4つの国際経営戦略とリバースイノベーションを図解で完全攻略
企業経営理論 第14回
「数億円の予算をかけて、自社の看板製品である最新のスマート家電を、新しい国で大々的に発売したとしますよね」。動画はこんな想像から始まります。このページでは動画の流れにそって、IRフレームワークと4つの国際経営戦略、海外展開の壁、3つの優位性、リバースイノベーションをまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
同じ製品を持っていったのに、売れない?
数億円の予算をかけ、自社の看板製品である最新のスマート家電を、新しい国で大々的に発売したとします。機能もデザインも、自国で大ヒットしたものとまったく同じ。社運をかけたプロジェクトでした。ところが、いざ蓋を開けてみると全然売れません。理由は、パッケージのメインカラーが現地の文化ではとても不吉な色だったから。電圧に合わせるのを忘れていた、というレベルの話かもしれません。動画はこんなたとえ話から入ります。
世界中でまったく同じものを売って効率を極めるべきか。それとも国ごとに完全にカスタマイズするべきか。海外に事業を広げようとする誰もが直面する、究極のジレンマです。この見えない壁を整理する道具が、次の枠組みです。
IRフレームワーク:2つの軸で戦略を分ける
手がかりになるのは、インテグレーション・レスポンシブネス・フレームワーク、通称IRフレームワークです。複雑な国際経営戦略を、2つの軸でクリアに分類できます。
- グローバル統合:事業や製品をグローバル規模で標準化し、効率性を高めようとする方向性。
- ローカル適合:現地の環境やニーズにしっかり対応しようとする方向性。
たとえ:ファストフードチェーン
世界中どこの店でも同じレシピ、同じ味のハンバーガーを出すのがグローバル統合。日本の店舗限定で、現地の好みに合わせた照り焼きバーガーを開発するのがローカル適合です。聞き手が出したこのたとえに、講師も「まさにその通り」と応じています。
この2軸をそれぞれ高い・低いで組み合わせると、国際経営戦略は4つのタイプに分類されます。
(補足:動画にない話です。この枠組みの元になったのは、プラハラードとドーズが1987年の著書『The Multinational Mission』で示した、統合と適応のバランスを考える格子です。4つの類型の名づけと整理は、バートレットとゴシャールの1989年の著書『Managing Across Borders』が有名です。試験では、この2つを分けて覚える必要はありません。)
4つの国際経営戦略
グローバル型:統合が高く、適合が低い
世界を単一の市場と見なします。国ごとの違いは気にしません。本国の親会社が主導して、資産や能力を本国に集中させ、開発や生産・販売などの機能は、最も優位性のある立地で行います。現地市場への適応の必要性が低い製品、たとえば半導体や素材産業のように、機能とコストが重視される領域に向いた戦略です。
マルチナショナル型:統合が低く、適合が高い
グローバル型の真逆です。世界を、それぞれ独立した市場の集まりと見なします。各国の拠点に資産や能力を分散させ、自己完結的に活動させるのが特徴で、本国からは権限委譲を積極的に行います。そうすることで、各国の細かいニーズにしっかり対応できます。動画ではドメスティック型とも呼んでいますが、一般にはマルチドメスティック型という呼び名も使われます。
(補足:動画にない話です。呼び名は資料によって「マルチナショナル」「マルチドメスティック」と分かれます。同じタイプを指すので、どちらの名前で出ても慌てないようにしましょう。)
インターナショナル型:統合も適合も低い
聞き手は「中途半端な気がする」と言いますが、そう単純ではありません。中核的な能力は本国に置いたまま、その他の機能を分散させる戦略です。海外の拠点は、あくまで本国の親会社の能力を活用するためのもの。本国で開発した知識がそのまま海外へ移転されます。
うちのやり方でそのままやってね、という上から目線で、融通が効かない気もしますが。
そう見えるかもしれません。ただ、本国の技術やノウハウが圧倒的に進んでいる場合には、これが効果を発揮します。
なるほど。前提として、圧倒的な強みが必要なんですね。
トランスナショナル型:統合も適合も高い
言葉にするのは簡単ですが、実際にはどういう状態でしょうか。資産や能力は各拠点に分散されつつ、本社を含む各拠点が相互に依存し、専門化されています。知識は各拠点で共同開発され、世界中で共有されます。
良いとこ取りで完璧に見えますけど、言語も時差も違う世界中で、常に知識を共有するなんて可能ですか。矛盾していませんか。
まさにその通りです。理論上は理想的な戦略ですが、実現は困難とされています。
やっぱり。理想と現実は違うんですね。
4つのタイプの違いを、表にまとめます。
| タイプ | 世界の見方と | 動画の例・条件 |
|---|---|---|
| グローバル型 | 単一の市場。 | 半導体・素材など。 |
| マルチ | 独立した | 権限委譲。 |
| インター | 本国の能力を | 本国の知識を |
| トランス | 相互依存する | 知識を共同 |
試験の注目点
「統合の高低」と「適合の高低」の組み合わせから、4つのタイプを正しく結べるかが基本の出題です。グローバル型は本国集中、マルチナショナル型は分散・自己完結・権限委譲、インターナショナル型は中核能力が本国で知識を移転、トランスナショナル型は相互依存と共同開発、という対応を押さえましょう。
