変わりたくても変われない理由を崩す視点(組織変革の障害)
事例Ⅰ 第17回
「組織変革への障害って、知識としては完璧に頭に入っているのに、いざ与件文を読むと『これどこで使うんだっけ』となる論点じゃないですか」。動画はこんなやり取りから始まります。このページでは動画の流れにそって、与件文の着眼点、変われない5つの型とその見分け方、障害ごとに対処を対で書く答案の作法、やりがちな失敗をまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
知識は十分なのに、与件文で気づけない
動画は、組織変革への障害という論点の、こんなやり取りから始まります。講師は「知識としては完璧に頭に入っているのに、いざ与件文を読むと『あれ、これどこで使うんだっけ』となる論点ですよね」と切り出します。聞き手も「埋没コストとか既得権益とか、単語は全部言えるんです。でも本番で『これ使うところだ』と気づける自信がないんですよね」と答えます。
講師の見立ては明快です。この論点は、知識量では差がつきません。差がつくのは、与件文のどの一文を見た瞬間に「あ、変革が進まない理由がここにある」と反応できるかどうか。聞き手の言葉でいえば、「知っているのと、気づけるのは別」ということです。
しかも事例Ⅰでは、変革の必要性そのものを問うよりも、「変革がなぜ進まないのか」「どう進めればいいのか」という進め方を問う設問で使うことが多い、と講師は言います。つまり「変えるべきだ」で終わらせず、「なぜ変えられないのか」まで踏み込む論点です。
知っているのと、気づけるのは別ってことですね。
その通りです。この論点は、与件文の一文に反応できるかどうかの勝負なんです。
このページでは、与件文の着眼点、変われない5つの型、答案での対処の書き方、やりがちな失敗の順に、動画の流れにそってまとめます。
「抵抗勢力がいます」で止まらない
与件文には、たいてい次のような記述が出てきます。「新しい取り組みに社内から反対の声がある」「今のやり方を変えたくない社員が多い」。聞き手は「それ見たことあります。でも単に『抵抗勢力がいます』と読んで終わっちゃいそうです」と言います。
講師は、まさにそこだと答えます。多くの受験生はそこで思考が止まってしまう。けれど二次試験で問われているのは、その抵抗の中身が何なのかを分解することです。抵抗の声があれば、それで終わりではなく「どんな理由の抵抗か」を考える、というのが出発点になります。
もう一つ、講師が「大事な着眼点」として挙げるのが、「業績は悪くない」「今のところ問題は表面化していない」という記述です。変革の話とは無関係に見えませんか、と講師は問いかけます。聞き手も「業績が悪くないなら、変革しなくてもいいんじゃと思っちゃいます」と答えます。
ところが講師は、そこが逆だと言います。業績が悪くないからこそ、変革が進まない。この構造が、この論点の一番の急所だというのです。
逆説的な構造ってことですね。
そうです。業績が悪くないからこそ、変革が進まない。ここがこの論点の一番の急所なんです。
変われない要因は5つの型で整理する
では与件文の情報をどう整理するのか。講師は、組織が変われない要因を5つの型で押さえておくと整理しやすいと言います。最初に全体を表にします。
| 障害 | 与件文のサイン | 見分け方 |
|---|---|---|
| 埋没コストへの執着 | 長年のやり方、投資してきた仕組み | 個人の心理 |
| 既得権益の圧力 | 既存の役割にこだわる、特定部門が反発 | 立場・利害 |
| 業績による探索停止 | 業績は悪くない | 経営側の判断 |
| 動機づけ不足 | 今の状態にそこそこ満足 | 現場の心理 |
| ゆで | 不満は少ないが危機感も薄い | 基準を下げる |
5つとも「似ている」と感じやすい型です。動画では、聞き手が似ている型を比べるたびに、講師が見分けの軸を示していきます。順番に見ていきましょう。
① 埋没コストへの執着
1つ目は埋没コストへの執着です。与件文では「これまでのやり方に長年こだわってきた」「今の仕組みに投資してきた」といった記述で出ます。過去に注いだ努力や投資があるから、それを手放せないという心理です。聞き手は「過去への未練みたいなものですね」と受け止めます。
② 既得権益を持つ層からの圧力
2つ目は既得権益を持つ層からの圧力です。「一部の社員が既存の役割にこだわる」「特定の部門が変化に反発する」といった記述があれば、これだと講師は言います。
一つ目の埋没コストと似てる気がするんですけど、違いは何ですか。
いい質問です。埋没コストは個人の心理的な未練なんですが、既得権益は立場や利害の問題です。変わることで自分のポジションや権限を失う人たちが、組織的に抵抗するという構図なんですよ。
