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中小企業診断士 1次試験

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コスト・需要・競争志向の3アプローチで決まる価格設定の論理

企業経営理論 第26回

企業経営理論・マーケティング 00617分11秒2026年5月5日公開

「先日プリンターのインクが切れて買い替えようとしたら、インク代だけでプリンター本体がもう1台買えるくらいの値段で、驚愕しました」。動画はそんな身近な体験から始まり、その値段は偶然ではなく企業の仕掛けだ、という話につながります。このページでは動画の流れにそって、価格設定の3つの志向、人の心理を使った価格戦略、複数の商品や売り場全体で考える価格、サブスクとフリーミアムまでをまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。

価格は「コスト・顧客・市場」がぶつかる交差点

プリンターのインクが切れて買い替えようとしたら、インク代だけでプリンター本体がもう1台買えそうな値段だった。そんな経験はありませんか。これは偶然ではなく、企業が組み立てた仕掛けです。人の心理を利用して、結果的により多くのお金を払ってもらう。動画は、そんな話から始まります。

毎日行くスーパーの野菜から、ネットで買う航空券まで、あの数字はどうやって決まっているのでしょうか。大前提として、価格は「いくらで売るか」という帳簿上の数字ではありません。企業の抱えるコスト、顧客の複雑な心理、そして市場環境(ライバルの動きなど)。この3つが激しくぶつかり合う交差点であり、企業の生死を分ける最大の経営判断のひとつです。価格がほんの少し変わるだけで、製品の価値というメッセージが根底から崩れてしまうこともあるからです。

この講義は、次の順に進めます。まず基準になる価格の決め方(3つの志向)。次に人の心理を踏まえた価格設定。さらに複数の商品・売り場全体で考える価格設定。最後にデジタル時代の新しい価格の取り方です。

基準になる価格を決める3つの志向

動画では、あなたが「ブレンドコーヒー1杯の値段」を決めるカフェのオーナーになったつもりで、3つのアプローチを順に見ていきます。

コスト志向いくらかかったかコストプラス法マークアップ法需要志向お客さんはいくらなら払うか知覚価格法・差別価格法ダイナミックプライシング競争志向ライバルはいくらにしているか実勢価格設定法入札による価格設定法
基準になる価格は、この3つの目線のどれかから出発して決まります。

1. コスト志向:かかった費用から決める

いちばんオーソドックスな出発点が、コスト志向の価格設定です。文字どおり、かかった費用をベースにします。代表的な手法は2つあります。

  • コストプラス法:製造原価に、一定の利益(マージン)を上乗せして価格にする。作る側(メーカーなど)の考え方です。
  • マークアップ法:仕入原価に、値入額(ねいれがく:自店の取り分)を加えて売価にする。仕入れて売るだけの店、特に流通業界でよく使われます。

どちらも確実に利益を確保しながら、コストを回収しやすい、とても現実的な方法です。カフェの例なら、コーヒー豆の原価が50円、人件費や家賃の負担分が100円。ここに利益を載せて300円にしよう、という計算になります。

(補足:動画にない話です。マークアップは、テキストによって「原価に対して何%上乗せするか」で表すことも、「売価の何%が値入れか」で表すこともあります。たとえば仕入れ200円を300円で売ると、値入額は100円です。原価基準なら上乗せ率は50%、売価基準なら約33%になります。計算問題では、どちらの基準で聞かれているかを必ず確認しましょう。)

ただし、ここで当然の疑問が出ます。「そのお客さんが300円を払う価値を感じるか」という視点が、すっぽり抜けていないか、という点です。これがコスト志向最大の弱点です。企業側の論理だけで決めると、市場の感覚とずれてしまいます。そこで登場するのが2つ目のアプローチです。

2. 需要志向:お客さんの感じる価値で決める

需要志向では、主語が企業から消費者に切り替わります。代表的な手法は次のとおりです。

  • 知覚価格法:消費者がその製品にどれくらいの価値を感じているか(知覚価値)を見て、価格を決める。
  • 差別価格法:時間帯や顧客の属性などで価格を変える。映画館の学生割引や、飲食店のハッピーアワーが例です。
  • ダイナミックプライシング:ホテルや航空券のように、市場の需要の波に応じて価格を柔軟に変動させる。ゴールデンウィーク直前に、普段5,000円のビジネスホテルが1万5,000円に跳ね上がる、あの現象です。

