CSR・ESG・M&A防衛策を図解で完全攻略
企業経営理論 第11回
「あなたが何十年もかけて、血と汗と涙の結晶としてある企業を育て上げたとします。なのに顔も見たことのない投資家グループがやってきて、あなたを会社から追い出して乗っ取ってしまう」。動画はこんな想像から始まります。このページでは動画の流れにそって、CSR・ESG・SDGs・CSV、コーポレートガバナンス、ファミリービジネス、提携とM&A、買収の手法と防衛策をまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
「善良な市民」と「飲み込む側」、企業の二つの顔
動画は、こんな想像から始まります。あなたが何十年もかけて、血と汗と涙の結晶として育てた会社があるとします。そこへ顔も見たことのない投資家グループがやってきて、あなたの会社の資産を担保に銀行からお金を借り、あなた自身を追い出して会社を乗っ取ってしまう。映画の悪役のような話ですが、実は現代のビジネスの最前線では、合法的な戦術として実際に起きている、と講師は言います。
ところが一方で、今の企業は環境を守り、社会問題の解決にも取り組む善良な市民であることを強く求められています。社会に貢献する倫理的な存在でありながら、競合を飲み込んででも成長しなければならない。動画はこの「ジキルとハイド」のような二面性を、前半の社会的責任と、後半の外部組織との連携(M&A)という二本立てで見ていきます。
- CSR・ESG・SDGs・CSV:企業が社会に果たす責任と、その物差し。
- コーポレートガバナンス:経営者の暴走を内側から止める仕組み。
- ファミリービジネス:経営と所有が同じ家族にある会社の強みと弱み。
- 提携・合弁・M&A:外の力を取り込んで成長する方法と、その手法・防衛策。
CSR:利益だけでなく、すべての関係者への責任
CSR(企業の社会的責任)とは、利益の追求だけでなく、企業活動が社会に与える影響に責任を持ち、消費者・投資家・社会全体といったすべてのステークホルダー(利害関係者)の要求に対して、適切な意思決定を行うことです。言葉自体は昔からありますが、最近はこれに関連して、投資家の関心が劇的に高まっているキーワードがあります。
ESGはニュースでよく見ますけど、正直、企業の「やってますアピール」に見えることもあります。
そこが誤解されやすいところです。ESGは、環境(Environment)・社会(Social)・統治(Governance)という3つの非財務情報のこと。いまは、これを企業評価に取り入れて投資する動きが主流で、投資家にとってはきわめて冷徹なリスクの物差しなんです。
つまり、地球に優しいから投資するのではなく、環境に配慮しない企業は将来やばいから投資しない、と。
その通りです。環境保護を怠れば、将来巨額のコストがかかるかもしれない。労働環境が劣悪なら人材が流出する。ESGを軽視する企業は、時限爆弾を抱えているようなものです。道徳の話ではなく、生き残りの話なんですね。
この流れの先にあるのがインパクト投資です。経済的なリターンと並行して、社会や環境にポジティブな影響(インパクト)を生み出す企業に投資するもので、投資収益にとどまらず社会課題の解決を目指す点が特徴です。そこにさらに圧力をかけるのがSDGs(持続可能な開発目標)。17のゴールと169のターゲットからなる国際的な基準で、企業の事業活動に大きな影響を与えています。
もう一つ、似たアルファベットで紛らわしいのがCSV(Creating Shared Value)です。社会課題に取り組むことで社会的価値を創造し、その結果として経済的価値も創造される、という考え方です。CSRよりもう一歩踏み込み、社会課題の解決と事業活動そのものを強く結びつけます。「ビジネスモデルの根っこに社会貢献を組み込む」と覚えてください。
(補足:動画にない話です。CSVは、マイケル・ポーターとマーク・クラマーが2011年にハーバード・ビジネス・レビュー誌で提唱した概念です。)
| 用語 | 中身(ひとこと) |
|---|---|
| CSR | すべてのステークホルダーへの責任を果たす(社会への責任) |
| ESG | 環境・社会・統治の非財務情報(投資家の物差し) |
| インパクト投資 | リターンと、社会・環境への良い影響を両立(狙って生む) |
| SDGs | 17ゴール・169ターゲットの国際基準(世界共通の目標) |
| CSV | 社会的価値の創造が経済的価値につながる(事業と一体) |
試験の注目点
- ESGの3つは環境・社会・統治。財務諸表に出てこない非財務情報で、投資家が企業評価に使う。
- CSRとCSVの違いは、CSVが社会課題の解決と事業を結びつけ、経済的価値も生む点。
- SDGsは17ゴール・169ターゲット。数字は聞かれやすい。
コーポレートガバナンス:ブレーキがあるから、アクセルを踏める
企業が社会的責任を果たそうとするなら、経営者が暴走しないための内側のルールも欠かせません。企業を内側から律する仕組みがコーポレートガバナンス(企業統治)です。目的は、企業の不祥事を防ぐとともに、収益力を強化するために、経営者のマネジメントをチェック・監視することです。