心理か利害かで見分けるんですね。
業績が良いほど動かない:③と④
3つ目が、先ほどの逆説の部分です。一定以上の業績を上げていると、あえて不連続な変革を探索しないという傾向です。今のやり方でうまくいっているのに、なぜわざわざ変えるのか、という発想になる。聞き手の言葉では「業績がいいからこそ、わざわざリスクを取って変わろうとしない」ということです。
だから、与件文の「業績は悪くない」という一文は、ただの好材料ではありません。講師は、変革が進まない理由の説明として機能すると言います。聞き手は「悪くないことが逆に足かせになるってことですね」とまとめます。
4つ目は、不満がない状態における動機づけの不足です。社員が今の状態にそこそこ満足していると、変わろうというエネルギーそのものが生まれにくい、という話です。
それも似たような話に聞こえますけど、三つ目とはどう違うんですか。
三つ目は経営側の意思決定の話、四つ目は現場の社員の心理の話です。経営が探索をしないのか、社員が動機を持てないのか、主体がどっちかで分けて考えると整理しやすいです。
視点の違いなんですね。
ゆでガエル:基準のほうを下げてしまう
5つ目は、有名な希求水準を下げて適応しようとする傾向、いわゆるゆでガエルシンドロームです。聞き手は「じわじわ茹で上がって、気づかないうちに手遅れになるイメージですよね。でも四つ目の動機づけ不足とどう違うんですか」と尋ねます。
講師の答えはこうです。動機づけ不足は「今のままでいい」という静的な状態。それに対してゆでガエルは、状況が悪化しているのに、希求水準そのものを無意識に下げて、悪化に合わせてしまう動的な現象だといいます。
危機に気づいていないんじゃなくて、無意識に基準の方を下げて、危機と感じなくしちゃうってことですか。
まさにそれです。だから与件文で「不満は少ないが将来への危機感も薄い」という記述が出たら、四つ目の動機づけ不足と、このゆでガエル状態の両方を疑うサインになります。
ここまでの区別をまとめると、軸は次のとおりです。覚えるというより、「主体は誰か」「静的か動的か」と問い直すための道具だと考えてください。
似ている型の見分け方
- ①と②は、心理か利害か(個人の未練か、立場を失う人たちの組織的な抵抗か)
- ③と④は、経営側の意思決定か現場社員の心理か
- ④と⑤は、「今のままでいい」という静的な状態か、基準を下げ続ける動的な現象か
障害を見つけたら、対処を対で書く
聞き手が「5つの要因が、与件文のどの記述に対応するかは分かってきました。でも見つけた後、どう解答に落とし込めばいいんですか」と尋ねると、講師は「ここが一番大事なところです」と言います。障害を特定して終わりではなく、その障害ごとに対処を対で書くのが、この論点の型なのです。
講師が挙げた対応は3つです。
- 埋没コストへの執着 → 新しい成功体験を積ませる。過去への未練を上回る、新しいうまくいった経験を作ってあげる。
- 既得権益の圧力 → 変革のプロジェクトそのものに巻き込み、当事者にする。抵抗する側に回すのではなく、変革を進める側に取り込む。当事者になれば、態度が軟化しやすい。
- 危機感の欠如・ゆでガエル状態 → 将来のリスクを可視化して共有する。放っておくとどうなるのかを、数字や状況を示して具体的に見せ、危機を実感してもらう。
過去に執着しているなら新しい成功で塗り替える、抵抗する人は敵に回さず仲間にする、ということですね。
そうです。危機感が薄いなら、放っておくとどうなるのかを具体的に見せてあげる。数字や状況を示して、危機を実感してもらうんです。
障害と対処の対(動画の3つ)
- 埋没コストへの執着 → 新しい成功体験
- 既得権益の圧力 → プロジェクトへの巻き込み
- 危機感の欠如・ゆでガエル → リスクの可視化と共有
複数の障害を拾って、打ち手を組み合わせる
ここで聞き手が、架空のケースを出します。「長年同じやり方で業績もそこそこ安定していて、一部のベテラン社員が今の体制に強いこだわりを持っている、という会社だったら」。講師は「いい例ですね」と受けて、こう整理します。業績が安定しているから経営側が変革の探索をしないという3つ目の障害と、ベテラン社員の既得権益という2つ目の障害が重なっている可能性がある、というわけです。
では対処はどうなるか。聞き手の案は、「業績が安定しているうちにこそ将来のリスクを可視化して共有しつつ、ベテラン社員を変革プロジェクトの中心に巻き込む」という組み合わせでした。講師は「まさにその発想です」と認めます。
一つの障害に一つの対処、というだけではないんですね。