近年この分野は大きく進化しています。かつてはベテラン担当者が経験と勘で価格を調整していましたが、いまはAIが、市場の需要、競合の空き状況、天候までをリアルタイムで解析し、分単位で自動的に最適化しています。需要志向のアプローチは、かつてないほど精密になっているのです。

(補足:動画にない話です。需要志向の土台には価格弾力性の考え方があります。値段を変えたとき、需要がどれくらい敏感に増減するかを表すものです。弾力性が大きい商品は値下げで売上が伸びやすく、小さい商品は値上げしても需要があまり減りません。差別価格やダイナミックプライシングは、この敏感さが顧客や時期によって違うことを利用しています。)

AIに自分の購買熱量を数値にされているみたいで、ちょっと怖いですね。

そう感じるかもしれません。でも企業にとっては、需要を高い精度で読めるようになったということ。ここが需要志向の進化したところです。

3. 競争志向:ライバルの価格を意識して決める

では、カフェのすぐ隣に全国チェーンの巨大な店ができて、1杯100円で売り出したらどうでしょう。いくらAIで分析しても、無視できませんね。ここで発動するのが3つ目の競争志向です。

  • 実勢価格設定法:業界のプライスリーダー(圧倒的な力を持つ企業)の価格や、市場の一般的な価格水準を念頭において決める。消費者が価格に非常に敏感な日用品市場などでよく用いられます。
  • 入札による価格設定法:公共工事などで見られる方法。いかにライバルに勝つかを考えて価格を出します。

(補足:実勢価格設定では、リーダーの価格に他社が追随する形をとることが多く、追随する側をプライスフォロワーと呼びます。入札では、ライバルの出しそうな価格を予想して安く出すほど落札しやすくなりますが、自社のコストを割る価格では出せない、という下限があります。)

試験ではここに注目

  • コスト志向・需要志向・競争志向の3分類と、それぞれの手法を結びつける(コストプラス法・マークアップ法/知覚価格法・差別価格法・ダイナミックプライシング/実勢価格設定法・入札による価格設定法)
  • コストプラス法は製造原価ベース(メーカー)、マークアップ法は仕入原価ベース(流通業)
  • コスト志向の弱点は「顧客が払う価値があるか」という視点が抜けること

ここまでのまとめ

  • ベースの価格は、コスト・需要・競争の3つの視点で決まる。どれか1つに偏らず、見る目線を切り替えることが大切です。

人は合理的な計算機ではない:心理的な価格設定

基準の価格が決まっても、それで終わりではありません。人間は合理的な計算機ではないからです。ここからは、その心理を踏まえた価格戦略を見ていきます。

端数価格(キリの少し下)3,980円のように、キリのよい数字から少し引き、左の桁を下げて割安に見せる慣習価格(長年固定)長く同じ値段で売られ、お客さんの頭に「いくら」と固定。上げると売れない名声価格(威光価格)品質を見分けにくい高級品で、「高いからきっと良い物」と信じてもらう
どれも「人は価格を数字だけで受け取らない」ことを使った考え方です。

端数価格:左の桁のインパクトに引っ張られる

4,000円のシャツが3,980円だと、たった20円の差なのに、「3,000円台だ、安い」と感じて買ってしまう。これは端数価格(奇数価格)という心理的な価格戦略です。あえてキリのよい数字から少しだけ引いて、端数をつくります。人間は数字を左から右へ読むので、いちばん左の桁が4から3に変わるだけで、実際の差額以上の強い割安感を感じてしまうのです。

慣習価格:変えると一気に売れなくなる

一方で、まったく逆の現象もあります。自動販売機の缶コーヒーは、長年ずっと120円、130円という価格で固定されています。もし10円でも値上がりしたら、猛烈に損をした気分になって買うのをやめてしまいそうですよね。これが慣習価格です。長期間にわたって同じ金額が維持されることで、消費者の頭の中に「この商品はいくら」という強い固定観念ができあがっている状態です。

この戦略の怖いところは、コストを価格に転嫁しにくいという強力なデメリットがあることです。少しでも高くなると急激に売れなくなり、需要が蒸発してしまいます。原材料費が高騰しているのに値上げできない。企業にとっては悪夢です。そこで、値段を変えずに中身の量を減らす「ステルス値上げ」(内容量を減らす実質的な値上げ。シュリンクフレーションとも呼ばれます)という苦肉の策が生まれます。企業の担当者は、この価格を維持するために、物流を見直すなど、血のにじむような努力をしています。

