職務設計
事例Ⅲ 第18回
「今日は、中小企業診断士二次試験の事例Ⅲで繰り返し問われる重要論点、『職務設計』を取り上げます」。動画はこの言葉から始まります。このページでは動画の流れにそって、動機づけ要因と衛生要因の2つの軸、職務充実と職務拡大の違い、成熟度に応じた順序、与件文のサイン、答案の型、混同しやすいポイントをまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
職務設計は「ヒト」の側面から問われる
今日は、中小企業診断士二次試験の事例Ⅲで繰り返し問われる重要論点、「職務設計」を取り上げます。
事例Ⅲって、設備投資とか工程改善とか、「モノ」を良くする話が中心というイメージがあるんですが、職務設計は違うんですか。
いいところに気づきましたね。事例Ⅲでは、現場作業者のモチベーション低下や離職、技術継承の停滞といった問題への対策として、職務設計の考え方が使われます。設備投資や工程改善のような「モノ」の改善だけでなく、「ヒト」の側面から生産性や品質を底上げする視点として問われることが多いんです。
なるほど。事例Ⅲでも「ヒト」を扱う場面があるんですね。
これは、1次の企業経営理論、組織論で習う、動機づけ理論と衛生理論の考え方を、事例Ⅲの現場改善に応用したものだと考えるとつかみやすいです。設備や工程をどれだけ整えても、そこで働く人が意欲を失っていれば、生産性も品質も安定しません。だからこそ、二次試験でも「ヒト」の側面が独立した論点として問われるんです。
1次で覚えた知識が、二次でこう活きてくるんですね。
動機づけ要因と衛生要因の2つの軸
そうなんです。職務設計というのは、作業者のモチベーションを高めるために、仕事の内容や権限、担当範囲をどう設計するかという論点です。ポイントは、動機づけ要因と衛生要因という2つの軸を使って、多面的に提案できるかどうかです。
動機づけ要因と衛生要因、それぞれどういうものなんでしょうか。
動機づけ要因というのは、達成や承認など、満たされると満足につながる要因です。具体策としては、目標管理制度の導入、社内表彰制度、それから職務充実や職務拡大、ジョブローテーションなどが挙げられます。一方の衛生要因は、給与や命令系統、職場環境など、欠けると不満につながる要因です。こちらの具体策は、指揮命令系統の明確化、評価制度の整備、職場環境の改善といったものになります。
| 項目 | 動機づけ | 衛生 |
|---|---|---|
| 働き | 満たされると | 欠けると |
| 要因の例 | 達成や承認 | 給与や命令系統、 |
目標管理制度と社内表彰制度はどう動機づけにつながるか
目標管理制度や社内表彰制度は、具体的にはどう動機づけにつながるんでしょうか。
目標管理制度は、従業員自身に目標を設定させ、達成度を評価に反映する仕組みです。自分で立てた目標を達成することで、達成感や成長実感が得られます。社内表彰制度は、成果を上げた従業員を組織として承認する仕組みですね。どちらも、動機づけ要因のうち「達成」と「承認」に直接働きかける施策だと理解しておくと、与件文に合わせて使い分けやすくなります。
技術継承の停滞も職務設計と関係する
なるほど。それと、さっき「技術継承の停滞」という問題も出てきましたが、これも職務設計と関係あるんですか。
大いに関係します。技術継承がうまくいかない現場では、ベテランの技術やノウハウを、若手に計画的に経験させる機会がないケースが多いんです。ジョブローテーションで担当工程を計画的に回したり、職務拡大で若手の担当範囲を広げたりすれば、若手が幅広い工程を経験することになり、結果として技術継承にもつながります。単にモチベーションを上げるだけでなく、事例Ⅲ特有の技術継承という課題にも効いてくる、という理解を持っておくと、与件文の別の記述ともつなげやすくなります。
職務充実と職務拡大の違い
職務充実と職務拡大というのも出てきましたが、この2つは何が違うんですか。混同しやすいと聞いたことがあります。
ここは混同しやすいポイントなので、しっかり整理しておきましょう。職務充実は、権限や裁量を現場に委譲して広げる、垂直的な拡大です。一方の職務拡大は、担当する作業の範囲そのものを横に広げる、水平的な拡大です。
権限を広げるのが職務充実、担当範囲を広げるのが職務拡大、ということですね。
従業員の成熟度で、どちらを先に提案するかが変わる
その通りです。それともう一つ大事なのが、従業員の成熟度によって、どちらを先に提案すべきかが変わるということです。成熟度が低いうちにいきなり権限を広げる職務充実を提案してしまうと、うまく機能しません。まずは職務拡大で担当できる作業の幅を広げ、経験を積んで成熟度が高まってきた段階で、職務充実に進むのが適切とされています。
どうして、いきなり職務充実を提案するとうまくいかないんでしょうか。
経験の浅い従業員にいきなり大きな裁量を与えても、判断の基準がまだ身についていないため、かえって現場が混乱したり、本人にとって重荷になってしまうことがあるからです。まず職務拡大でさまざまな作業を経験させ、業務全体への理解が深まった段階で、職務充実に進んで権限を持たせる方が、無理なくモチベーション向上につながります。