与件文から複数の障害を拾って、それぞれに対応する打ち手を組み合わせて書く。これができると、答案の説得力が一段上がります。
単に「変革を進めるべき」じゃなくて、何が邪魔していて、それをどう崩すか、という構造で書くんですね。
そうです。障害、対処、その結果どうなるか、という順番で並べると、字数も収まりやすいですよ。
この例から、答案づくりの手順が見えてきます。与件文から障害を拾い、障害ごとに対処を対にし、最後に結果を添える。複数の障害が見つかったら、打ち手を組み合わせる。講師が言う「答案の説得力」は、この構造から生まれます。
やりがちな失敗パターン3つ
聞き手が「逆にやりがちな失敗はどんなパターンですか」と尋ねて、講師は3つを挙げます。
1つ目は、変革の必要性だけを書いて、障害の特定に触れないパターンです。聞き手は「『新規事業に進出すべき』みたいな結論だけ書いて満足しちゃう感じですよね」と言い、講師は「そうなんです」と応じます。設問で問われているのは進め方であって、方向性の是非ではないことが多い。障害を素通りすると、設問の要求からずれてしまいます。
2つ目は、「社員の意識を変える」という抽象的な表現だけで終わるパターンです。埋没コストなのか、既得権益なのか、危機感の欠如なのか。どの要因かを具体的に示さないと、与件文の根拠を使ったことにならない、と講師は言います。聞き手は「抽象論で逃げると、与件文を読み込んだ答案には見えないってことですね」とまとめました。
3つ目は、逆説の見落としです。業績が良いほど変革が進みにくいという構造を理解していないと、「業績は悪くない」という記述をただの好材料として読んでしまい、変革が進まない理由として使えなくなります。
| 失敗 | 何が起きるか |
|---|---|
| 必要性だけ書く | 障害を素通りし、設問の要求からずれる |
| 「意識を変える」だけ | 与件文の根拠を使ったことにならない |
| 逆説の見落とし | 「業績は悪くない」を好材料と読む |
その一文を見て、むしろ障害のサインだと気づけるかどうか、なんですね。
そうです。業績が良いほど変革が進みにくい、という構造を踏まえて与件文を読むということです。
本番での使い方
最後に、講師は本番で使うときのポイントをまとめます。この論点は、抵抗の声や「業績は悪くない」という記述を見た瞬間に、5つの障害のどれに当てはまるかを頭の中で振り分けるところから始まります。聞き手が「埋没コストか、既得権益か、業績による探索の停止か、動機づけ不足か、ゆでガエル状態か、ですね」と確認すると、講師は「そうです」と答えます。
振り分けたら、それぞれに対応する対処を対で組み立てます。新しい成功体験、プロジェクトへの巻き込み、リスクの可視化。この組み合わせで打ち手を作っていく、と講師は言います。
答案を書く前に確認すること
- 抵抗の声だけでなく、「業績は悪くない」という一文にも反応したか
- 抵抗の中身を、5つの障害のどれかに振り分けたか
- 障害ごとに、対処を対で書いたか(複数の障害なら、打ち手を組み合わせたか)
- 結論だけ、「意識を変える」だけで終わっていないか
聞き手の最後の言葉は、「次に与件文を読むときは、抵抗の声だけじゃなくて『業績は悪くない』という一文にも反応できるように意識してみます」でした。講師も、知識はもう十分あるので、あとは与件文のどこでこの5つのどれが出ているかを、反射的に見抜く練習を積んでいってください、と締めくくります。
まとめ
動画の整理
- この論点は知識量では差がつかない。与件文の一文に反応できるかが勝負
- 事例Ⅰでは、変革の必要性より「なぜ進まないか」「どう進めるか」という進め方が問われることが多い
- 着眼点は2つ:抵抗の声(中身を分解する)と、「業績は悪くない」(業績が悪くないからこそ進まない逆説)
- 変われない要因は5つ:埋没コストへの執着、既得権益の圧力、業績による探索停止、動機づけ不足、ゆでガエル
- 見分けの軸は、心理か利害か、経営側か現場か、静的か動的か
- 答案は障害ごとに対処を対で書く:新しい成功体験、プロジェクトへの巻き込み、リスクの可視化と共有。複数の障害は打ち手を組み合わせ、障害、対処、結果の順に並べる
- 失敗は3つ:必要性だけ書く、「意識を変える」だけで終わる、逆説を見落とす
知っていることと、与件文で気づけることは別です。抵抗の声と「業績は悪くない」という一文を見たら、5つの障害に振り分け、障害ごとに対処を対にして書く。この流れを反射的にできるようにしておけば、変革の進め方を問う設問にも、与件文の根拠をもって答えられます。
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