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事業部制組織の強みと落とし穴を図解で完全攻略

企業経営理論 第15回

企業経営理論・組織論 00113分7秒2026年5月5日公開

「あなたが、何千人もの従業員を抱える巨大企業のトップ、CEOだとします。月曜日の朝、デスクには決裁を待つ書類の山」。動画はこんな想像から始まります。このページでは動画の流れにそって、事業部制組織の基本の形と事業部の分け方、3つの強み、3つの落とし穴、そして強みと落とし穴が同じ仕組みの表と裏であることをまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。

書類の山に埋もれた社長を救うには

「あなたが、何千人もの従業員を抱える巨大企業のトップ、CEOだとします」。動画は、こんな想像から始まります。月曜日の朝に出社すると、机には決裁を待つ書類の山。スマートフォンの開発チームからは「新しい部品を100万個発注していいか」、ノートパソコンのチームからは「来月の広告予算を倍にしてほしい」と、現場の細かな確認が、次から次へとトップに上がってきます。

日々の決断に飲み込まれてしまうと、会社が数年後にどこへ向かうべきかという、トップにしかできない大事な戦略を考える時間がなくなってしまいます。この身動きの取れない状態から抜け出す答えが、権限と責任を切り分けるというアプローチです。巨大になりすぎた組織を、ひとつのルールで支配しようとするから、トップがパンクしてしまうわけです。

では、どう切り分けるのか。聞き手の言葉を借りれば、巨大な組織を「自己完結できる小さな独立国の集まり」のように分割するのです。この考え方で作られた組織形態が、一定以上の規模の企業でよく見られる事業部制組織です。動画は、言葉の暗記ではなく、「なぜこういう形になり、どんな影響が出るのか」という因果関係をたどっていきます。このページも、その流れにそって進めます。

事業部制組織の基本の形

基本の形はシンプルです。経営トップの下に、事業の特性ごとに分かれた事業部が並びます。そして、ここがいちばん大事なポイントですが、各事業部の中に、製造や営業といった機能別部門が丸ごと置かれます。ビジネスに必要な機能が、全部ひとつの事業部の中に揃っているのです。

経営トップ事業部A製造部門営業部門開発部門事業部B製造部門営業部門開発部門事業部C製造部門営業部門開発部門各事業部が機能別部門を丸ごと持つ(作る・売るまで事業部の中で完結)
事業部ごとに、作る部門も売る部門も、ひととおり揃っています。

動画は、この「機能が事業部の中に揃っている」という事実が、あとで出てくるメリットとデメリットのすべての出発点になる、と強調します。ぜひ頭の片隅に置いたまま読み進めてください。

ちなみに、会社全体を営業・製造・経理といった仕事の種類ごとに分ける職能別組織では、各部門の上にいるのはトップだけで、最終的な判断はトップに集まります。それに対して事業部制組織では、判断の多くが事業部の中で完結します。ここが、両者の大きな違いです。

事業部の切り分け方は、製品だけではない

「事業の特性ごとに分ける」と聞くと、多くの人は、テレビ事業部や冷蔵庫事業部のように、製品ごとに分けるイメージを持つはずです。製品別の区分は確かに代表的ですが、動画は、現場ではもっと多様な基準で分けることもあると説明します。

  • 製品別:テレビ事業部、冷蔵庫事業部のように、扱う製品で分ける。
  • 市場・顧客別:製品が同じでも、買い手で分ける。たとえばパソコンを売る会社なら、個人の学生に売るのか、何千台も一括で導入する大企業に売るのかで、売り方もサポートの質もまるで違います。そこで、個人顧客事業部と法人顧客事業部に分けます。
  • 地域別:北米事業部、アジア事業部のように、売る場所で分ける。
製品別テレビ事業部冷蔵庫事業部市場・顧客別個人顧客事業部法人顧客事業部地域別北米事業部アジア事業部
事業部の切り口は、製品だけではありません。

売る相手や場所が違えば、戦い方も変わります。だからそれに特化した部隊を作る、という発想です。結果として、ひとつの大きな会社の中に、作って売るところまで自分たちで完結できる「小さな会社」がいくつも入っているような姿になります。動画は、この自己完結性こそが事業部制組織の最大の武器だと述べます。