名声価格(威光価格):高いほど売れる、という逆の戦略

慣習価格の反対にあたる、ある意味で究極の戦略が名声価格です。別名で威光価格とも呼ばれます。値上がりしたら売れなくなる、の逆で、「高ければ高いほど売れる」という価格です。

たとえば、知識のない高級腕時計を選ぶとします。5万円の時計と50万円の時計が並んでいたら、「50万円のほうが品質が良いに決まっている」と、無意識に考えませんか。自分の目利きに自信がない高価なものほど、値段を品質のバロメーターとして頼りにしてしまうのです。逆に、高級ブランドが突然半額セールを始めたら、「何かあるのでは」「ブランドの価値が落ちた」と不安になります。つまり名声価格は、消費者が自力で品質を適正に判断しにくい製品で、「高いのだからきっと良いものだろう」という心理をつく戦略です。安くすると、かえって売れなくなります。

慣習価格と名声価格のちがい

  • 慣習価格:値上げに敏感。上がると急に売れなくなる(缶コーヒーなど、日常的に買うもの)。
  • 名声価格:値下げに敏感。安くすると品質への信頼が下がる(高級ブランドや腕時計など、品質を判断しにくいもの)。

プライスライン:松竹梅の法則

スマホを買い替えるとき、スペック順に「いちばん安いモデル」「真ん中のモデル」「いちばん高いプロモデル」の3種類が並んでいて、つい真ん中を選んだ、という経験はないでしょうか。これはプライスラインという戦略です。製品ラインのランクに応じて、意図的に段階的な価格を設定する手法で、松竹梅の法則とも呼ばれます。

人間には極端な選択を避ける傾向があります。いちばん高いものは贅沢すぎる。いちばん安いものは機能が不安。その結果、真ん中がもっとも安全で賢い選択に思えてくるのです。企業は、真ん中のモデルでもっとも利益が出るように設計しているケースが多く、上と下の価格は、いわば真ん中を選んでもらうための当て馬になっています。また、消費者が比較しやすくなるだけでなく、売る側にとっても価格設定の手間を省ける、という効果があります。

プライスゾーン:品ぞろえ全体の価格の幅梅基本モデル例:5万円竹標準モデル例:8万円松上位モデル例:12万円プライスポイントゾーンの中で、いちばん売れる価格価格は例です。「真ん中を選びがち」を使い、売りたい真ん中のモデルで利益を出す設計が多い
3段階の価格を用意するのがプライスライン(松竹梅)。幅がゾーン、売れ筋の価格がポイントです。

プライスラインに関連して、試験で確実に押さえたい用語が2つあります。

  • プライスゾーン:商品全体の価格の幅。
  • プライスポイント:そのゾーンの中で、実際にもっとも売れている価格。

プライスゾーンというグラデーションの中で、いちばんホットな点がプライスポイントです。

アンカリング効果:最初の数字が基準になる

「通常価格50万円が、今ならなんと9万8,000円」。最初から9万8,000円と言われるより、ずっとお得に感じる広告です。この現象はアンカリング効果を利用しています。船のいかりを下ろすように、最初に提示された大きな数字(50万円)が、脳の判断基準として固定されてしまうのです。すると、その後の9万8,000円は、最初の価格からの落差として評価され、異常に安く見えてしまいます。

(補足:動画にない話です。試験では、消費者が頭の中でもつ「これくらいが普通」という基準を参照価格と呼びます。自分の記憶にもとづく「内的参照価格」と、店頭の表示など外から与えられる「外的参照価格」があります。なお、実際の販売実績のない高い価格を比較に出して安く見せるような二重価格表示は、景品表示法の有利誤認表示(同法5条2号)にあたるおそれがあり、消費者庁が考え方を示しています。出典:消費者庁「二重価格表示」。)

試験ではここに注目

  • 端数価格・慣習価格・名声価格(威光価格)の特徴の見分け:端数=割安に見せる/慣習=上げにくい/名声=高いほど売れる
  • プライスライン(松竹梅の法則)と、プライスゾーン・プライスポイントの区別
  • アンカリング効果=最初に提示された数字が判断の基準になる
  • (補足)これら心理的価格は、教材によって需要志向の仲間として整理されることもあります。

