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証券のリスクとβ(ベータ)値『リスクの分解・β値・CAPM(資本資産価格モデル)』

財務・会計 第4回

財務・会計・ポートフォリオ・デリバティブ 00315分23秒2026年2月21日公開

投資の世界ではよくハイリスクハイリターンと言うけれど、そもそもそのリスクって一体何なんだろう。動画はこんな問いかけから始まります。このページでは動画の流れにそって、消せるリスクと消せないリスク、β値の読み方、CAPMの式と計算の引っかけ、理論の前提をまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。

「リスク」って、結局なんのこと?

動画は、投資の世界ではハイリスクハイリターンとよく言うけれど、そもそもリスクとは一体何なのか、という問いから始まります。株価が激しく動くことなのか、それとも会社が倒産する可能性のことなのか。こうした曖昧なリスクをたった1つの数字で捉え、そこからこの株にはどれくらいのリターンを期待すべきかを導く理論があると紹介されます。それが今回の主役、CAPM(キャップエム)、資本資産価格モデルです。

動画の流れは、次の3段階です。

  • リスクを「消せるリスク」と「消せないリスク」に分ける。
  • 消せないリスクの大きさを、β(ベータ)値で測る。
  • β値から、その株に期待すべきリターン(期待収益率)を式で求める。これがCAPM。

(補足:ファイナンスでは、リスクを「リターンのばらつき」(標準偏差や分散)として数字にするのが一般的です。動画の冒頭の「株価が激しく動く」は、この考え方に近い言い方です。)

消せるリスクと消せないリスク

動画はまず、投資のリスクを2種類に分けます。1つは分散投資によって消せるリスク、もう1つはどれだけ頑張っても消せないリスクです。

  • アンシステマティックリスク(個別リスク):分散投資で消せるリスク。
  • システマティックリスク(市場リスク):分散投資でも消せないリスク。

個別リスクの例として、聞き手は「ある自動車メーカーで大規模なリコールが発生した」という話を出します。これはその会社固有の問題だからです。たくさんの異なる業種の株を組み合わせる分散投資をすれば、個別リスクは理論上ほぼ0に近づけられる、と動画は説明します。

リスク全体のリスク個別リスク(分散で小さくなる)市場リスク(消せない)システマティックリスク保有する銘柄数 少ない → 多い
分散投資で小さくなるのは個別リスクだけ。市場リスクは残ります。

聞き手は、ある会社の悪いニュースが別の会社の良いニュースで相殺されるみたいなイメージですかね、と確認し、講師は「ええ」と受けています。一方のシステマティックリスクは、経済全体の景気、金利の変動、大きな地政学的リスクなど、どの会社に投資していても免れない、市場全体に関わるリスクです。

個別リスク市場リスク
用語アンシステマティックリスクシステマティックリスク
動画の例メーカーのリコール景気・金利の変動など
分散投資で理論上ほぼ0に近づく消せない

(補足:動画の「ほぼ0」は理論上の話で、現実の市場で個別リスクを完全になくすのは難しいとされています。また、分散で個別リスクが小さくなるのは、銘柄どうしの値動きが完全には連動しないためです。「相殺」はそれを直感的に言い換えたものです。)

(補足:動画にない話です。数式では、ある株のリスク(分散)は「市場リスクの分」と「個別リスクの分」の足し算で表せます。設例として、市場の標準偏差を15%、βを1.2、個別リスクの標準偏差を10%とします。市場リスクの分は1.2²×15²=324、個別リスクの分は10²=100で、合計424。標準偏差にすると√424≒約20.6%です。標準偏差どうしを単純に足して18%+10%=28%とするのは誤りで、足してよいのは分散です。)

ご褒美がもらえるのは、消せないリスクだけ

動画は、ここがCAPMの面白いところだと言います。市場は、消せるリスクに対しては一切ご褒美をくれないと割り切っているのです。

それは直感に反する気もします。倒産しそうな会社の株を買うのは、どう考えてもハイリスクです。そのリスクを取るのだから、追加のリターンを要求するのは当然ではありませんか。

