届出だけ出せば結婚成立?婚姻の無効と取消しの違い
「婚姻届という紙を1枚出したら、結婚は成立する」。そんなイメージを持っていませんか。では、夫婦になる気持ちはないけれど、別の目的のために届出だけを出したら、その結婚は有効になるでしょうか。動画はこの問いから、民法の親族の最初のテーマ、婚姻に入ります。このページでは、「婚姻の無効と取消しの違い」を、有効に成り立つ2つの条件、取消事由6つ、取り消したときの効力の順にまとめました。「婚姻 無効 取消し 違い」を調べている人も、まず動画を聞いてから、ここで表と図を見直すのがおすすめです。
3行でいうと
- 婚姻が有効に成り立つには、婚姻の意思と婚姻の届出の2つが必要です。どちらか欠ければ無効(民法742条)。形だけの届出も無効です。
- いったん成立した婚姻を取り消せるのは、法律が定める6つの事由があるときだけ。取消しは家庭裁判所に請求し、効力は将来に向かってのみ生じます(744条1項・748条1項)。
- 婚姻の無効と取消しの違い:無効は「そもそも成立していない」、取消しは「成立した婚姻を、取り消した時点から先だけなくす」。
婚姻届を出せば結婚は成立する?
動画の冒頭で、こんな問題が出されます。お互いに「夫婦になる気持ちは全然ないけれど、別の目的のために、届出だけ出しておこう」となったら、その結婚は有効になるでしょうか。「届出が受け付けられたのだから有効」と答えたくなりますが、実はそれが不正解です。
今回から民法の親族という分野に入ります。その最初が婚姻、つまり結婚です。どんなときに有効に成り立ち、どんなときに無効になったり、取り消されたりするのか。「無効」と「取消し」は似ていますが、試験でも狙われる大事な区別です。順番に見ていきましょう。
婚姻が有効に成り立つ2つの条件
婚姻が有効に成り立つ条件は、2つあります。どちらも、そろっていなければいけません。
- 当事者の間に、婚姻をする意思があること
- 当事者が、婚姻の届出をすること
どちらか一方でも欠けていれば、その婚姻は無効です(民法742条)。無効とは、婚姻としての効力が生じない、つまり法律上は結婚として成立していない扱いになる、ということです。気持ちがあるのに届出を出していない場合も、届出はあるのに気持ちがない場合も、結論は同じ無効です。
形だけの届出は有効?判例のポイント
冒頭の問題に関係するのが、最高裁判所の昭和44年10月31日の判決です。婚姻の届出そのものについては、当事者の間で意思の合致があったとします。つまり、二人とも「届出を出そう」とは思っている。ところが、それが別の目的を達成するための便法として、形だけ仮に託されたにすぎない場合です。
「便法」とは、目的を達成するための手っ取り早いやり方のことです。本当にやりたいことは別にあって、その手段として婚姻届を使うだけ、というイメージです。この場合、婚姻の効力は生じません。本当に夫婦になる気持ちがないまま、別の目的のために届出だけをしても、有効な婚姻にはならないのです。
劇の結婚式にたとえると
劇の舞台で結婚式を演じる場面を想像してください。衣装も、誓いの言葉も、形はそろっています。でも演技ですから、役者さんが本当に結婚したことにはなりません。届出という形があっても、夫婦になる意思という中身がなければ、婚姻は無効です。試験では、届出について意思の合致があっても、形だけの便法なら効力が生じないという点を押さえましょう。
婚姻の取消しとは?取消事由は6つ
無効が「そもそも婚姻として成立していない」話だとすると、取消しは、いったん成立した婚姻を、法律が定める事由があるときに取り消すことができる、という話です。その事由は全部で6つあります。
- 婚姻適齢(731条):18歳に満たない人は婚姻できません。18歳の誕生日を迎えていない人が対象です。
- 重婚(732条):配偶者のある人は、重ねて婚姻できません。席が1つしかないのに、同時に2人が座ろうとするようなものです。
- 近親者間の婚姻(734条):直系血族、または3親等内の傍系血族の間では婚姻できません。直系血族は親・祖父母・子・孫のように縦につながる血縁、傍系血族はきょうだいやおじ・おばのように共通の祖先から枝分かれした横の血縁です。ただし、養子と養方の傍系血族との間(たとえば養子と養親の実の子との間)は例外です。
- 直系姻族間の婚姻(735条):姻族は結婚によってできる親戚関係です。たとえば配偶者の親は、自分から見て直系姻族です。姻族関係が終わった後も、同様に婚姻できません。
- 養親子等の間の婚姻(736条):養子とその配偶者、養子の直系卑属とその配偶者は、養親とその直系尊属との間で婚姻できません。こちらも、関係が終わった後も同様です。
- 詐欺・強迫による婚姻(747条1項):だまされたり、おどされたりして、自分の意思に反して結婚した場合です。
735条と736条は、関係が終わった後も駄目なんですね。意外です。