複数の商品・売り場全体で考える価格設定

ここまでは1つの商品の値段の話でした。ここからは、冒頭のインクの話のように、複数の製品を組み合わせて考える価格戦略を見ていきます。

キャプティブ価格:本体は安く、消耗品で回収する

本体は安いのに、インクでじわじわ代金を取られる。この戦略は、複数の製品を組み合わせる製品価格設定戦略のひとつで、キャプティブ価格と呼ばれます。主製品(本体)を極端に安く売って購入のハードルを下げ、顧客を囲い込みます。そして、継続的に必要となる高い副製品(インクなどの消耗品)で、長期的に利益を回収する仕組みです。かみそりの本体と替え刃の関係も同じです。「キャプティブ」とは「囚われた」という意味で、主製品を買った顧客が、付随する副製品を買い続けるしかなくなる状態をさしています。

① 主製品(本体)を安く売る例:プリンター本体。ほぼ利益なしでもよい② お客さんが本体を持ち、囲い込まれる他社に乗り換えるコストが高く、使い続ける③ 副製品(消耗品)を高めに売り続ける例:インク、替え刃。ここで利益を回収
1つ1つの製品で稼ぐのではなく、お客さん1人から長い期間に得られる利益を見るのがキャプティブ価格です。

消費者が少し不満を持ったとしても、すでに本体を買っているため、他社への乗り換えコストが高く、結果的に使い続けてしまいます。ここで大事なのは、企業が「1つ1つの製品単体で利益を出す」という発想を捨て、顧客が生涯で落としてくれる全体的な利益を見据えている点です。

価格バンドリング:セットで客単価を上げる

もうひとつの製品ミックス戦略が、いわゆるセット割りである価格バンドリングです。ハンバーガーとポテトとドリンクをセットにすると、単品で買うより少し安くなる。お客さんは「どうせならセットのほうがお得」と思い、結果として客単価が上がります。

ロスリーダー政策:赤字の目玉で店に呼び込む

製品単位ではなく、スーパーのような売り場全体の戦略もあります。特売日の「お1人様1パック限り」の激安の卵を目当てに行ったのに、結局お肉や野菜を、定価でたくさん買ってしまう。これがロスリーダー政策、いわゆる「おとり価格」です。

企業は、卵を売れば売るほど赤字(ロス)になります。しかし、その目玉商品がリーダーとなって、顧客を店内に引き込みます。そして、利益の高い他の商品をついで買いしてもらうことで、店舗全体ではしっかり黒字になる。そういう計算です。

(補足:動画にない話です。原価を大きく割る安売りをいつまでも続けると、独占禁止法の不当廉売(2条9項3号:正当な理由がないのに、供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給し、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがある行為)に当たるおそれがあります。ロスリーダーは、期間や数量を限った目玉として使われます。)

ハイロー(ハイ・ロー・プライシング)とEDLP

スーパーには、週末だけ特売をする店と、毎日ずっと安いことをアピールする店があります。この違いは何でしょうか。

  • ハイ・ロー・プライシング政策(ハイロー):週末などに特売日を設け、価格を大きく上下させる手法。チラシで煽って一時的な集客を狙う、従来型の戦略です。
  • EDLP(エブリデイ・ロー・プライス)政策:特売日を一切やめ、全商品を年間通じて同じ低価格で提供し続ける手法。

「毎日安いなんて、利益が削られるだけでは」と思うかもしれません。ここがEDLPの最大の誤解であり、奥深いところです。特売日をなくすと、特売用のチラシ広告費がゼロになります。さらに、週末に客が殺到することがなくなるので、店員のシフトも平準化できます。つまり、裏での徹底したローコストオペレーションがあってはじめて、店頭の低価格が実現できるのです。

ハイローEDLP・特売日を設けて・特売は行わない・価格を大きく上下・毎日同じ低価格・チラシで集客・チラシ費が不要・客が特売日に偏る・客が分散し人員も平準EDLPの低価格は「ただの安売り」ではなく裏のローコスト運営があって初めて成り立つ
同じ「安さ」でも、仕組みはまったく別物。EDLPは裏側の運営の仕組みとセットです。

特売日による需要の乱高下をなくして、サプライチェーン全体のムダを削ろうとしているんですね。価格戦略って、実は物流や組織の問題に直結するんだ。

その通りです。価格は店頭の数字だけでなく、経営の全体像とつながっています。

試験ではここに注目

  • キャプティブ価格=主製品(本体)を安く・副製品(消耗品)で回収
  • 価格バンドリング=セット割りで割安感を出し、客単価を上げる
  • ロスリーダー=赤字覚悟の目玉商品で集客し、店舗全体で利益を出す
  • ハイロー=特売日で価格を上下/EDLP=特売をせず毎日低価格(チラシ費・シフトの平準化などローコスト運営が前提)