ひとつの大きな会社の中に、作って売るところまで自分たちで完結できる小さな会社が、いくつも入っているようなものですね。

ええ、そう考えるのがいちばん自然です。事業部の中に必要な機能別部門を抱えているので、事業部という枠組みの中でビジネスを回せるのです。

(補足:動画にない話です。事業部制は、歴史的にはアメリカのデュポン社やゼネラルモーターズ(GM)など、1920年代の大企業が、事業の多角化と規模の拡大に合わせて採用した組織として知られています。経営史家のチャンドラーは、この過程を詳しく調べ、「組織は戦略に従う」という名言を残しました。日本では、1933年に松下電器(現パナソニック)が、製品分野別に3つの事業部を置き、開発から生産、販売、収支にいたるまで一貫して責任を持たせる事業部制を導入しています。)

強み1:トップは戦略に、現場はスピードに

では、この自己完結した小さな会社を作ることが、冒頭の書類の山に埋もれたCEOをどう救うのでしょうか。動画は、トップと現場に見事な役割分担が生まれる、と説明します。

事業運営に関する日々の意思決定が、すべて各事業部で行われるようになります。部品の発注も、広告予算の承認も、その事業部のトップが自分で決めてよい。CEOの机から、細かい決裁書類が消えるわけです。その結果、経営トップは日常の業務から手を引いて、全社的な戦略に集中できます。これが1つ目のメリットです。

そして、本社の承認待ちがなくなるということは、現場のスピードも上がるということです。これが2つ目のメリットで、各事業部が現場の状況に応じて、迅速に対応できるようになります。いちいち本社にお伺いを立てていたら、その間にライバル会社にシェアを奪われてしまいます。トップは未来の戦略を描き、現場は今の変化に即座に対応する。動画は、この役割分担を「非常に理にかなっている」と述べます。

(補足:動画では「事業運営の判断は全部その事業部のトップが決めていい」と語られますが、実際の会社では、事業部に渡される権限は、事業運営に必要な範囲に限られるのがふつうです。人事や財産の管理、大きな投資といった権限は、本社に残ることが多いとされます。権限がもっと大きく委ねられると、カンパニー制と呼ばれる形になります。事業部制は、権限の移し方にいくつか段階があるうちの、ひとつと考えてください。)

強み2:やる気と、未来の経営者を育てる力

事業部制の効果は、業務の効率化やスピードアップだけではありません。動画によれば、人の心理にも働きかけます。事業運営の権限が各事業部に委譲されるため、管理職のモチベーションが高まり、それが将来の経営を担う人材の育成につながるのです。これが3つ目のメリットです。

ここで聞き手は、もっともな疑問を挟みます。「今日からお前が、作るのも売るのも全責任を持て、と言われたら、プレッシャーで逃げ出したくなりませんか。どうしてそれがやる気になるのですか」。

権限をドーンと渡されるというと響きはいいですけど、全責任を持てと言われたら、プレッシャーで押しつぶされそうです。どうしてモチベーション向上になるのですか。

強烈なプレッシャーは伴います。でもそれ以上に、自分の意思でビジネスを動かしているという手触り感が、やりがいを生むのです。

動画は、こう説明します。たとえば営業部長だけなら、コントロールできるのは「どう売るか」だけです。製品の質が悪ければ、「製造部門のせいだ」と言い訳もできてしまいます。しかし事業部のトップになれば、製造も営業も自分の指揮下にあります。全体像を自分で描いて実行できる、この裁量の大きさが、圧倒的なモチベーションを生むのです。言い訳ができない代わりに、成功したときの達成感は計り知れません。いわば、ひとつのエンジンそのものになる感覚です。

しかも、自分で考え、決断し、結果に責任を持つというプロセスは、まさに経営者が日々やっていることと同じです。いきなり会社全体のCEOにするのではなく、まず事業部という小さな会社で、経営者としての経験を積ませる。だから事業部制は、将来の経営人材の育成に適しているのです。

(補足:松下電器の事業部制の狙いについて、松下幸之助は「自主責任経営の徹底と経営者の育成にあった」と述べたと、パナソニックの公式の記事に紹介されています。動画の言う「経営人材の育成」は、事業部制が日本で始まった当初からの狙いのひとつでもあったわけです。)

ここまでの強み3つ

  • トップが全社的な戦略に集中できる:日々の業務の判断を事業部に任せるから。
  • 現場が迅速に対応できる:本社の承認待ちが減るから。
  • 管理職のモチベーションが上がり、経営人材が育つ:事業の全体を自分で動かす経験を積めるから。

