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中小企業診断士 1次試験

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MM理論の基本『借金で企業価値が上がる節税のカラクリ』

財務・会計 第8回

財務・会計・資金調達・企業価値評価 00112分23秒2026年2月20日公開

企業の価値はそもそも何で決まるのか。動画は、聞き手のこんな問いかけから始まります。このページでは動画の流れにそって、完全資本市場でのMM理論、法人税を加えた修正MM理論と負債の節税効果、WACCや財務レバレッジ効果とのつながり、そして「なぜ100%借金の会社はないのか」という最後の問いをまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。

企業の価値は何で決まる? お金の集め方で変わる?

動画は、聞き手の、企業の価値はそもそも何で決まるのか、という問いから始まります。普通に考えれば、その会社がどれだけ稼ぐ力があるか、つまり事業の収益力で決まりそうです。では、その事業を始めるお金を、銀行から借りるのか、投資家から出資してもらうのか、という集め方の違いで、会社の価値そのものが変わることはあるのでしょうか。講師は、直感に反するけれど重要な理論の謎を解き明かしていきます、と応じます。

銀行からの借入れなどが負債、株主からの出資が自己資本で、この2つの割合を資本構成といいます。

摩擦のない世界:完全資本市場から考える

動画は、現実のややこしいルールをいったん取っ払った「もしもの世界」から始めます。講師が持ち出すのが完全資本市場で、物理学でいう摩擦のない世界のようなものです。動画が挙げる条件は次の3つです。

  • 税金が一切ない。
  • 誰もが企業の情報を、コストゼロで瞬時に平等に手に入れられる。
  • 株を売買するのに手数料もかからない。

聞き手は、これをあらゆるノイズを取り除いた「思考実験のためのクリーンルーム」のようだと受け止めます。この環境で、フランコ・モディリアーニとマートン・ミラーの2人が打ち立てた理論が、頭文字をとってMM理論と呼ばれます。動画は2人をノーベル賞経済学者と紹介し、その結論は当時の金融界にかなりの衝撃を与えた、と話します。

第1命題:資本構成は企業価値に影響しない

法人税のない世界でのMM理論の主張は、動画のいう第1命題で、驚くほどシンプルです。企業の資本構成は、企業価値に何の影響も与えない。100%自己資本で経営していても、半分を銀行からの借金でまかなっていても、会社の価値は全く同じだ、というのです。

全部を自己資本でまかなう場合自己資本 100%半分を借金(負債)でまかなう場合負債 50%自己資本 50%全体の大きさ(企業価値)は同じ違うのは切り分け方(資本構成)だけ
動画のピザのたとえを棒に置き換えた図です。ピザ全体が企業価値、切り分け方が資本構成です。

講師はよくピザにたとえられるとして説明します。1枚の大きなピザの価値は、ピザそのものの味や大きさで決まります。8等分にしても12等分にしても、ピザ全体の大きさは変わりません。このピザ全体が企業価値で、どう切り分けるかが資本構成、つまり負債と自己資本の比率です。

それだと、財務部の担当者が必死に金利の低い銀行を探したり、有利な条件で株式を発行しようとしたりする努力は、この世界では全くの無意味ということになりますね。なんだか寂しい話にも聞こえますが。

そうなりますね。MM理論の根幹にあるのは、企業の価値は、その企業が持つ資産が生み出すキャッシュフロー、つまり稼ぐ力だけで決まるという考え方だからです。お金の集め方を変えても、工場の生産能力が上がったり、画期的な新製品が生まれたりするわけではありません。

第2・第3命題:配当政策と投資の意思決定

動画は続けて、同じ世界で成り立つ主張をあと2つ挙げます。

動画の呼び方主張の中身
第2命題配当政策も企業価値と無関係。稼いだ利益を株主に大盤振る舞いしても、社内に留保して次の投資に備えても、投資家全体の富は変わらない
第3命題投資の意思決定は、資金調達の方法と切り離して行う。新しい投資案を実行するかどうかは、その案がどれだけ儲かるかだけで判断し、お金の集め方を判断に影響させない