デジタル時代の価格:サブスクとフリーミアム

最後は、物理的なモノが存在しないデジタル時代の、新しい価格戦略です。現代を象徴するビジネスモデルが2つあります。

サブスクリプション

サブスクリプション方式は、製品の数量ではなく、利用する期間に対して対価を得る方法です。音楽や動画の配信サービスが代表的です。「サブスク疲れ」という言葉もあるように、解約を防ぐための顧客満足度の維持が最大の課題になります。それでも企業が選ぶのは、この戦略の本当の目的が、初期費用のハードルを限りなくゼロに近づけることにあるからです。数万円のソフトを買わせるのではなく、月額1,000円で、とにかく一度使ってもらう。顧客獲得のハードルを劇的に下げることで、結果的にパイを圧倒的に広げられます。

フリーミアム

もうひとつ、デジタルの特性を極限まで活用したのがフリーミアムです。デザインツールやスマホアプリでよく見かけます。基本的な機能はずっと無料で使えるものの、いざ高画質で保存しようとしたり、便利な追加機能を使おうとすると、「ここからは有料のプレミアムプランです」と、課金の壁が現れます。フリーミアムの重要な点は、価値を完全に実感させたあとで、課金のポイントを提示できるところです。もう手放せなくなっているので、悔しいけれど払ってしまうのです。

サブスクリプションもフリーミアムも、企業はもはや「所有権」を売っているのではありません。顧客が日常生活の中で「これがないと不便だ」と感じるまでの体験をデザインし、そこから収益を上げる関係性のビジネスへ移行しているのです。買い切り型から関係性へのシフトです。

ばらばらの用語を1本の線でつなぐ

ここまで、基準になる価格の決め方(コスト・需要・競争)から、人の心理をつく価格戦略、全体で利益を回収する製品ミックスや流通業者の戦略、デジタル時代のサブスクとフリーミアムまで、一気に見てきました。教科書のうえではバラバラの単語に見えるかもしれません。しかし中小企業診断士の学習で大切なのは、これらすべてが、企業がいかにして利益を確保しつつ、消費者に「払ってよかった」と思わせるかという、1つの目的でつながっていることを理解することです。

明日スーパーやオンラインショップで買い物をするとき、目の前の価格をじっくり見てみてください。あなたはその商品の純粋な価値にお金を払っているのでしょうか。それとも、企業が巧妙に仕掛けた心理的なアンカーや、売り場全体のロスリーダーの仕掛けに、心地よく乗っているだけなのでしょうか。いつもの買い物の風景が、ビジネスの最前線に見えてくるはずです。

用語の整理表

用語ひとことで
コストプラス法製造原価に利益を上乗せ(メーカー)
マークアップ法仕入原価に値入額を加算(流通業)
知覚価格法顧客が感じる価値で決める
差別価格法時間帯・顧客属性で価格を変える
ダイナミックプライシング需要の波に応じて価格を変動
実勢価格設定法プライスリーダーなど市場の水準に合わせる
入札による価格設定法ライバルに勝つ価格を考える
端数価格キリの少し下で割安感
慣習価格長年固定され、上げにくい
名声価格(威光価格)高いほど品質が良いと信じられる
プライスライン松竹梅の段階価格。真ん中が選ばれやすい
プライスゾーン/ポイント価格の幅/その中で最も売れる価格
キャプティブ価格主製品は安く、副製品で回収
価格バンドリングセット割りで客単価アップ
ロスリーダー赤字の目玉で集客、全体で黒字
ハイロー/EDLP特売で上下/特売なしで毎日低価格
サブスクリプション利用期間に対して課金
フリーミアム基本無料、追加機能で課金

この講義の試験対策チェックリスト

  • 価格設定の3つの志向(コスト・需要・競争)と、それぞれの手法をいえる
  • 端数価格・慣習価格・名声価格の違いを、例とともに説明できる
  • プライスライン、プライスゾーン、プライスポイントの意味を区別できる
  • キャプティブ価格・バンドリング・ロスリーダー・ハイロー・EDLPを、仕組みと狙いで説明できる
  • サブスクリプションとフリーミアムの狙い(初期ハードルを下げ、価値を実感させてから課金)をいえる
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