ここまでだと「ユートピア」に見える

トップは戦略に集中し、現場は素早く動き、おまけに未来の経営者まで育っていく。ここまでの話なら、すべての企業が事業部制にすべきだと思えてきます。動画の聞き手も「もうユートピアではないか」と言います。けれども、ビジネスの世界に魔法はありません。光が強ければ、影も濃くなります。この完璧に見える構造が、実は厄介なデメリットを生むのです。

落とし穴1:機能の重複とコスト増

1つ目のデメリットは、機能の重複による経営資源の無駄と、それに伴うコストの増加です。事業部ごとに機能別部門を設けるから、という点が出発点です。

個人顧客事業部と法人顧客事業部という、2つの独立した「国」を思い出してください。個人向けの中にも製造と営業があり、法人向けの中にも、まったく別の製造と営業があります。会社全体で見れば、工場も営業チームも2つずつ存在することになります。

事業部ごとに持つ場合個人向けの工場法人向けの工場片方が空いていても融通できないコストが増えやすい全社で1つ持つ場合共有の工場ラインが空けば他の製品も作れる1つの財布でやりくりできる無駄が少ない
事業部ごとに自前で持つほど、全社の効率は落ちやすくなります。

もし会社全体でひとつの工場を持っていれば、法人向けのラインが空いている時に、個人向けの製品を作るといった融通が利きます。ひとつの財布でやりくりすれば無駄がありません。ところが、事業部として独立していると、それぞれが自分たち専用の工場やシステムを持ちたがります。これが経営資源の無駄の原因であり、コストが増えやすい構造的な弱点です。スピードと自己完結を手に入れる代償として、全社的な効率が犠牲になるわけです。

落とし穴2:短期思考

物理的なコスト以上に厄介なのが、心理的な罠です。動画が挙げる残り2つのデメリット、短期思考とセクショナリズムは、実はメリットで挙げたモチベーション向上と、完全に表裏一体です。

まず短期思考です。各事業部が短期的な利益を優先しがちになり、中長期的な視点での施策が実行されにくくなるのです。聞き手は、ここで矛盾を感じます。事業部のトップは、未来の経営者候補のはずです。それなら中長期的な決断をしてくれそうなものなのに、と。

落とし穴は、彼らがどう評価されるかという構造にあります。強大な権限を渡される代わりに、「今期いくら利益を出したか」という数字で、厳しく評価されるからです。動画は、こんな例を出します。任期が3年だとして、5年後に花開くかもしれない研究開発に、今年の予算を大きくつぎ込めるでしょうか。そうすれば今の利益は減りますし、成果が出るころには、別の部署に異動しているかもしれません。

自分が評価される間に結果が出ないのなら、研究開発費を削ってでも、今年の利益を大きく見せたくなってしまう。これが短期的な利益の優先という問題です。会社全体で見れば投資すべきタイミングなのに、誰も未来のための泥をかぶりたがらない。経営の視点を育てるはずの仕組みが、「今だけ良ければいい」という近視眼的な考えを生んでしまうのです。

落とし穴3:セクショナリズム

もうひとつの問題がセクショナリズム、つまり事業部間での排他的ななわばり意識です。同じ会社の仲間なのだから協力すればいいのに、なぜ壁ができてしまうのでしょうか。

動画の答えはこうです。各事業部は、独立した小さな会社であると同時に、限られた予算や出世のポストをめぐって競争するライバル同士でもあるからです。たとえば、ある事業部が画期的な営業ノウハウを開発したとしても、それをただで他の事業部に教えて、ライバルの成績を上げてやる義理はない、と考えてしまいます。「うちはうち、よそはよそ」となるわけです。

同じ会社の仲間なんですから、協力すればいいのにと思いますが、なぜ壁ができてしまうのですか。

各事業部は、限られた予算や出世のポストを取り合うライバルでもあるのです。仲間のはずが、敵になってしまうのです。

つまり、自己完結させるという強力なメリットを生んだ同じ構造が、他の事業部との協力を阻んでセクショナリズムを生み、さらに短期的な利益に固執させてしまいます。動画の言葉を借りれば、「すべてはひとつのメカニズムから起きている」のです。

権限を渡して独立させる強み落とし穴自己完結で素早く動ける機能が重複してコストが増える⇔大きな裁量がやる気を生む今期の利益に偏り短期思考になる⇔独立した小さな会社になれる事業部どうしがライバルになる⇔強みと落とし穴は、同じ仕組みの表と裏です。
強みと落とし穴は、別々ではなく同じ原因から生まれます。