ここは見落としやすいところです。関係が終わったから結婚していい、とはならないんです。直系姻族と養親子は、終わった後もダメ、とセットで覚えましょう。
取消しの手続と効力:家庭裁判所に請求、効力は将来に向かってのみ
婚姻の取消しは、必ず家庭裁判所に請求して行います(744条1項本文)。詐欺または強迫による婚姻も、747条1項で、家庭裁判所に取消しを請求します。当事者どうしが「取り消します」と宣言して終わり、ではありません。試験では、取消しの請求先が家庭裁判所であることが問われやすいところです。
では、取り消されたら結婚はどうなるのでしょうか。取り消された婚姻は、将来に向かってだけ効力を失います(748条1項)。
動画の再生にたとえると
映像を途中で一時停止すると、そこから先は見られなくなりますが、すでに再生した部分は残ります。取消しも同じで、遡って最初からなかったことになるのではなく、取り消された時点から先の関係がなくなる、という扱いです。取り消されるまでの間は、婚姻していたという扱いは変わりません。
婚姻の無効と取消しの違いを比較表で整理
| 観点 | 無効 | 取消し |
|---|---|---|
| 考え方 | そもそも婚姻として成立していない | いったん成立した婚姻を、あとから取り消す |
| 原因 | 婚姻の意思がない、または届出がない(742条) | 6つの事由(731・732・734・735・736条、747条1項) |
| 効力 | 最初から効力がない | 将来に向かってのみ効力を失う(748条1項) |
| 請求先 | -(取消しの手続の話ではない) | 家庭裁判所に請求(744条1項・747条1項) |
| 覚え方 | 届出と意思の欠如は無効 | 条文の六事由は取消し |
無効と取消しは、事由も仕組みも別物です。「届出と意思の欠如は無効、条文の六事由は取消し」と整理しておくと、問題文の事例を見たときに迷いません。
押さえておきたい法改正2つ
最後に、婚姻に関する法改正を2つ確認します。年号が重なるので、混ぜないことが大切です。
- 令和4年の民法改正:女性だけに課されていた再婚禁止期間が廃止されました。離婚した後すぐに再婚できるようになったということです。先ほどの取消事由6つの中にも、再婚禁止期間は出てきません。
- 平成30年の民法改正(施行は令和4年4月1日):成年年齢と女性の婚姻適齢が、どちらも18歳に統一されました。未成年者の婚姻が認められなくなり、「未成年者が婚姻すれば成年に達したものとみなす」という成年擬制の規定は削除されました。
令和4年が2回出てきてややこしいのですが、1つは「改正の年」、もう1つは平成30年改正の「施行の年」です。ここを混ぜないようにしましょう。
試験ではここに注目
- 婚姻意思と届出のどちらか一方でも欠ければ無効。届出の合意があっても、別の目的の便法として形だけなら効力は生じません。
- 取消事由は6つ。条文番号とセットで、731・732・734・735・736条と747条1項を言えるようにします。
- 取消しの請求先は家庭裁判所。当事者の宣言だけでは取り消せません。
- 取消しの効力は将来に向かってのみ。「遡って」とあれば誤りです。無効は最初から効力がありません。
- 735条(直系姻族)・736条(養親子等)は、関係が終わった後も婚姻できません。
- 法改正:再婚禁止期間の廃止(令和4年改正)と、成年年齢・婚姻適齢の18歳統一(施行は令和4年4月1日)、成年擬制の削除。
補足:動画にない条文のポイント
※ここは動画にない補足です(令和8年4月1日現在の条文で確認)。①取消しを請求できる人は、731・732・734〜736条違反の婚姻では各当事者・その親族・検察官で、検察官は当事者の一方が死亡した後は請求できません。重婚では前婚の配偶者も請求できます(744条1項・2項)。②詐欺・強迫による取消権は、詐欺を発見し、または強迫を免れた後3か月を経過するか、追認をしたときに消滅します(747条2項)。③届出が方式(739条2項)を欠くだけなら、婚姻の効力は妨げられません(742条2号ただし書)。④婚姻が取り消された場合、取消しの原因を知らなかった当事者は現に利益を受けている限度で、知っていた当事者は得た利益の全部を返還します(748条2項・3項)。⑤再婚禁止期間の廃止(令和4年法律第102号)の施行日は令和6年4月1日です。動画は「令和4年の改正」としか述べていませんが、試験時点では廃止後の取扱いが前提になります。
まとめ
- 婚姻が有効に成り立つには、婚姻の意思と届出の2つが必要。どちらか欠ければ無効(742条)。形だけの便法の届出は効力を生じない。
- 取消事由は6つ:年齢・重婚・近親者・直系姻族・養親子・詐欺または強迫。家庭裁判所に請求し、効力は将来に向かってのみ。
- 無効は最初から効力がない。取消しは取り消した時点から先だけ効力を失う。
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