売価・値入・原価・相乗積
運営管理 第8回
「通勤電車の中や家事の合間など、隙間時間を使って耳からしっかり知識を定着させていきましょう」。動画はこんな呼びかけから始まります。このページでは動画の流れにそって、売価・値入れ・原価の関係、売価値入率と原価値入率の換算、相乗積という指標のカラクリ、値入れと粗利の違いをまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
お店の設計図は「原価・売価・値入れ」の3人から
通勤電車や家事の合間の隙間時間で、耳から知識を固めていきましょう。動画はそんな呼びかけから始まり、店舗運営や商品予算計画の根幹になる3つの言葉、売価・値入れ・原価の関係を整理します。さらに、お店のどの部門が一番がんばっているかを測る相乗積のカラクリも解き明かします。似た言葉と計算式だらけで頭が痛くなる分野ですが、丸暗記は不要です。自分が経営者ならどう考えるかという、商売のストーリーに落とし込めばパズルのように解けます。
商品予算計画とは、商品をいくらで仕入れ、いくらで売り、最終的にどれだけ儲けるかを決めるビジネスの設計図です。登場するのは次の3人です。
- 原価:お店が商品を仕入れたときの値段(仕入れ値)。
- 売価:その商品をお客さんに売るときの値段。
- 値入れ:売価から原価を引いた金額。ただの引き算の結果ではなく、商品を店頭に並べる前に「これくらい儲けよう」とあらかじめ計画した予定の儲けです。
たとえ:ベーカリーのクロワッサン
小麦粉やバターで仕入れ(材料費)が100円。ここに25円の利益を載せたいと計画します。この25円が値入れで、売価は100円+25円=125円。原価という土台の上に、値入れという予定の儲けを載せて売価を決める。これが商売の基本ルールです。
値入れって、日常ではあまり使わない言葉なので、少し構えてしまいます。
経営者から見ると、とても前向きな言葉です。「この商品でこれだけ稼ぐ」と机の上で描いた予定の利益ですからね。実際に売れた結果の利益とは、あとで区別します。
売価値入率と原価値入率:何を基準に割るか
試験によく出るのが、名前がそっくりな売価値入率と原価値入率です。違いは、儲けの割合を何に対して見るか(基準)だけです。
| 項目 | 売価値入率 | 原価値入率 |
|---|---|---|
| 基準(分母) | 売価 | 原価 |
| 式 | 値入れ÷売価 | 値入れ÷原価 |
| 見ているもの | 売上のうち、儲けが占める割合 | 仕入れ値に何%を載せたか |
| ベーカリーの例 | 25÷125=20% | 25÷100=25% |
動画は使う場面も対比します。売価値入率は、経営者が「うちの店は売上に対してどれくらい利益が出る構造か」をざっくりつかむとき。原価値入率は、仕入れ担当者が「この材料費に何%載せて値段をつけるか」を考えるときのイメージです。
原価・売価・値入れは、3つのうち2つが分かれば残りの1つが決まります。売価から値入れを引けば原価に戻るので、原価が分からなくても、原価値入率は「値入れ÷(売価-値入れ)」で計算できます。別の公式として暗記する必要はありません。
(補足:動画にない話です。2つの率は式でも行き来できます。売価値入率=原価値入率÷(1+原価値入率)、原価値入率=売価値入率÷(1-売価値入率)。たとえば原価値入率25%なら0.25÷1.25=20%です。対応を並べると次のとおりです。)
| 売価値入率 | 原価値入率 |
|---|---|
| 20% | 25% |
| 25% | 約33.3% |
| 40% | 約66.7% |
| 50% | 100% |
| 60% | 150% |
売価値入率は、売価の一部を切り取った割合なので100%を超えません。原価値入率は、原価の何倍も載せれば100%を超えます。値入率が40%と66.7%のように大きく違って見えても、同じ商品の別の見方です。
2階建てのボックス図で、公式なしに換算する
試験本番は緊張するので、頭の中だけで式をこねくり回すのは危険です。そこで動画が勧めるのが2階建ての建物を思い浮かべるボックス図です。1階が原価、2階が値入れ、建物全体の高さが売価です。問題はこうです。「原価値入率が25%のとき、売価値入率は何%か」。
