運搬分析『運搬のムダと活性示数』
運営管理 第33回
「工場の効率化というと、ドリルが回ったり、プレス機が動いたりする加工の時間に目が行きがちですよね。でも、製品が実際に加工されている時間は、全体のわずか5%と言われているんです」。動画はこんな話から始まります。このページでは動画の流れにそって、運搬工程分析、空運搬係数、活性示数と平均活性示数、マテハン、運搬の5つの原則をまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
工場の95%は「加工していない時間」?
工場の効率化というと、ドリルが回る、プレス機が動く、といった加工の時間に目が行きがちです。ところが動画は、ある調査では、多くの工場で製品が実際に加工されている時間は全体のわずか5%、残りの95%は、移動したり、どこかに置かれていたりする時間だと言われている、という話から始まります。
(補足:この5%・95%という数字の出典は、動画では示されていません。ここでは「それくらい運搬と停滞が大きい」という目安として受け取ってください。参考までに、運搬改善を解説する資料には、マテハンが比較的進んだ工場でも、人件費の約50%、作業時間の約20%が運搬に使われているといわれる、という記述があります。)
つまり、改善の余地がいちばん眠っているのは、価値を生んでいない時間、とくに運搬の中だというわけです。そこで動画は、この隠れた巨大なムダを、勘ではなく科学的に暴き出す方法を掘り下げていきます。
では、運搬分析は具体的に何を分析するのでしょうか。単に、物が動く時間をストップウォッチで測る話ではありません。動画によると、運搬分析とは「物の扱われ方の全プロセスを可視化する技術」で、見る要素は2つです。
- 移動:場所から場所へ動くこと。
- 取り扱い:持ち上げる、置く、向きを変えるなど、物の状態を変えること。
この2つを詳しく記録して図にすることで、どこに非効率が潜んでいるかを炙り出します。最終的なゴールは、価値を生まない運搬という行為そのものを、可能な限りゼロに近づけることです。
運搬を「改善する」のではなく、「なくす」ことを目指すんですね。でも、どこが無駄かを「なんとなくあの動きは無駄が多そう」という勘に頼るわけにはいきませんよね。
そこで登場するのが具体的な分析手法です。動画は、運搬工程分析、空運搬分析(空運搬係数)、活性示数の3つを順番に紹介します。
(補足:試験対策では、運搬分析を、運搬工程分析・運搬活性分析・空運搬分析の3つに整理しておくと、論点の位置づけがつかみやすくなります。動画に出てくる3つの手法は、この3つにそのまま対応します。)
運搬工程分析:ムダの「レントゲン」
代表的な手法が運搬工程分析です。物が工場に入ってきてから出ていくまで、誰が何をどう運んでいるのか、その一連の流れを、地図のように描き出します。流れを線で結んで追っていくと、次のような箇所が一目でわかります。
- 不自然に戻っている(逆流している)
- 線が交差している
- すごく長い距離を移動している
動画は、これを無駄の「レントゲン」にたとえます。体の中の見えない問題が写真に写るように、工場の中の見えない無駄が、流れの図には写るというわけです。
(補足:動画にない話です。運搬工程分析の図には、物の流れ・移動・停滞を記号で表して直線で結ぶ「直線式運搬工程分析図」と、物・人・運搬機器の動きを1枚の配置図に描く「集団式運搬経路図」があります。)
空運搬分析と空運搬係数:手ぶらで歩く距離を数字にする
次は空運搬分析です。空運搬とは、言葉どおり、手ぶらで移動している状態のことで、その時間や距離を分析します。作業者が何かを運んだあと、次の物を取りに行くために手ぶらで歩いている状態や、元の場所に戻る動きのことです。ここで聞き手が、もっともな疑問を挟みます。
でも、次の物を取りに行くために歩くのは、作業の一部ではないでしょうか。これを完全な無駄と言ってしまうのは、ちょっと厳しすぎる気がします。
良い指摘です。物理的にゼロにすることは、もちろん不可能です。ここでの「無駄」は、付加価値を一切生んでいないという事実を強調するための言葉なんです。そして、その無駄を定量的につかむための武器が、空運搬係数です。
空運搬係数は、空移動距離を、物を運んだ距離で割って求めます。物を運んだ距離に対して、どれだけ手ぶらで移動したかの割合を示す指標で、0に近いほど良い数字です。
動画の例では、係数が1.5なら、製品を100m運ぶために、作業員が150mも手ぶらで歩いている計算になります。もし時給が2000円なら、給料のかなりの部分を、何も生み出さない空の移動に払っていることになります。1日で考えれば、何kmもの空の移動です。経営者からすれば恐ろしい話ですが、数字にしたからこそ深刻さが実感できます。
そして「なんとなく無駄だから」ではなく、「この工程の空運搬係数を1.5から0.8にしよう」という具体的な目標が立てられるようになります。これが科学的アプローチの第一歩です。
(補足:空運搬係数を「(人の移動距離-品物の移動距離)÷品物の移動距離」と書く資料もあります。人が動いた距離から、品物と一緒に動いた距離を引いた残りが空移動なので、中身は同じです。理想は0です。)