聞き手は、税金のない理想郷では財務戦略で価値は生み出せない、とまとめ、完全な市場では借金しようが出資だろうが企業価値は変わらない、という大原則だと確認します。

(補足:MM理論の命題の数え方は、資料により異なります。動画は、資本構成が無関係なことを第1、配当政策を第2、投資決定と資金調達の分離を第3と数えました。一方、教科書では、第1命題を資本構成の無関係、第2命題を「負債が増えると株主の要求する収益率も上がる」ことと整理するものが多いようです。ここでは動画の数え方にそろえます。)

法人税を入れると、結論が180度ひっくり返る

ここで聞き手が、これはあくまで思考実験の世界ですよね、と切り出します。講師は、現実の世界には法人税が存在すると応じ、法人税というたった1つの前提を加えるだけで、先ほどの結論は180度ひっくり返る、と続けます。これが修正MM理論で、鍵になるのが負債の節税効果(タックスシールド)です。

仕組みは、次の流れです。企業が銀行からお金を借りると、利息を支払います。この支払い利息は、税法上、会社の費用(損金)として認められます。すると、税金を計算するもとの利益から利息分を差し引けるので、利益が減り、支払う法人税も少なくなります。聞き手はこれを、借金をすることへの「政府公認の割引きクーポン」のようだと表現し、講師も「まさに」と応じます。

借金をして、利息を支払う利息は費用(損金)として認められる課税所得が減り、法人税が減る節税効果の現在価値=法人税率×負債額例:30%×100億円=30億円(負債が永続する前提の式)
動画の説明にそった、負債の節税効果の流れです。

割引された税金の分だけ、会社に現金が残ります。その分だけ、会社の価値は高まります。動画が示す修正MM理論の式は、次のとおりです。

負債を利用している企業の価値=全部自己資本でまかなっている企業の価値+節税効果の現在価値

しかも、節税効果の現在価値は、法人税率×負債額で計算できるとされています。聞き手は、法人税率が30%の国で100億円を借りたら、それだけで30億円分の企業価値が上乗せされるのか、と確かめます。

法人税率が30%の国で、ある会社が100億円の借金をしたら、それだけで30億円分の企業価値がポンと上乗せされるということですか。なんだか錬金術みたいに聞こえますが。

理論上はそうなります。この理論が導き出す結論は、非常に過激なんです。負債を増やせば増やすほど、節税メリットによって企業価値は右肩上がりに上昇し続けます。

(補足:この効果が出るのは、利息が損金になるからです。株主への配当は税引後の利益から払うので損金にならず、同じ資金調達でも、出資にはこの効果がありません。また、「税率×負債額」は、負債の額が変わらず永久に続く前提で出る簡単な式です。動画にない設例で確かめます。営業利益は毎年100億円で永続し、法人税率は30%、無借金なら株主の要求リターンは10%とします。そこに、返済せず借り続ける100億円(金利2%)を加えます。毎年の節税は100億円×2%×30%=0.6億円で、これを金利2%で割り引くと0.6÷0.02=30億円。確かに「30%×100億円」と一致します。)

項目(設例・億円)無借金負債100億円
営業利益100100
支払利息(2%)02
法人税(30%)3029.4
税引後の利益7068.6
企業価値700730
株主の価値700630
株主の要求リターン10%約10.89%
WACC(後で説明)10%約9.59%

無借金の企業価値は、70÷10%=700億円です。負債がある会社は、700+30=730億円になり、そこから借入100億円を引いた630億円が株主の価値です。なお、節税の現在価値を金利で割り引くのは、節税分が借入れと同じくらい確実に入ってくると置くためで、一般的な置き方とされています。

WACCが下がる:安い材料を増やすと平均コストが下がる?