順番があるんですね。これは見落としがちな気がします。
与件文で職務設計の視点を思い出す着眼点
では次に、与件文を読んでいて、どんな記述が出てきたら職務設計の視点を思い出すべきか、着眼点を整理しましょう。
お願いします。
まず一つ目は、従業員の離職率が高い、モチベーションが低下している、という記述です。これはそのまま職務設計のサインですね。二つ目は、権限が上層部に集中していて、現場に裁量が与えられていない、という記述。三つ目は、単調な作業の繰り返しで、達成感や成長実感が得られにくい、という記述です。そして四つ目が、指揮命令系統が不明確だったり、評価制度が不透明だったりといった、働く環境そのものへの不満につながる記述です。
一つ目と三つ目は動機づけ要因側、二つ目と四つ目は衛生要因側、という感じで対応していそうですね。
良い読み方です。実際に情報を整理するときも、まず動機づけ要因と衛生要因を分けて、与件文の問題が「やる気の出る仕事内容になっていない」のか、「働く環境そのものに不満がある」のか、両方の視点から抜け漏れなく整理することが大切です。
片方だけに寄った整理は誤答しやすい
片方だけに寄った整理をしてしまうと、どうなるんでしょうか。
そこが誤答しやすいポイントの一つです。例えば、給与アップのような衛生要因の充実だけを提案して終わってしまうケースがあります。ですが、衛生要因は満たしても、それだけでは積極的なモチベーション向上にはつながりにくいんです。達成感や承認といった動機づけ要因側の具体策まで踏み込めているかどうかで、解答の厚みが変わってきます。
答案の型は大きく3段階
では、実際に解答に落とし込むときは、どういう流れで書けばいいんでしょうか。
型としては、大きく3段階です。まず一つ目に、与件文にあるモチベーション低下や離職といった問題を指摘します。二つ目に、動機づけ要因と衛生要因の両方が満たされていない状況を指摘します。そして三つ目に、具体策として、権限委譲による職務充実、担当範囲を広げる職務拡大、目標管理制度や表彰制度の導入といった動機づけ要因側の施策と、指揮命令系統や評価制度の明確化といった衛生要因側の施策を組み合わせて書きます。
動機づけ要因側だけ、衛生要因側だけの一方的な提案にしないことが大事なんですね。
その通りです。両方に触れることで、モチベーション向上策として抜け漏れのない解答になります。
簡単な例に当てはめると
実際にこの型に当てはめると、どんな解答になるのか、簡単な例で見てみたいです。
たとえば、「熟練の職長に権限が集中し、若手従業員は単純作業のみを任され、定着率が低い」という与件文があったとします。この場合、まず問題は若手の離職・定着率の低さです。次に、動機づけ要因側では達成感や成長実感が得られる仕事になっていないこと、衛生要因側では権限が特定の人物に集中し、役割分担が不透明であること、この両方が不足していると整理できます。その上で、権限委譲による職務充実や担当範囲を広げる職務拡大、目標管理制度の導入といった動機づけ要因側の施策と、指揮命令系統の明確化という衛生要因側の施策を組み合わせて提案します。
一つの記述からでも、両方の軸を意識すると、抜け漏れのない解答になるんですね。
そうです。片方の軸だけで解答を組み立てると、部分点は取れても満点には届きにくい。この「両方セットで考える」という発想そのものが、職務設計という論点の一番のコアです。
混同しやすいポイントは3つ
ここまでの流れを整理すると、混同しやすいポイントが3つ見えてきますね。
はい、最後にまとめておきましょう。一つ目は、職務充実と職務拡大の取り違えです。権限を広げるのが職務充実、担当範囲を広げるのが職務拡大、と覚えておいてください。
二つ目は、衛生要因の充実だけで終わってしまい、動機づけ要因側の具体策が抜け落ちるパターンです。
三つ目は、従業員の成熟度を考慮せず、成熟度が低い段階でいきなり職務充実を提案してしまうパターンです。成熟度が低いうちはまず職務拡大から始め、その後職務充実に進む、という順序を意識してください。
まとめ
職務設計は、事例Ⅲで「ヒト」の視点から問題を解決する数少ない論点だからこそ、動機づけ要因と衛生要因の2軸、職務充実と職務拡大の違い、そして成熟度に応じた順序、この3点を押さえておけば対応できそうですね。
そうですね。設備投資や工程改善といった「モノ」の改善策と組み合わせて、「ヒト」の側面からも提案できるようになると、事例Ⅲの解答の幅がぐっと広がります。与件文で生産性や品質の課題が語られていても、その背景に人の問題が隠れていることは少なくありません。「モノ」だけで完結させず、「ヒト」の視点を持って読む癖をつけておくと、他の論点との組み合わせにも気づきやすくなります。ぜひ今日の内容を、実際の過去問演習でも使ってみてください。
押さえておく3点
- 動機づけ要因と衛生要因の2軸
- 職務充実と職務拡大の違い
- 成熟度に応じた順序
動画で聞く
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