ベテランの勘を会社の財産に変える発想
事例Ⅰ 第19回
「SECIモデル、知識としては持っているけれど、二次の答案でどう使えばいいか分からない」。動画は、講師がこんな相談の多さを挙げるところから始まります。共同化や表出化の意味は覚えているのに、与件文を読んでも使う場面に気づけない。このページでは、反応すべき与件文のパターンと言葉、知の変換の四段階での整理、答案への落とし込み、やりがちな失敗、本番のチェックポイントを、動画の流れにそってまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
知識はあるのに、使うスイッチが入らない
動画は、講師のこんな一言から始まります。SECIモデルは知識としては持っているけれど、二次の答案でどう使えばいいか分からない。そういう相談が、とても多いのだそうです。聞き手も「まさにそれです」と応じます。共同化とか表出化とか、言葉と意味は覚えている。でも与件文を読んでも、「ここで使う場面だ」と気づけない。
講師はこの状態を、「知識はあるのに、使うスイッチが入らない」と表現します。そして今日は、そのスイッチの入れ方だけに絞って話す、と宣言します。聞き手の希望も同じです。用語のおさらいは最小限でいいので、本番でどう反応すればいいかを教えてほしい。つまりこの動画は、SECIモデルの解説ではなく、与件文を読んで、答案に変えるまでの反応の仕方の講義です。
用語のおさらいは最小限でいいので、本番でどう反応すればいいかを教えてください。
では、どんな与件文が出てきたら反応すべきか、というところから入ります。
このページも、その順番でまとめます。流れは次のとおりです。
- どんな書かれ方の与件文に反応するか(パターン2つ)
- 与件文のどの言葉に反応するか(「マニュアルが無い」と「マニュアルが活きていない」)
- 知の変換の四段階での整理と、止まっている段階の探し方
- 答案への落とし込み方と、やりがちな失敗3つ
- 本番でのチェックポイント
反応すべき与件文のパターン2つ
講師が「一番典型的」と言うのは、熟練工の技術が特定の人にしか無いという書かれ方です。聞き手が「ベテランの勘とか経験に頼ってる、みたいな一文ですよね」と言うと、講師は「そうです」と受けたうえで、もう一つ付け加えます。ベテランの高齢化や退職が迫っている、という時間的な切迫感が一緒に書かれることが多い、というのです。技術が失われる前に、という危機感とセットで出てくるわけです。
もう一つのパターンは、現場で良い工夫が生まれているのに、それがその現場だけで終わっていて、会社全体には広がっていない、という書かれ方です。聞き手の言葉を借りれば、個人や一つの部署の中で知恵が閉じてしまっているパターンです。
聞き手は「事例で言うとどのあたりで出やすいんですか」と尋ねます。講師の答えは、事例Ⅰの組織学習や人材育成の文脈でも、事例Ⅲの技術承継や標準化の文脈でも、同じ切り口が使える、というものです。技術か人材かの違いはあっても、根っこは同じだと言います。
事例が変わっても、頭の使い方自体は同じ、と考えていいんでしょうか。
そうです。問われているのが技術なのか人材の育成なのか、対象が違うだけで、暗黙知を形式知に変えて組織で共有する、という考え方の骨組みは変わりません。
それなら、事例をまたいでも迷わず使えそうです。
この動画は、事例をまたいで使える論点として話が進みます。事例Ⅰの人材育成で出ても、事例Ⅲの技術承継で出ても、「暗黙知を形式知に変えて組織で共有する」という骨組みで読めばよい、というのが講師の整理です。
「マニュアルが無い」と「マニュアルが活きていない」
次に聞き手が知りたいのは、与件文のどの言葉に反応すればいいか、です。講師がまず挙げるのは、「熟練工の技術や勘に頼っている」「マニュアル化されていない」といった表現です。これは、暗黙知が形式知になっていない状態そのものを表している、と講師は言います。聞き手は「マニュアルが無い、って書いてあったら反応する、と」とまとめます。
講師が「もう一つ見落としがち」と言うのが、「マニュアルはあるけれど、現場で活かされていない」という書かれ方です。聞き手はすぐに「逆パターンですね」と気づきます。形式知はあるのに、それが現場の技能として身についていないのです。
| 与件文の書き方 | 状態 |
|---|---|
| マニュアル | 暗黙知のまま |
| マニュアルは | 形式知はあるが技能になっていない |
講師は、この二つを混同すると解答の方向が変わってしまう、と釘を刺します。だから、どちらの状態かをまず切り分ける必要があります。
「マニュアルが無い」と「マニュアルが活きていない」、似てるようで問われている段階が違う、ってことですね。
そうです。この見極めが、次の整理の仕方に直結します。
知の変換は四つの段階で捉える