動画は、もうひとつの結論として、負債を増やすと企業全体の資金調達コストであるWACC(加重平均資本コスト)も下がっていく、と説明します。WACCは、事業を行うために集めたお金全体の平均コストです。お金は、株主からの出資(自己資本)と、銀行などからの借入れ(負債)で構成されます。株主は会社が倒産したらすべてを失うハイリスクを負うので、高いリターンを要求します。聞き手も、株の期待リターンのほうが銀行の貸付金利より高い、と確認します。

だから、資金調達のレシピの中で、コストの安い材料である負債の割合を増やせば、全体の平均コストであるWACCは下がっていく。会社の資金調達コストが下がれば、利益も出やすくなり、企業価値は高まる、と動画は話します。

(補足:「負債は安いから、増やせばWACCが下がる」は、そのままでは単純化された説明です。法人税のない世界では、負債を増やすと、株主の要求リターンも上がります。借金が増えるぶん、株主の取り分のぶれが大きくなるからです。この上昇が、安い負債の効果をちょうど打ち消すので、WACCは変わりません。動画にない設例(法人税なし)で、営業利益100億円、無借金なら10%とすると、企業価値は1,000億円です。100億円を金利2%で借りると、株主の価値は900億円、取り分は100−2=98億円なので、要求リターンは98÷900≒10.89%に上がります。WACCは(900÷1,000)×10.89%+(100÷1,000)×2%=10%のままです。また、「利益も出やすくなる」という言い方も単純化です。WACCは割引率にあたるので、割り引く率が下がることで企業価値が上がります。法人税があると、節税の分だけWACCが下がります。上の表では、無借金の10%に対して、約9.59%です。)

財務レバレッジ効果とのつながり:パイそのものが大きくなる

ここで聞き手が、借金をすると価値が上がるというこの話は、以前に学んだ内容とすごく似ている、と気づきます。講師は、素晴らしい着眼点だと受けて、あれも借金を使ってROEを高めるテクニックだった、2つは密接につながっている、と言います。

講師の整理はこうです。財務レバレッジ効果は、株主の取り分であるROEがどう高まるか、という株主目線の話でした。MM理論は、もっと大きな視点で、なぜ株主の取り分が増えるのかの根本原因を説明します。負債の節税効果によって、会社全体のパイの大きさそのものが増える。パイが大きくなるから、その分け前である株主の取り分も増える、というのです。聞き手は、「株主のリターンが上がるのは、実は税金として国に払うはずだったお金が、株主と会社に還元されていたからなんですね」とまとめ、講師は「そういうことです」と答えます。

営業利益100億円の行き先(毎年・設例)無借金の会社税 30株主 70100億円借りた会社(利息2億円)税 29.4株主 68.6利息 2(債権者へ)国への税が0.6減り、その分が債権者と株主へ債権者と株主の合計は 70 → 70.6
「税金として国に払うはずだったお金」が、債権者と株主に回る様子です。

図は動画にない設例で、その「国に払うはずだったお金」を見たものです。利息2億円を払うと、税は30億円から29.4億円へ0.6億円減ります。債権者と株主に回るお金の合計は、70億円から70.6億円にふえます。この0.6億円が毎年続くので、その現在価値の30億円が、企業価値の上乗せになります。

(補足:動画のまとめは単純化されています。ROEが上がる原因は節税だけではありません。上の補足の法人税なしの設例でも、株主の取り分を株主の価値で割った利回りは、無借金なら100÷1,000=10%、100億円を借りたあとは98÷900≒10.89%に上がります(簿価と時価が同じとみなした簡略化です)。事業の収益率が金利を上回るなら、借金を使うだけで株主の利回りは上がるからです。ただし、その場合は株主のリスクも増えて要求リターンも上がるので、企業価値は1,000億円のまま変わりません。株主の利回りが上がることと、企業価値が上がることは別で、企業価値を押し上げるのは節税効果のほうです。)

聞き手はさらに、1980年代にアメリカで流行したLBO(レバレッジド・バイアウト)も、この理論が背景にあるのかと問います。講師は、まさにその応用例と言えると答えます。LBOは、借入れをテコにして負債の節税効果を極限まで活用しようとする財務戦略で、MM理論が企業の買収戦略にも理論的な裏付けを与えたと見ることもできる、という説明です。