そこが、伝統的なファイナンス理論の根幹になる考え方です。理論上、合理的で効率的な市場では、「そのリスクはあなたが分散投資をしなかったから負っているだけですよね」と考えます。

自己責任ということですか。賢明な分散投資をしていれば負わずに済んだはずのリスクだから、見返りは期待するなと。なかなかシビアですね。

そうなんです。だから、投資家がリターンを期待できるのは、分散してもどうしても避けられないリスクに対してだけ、ということになります。

つまりCAPMの世界では、株のリスクの大きさを「避けられないリスク(市場リスク)の大きさ」で見て、その量に応じて期待するリターンを決めます。次は、この避けられないリスクの量をどう測るかです。

β値:市場の動きへの反応の大きさ

聞き手は、安定した電力会社の株と急成長中のIT企業の株では、市場の荒波に対する影響の受け方が全然違いそうだと指摘します。これを数字にする共通の物差しが、β(ベータ)値です。

動画の説明では、βは「市場全体が1%動いたときに、その個別の株が何%動く傾向にあるか」という感度を示します。講師は、市場をオーケストラ全体の音量、株を1つひとつの楽器にたとえ、βは、市場全体の音量が上がったときに、その楽器がどれだけ大きく反応するかという楽器の性格だと説明します。市場全体のβは定義上1で、市場平均に連動するインデックスファンドも1に近くなります。

市場が10%下落市場が10%上昇β=1.5−15%+15%β=1−10%+10%β=0.5−5%+5%β=00%0%動画の例(市場が10%動いたときの株の動き)
βは、市場の動きに対する反応の大きさ。上がるときも下がるときも同じ倍率です。
β値市場が10%動くと動画での性格
1.515%動く傾向感度が高い。ハイリスクハイリターン。景気敏感株やグロース株に多い
110%動く市場平均
0.55%動く傾向穏やか。食品・電力・ガスなどのディフェンシブ銘柄に多い
0連動しない安全資産(短期国債などが近い)
マイナス逆に動く稀。市場が暴落すると価値が上がる資産

βが1.5の株は、市場が10%上昇すれば15%上がり、10%下落すれば15%下がる傾向があります。市場が盛り上がるときは大きなリターンが期待できますが、暴落局面では被害も大きくなります。逆にβが0.5の株は、10%上昇しても5%、10%下落しても5%と、動きが穏やかで、大きなリターンは狙いにくいものの不況にも強い安定した銘柄です。動画では、βが1.5なら市場の1.5倍のリスク、と整理されています(ここでいうリスクは避けられない市場リスクの大きさで、株の総リスクが1.5倍という意味ではありません)。

(補足:聞き手は、βが大きい株をティンパニにたとえ、「全体が盛り上がるとドーンと鳴り響くけど、静かになると全く音を立てない」と言い、講師は「良い例えですね」と応じています。ただし、動画のβの説明にあるとおり、βが1.5の株は市場が下がるときにも1.5倍の幅で下がります。静かなときに音がしないのではなく、上でも下でも反応が大きいと覚えてください。)

(補足:動画では、βが0の資産を「市場と連動しない安全資産」と説明しています。β=0はあくまで「市場の動きと連動しない」という意味で、価格がまったく動かないという意味ではありません。市場とは無関係に値動きする資産でも、βは0になりえます。式の土台に置く安全資産の利回りには国債の利回りなどが使われますが、短期か長期かは問題や資料によります。)

β値の注意点:過去のデータから出した数字

講師は、ここで1つ重要な注意点があると切り出します。βはあくまで過去のデータから算出されたものだということです。

そこは気になっていました。過去に市場と連動していたからといって、未来も同じとは限りませんよね。ビジネスモデルが大きく変わる企業や、新しい技術を持つスタートアップの未来のリスクを、過去の値動きだけで測れるのでしょうか。

まさにその通りです。βは非常に便利な指標ですが、万能ではありません。企業の事業内容が大きく変化した場合や、市場の構造そのものが変わった場合には、過去のβが予測する力はどうしても弱まる可能性があります。