講師は「ここからが本題です」と言って、知の変換を四つの段階で整理します。
最初は共同化。ベテランと若手が一緒に作業して、体で覚えていく段階です。暗黙知から暗黙知への移動です。聞き手は「まだ言葉になっていない段階ですね」と確認します。講師の答えは「そうです」。
次が表出化。共同化で得たコツを、言葉や図、数値、マニュアルという形に書き起こす段階です。ここで初めて、暗黙知が形式知に変わります。聞き手は、ここが一番イメージしやすい、マニュアル化する発想はまさにこの段階だ、と言います。
ただし講師は、「多くの受験生はここで止まってしまう」と指摘します。書き起こしただけでは終わらず、次に連結化があるからです。書き起こした知識同士を組み合わせて、体系立てていく段階です。聞き手は「バラバラのマニュアルを、一つの仕組みとしてつなげていくイメージでしょうか」と言い、講師は「その通りです」と応じます。
最後が内面化。体系化された形式知を、若手が実践で使ってみて、自分自身の技能として体得していく段階です。ここで、形式知がまた暗黙知に戻ります。聞き手の言葉では、「一周して、また暗黙知に戻る」のです。
| 段階 | やること |
|---|---|
| 共同化 | 一緒に作業して体で覚える(暗黙知から暗黙知) |
| 表出化 | 言葉・図・数値・マニュアルに書き起こす(暗黙知が形式知に) |
| 連結化 | 書き起こした知識同士を組み合わせ、体系立てる |
| 内面化 | 実践で使い、自分の技能として体得する(形式知が暗黙知に戻る) |
講師はさらに、この四段階が一回で終わるのではなく、スパイラルのように繰り返されることで、組織全体の知識創造が進んでいく、と言います。これがこの論点の骨格です。
与件文では「止まっている段階」を探す
四段階を押さえると、与件文の読み方が決まります。聞き手が「四段階のうちどこで止まっているのかを探す、という読み方になりますね」とまとめると、講師は「まさにそれです」と答えました。
なるほど。だとすると、与件文を読むときは、この四段階のうちどこで止まっているのかを探す、という読み方になりますね。
まさにそれです。「マニュアルが無い」なら表出化の手前で止まっている。「マニュアルが活きていない」なら内面化の手前で止まっている。止まっている場所を特定することが、整理の第一歩です。
与件文の読み方
- 「マニュアルが無い」「勘に頼っている」→ 表出化の手前で止まっている
- 「マニュアルはあるが活きていない」→ 内面化の手前で止まっている
- 止まっている場所を特定することが、整理の第一歩
答案の型:サイクルを回し、欠けた段階を厚く
止まっている段階が分かったら、どう解答に落とし込むか。聞き手の問いに、講師はまず基本の型を示します。共同化から内面化までのサイクルを回す、という書き方です。
基本の型(動画の流れ)
- ベテランと若手が共同で作業する機会をつくる(共同化)
- そこで得たコツを文章や図にしてマニュアル化する(表出化)
- 既存の知識と組み合わせて体系立てる(連結化)
- 若手がそのマニュアルを実践で使い、自分の技能として定着させる(内面化)
ここで聞き手が、素朴な疑問を挟みます。
四段階を全部、毎回律儀に書く必要があるんでしょうか。
そこは誤解されやすいところで、全段階を毎回書く必要はありません。与件で欠けている段階を重点的に補う書き方でいいんです。表出化が弱いなら表出化を厚く、内面化が弱いなら内面化を厚く書きます。
それなら、与件の状態に応じて配分を変えればいいんですね。字数が限られていても対応できそうです。
そうです。四段階を全部並べて薄く書くより、止まっている段階に字数を寄せた方が、設問の意図に刺さる解答になります。
つまり、型は「一周する流れ」を頭に置きつつ、字数は止まっている段階に寄せる、という二段構えです。全段階を均等に書こうとしなくてよい、と講師は念を押しています。
実務的な打ち手のイメージも一つ紹介されました。社員が持っているノウハウを文章や数値として書き起こしたうえで、それを社内のシステムで全社員が見られるようにする。この取り組みは、表出化から連結化への橋渡しの一例として使える、と講師は言います。
(補足:動画にない文例です。「マニュアルが無い」という与件への書き方の一例として、「熟練者のコツを文章や数値に書き起こしてマニュアル化し、社内のシステムで全社員が共有できるようにする」のようにまとめられます。実際の設問では、問われている内容と字数に合わせてください。)
やりがちな失敗3つ
聞き手が「逆に、やりがちな失敗ってどんなものがありますか」と尋ねると、講師は3つ挙げました。
1つ目は、「マニュアル化する」の一言だけで解答を終えてしまうパターンです。これは表出化しか書けていなくて、共同化や連結化、内面化に触れていません。聞き手は「書いてしまいそうです。マニュアル化すれば解決、って思い込みがちで」と認めます。
