物流運営用語
運営管理 第9回
「中小企業診断士の一次試験に向けて日々膨大な知識と格闘しているあなた、あるいはビジネスの裏側で物がどう動いているのか、そのダイナミックな仕組みに純粋な興味を抱いているあなたへ」。動画はこんな呼びかけから、物流運営用語を一つながりのパズルとして整理していきます。このページでは動画の流れにそって、SCMとブルウィップ効果、運ぶ手段、荷物の標準化、エシェロン在庫や物流ABCまでをまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
物流は「運ぶ」だけの話ではない
物流というと、トラックで荷物をA地点からB地点へ移す作業を思い浮かべがちです。動画はそこをまず否定します。現代の物流の本質は、情報とコストをどこまで最適化できるかという戦略だ、という立場です。その大きな枠組みがSCM(サプライチェーンマネジメント)です。
SCMは、部品のサプライヤーからメーカー、卸売、そして最終的な小売までを、ITの力でつないで管理する考え方です。一部の企業だけが得をするのではなく、サプライチェーン全体としての最適化をめざします。動画は、メリットを4つに整理します。
- 調達コストの削減:在庫量と配送頻度が最適になる。
- 生産量の適正化:需要予測の精度が上がり、作りすぎや足りなさが減る。
- 供給リードタイムの短縮:情報がシームレスに流れる。
- 顧客満足(CS)の向上:柔軟な(フレキシブルな)生産体制ができる。
(補足:日本産業規格のJIS Z 0111(物流用語)には、「物流」「ロジスティクス」の定義はありますが、「サプライチェーン」「SCM」の項目はないと、日本ロジスティクスシステム協会(JILS)が冊子で述べています。SCMの説明は資料ごとに表現が少しずつ違います。)
この回は用語の数が多いので、あらかじめ地図を置いておきます。情報の共有(SCM・ブルウィップ効果)→ 物流の担い手(3PL)→ 運び方(リバース・モーダルシフト・RORO船・ミルクラン)→ 荷物の形(ユニットロード・DFL・パレット)→ 数字で見る(セービング法・エシェロン在庫・物流ABC)の順に進みます。
ブルウィップ効果:小さな需要の揺れが上流で大波になる
情報の共有が切れているとどうなるか。動画が挙げるのがブルウィップ効果です。ブルウィップは「牛追いの鞭」のこと。手元でほんの少し動かしただけなのに、鞭の先は大きくしなりますね。物流でも、末端の小売での小さな需要の変化が、上流へ行くほど増幅されて伝わり、需要予測が大きくぶれてしまいます。
動画が挙げる原因は、各段階の業者が「不安だから多めに発注しておこう」と考えることです。その思惑が積み重なって、上流のメーカーには巨大な波として届きます。防ぐには、SCMなどを使って、上流から下流まで正確な需要情報を共有することが条件になります。
みんなが少しずつ多めに頼むだけで、そんなに大きくなるんですか。
ええ。一人ひとりは合理的に動いているのに、全体では大きなむだが出る。それがこの現象のこわいところです。情報が透明になれば、波は小さくなります。
(補足:ブルウィップ効果は、Lee、Padmanabhan、Whangが1997年にMIT Sloan Management Reviewで発表した論文で広く知られるようになりました。企業が既存の仕組みの中で合理的に動いた結果として起こるので、仕組みや手順を変えて動機づけを変える必要がある、という論旨です。原因として挙げられているのは、動画の「不安から多めに発注」に近い不足時の水増し発注のほか、需要予測の更新、発注のまとめ、価格変動の4つと紹介されています(同じ著者らのManagement Science 1997年の論文についての紹介による。原典の本文は確認していません)。)
3PL:物流を第三者に任せる
サプライチェーンの最適化が進むなかで、企業は自社の役割も見直します。代表が3PL(サードパーティ・ロジスティクス)です。物流部門を第三者にアウトソーシングする方法で、単に運送をお願いするだけでなく、高度な物流サービスを受けたり、物流を効率化して費用を減らしたりする目的で使われます。「餅は餅屋」の発想で、自社はコアビジネスに集中できます。
(補足:国土交通省の発表でも、3PLは荷主から物流業務を包括的に受託して効率的なサービスを提供するもの、と説明されています。)
運ぶ方向と手段:リバース、モーダルシフト、RORO船
ふつうの物流は、生産者から消費者への流れで、動脈にたとえられます。その逆の、消費者や利用者から生産者へ向かう流れがリバースロジスティクスです。動画は「還元物流」「静脈物流」とも呼ばれると説明し、実施にはサプライチェーンに属する企業の相互協力が欠かせない、と述べます。一社だけでは完結しないわけです。
(補足:静脈物流は、使用済み製品などを戻して再利用・再資源化につなげる物流を指す言葉として、国土交通省の環境関連の資料でも使われています。一方、「還元物流」という呼び方は、公的な資料では確認できませんでした。リバースロジスティクスと静脈物流の範囲の捉え方は、資料により異なります。)