この図のとおり、メリットとデメリットは別々にあるわけではなく、すべてつながっています。試験で、メリットとデメリットをバラバラに丸暗記するのではなく、「権限を渡して独立させるからこそ、こうなる」という論理のつながりで理解しておくと、選択肢の正誤が判断しやすくなります。

試験でのつかまえ方

  • メリットは「トップの戦略集中」「迅速な対応」「管理職のモチベーションと経営人材の育成」。デメリットは「機能の重複によるコスト増」「短期思考」「セクショナリズム」。この6つを、原因と結果の対で言えるようにしておきます。
  • 事業部の中に機能別部門が揃う(自己完結性)ことが、すべての出発点です。
  • 事業部の区分の基準は、製品別だけでなく、市場・顧客別、地域別もあります。

補足:職能別組織と並べて整理する

(補足:この節は動画にない整理です。)事業部制組織の特徴は、職能別組織と並べるとはっきりします。

比べるところ職能別組織事業部制組織
部門の分け方営業・製造・経理など、仕事の種類ごと製品・市場や顧客・地域など、事業の特性ごと
機能別部門の置き方全社で1組を共有する事業部ごとに丸ごと置く
意思決定最終的な判断がトップに集まりやすい日々の事業運営の判断は事業部で行う
効率面機能を全社で共有できて、無駄が出にくい機能が重複して、コストが増えやすい

職能別組織は、機能を全社でまとめて持つので効率はよいものの、会社が大きくなったり事業が増えたりすると、判断がトップに集まりすぎます。冒頭の「書類の山に埋もれたCEO」は、まさにその状態です。その解決策として、事業部制が選ばれる、と整理するとわかりやすいでしょう。

(補足:事業部制が選ばれやすいのは、会社の規模が大きくなって、事業の種類も増え、本社だけでは現場の判断を抱えきれなくなった場面です。反対に、規模が小さく事業がひとつだけなら、機能を共有できる職能別組織のほうが無駄は少なく済みます。どちらが優れているというより、会社の大きさや事業の数に合わせて、強みと落とし穴のどちらが重くなるかを見比べて選ぶものです。)

動画の聞き手が最後に言うとおり、組織の構造は、どう並べるかによって、そこで働く人たちの行動パターンまで変えてしまいます。事業部制では「自分の事業部の数字を良くしたい」という気持ちが自然に強くなるように、仕組みそのものが人の動きを方向づけています。メリットの面では、これが頼もしいやる気になり、デメリットの面では、全社の視点を見失う原因になるのです。

最後の問い:権限を取り上げずに、協力させるには

動画は最後に、聞き手へ考えるための問いを残します。「権限を取り上げることなく、どうすれば事業部どうしを協力させて、全社の戦略に向かって進ませることができるのでしょうか」。評価の仕組みを変えるのか、それとも社内の文化を変えるのか。動画は、これを「独立と協調のジレンマ」と呼び、絶対の正解はないので、自分なりの仮説を立てて考えてみてほしいと呼びかけます。

(補足:動画に答えはありません。考える手がかりとして、ここまでの落とし穴から逆算してみます。短期思考が評価の仕方から生まれるなら、今期の利益だけでなく、中長期の成果や全社への貢献も評価に加える方向が考えられます。セクショナリズムが「予算やポストを取り合うライバル関係」から生まれるなら、事業部をまたぐ人事異動や、共通の目標づくりで、壁を低くする方向があります。機能の重複には、共通で使える部門や設備を本社に置いて、事業部が共同で使う方法があります。どれも、事業部の自律性という強みを損なわない範囲で、のバランスが課題です。)

まとめ

事業部制組織は、市場や顧客などで分けた事業部が、製造から営業まで自己完結した小さな会社として動く組織です。その強みは、次の3つでした。

  • 経営トップが日々の判断から解放され、全社的な戦略に集中できる。
  • 各事業部が現場の状況に応じて、迅速に対応できる。
  • 権限委譲が管理職のモチベーションを高め、将来の経営を担う人材の育成にも適している。

一方で、落とし穴は次の3つでした。

  • 機能別部門の重複で、経営資源の無駄とコスト増が生じやすい。
  • 今期の利益で評価されるため、短期的な利益を優先しがちになる。
  • 事業部どうしが予算やポストを競うライバルになり、セクショナリズムが生じる。

これらは別々の話ではなく、「権限を渡して独立させる」という同じ仕組みの表と裏でした。「光と影」の構造として、まとめて理解しておきましょう。そして最後の問い、「独立と協調のジレンマ」を、ご自身の言葉で考えてみてください。

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