動画は、これがCAPM全体にも関わる重要な視点だと続けます。

(補足:動画にない話です。βの計算は、市場と個別株の過去の収益率データをもとに、「市場の動きに対して株がどれだけ動いたか」の傾き(回帰直線の傾き)として求めるのが標準的です。式で書くと、β=(株と市場の収益率の共分散)÷(市場の収益率の分散)、または β=相関係数×(株の標準偏差÷市場の標準偏差)です。動画の「市場が1%動くと何%動く傾向」は、この傾きを平たく言ったものです。算出に使う期間や指数によって値が変わるので、同じ株でも資料によりβが異なることがあります。)

CAPMの式:期待収益率をつくる3つの部品

βで市場リスクの量が分かりました。けれども、βが1.5の株に年率何%のリターンを期待すればよいのか、という投資家のいちばん知りたい問いにはまだ答えていません。それをつなぐのがCAPMの式です。動画は、3つの部品に分けて説明します。

  • リスクフリーレート:ほぼノーリスクで得られるリターン。聞き手は、ほぼノーリスクで得られるリターン、つまり先ほど話に出たβが0の安全資産の利回りでしょうか、国債とか、と答え、講師は「正解です」と受けます。あらゆる投資の期待収益率の土台、最低ラインです。
  • 市場のリスクプレミアム:市場全体の期待収益率−リスクフリーレート。株式市場というリスクのある場所に参加することへの、平均的なご褒美の大きさです。
  • β値:そのご褒美を、個々の株の性格に合わせて何倍するかを決める倍率。

CAPMの式(動画の説明にそって)

期待収益率=リスクフリーレート+β×(市場全体の期待収益率−リスクフリーレート)

かっこの中が「市場のリスクプレミアム」です。

動画の設例は、市場全体の期待収益率が8%、リスクフリーレートが2%の場合です。市場のリスクプレミアムは8%−2%=6%になります。

  • βが1.5の株:6%×1.5=9%の上乗せを要求し、2%+9%=11%。
  • βが0.5の株:6%×0.5=3%の上乗せで満足し、2%+3%=5%。
β=1.5の株2%6%×1.5=9%11%β=0.5の株2%3%5%上乗せ 6%×0.5=3%リスクフリーレート(土台)上乗せ分
期待収益率は、土台の2%に、βに応じた上乗せを足したものです。

同じ式でβ=1なら2%+6%=8%(市場全体と同じ)、β=0なら2%(リスクフリーレートそのもの)になります。この2つは動画にはない数字ですが、同じ式から計算できます。

β値上乗せ(6%×β)期待収益率(2%+上乗せ)
1.59%11%
16%8%
0.53%5%
00%2%

動画では、リスクが高い株ほど期待リターンは高く、低い株ほど低くなるという当たり前の関係を、1本の式でエレガントに説明しているのがCAPMだ、と整理されます。

期待収益率2%5%8%11%14%00.511.52β値2%(安全資産)5%8%(市場全体)11%直線の傾き=市場のリスクプレミアム
βが大きいほど、期待収益率は一定の割合で高くなります。

(補足:動画では名前が出ませんが、βを横軸、期待収益率を縦軸にして、CAPMの式を直線で描いたものを証券市場線(SML)と呼びます。縦軸の切片がリスクフリーレート、傾きが市場のリスクプレミアムです。さらに、βが負になる場合は、式に当てはめると期待収益率がリスクフリーレートを下回ります。たとえばβ=−0.5なら2%+(−0.5)×6%=−1%です。市場の下落時に値上がりする保険のような資産には、低いリターンでも需要がある、という理屈で説明されます。)

試験の引っかけ:期待収益率とリスクプレミアムの混同

試験対策として、動画は計算問題でよくある引っかけを指摘します。市場全体の期待収益率と、市場のリスクプレミアムの混同です。問題文に「市場全体の期待収益率は8%」と書かれているのに、それをそのままβに掛けてしまうミスが多い、という話です。