運び方ではモーダルシフトが大きな流れです。トラック輸送を、効率がよく環境負荷の少ない鉄道や海運に切り替えます。長距離の一括大量輸送ができるので、輸送の効率化とCO2排出の抑制につながります。
| 見方 | 内容 |
|---|---|
| メリット | 長距離の一括大量輸送で効率化。CO2排出を抑えられる |
| デメリット | 荷物の積み替えが必要。輸送期間が長くなる場合がある |
(補足:国土交通省の資料(平成13年度の数値)では、1トンの貨物を1km運ぶときのCO2排出量は、鉄道がトラックの約8分の1、海運が約4分の1とされています。数字は古いので、傾向をつかむ目安にとどめてください。)
海運の規模を生かしつつ、積み替えの手間を減らす工夫がRORO船(ロールオン・ロールオフ船)です。クレーンを使わず、貨物を積んだトラックやトレーラー、つまり車両が自走して、そのまま乗り降りできる船です。コンテナ船より早く安全に荷役ができ、複合一貫輸送にも用いられやすいのが利点です。ただし動画は、トラックごと載せるぶん空間にむだができ、積載効率ではコンテナ船に劣ると説明します(公的資料では確認できていません)。
試験対策の細かい点として、運転席と荷台を切り離せる車両(トラクター方式)では、RORO船にはトレーラー(荷台)だけを載せます。運転席ごと運ぶのはむだだからです。
(補足:九州運輸局の資料では、RORO船は旅客定員が12名以下で、無人でのシャーシ輸送が一般的、とされています。国土交通省は、航空機より安価でコンテナ船より迅速な輸送手段と位置づけています。)
ミルクラン:ぐるっと回って集める
局所的な集荷の方法がミルクラン(巡回集荷)です。決められたルートで複数の供給元を回って集荷します。個別にトラックを出す代わりに、1台でぐるっと回ります。
有効なのは、各サプライヤーの1回の納入量が少なく、一定の地域に密集しているときです。集荷コストを抑えられ、トラックの台数も減るので、環境にも優しい方法になります。
ユニットロードシステム:荷物の形をそろえる
輸送を根本から効率化するには、荷物の標準化が欠かせません。それがユニットロードシステムです。バラバラの荷物を、あらかじめ標準的な重量や体積の取り扱い単位にそろえて運ぶ方式です。代表は次の2つです。
| 名前 | 中身 |
|---|---|
| コンテナ | 貨物をコンテナに入れて運ぶ |
| パレチ | 貨物をパレット(すのこ状の台)に載せ、フォークリフトで動かす |
身近な例としては、繰り返し使う容器(通い箱、物流クレート)、三方を囲んだキャスター付きのロールボックスパレット、パレット台車などがあります。荷役の機械化や合理化が進み、時間とコストが減り、作業の標準化もできます。
(補足:横浜市の用語集でも、ユニットロードシステムは、貨物を一定の単位にまとめて機械で荷役し、発地から着地までできるだけその単位を崩さずに扱う方式と説明され、貨物の破損・紛失の防止にもつながるとされています。)
いいことだらけに聞こえますけど、弱点はないんですか。
あります。コンテナやパレットの大きさに合わせるので、大きさや重さに制限がかかります。それに、使い終わったコンテナやパレットを回収する手間もかかります。
制限があるなら、最初からそれを考えてものをつくればよい。これがDFL(デザイン・フォー・ロジスティクス)で、製品の設計や開発の段階から、輸送のしやすさを考えて物流に合った設計をすることです。箱にぴったり収まるようにデザインするイメージです。
回収の手間に関わる仕組みが一貫パレチゼーションです。荷物の発送元から届け先まで、同じパレットで運びます。途中の積み替えがなくなり、その手間や荷傷みを防げるのがメリットです。ただ、遠くへ送ったパレットの回収はたいへんです。その解決策として、複数の荷主でパレットを共同利用するパレットプールシステムが使われる場合があります。シェアリングの発想です。
(補足:パレットの標準化は、国土交通省の官民の会議(パレット標準化推進分科会)でも進められています。DFLについては、日本ロジスティクスシステム協会が、商品や荷姿の再設計、補充や物流プロセスの再構築まで遡って効率を保つ考え方と説明しています。動画の説明は、そのうち製品設計の部分を指しています。)
セービング法:ピストン輸送をルート輸送に変える
ここからは、ルートの最適化やコストの見える化といった、数字を使う話です。セービング法(節約法)は、効率的な輸送ルートを求める方法の1つです。1か所ずつ往復するピストン輸送を、まとめて回るルート輸送に変えたときの、走行距離の減少分を節約額として計算します。その節約額が最大になるルートを選びます。無駄な往復をなくす考え方です。
(補足:この方法は、Clarkeと Wright が1964年にOperations Research誌で発表した、配送拠点から複数の届け先へ車両を回す方法が原典とされています。)
エシェロン在庫:下流の在庫を全部足す