ビジネス書では「ガバナンスは車のブレーキ」とよく言いますよね。
比喩としてとても分かりやすいですね。しっかりしたブレーキがあるから、安心して収益力というアクセルを踏める。守りのためだけでなく、攻めを支える仕組みでもあります。
具体的な手段は、社外取締役の設置、委員会を置く会社形態の採用、そして内部統制の強化などです。
(補足:動画の「委員会設置会社」は旧称です。現在の会社法では指名委員会等設置会社(指名・監査・報酬の3委員会を置く会社)といい、別に監査等委員会設置会社もあります。社外取締役は、その会社や子会社の業務執行取締役等でなく、就任前10年間もそうでなかった人、など会社法に定められた要件を満たす取締役です。)
上場企業には「コーポレートガバナンス・コード」というガイドラインが適用されると聞きました。でも法的拘束力はないのでしょう? 都合が悪いときは無視する経営者もいそうです。
確かに法的拘束力はありません。ただ、無視すれば投資家から「この会社は規律がない」と見なされて、資金を引き上げられるおそれがあります。実質的な強制力はかなり強いんですよ。
法律より、市場のペナルティのほうが怖いわけですね。
(補足:このコードは「コンプライ・オア・エクスプレイン」という手法をとります。原則を実施するか、実施しないならその理由を説明するか、のどちらかです。2015年6月から適用が始まり、その後も改訂されています。)
企業は本業以外でも社会に貢献します。寄付行為などの社会貢献活動をフィランソロピー、収益の一部を文化活動の支援などに還元することをメセナといいます。
ファミリービジネス:強みも弱みもはっきりしている
経営者と株主が全員同じ家族だったらどうなるか。いわゆるファミリービジネス(日本ではオーナー企業、同族企業とも呼ばれます)です。メリットとデメリットが、極めてはっきりしています。
| 内容 | |
|---|---|
| メリット | 長期的な視点で経営できる/所有と経営が一致しているので、意思決定がきわめて迅速 |
| デメリット | オーナーによる公私混同や独善的な経営が行われやすい/経営者の候補が一族に限られやすい |
家族旅行の行き先を決めるみたいなスピード感で「事業をやるぞ」と決められる、ということですね。
そうです。ただ裏返すと、お父さんのワンマンになりがちで、優秀な人が外部にいても血縁が優先されてしまう。
家族の愛憎とビジネスの利害が絡んだら、人間関係が泥沼になりそうです。どう整理するんですか?
そこで使われるのがスリーサークルモデルです。ファミリービジネスの問題解決に使われる考え方で、構成要素を所有(オーナーシップ)・事業(ビジネス)・家族(ファミリー)の3つのサブシステムに分けます。
3つの円はベン図のように重なっています。関係者が円のどこに立っているかによって、物の見方や利害関係が変わります。だから、まずお互いの立ち位置を把握することが解決の第一歩になります。感情的な対立を、客観的な構造として整理するわけです。
(補足:3つの円が重なると、立場は全部で7通りになります。たとえば「家族だが株主でも社員でもない」「株主で社員だが家族ではない」など。このモデルはタギウリとデイビスの研究で知られています。)
外部組織との連携:提携・合弁・M&A
自前の資源だけでは限界が来ます。成長を一気に加速するには、外部組織との連携や統合が欠かせません。形式は大きく3つです。
| 形式 | 中身 |
|---|---|
| M&A | 合併・買収。経営権が移る |
| 合弁 | 経営権は移転せず、複数社が共同出資する |
| 戦略的提携 | 契約にもとづく協力関係。協調と競争が並存する(アライアンス) |
統合の方向性としては、サプライチェーンをつなぐ垂直的統合と、同業種同士が統合する水平的統合に分けられます。
戦略的提携:手軽だが、相手は思い通りにならない
戦略的提携は、基本的に内部開発のコストが提携のコストよりも大きいときに選ばれます。
| メリット | デメリット |
|---|---|
| 企業の独立性を維持できる/新しい分野に低コストで参入できる/組織文化の調整コストがかからない | 提携は解消しやすい分、解消後に技術が流出するリスクがある/提携先をコントロールするのが困難 |
M&A:お金で時間を買う
相手の資源を確実に取り込んで一気にスピードアップしたいなら、M&Aです。最大のメリットは時間を費用で代替する効果、つまりお金で時間を買えることです。既存の事業を買うので短期間でスピーディに展開でき、自社の弱みを効率よく補強できます。
- 同業種のM&A:規模の経済と経験曲線効果が期待できる。
- 異業種のM&A:範囲の経済の獲得と、リスク分散が期待できる。
でも買収は魔法の杖ではないですよね。失敗のニュースもよく見ます。
デメリットは3つあります。1つ目は、短期間で意思決定するのでデューデリジェンス(事前調査)が不十分になりがちなこと。買ってみたらやばい会社だった、ということが起きます。
2つ目は?