海外展開で立ちはだかる現実の壁
戦略の方向性が決まっても、机上の空論では済みません。動画は、現実の壁を3つ挙げます。
1つ目はカントリーリスクです。進出先の国の政治的・経済的な安定性に関わるリスクで、突然法律が変わったり、経済が不安定になったりすることを指します。対応には、現地の事情に精通した専門家や機関との連携が有効です。
2つ目は、進出先の国が外国企業の単独出資を認めない場合です。このときは単独出資をあきらめ、現地企業と一緒に会社をつくる合弁事業を検討します。そのためには、信頼できる現地パートナーとの連携が不可欠です。パートナー選びが肝になります。
パートナーを見つけたあとも、市場に浸透していくのは大変じゃないですか。
ええ。現地市場への浸透を図るには、やはり現地化が求められます。
3つ目は、パートナーが見つかったあとの市場への浸透です。ここでは現地化が求められます。現地人材に権限を委譲し、現地のニーズを反映した製品の企画・生産・販売を行うことが重要です。つまり、現地の人たちを信頼して任せる覚悟が必要になります。
(補足:動画にない話です。カントリーリスクは、国有化のような極端な事態だけではありません。経済的な要因と政治的な要因の両面から評価されるのが一般的で、政治の不安定化によって人や設備に被害が出るリスクも含まれます。)
企業が海外に出る3つの優位性
これだけリスクを背負い、現地のパートナーを探し、権限まで移すのに、企業はなぜわざわざ海外へ行くのでしょうか。動画は、企業の海外進出を後押しする要因として、3つの優位性を挙げます。
| 優位性 | 中身 | たとえ |
|---|---|---|
| 所有優位性 | ブランド力など、その企業固有の強み | 誰も真似できない秘密のレシピ |
| 立地優位性 | 労働コストの安さなど、海外に立地することに起因する強み | 家賃が安くて人通りが多い場所 |
| 内部化優位性 | 技術の流出を防ぐため、自社内で取引を行うことの強み | レシピを教えると真似されるので、自分たちで店を運営する |
誰も真似できない秘密のレシピを持っているみたいなイメージですね。立地は、家賃が安くて人通りが多い場所を見つけた感じ。
そのイメージで大丈夫です。内部化は、他人にレシピを教えると真似されてしまうので、自分たちでお店を運営する、ということになります。
そして、企業がこれら3つ全ての優位性を備えている場合、海外直接投資による進出が最も適しているとされます。海外直接投資とは、資金をしっかり投じて、現地に拠点を構えることです。
(補足:動画にない話です。この3つはダニングの折衷理論として知られます。3つがそろうと直接投資が選ばれやすい、という見方です。裏を返せば、内部化優位性がなければライセンス供与のように他社に任せる手があり、立地優位性がなければ本国から輸出すれば足ります。図の下段はこの補足です。)
試験の注目点
3つの優位性の名前と中身の対応が問われやすいところです。所有=ブランド力など固有の強み、立地=労働コストの安さなど進出先の強み、内部化=技術流出を防ぐために自社内で取引する強み。内部化を「立地」と取り違えないようにしましょう。
リバースイノベーション:情報の流れが逆流する
ここまでは、先進国の企業が海外へ進出していく流れでした。ここからが動画の面白いところです。この流れが、いま逆流し始めています。
リバースイノベーションとは、先進国の企業が、新興国や途上国の開発拠点で現地のニーズをもとに開発した製品や商品を、今度は先進国の市場に流通・展開させることです。
普通は先進国で最先端のものを作って、それを途上国に売る、と考えがちですよね。全く逆なんですね。
途上国の厳しい環境や特有のニーズに合わせて開発したものが、結果的に先進国でも全く新しい価値を持つことがあるんです。
現地の制約に合わせて削ぎ落としたり工夫したりした結果、先進国でも革新的な製品として受け入れられる。まさに常識の逆転ですね。
(補足:動画にない話です。この言葉を広めたのは、2009年にハーバード・ビジネス・レビューに載ったGEの論文だとされます。例として、中国の農村の診療所が高価な超音波装置を買えなかったため、現地チームがノートパソコンを使った安価な携帯型の装置をつくりました。それが中国で売れただけでなく、事故現場のように持ち運びが大切な場面で、先進国でも新しい使い道を開いたと紹介されています。)
まとめと、動画の最後の問いかけ
- 国際経営戦略は、グローバル統合とローカル適合の2軸で、グローバル型・マルチナショナル型・インターナショナル型・トランスナショナル型の4つに分かれる。
- 海外展開の壁は、カントリーリスク(専門家・機関と連携)、単独出資不可(合弁事業)、市場への浸透(現地化と権限委譲)。
- 進出を後押しする所有・立地・内部化の3つの優位性が全てそろうと、海外直接投資が最も適する。
- リバースイノベーションは、新興国・途上国で開発した製品を先進国市場に展開すること。
動画は最後に、こう問いかけて終わります。もし今後、新興国発のリバースイノベーションが世界の主流になっていくとしたら、先進国にある伝統的な本社の役割は、どう変わっていくべきなのでしょうか。これまで指示を出す側だった本社が、これからはプライドを捨てて学ぶ側へと変わらざるを得ないのかもしれません。あなたの組織に、その準備はできているでしょうか。
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