エシェロン在庫(階層在庫)は、ある在庫点から見て下流側にある在庫の合計に、輸送中の在庫も含めて数える考え方です。動画は、耳で聞いてもわかるように、具体的な数字で計算します。
- 在庫:メーカー30、卸20、小売10。輸送中:メーカーから卸へ10、卸から小売へ5。
- メーカーのエシェロン在庫:自分の30+輸送中10+卸の20+輸送中5+小売の10=75。
- 卸のエシェロン在庫:卸の20+輸送中5+小売の10=35(メーカーから卸への輸送中10は、メーカー側で数える)。
- 小売のエシェロン在庫:自分の分だけなので10。
自分の在庫だけでなく、先にあるものを全部足すわけです。こうして下流全体を把握できれば、最初に出たブルウィップ効果を防ぐ強い武器になります。需要の波を、正確にとらえられるからです。
(補足:エシェロン在庫の考え方は、Clark と Scarf が1960年にManagement Science誌で発表した、多段階の在庫の最適方策の研究が出発点とされています。ここで書いた定義と計算は動画の説明に沿ったもので、定義の細部は資料により異なります。)
物流ABC:活動ごとにコストを見える化する
最後は物流ABC(アクティビティ・ベースド・コスティング)です。物流の活動ごとに原価を計算する方法で、動画は4つの重要な用語を挙げます。
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| リソース | 人件費や設備費などの資源を、各活動に割り当てる基準 |
| アクティビティ | ピッキング回数や件数など、活動量を測る基準 |
| アクティビティ | 各活動にかかる費用の合計 |
| コストドライバー | アクティビティ原価を活動量(動画では「処理量」)で割った、1アクティビティあたりの単価 |
どんぶり勘定ではなく、活動1つひとつのコストを透明にすることで、どこにむだがあるのかが一目でわかります。(補足:ピッキングは、出荷の指示を受けて、倉庫の作業員がリストに沿って荷物を取り出す作業のことです。)
(補足:4つの用語は、動画の整理に沿って書いています。公的な資料では呼び名の原文を確認できず、教材により呼び方が少し違うことがあります。)
まとめ:全部は「全体最適」へ向かっている
| 用語 | ひとことで |
|---|---|
| SCM | 供給元から小売まで、全体を最適化する |
| ブルウィップ効果 | 需要の揺れが、上流ほど大きくなる |
| 3PL | 物流を第三者に包括的に任せる |
| リバース | 消費者から生産者への逆向きの流れ |
| モーダル | トラックから鉄道・海運へ。積み替えの手間あり |
| RORO船 | 車両が自走して乗り降り。積載効率はコンテナ船に劣る(動画の説明) |
| ミルクラン | ルートを回って集荷。小口で密集する供給元向き |
| ユニット | 荷物を標準単位にそろえる(コンテナ・パレット) |
| DFL | 設計の段階から物流を考える |
| 一貫パレチ | 同じパレットで発送元から届け先まで |
| パレット | 複数の荷主でパレットを共同利用 |
| セービング法 | ピストン輸送をルート輸送に変えた距離の減少分 |
| エシェロン在庫 | 下流の在庫を、輸送中も含めて合計 |
| 物流ABC | 活動ごとに原価を出して、むだを見つける |
動画は、ITによる情報共有も、標準化された箱も、効率的なルート計算も、コストの把握も、すべてがサプライチェーン全体の最適化という目的に向かっている、とまとめます。用語を試験範囲としてただ暗記するのではなく、現場で動いているシステムとして捉えると、記憶に定着しやすくなります。
最後に動画は、問いを1つ残します。ネット通販の無料配送や翌日配達を当たり前のように受け取っているとき、極限まで最適化されたサプライチェーンのなかで、最も大きな負荷を吸収しているのはどこなのか。AIやロボティクスが進んだとき、今日の最適化はどう書き換えられるのか。次にトラックやカゴ台車を見かけたら、背後でどんな仕組みが動いているか、思い出してみてください。
動画で聞く
続けて読む
- 第4回 GMROI・交差比率運営管理・流通・小売 004
- 第5回 HACCP・LTV・インターネット販売運営管理・流通・小売 005
- 第6回 流通情報・物流システム運営管理・流通・小売 006
- 第7回 物流センターの分類運営管理・流通・小売 007
- 第8回 売価・値入・原価・相乗積運営管理・流通・小売 008
- 第10回 保管・ピッキング・出荷運営管理・流通・小売 010
- 第11回 仕入方法運営管理・流通・小売 011
- 第12回 需要予測運営管理・流通・小売 012
- 第13回 線形計画法・回帰分析運営管理・データ分析・統計 001
- 第14回 基本統計量の要点運営管理・データ分析・統計 002
- 運営管理のWebテキスト一覧同じ科目の56本を一覧・検索
- 中小企業診断士 1次の講座トップ科目別プレイリスト・人気の講義・ファイナルペーパー