試験の注目点(動画の指摘にそって)

  • βに掛けるのは、市場全体の期待収益率ではなく、そこからリスクフリーレートを引いたプレミアムの部分。
  • かっこの中の引き算を忘れない。
  • プレミアムはあくまで、安全資産を上回る部分を指す。
計算結果
正しい計算2%+1.5×(8%−2%)11%
誤り(引き算を忘れる)2%+1.5×8%14%
誤り(8%をそのまま掛ける)1.5×8%12%

表の誤りの2行は、動画の指摘する混同を計算してみた例です。もう1つ、動画にない設例で練習しておきましょう。リスクフリーレートが1%、市場全体の期待収益率が6%、βが0.8の株なら、1%+0.8×(6%−1%)=5%です。引き算を忘れると、0.8×6%=4.8%や、1%+0.8×6%=5.8%になってしまいます。

(補足:計算の見直しのコツです。β=1の株の期待収益率は、必ず市場全体の期待収益率に一致します。計算結果がβ=1のときと大きくずれていないか、答えの大小をβと比べてみると、引き算の忘れに気づけます。)

CAPMの前提と、動画の最後の問い

動画の終わり近くで、聞き手は、この考え方は株の期待リターンを知るだけでなく、株価が割安か割高かを判断したり、新しい事業を始めるときにどれくらいの資金調達コストを見込むかを計算したりするうえでも重要な基礎知識になる、と整理し、講師は「そうですね」と受けています。

(補足:動画にない話です。CAPMで計算した期待収益率は、企業が株主から求められる収益率(株主資本コスト)を見積もるときにも使われます。また、CAPMの計算値より実際に見込めるリターンが高ければ割安、低ければ割高、という見方があります。)

動画の最後は、考えてみる問いで終わります。動画では、CAPMは非常に美しい理論だが、市場は常に効率的で、すべての投資家は合理的に行動するという強い前提の上に成り立っている、と指摘されます。では、リーマンショックのようなパニック売りが起きたり、ITバブルのような熱狂が生まれたりして、投資家が必ずしも合理的とは言えない行動を取ったとき、CAPMで計算した理論上の期待収益率と、現実に得られるリターンとの間には、どのような乖離が生まれるでしょうか。動画は答えを示さず、理論の美しさと現実の市場の複雑さのギャップを考えてみることを促して終わります。

(補足:動画は答えを示しません。CAPMの教科書的な前提としては、投資家が期待収益率とばらつきだけで判断する、同じ予想を共有している、リスクフリーレートで自由に貸し借りできる、売買コストや税金がない、などが挙げられることが多いですが、資料により挙げ方は異なります。こうした前提が崩れる局面ほど、理論値と現実のずれは大きくなりうる、と考えておくとよいでしょう。)

まとめ

  • 投資のリスクは、分散投資で消せるアンシステマティックリスク(個別リスク)と、消せないシステマティックリスク(市場リスク)に分けられる。
  • CAPMでは、リターンを期待できるのは消せない市場リスクに対してだけ、という考え方が大前提。
  • β値は、市場全体の動きに対する感度。市場は1、1より大きければハイリスクハイリターン、1より小さければローリスクローリターン。
  • βは過去のデータから出した数字なので、事業内容や市場の構造が変わると予測力が弱まる可能性がある。
  • CAPMの式は、リスクフリーレート+β×(市場全体の期待収益率−リスクフリーレート)。動画の例ではβ1.5で11%、β0.5で5%。
  • 計算の引っかけは、期待収益率とリスクプレミアムの混同。かっこの中の引き算を忘れない。
  • CAPMは、市場は効率的で投資家は合理的という強い前提の上に成り立つ。現実の市場とのギャップが動画の最後の問い。

動画の要点整理は、「リスクの高いものには高いリターンを、低いものにはそれなりのリターンを」という金融の基本原則が式として表現されたモデル、というものでした。まずは式の3つの部品を言えるようにして、あとは数字を入れて何度か計算してみると、しっかり身につきます。

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