公式を思い出そうとしなくて大丈夫です。まず、基準になる原価を100と置いてみましょう。
原価が100で、値入れは原価の25%だから25ですね。売価はその合計の125です。
そうです。ここで求めたいのは売価値入率。基準は建物全体の売価ですから、値入れ25を売価125で割ります。
25÷125=0.2、つまり20%。換算公式を1つも使わずに答えが出ました。
逆向きも同じ要領です(補足:動画は片方向の例だけです)。売価値入率20%から原価値入率を出すなら、売価を100と置き、値入れ20、原価は100-20=80。値入れ20を原価80で割って25%になります。試験会場では、問題用紙の端に2階建ての建物をさっと描いて、分かっている数字をブロックに入れれば足ります。
試験の注目点:まず「基準」を100と置く
売価値入率なら売価を、原価値入率なら原価を100と置きます。残りのブロックを足し引きで埋めてから、求めたい率の分母を確認するのが安全です。問題文の「値入率」が売価基準か原価基準かを、最初に読み取りましょう。
相乗積:どの部門がお店の利益を引っ張っているか
ここからは、1つの商品の値段から視点を引いて、お店全体の利益を見ます。登場するのが相乗積です。お店全体の利益に対して、各部門や商品がどれくらい貢献しているかを測る指標で、式は次のとおりです。
相乗積の式
相乗積=部門の粗利益率×部門の売上構成比
掛け算に見えて直感的ではないので、分数に分解します。粗利益率は「部門の粗利÷部門の売上高」、売上構成比は「部門の売上高÷全体の売上高」です。掛け合わせると、分母と分子の部門の売上高が約分されて消え、「部門の粗利÷全体の売上高」が残ります。つまり相乗積は、お店全体の売上というパイの中で、その部門がどれだけの粗利を稼ぎ出したかを示す、ストレートな貢献度なのです。
だから、全部門の相乗積を足し合わせると、お店全体の粗利を売上高の合計で割ったもの、つまり店全体の粗利益率にぴったり一致します。部分の貢献度を足せば全体の利益率になる、という構造です。
数字で確かめましょう(動画は数値例を出していないので、検算用の例です)。パン・サンドイッチ・コーヒーの3部門で、全体の売上が1,000万円とします。
| 部門 | 売上と粗利 | 粗利益率×構成比=相乗積 |
|---|---|---|
| パン | 売上500万円 粗利100万円 | 20%×50%=10% |
| サンドイッチ | 売上300万円 粗利90万円 | 30%×30%=9% |
| コーヒー | 売上200万円 粗利120万円 | 60%×20%=12% |
| 合計 | 売上1,000万円 粗利310万円 | 10+9+12=31% |
売上が一番多いのはパンですが、利益への貢献が一番大きいのはコーヒーです。相乗積を見ると、こうした隠れた実力者に気づけます。ちなみに、全部門が同じ売上高で割られているので、相乗積の大小は部門の粗利額の大小と同じ並びになります。
相乗積が大きい部門を、もっと売ればいいということですか。
方向としてはそうです。補足すると、売上100万円分をパンからコーヒーに移せる(各部門の粗利益率は変わらない)と仮定すると、粗利は80+90+180=350万円で、全体の粗利益率は31%から35%に上がります。ただし、移せるかどうか、コーヒーを売るには集客役のパンが要るかどうかは、現場で見極める必要があります。
似た名前の指標に注意
相乗積は「粗利益率×売上構成比」です。別の回で出た交差比率は「粗利益率×商品回転率」で、在庫の効率を見る指標です。掛ける相手が違います。
値入れと粗利は「似て非なるもの」
相乗積の話では、儲けを「粗利」と呼びました。前半の「値入れ」と何が違うのでしょうか。動画は、これを区別できるかが試験でも実務でも決定的な差になると言います。
- 値入れ:店頭に並べる前に、この価格で売れればこれだけ儲かるはずだと、経営者が机の上で描いた予定の儲け。
- 粗利:実際にレジを通してお客さんに買ってもらった売上から、売上原価を引いた現実の儲け。1日の営業を終えてレジを閉めたときに、初めて確定する。