2つ目は、形式知化することだけを目的にしてしまい、内面化、つまり現場で実際に使いこなす段階まで踏み込まない答案です。講師は「マニュアルを作って終わり、では技術は本当の意味で承継されていません」と言います。聞き手の言葉では、「書いて満足しちゃうパターン」です。
3つ目は、OJTやOff-JTといった一般的な教育施策とごちゃまぜにしてしまうパターンです。知の変換という独自の切り口を使わずに、単なる教育訓練の話にすり替わってしまうと、この論点を使った意味が薄れる、と講師は言います。
あ、それ、書いてしまいそうです。マニュアル化すれば解決、って思い込みがちで。
二つ目が、形式知化することだけを目的にしてしまって、内面化、つまり現場で実際に使いこなす段階まで踏み込まない答案です。
なるほど、書いて満足しちゃうパターンですね。三つ目もあるんですか。
あります。OJTやOff-JTといった一般的な教育施策とごちゃまぜにしてしまうパターンです。
OJTやOff-JTは書いてはいけないのか
3つ目の失敗には、聞き手が食い下がります。教育の話に寄せた方が書きやすい気がしてしまう。それだと論点がぼやけるのでしょうか、と。
講師の答えは、OJTもOff-JTも手段としては間違っていない、というものです。ただ、それだけを書くと、暗黙知がどう形式知に変わり、それがどう組織に蓄積されるのか、という知の変換の中身が答案から見えなくなってしまいます。聞き手は「手段の名前を出すこと自体が悪いんじゃなくて、それが四段階のどこに効いているかを説明できていないのが問題なんですね」と整理しました。
講師は「そうです」と答え、例を一つ出します。同じ「一緒に作業させる」でも、それが共同化を狙っているのか、内面化を狙っているのかまで言えると、解答の説得力が変わる、というのです。
| 同じ「一緒に作業させる」 | 狙い |
|---|---|
| 共同化を狙う | ベテランと若手が共同で作業し、体で覚える |
| 内面化を狙う | 若手がマニュアルを実践で使い、技能にする |
なるほど、手段の名前を出すこと自体が悪いんじゃなくて、それが四段階のどこに効いているかを説明できていないのが問題なんですね。
そうです。同じ「一緒に作業させる」でも、それが共同化を狙っているのか、内面化を狙っているのかまで言えると、解答の説得力が変わります。
本番でのチェックポイント3つ
聞き手に「最後に整理してもらってもいいですか」と頼まれて、講師は本番でのチェックポイントを3つにまとめます。
本番でのチェックポイント(動画の整理)
- 与件が暗黙知の状態か形式知の状態か、どちらで止まっているかを見極める(マニュアルが無いのか、あっても活きていないのか)
- 四段階のうち、止まっている段階に解答の重心を置く。全段階を均等に書こうとしない(欠けているところを重点的に補う)
- マニュアル化だけで終わらせず、内面化まで含めたサイクルとして答える
講師は、3つ目ができれば「知識はあるのに使えない、という状態から抜け出せます」と言います。聞き手も、今日でようやく、SECIモデルを与件文の中でどう見つけて、どう解答に変えるかが、つながった気がすると話しています。
今日でようやく、SECIモデルを与件文の中でどう見つけて、どう解答に変えるか、つながった気がします。
その感覚を持って与件文を読めば、次からは迷わず反応できるはずです。
まとめ
動画の整理
- 反応する与件文は2パターン:熟練の技術が特定の人にしかない(高齢化・退職の切迫感つき)/現場の良い工夫が全社に広がっていない。事例Ⅰでも事例Ⅲでも同じ切り口が使える
- 「マニュアルが無い」(暗黙知のまま)と「マニュアルが活きていない」(形式知が技能になっていない)を、まず切り分ける
- 知の変換は共同化・表出化・連結化・内面化の四段階。スパイラルのように繰り返される
- 与件文では止まっている段階を探す。「マニュアルが無い」なら表出化の手前、「活きていない」なら内面化の手前
- 答案の基本は共同化から内面化までのサイクル。ただし全段階を均等に書かず、欠けている段階を厚くする
- 失敗は3つ:「マニュアル化する」だけで終える/形式知化だけを目的にする/OJT・Off-JTなど一般の教育施策と混同する
SECIモデルの言葉を知っていることと、与件文を読んで反応できることは別です。まず与件文から、「マニュアルが無い」のか「活きていない」のかを見極める。止まっている段階を特定して、そこに字数を寄せる。そして、書き起こして終わりにせず、現場で使いこなすところまでを一つのサイクルとして答える。この順番を持っておけば、知識のスイッチが入ります。
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