統合によって、近隣エリアに自社の店舗が複数重複するなど、経営資源の無駄が出るおそれがあること。そして3つ目が、組織文化の違いで統合がスムーズにいかず、統合コストが発生したり、人材が流出したりするおそれです。
試験の注目点
- 提携は独立性を保てるが、技術流出とコントロールの難しさが弱点。M&Aは速いが、事前調査不足・重複・文化の違いが弱点。
- 同業種M&Aは規模の経済・経験曲線効果、異業種M&Aは範囲の経済・リスク分散と対応させて覚える。
M&Aの手法:TOB・MBO・MBI・LBO
M&Aの代表的な手法は、「誰が買うのか」「どうやって資金を作るのか」で整理しましょう。
TOB(株式公開買付け)は、価格・株数・期間を公開して、市場を通さず直接株主から買う手法です。「今の株価より高く買うから売ってくれ」と持ちかけるイメージです。MBO(マネジメント・バイアウト)は現経営陣が自ら事業を買い取って経営権を取得する手法、MBI(マネジメント・バイイン)は逆に外部の経営陣が経営権を取得して乗り込んでくる手法です。
そして冒頭の恐ろしい話にあたるのがLBO(レバレッジド・バイアウト)です。買収対象企業の資産などを担保にして資金を調達し、そのお金で買収を行う、非常にアグレッシブな手法です。つまり、これから買う相手の会社の価値を担保にして借金をするわけです。
(補足:TOBは金融商品取引法の制度です。市場外で株式を買い付けて、買付け後の所有割合が5%を超える場合などは、公開買付けによることが求められます。)
敵対的買収への防衛策:黄金株とポイズンピル
自分が敵対的買収を仕掛けられたら、どう身を守るか。そこで登場するのが買収防衛策です。動画は2つを紹介します。
1つ目は黄金株です。重要な決議事項について、株主総会で拒否権を持つ特殊な株式のことで、これを持つ人は乗っ取りをストップできます。
(補足:黄金株は会社法上、拒否権付種類株式といいます。株主総会などで決議すべき事項について、その種類株主による種類株主総会の決議も必要とする株式で、会社法108条1項8号に根拠があります。)
2つ目はポイズンピル(毒薬条項)です。自社の既存株主に、事前に新株予約権を発行しておく買収防衛策です。
毒薬ってすごい名前ですが、どういうことですか?
敵対的な買収者が株を買い占めようとしたとき、ほかの株主に新株を大量に発行して、買収者の持ち株比率を強制的に薄めてしまうんです。
ピザを買い占めようとしたら、ピザが粉々に分裂して一切れの価値が薄まる感じですね。買収者にとってはまさに毒薬だ。
よくできたシステムなんです。
(補足:ポイズンピルは、会社法の新株予約権無償割当て(277条)を使います。株主に払込みなしで新株予約権を割り当てる仕組みで、割当ては持ち株数に応じるのが原則です。そのうえで、買収者だけは行使できない、といった条件をつけるのが典型です。ブルドックソース事件では、株主総会で8割超の賛成を得て、買収者には株式の代わりに金銭を渡す形の防衛策がとられ、最高裁は差止めを認めませんでした。)
試験の注目点
- 黄金株は拒否権、ポイズンピルは新株予約権で買収者の持ち株比率を薄める。用語と効果を結びつける。
- MBOは現経営陣が買う、MBIは外部の経営陣が買う、LBOは買う相手の資産を担保に借金して買う。
まとめ:成長のアクセルと倫理のブレーキ
- ESGは環境・社会・統治の非財務情報で、投資家のリスクの物差し。SDGsは17ゴール・169ターゲット。CSVは社会課題の解決で経済的価値も生む。
- コーポレートガバナンスは経営者を監視する仕組み。ガバナンス・コードに法的拘束力はないが、市場の目が実質的な強制力になる。
- ファミリービジネスは意思決定が速く長期視点だが、公私混同や一族への偏りが弱点。整理にはスリーサークルモデル。
- 提携は独立性を保てるが技術流出リスクがあり、M&Aは時間を買えるがデューデリジェンス不足などの弱点がある。
- 買収手法はTOB・MBO・MBI・LBO、防衛策は黄金株とポイズンピル。
動画の最後の問いかけです。SDGsやESGのように倫理的な責任を追求することと、M&Aで時間をお金で買い、他社を飲み込んで急成長を求めること。この2つは、組織の中で激しい矛盾を生みます。あなたが経営トップで、株主の成長要求と社会の倫理的要請の板挟みになったら、どちらのアクセルをどう踏むでしょうか。次にビジネスニュースを見るときは、その背後にある経営者のジレンマを想像してみてください。
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