、自社の保守的で上品なイメージが崩れ、これまで買ってくれていた大衆客が離れてしまいます。リーダーは守るべきものが大きすぎるため、自己否定につながる極端な方向転換は、構造上できないのです。チャレンジャーはこの弱点を狙い、資源を集中して差別化を行うことで、確実にシェアを削り取っていきます。王者の強さがそのまま弱点になる仕組みを見つけるわけです。
試験の注目点
チャレンジャーのキーワードはセミフルカバレッジと、リーダーにできない差別化です。リーダーの全方位(フルカバレッジ)との違いを、「主要な部分への集中」で押さえましょう。
ニッチャー:小さな池でいちばん大きな魚になる
では、そもそも資源の量が少ない企業はどうすればよいのでしょうか。3つ目のポジションがニッチャーです。経営資源の質は高いものの量は小さい企業が取る戦略で、独自の技術や専門知識を持つ企業をイメージしてください。当然、大企業のように市場全体で戦うことはできません。主戦場は、採算が低いために大手が扱わない分野や、リーダーが気づいていない分野です。目標は、戦略的に絞った特定市場で、利潤と名声・イメージを高めることです。
ニッチャー戦略の本質は、広い海で巨大なサメと同じ餌を奪い合うのではなく、自分たちしかいない小さな池を見つけて、そこでいちばん大きな魚になることです。具体的には、特定の市場やセグメントに経営資源を集中させ、その市場の中ではあたかもリーダー企業のように振る舞うミニリーダー政策を取ります。
でも、その小さな池でニッチャーがすごく儲かっているのを見つけたら、結局サメが乗り込んできて食い荒らしませんか。
普通に考えればそう思いますよね。でも、そう簡単にはいかない構造的な理由があります。リーダー企業は巨大な工場や巨大な流通網という、大きな固定費を抱えています。年商10億円しか売れないけれど利益率の高い市場があっても、巨大企業が参入しようとすると、社内の調整やシステムの変更だけで数十億円かかってしまい、採算が合いません。
サメは体が大きすぎて池に入れないし、入っても得られるカロリーが少なすぎて餓死してしまうんですね。
ええ。でも小さな魚のニッチャーにとっては、その10億円の池は十分すぎるほど豊かで、大成功になるんです。
技術力や独自のノウハウという質さえあれば、規模は小さくても特定の領域で圧倒的な支配者になれる、というのが動画のメッセージです。もし自社が業界最大手でないなら、自分がミニリーダーになれる小さな池はどこにあるのかを探す視点が大切になります。
(補足:動画にない話です。ニッチャーが守られるには、市場がほかの企業にとって魅力的でないほど小さいことや、ほかの企業が思いつかないセグメンテーションを行うことが大切だと整理されます。)
フォロワー:現状維持で、確実に生き残る
最後の4つ目は、予算や人材といった量もなく、特許やブランドといった質も持たない、まさに手ぶらのような企業、フォロワーです。フォロワーはリーダーに決して挑戦せず、現状維持を狙います。最大の目標は、市場に生存するための利潤を得ることです。
挑戦しないで現状維持が目標というと、ビジネスとしては少し消極的で、夢がないように聞こえます。
響きは地味かもしれませんが、これは非常に合理的でしたたかな戦略なんです。持たざる者が無理な戦いを挑んで市場から退場させられるより、確実に生き残る道を選ぶのはビジネスの鉄則です。
基本戦略は、特に中価格から低価格の、経済性を重視するセグメントを狙って、リーダーに追随することです。場合によっては積極的に模倣したうえで、低価格を図ります。
ちょっと待ってください。積極的に模倣するって、コピー商品を作るということですか。それが長期的な戦略として成り立つんでしょうか。
誤解されやすいポイントですが、違法なコピー商品を作れと言っているわけではありません。ここでの模倣とは、リーダーが莫大な研究開発費をかけて見つけ出した、消費者が本当に求めている機能や、最適解の考え方を取り入れるということです。
トップ企業が莫大なコストをかけて切り開いた安全な道を、後ろからついていくわけですね。全部を自前で開発するリスクとコストを避けて、利益を確保する。
その通りです。市場には、ブランドにこだわらないから同じような機能のものを少しでも安く買いたい、という層が常にいます。フォロワーはそこを淡々と満たすんです。最も現実的でしたたかな生存といえるかもしれません。
(補足:動画にない話です。大学の講義資料では、フォロワーの定石を「リーダーのマーケティング・ミックスを一ランク落として模倣する」と整理し、徹底したコスト削減が欠かせないとしています。)
まとめ:自社の立ち位置を知ることが第一歩
ここまで見てきた4つのポジションを、動画の内容で一覧にします。単に頑張るとか、いいものを作るとかではなく、経営資源の量と質の2つの軸で自社の現状を冷静に分析し、どこに位置づけられるかを把握することが、正しい戦略を選ぶ第一歩です。
| ポジション | 量・質 | 目標 | キーワード |
|---|---|---|---|
| リーダー | 量も質も大きい | シェア・利潤・名声を維持し、ナンバーワンを防衛する | フルカバレッジ、周辺需要拡大、同質化、非価格対応、開放的チャネル |
| チャレンジャー | 量は大きいが質は劣る | シェアを拡大し、リーダーの地位を奪う | セミフルカバレッジ、リーダーにできない差別化 |
| ニッチャー | 質は高いが量は小さい | 特定市場で利潤と名声・イメージを高める | 集中、ミニリーダー政策 |
| フォロワー | 量も質も小さい | 生存のための利潤を得る | 現状維持、追随、模倣、低価格 |
試験の注目点
- 4つのポジションは、量と質の組み合わせから言えるようにしておく(チャレンジャーは量が大きく質が劣る、ニッチャーは質が高く量が小さい)。
- リーダーはフルカバレッジ・周辺需要拡大・同質化・非価格対応、チャレンジャーはセミフルカバレッジ・差別化、ニッチャーは集中、フォロワーは模倣と結びつける。
- 非価格対応の理由は、価格競争に付き合うと、シェアの大きいリーダーほど失う額が大きいから。
自社の立ち位置を間違えたまま戦いを挑むことほど危険なことはありません。このフレームワークを通してビジネスの世界を眺めると、各企業の動きやニュースの裏にある「なぜその戦略を取ったのか」が、クリアに見えてくるはずです。
動画の最後は、リスナーへの問いかけで終わります。もしAIなどの革新的なテクノロジーによって、資源の少ない小さな企業が一夜にして情報的資源の質を爆発的に高めたら、どうなるでしょうか。彼らはニッチャーのままとどまるのか、それとも一気にリーダーの座を奪いに行くのか。ビジネスの勢力図が劇的に塗り変わる瞬間は、すぐそこまで来ているのかもしれません。あなたなら、その変化にどう立ち向かいますか。
動画で聞く
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