もし125円のクロワッサンが全部売れれば、値入れと粗利は同じ金額になります。しかし現実はそうはいきません。夕方に売れ残って値下げシールを貼れば、予定の売価では売れません。品出しの途中でトレイを落とせば、廃棄するしかなく、原価の分がまるまる損になります。値下げによるロス、商品の破損、万引きなどの不測の事態が積み重なるため、実際の粗利は、予定の値入れより少なくなるのです。
数字で見てみましょう(補足:動画にない検算用の例です)。クロワッサン10個を原価1,000円で仕入れ、売価125円(予定の値入れは合計250円、売価値入率20%)で売り出します。
| その日の結果 | 売上と粗利 | 粗利益率 |
|---|---|---|
| 全部定価で完売 | 売上1,250円 粗利250円 | 20.0% |
| 8個を定価、2個を20%引き(100円) | 売上1,200円 粗利200円 | 約16.7% |
| 7個を定価、2個を20%引き、1個を廃棄 | 売上1,075円 粗利75円 | 約7.0% |
表の2行目(8個を定価、2個を20%引き)の平均売価は、売上1,200円÷10個=120円で、粗利は1個あたり120-100=20円です(平均売価は「売上高÷販売数量」としました)。また、125円の20%引きは100円で原価と同じなので、その1個の粗利はゼロ。値引き率が売価値入率と同じになると、儲けが消えます。
試験の注目点:令和3年 運営管理 第27問
この回の内容は、令和3年の第27問(商品の売上と利益の管理)に通じます。解説では、値入額は仕入時点で予定している売価から仕入原価を引いた額、粗利益額は実際の販売結果で、値引きなどが反映されます。「粗利益額は値入額を上回ることが多い」は誤りで、値引きで売り切るため下回ることが多いと整理されています。また、「当初の値入率より低い値引き率で特売すると粗利益額がマイナスになる」という選択肢は誤りで、値引き率が値入率より低ければ粗利益額は常にプラスです。
(補足:値下げとロスの数え方。中小機構のJ-Net21は、実質ロスを値下げロスと廃棄ロスに分け、値下げロスは粗利益を低下させ、廃棄ロスはその商品から得られるはずだった粗利益をゼロにしてしまう(さらに仕入れた原価も回収できない)、と説明します。ロスがなければ、粗利は値入れから値下げ分を引いた額です。値入率20%、値下げ額が当初売価総額の4%なら、粗利は当初売価総額の16%(上の2行目:200÷1,250)です。)
(補足:複数商品の平均の値入率。値入率が違う商品をまとめて全体の値入率を出すには、個数ではなく値入額の合計÷売価の合計で計算します。たとえば、売価100円で値入率20%の商品100個と、売価300円で値入率40%の商品100個なら、値入額は2,000+12,000=14,000円、売価合計は40,000円で、全体は35%です。個数だけで平均すると30%になり、ずれます。)
資料によって違うところ
用語の使い方は資料で少しずつ違います。計算問題では、問題文が基準を指定するので、まず条件を読みましょう。
| 論点 | このページ | 資料による違い |
|---|---|---|
| 値入率 | 売価値入率 | 値入率 |
| ロスの範囲 | 動画は値下げ・ | 実質ロスを |
| 粗利益率 | 実際の売上高 | 解説に「値入率20% |
まとめ
この回の持ち帰り
- 値入れ=売価-原価。店頭に並べる前に計画した予定の儲け。
- 売価値入率=値入れ÷売価、原価値入率=値入れ÷原価。違いは基準だけ。
- 換算は2階建てのボックス図で。基準を100と置き、足し引きで埋めてから割る(原価値入率25%→売価値入率20%)。
- 相乗積=粗利益率×売上構成比=部門の粗利÷全体の売上高。全部門を足すと店全体の粗利益率になる。
- 粗利は売上から売上原価を引いた現実の儲け。値下げやロスで、予定の値入れより小さくなる。
動画の最後の問いかけも印象的です。経営者が机の上で描いた理想の値入れどおりに、実際の粗利を稼ぐのは至難の業。ロスや値下げをいかに抑え、予定と現実のギャップを埋めるかが、店舗運営の腕の見せ所です。次にスーパーやコンビニ、パン屋さんに行ったときは、陳列や在庫管理の工夫や、どの商品が相乗積のエースなのかを、経営者の目で眺めてみてください。
動画で聞く
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