(補足:LBOは、買収対象の資産や将来のキャッシュフローを返済の裏付けにして、多額の借入れで買収する手法とされます。節税効果は借入れを使う利点のひとつですが、動機がそれだけとは限らないとされています。)

2つの世界を区別する:理論は青天井を示すが…

ここまでを、聞き手が次のようにまとめます。講師は「完璧な要約」と評価します。

  • 法人税のない思考実験の世界では、資本構成は企業価値に全く関係しない。ピザの切り方は、ピザの大きさに関係しない。
  • 法人税のある現実の世界では、負債の節税効果という強力なボーナスがあるので、負債比率を高めるほど、企業価値は理論上、青天井で高まっていく。
企業価値負債の割合 →法人税なし:負債を増やしても価値は変わらない法人税あり:負債が増えるほど価値が増える倒産コスト込み:途中から下がる(イメージ)
動画の整理(実線)と、倒産コストを加えたときのイメージ(点線)です。

そこで講師が、あなたにも考えてほしい疑問を出します。理論通りなら、借金をするほど価値が上がるはずです。それなのに、なぜ現実の優良企業は、自己資本をゼロにして、つまり100%借金で経営しようとしないのでしょうか。

言われてみれば、どんなにレバレッジをかけている会社でも、一定の自己資本は持っています。100%借金経営なんて聞いたことがありません。なぜだろう。

この修正MM理論が、まだ考慮に入れていない現実世界の別のコストがあるからなんです。たとえば借金が多すぎると、ちょっと業績が悪くなっただけで、すぐに利払いができなくなるかもしれない。つまり倒産のリスクが高まります。

聞き手は、倒産リスクが高まれば、銀行はもっと高い金利を要求するでしょうし、優秀な人材も集まらなくなるかもしれない、取引先も不安になる、と考えます。そう考えると、節税メリットを打ち消してしまうようなマイナスの影響が出てきそうだ、という答えです。講師もその通りだと言い、この倒産コストという新しい要素を考えると、また違った結論が見えてくる、と続けます。MM理論は完璧な最終結論ではなく、現実の複雑な企業財務を理解するための非常に重要な出発点なのだ、と講師は言います。最後に、この問いを考えてみると、MM理論のさらにその先にある、より現実に即したファイナンスの世界への扉が開かれるはずだと言って、動画は終わります。

(補足:動画は、この先の答えまでは示しません。節税効果のメリットと、倒産リスクにともなうコスト(財務的困窮コストとも呼ばれます)のデメリットを比べて、最適な負債の割合を考える見方は、トレードオフ理論と呼ばれます。上の図の点線はそのイメージで、実際の曲線の形や頂点の位置は、企業ごとに異なります。)

まとめ

動画の流れのまとめ

  • 税金のない完全資本市場では、資本構成は企業価値に影響しない(動画の第1命題)。
  • 同じ世界で、配当政策も無関係(第2命題)、投資決定は資金調達と切り離す(第3命題)。数え方は資料により異なる。
  • 法人税を入れた修正MM理論では、利息が損金になるため節税効果が生まれ、企業価値は、無借金の企業の価値に節税効果の現在価値を足したものになる。
  • 節税効果の現在価値は、負債が永続する前提で、法人税率×負債額。30%の国で100億円借りれば30億円。
  • 動画は負債を増やすとWACCも下がると説明。補足:法人税のない世界では変わらず、法人税があると節税の分だけ下がる。
  • 財務レバレッジ効果は株主目線のROEの話、MM理論は節税効果で会社全体のパイが大きくなる根本原因の話。補足:ROEが上がる原因は節税だけではない。
  • 理論どおりなら借金ほど価値が上がるが、現実の企業は100%借金にしない。倒産コストが、節税メリットを打ち消すから。MM理論は出発点。
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