試験の注目点:割り算の分母は「運んだ距離」
空運搬係数の分母は、物を運んだ距離です。手ぶらで動いた距離を分母にしないように注意しましょう。値は小さいほどムダが少なく、0に近づけることが改善の方向です。
活性示数:物の「やる気」を点数にする
続いて、動画が「非常に画期的」と紹介するのが活性示数です。物の動かしやすさ(これを活性といいます)を、点数にして見える化する試みで、動画は「工場の物たちに、どれだけやる気があるかの通信簿をつけるようなもの」とたとえます。活性示数は5段階です。
- 0点:床や台にバラ置きされた状態。いちばん動かしにくい。
- 1点:箱やコンテナにまとめられた状態。
- 2点:枕・パレットに乗せられた状態。
- 3点:台車に乗っている状態。
- 4点:コンベアに乗った状態。いちばん動かしやすい。
数字が大きいほど活性が高く、少ない労力ですぐに動かせる状態です。床に直置きされた0点の物を1つずつ拾うのは大変ですが、コンベアに乗った4点の物は、指1本で動かせます。
(補足:活性示数は、「次に動かすために必要な手間のうち、すでに省けている手間の数」と考えると意味が取れます。バラ置きは、まとめる・起こす・持ち上げる・持っていく、と手間が4つ残っているので0点。動いているコンベアの上は、もう手間が残っていないので4点です。式にすると「4-残っている手間の数」です。)
(補足:資料によっては、コンベアの上を5点とするなど、段階の数え方が違うことがあります。この記事は動画と同じ0〜4で書いています。数え方が違っても、数が大きいほど動かしやすい、という向きは同じです。)
試験の注目点:示数は「残った手間」ではなく「省けた手間」
「活性示数は、物を運び出すために必要な取り扱いの手間の数を示す」という説明は誤りです。示数は、すでに省かれている手間の数です。手間が少ないほど、数字は大きくなります。
平均活性示数:工程全体の通信簿
この点数は、1つの物だけでなく、工程全体でも評価できます。それが平均活性示数です。停滞している(置かれている)それぞれの物の活性示数を合計して、停滞の数で割ります。平均点が低い工程は、やる気のない物がゴロゴロしている、非常に非効率な状態だと一目でわかります。
たとえば、ある工程の平均活性示数が0.5点だったとします。そこでは、部品の多くが床にバラ置きされていて、作業員がいちいち屈んで拾い上げるような無駄な動きを強いられている可能性が高い、と読み取れます。
改善策も明確です。その工程の部品をパレット化して、2点の状態にするだけで、平均活性示数は劇的に上がり、作業員の負担も運搬の効率も大きく改善されます。どこから手をつけるべきかが、点数によってはっきりするのです。次の表は、動画にない簡単な計算例です。
| 置き場 | 改善前 | 改善後 |
|---|---|---|
| A | 床に | パレット(2) |
| B | 床に | パレット(2) |
| C | 箱(1) | 箱(1) |
| D | パレット(2) | パレット(2) |
| 平均 | 3÷4=0.75 | 7÷4=1.75 |
床置きの2か所をパレット化しただけで、平均は0.75から1.75へ、1点も上がりました。割る数は「物が置かれている場所の数」で、改善の前後で変わらない点にも注意してください。
活性示数が高い方が良いのは直感的にわかります。でも、すべての工程で最高点のコンベアを目指すのは、コストもかかって現実的じゃないですよね。どこで「これくらいで十分」というバランスを取るんですか。
そこが経営判断のポイントです。すべての工程で4点を目指す必要はありません。まず現状の平均活性示数を把握して、点数が低いボトルネックの工程を特定します。そのうえで費用対効果を考えながら、たとえば全体の平均を1.5から2.0に上げる、というように段階的な目標を立てます。
0点の物を1点にする改善は、比較的低コストで大きな効果を生むことが多いと動画は述べます。つまり活性示数の分析は、改善投資の優先順位を決める羅針盤にもなるのです。
(補足:ある解説資料には、平均活性示数が2.5以下なら相当に深刻、という目安が書かれています。ただし、これは目安の一つで、動画に出てくる1.5→2.0といった数字も、あくまで例として聞いておけば十分です。)
マテハンとマテハン機器
分析で、無駄の場所と種類が特定できたら、いよいよ改善のフェーズです。そこで出てくるのがマテハンという言葉です。マテリアルハンドリングの略で、動画では、物の受け入れ、移動、保管、仕分け、出荷といった、工場での物の取り扱い全般を指す言葉だと説明されます。
そして、それを効率化するための設備や機器がマテハン機器です。ここまでに出てきたパレット、台車、コンベアはもちろん、フォークリフトや、最近だとAGV(無人搬送車)なども代表的なマテハン機器です。
(補足:マテハンの範囲は、資料によって少し言い方が違います。「物を移動したり、積んだり、降ろしたりすること」と説明するものもあり、運搬作業全般を指す、という点は共通です。AGVは、定められた領域や経路を自動で走行して物を運ぶ車両のことです。)
でも、ただやみくもに高価なAGVを入れればいい、というものでもないでしょう。何か考える上での指針はあるんですか。
もちろんです。運搬の原則と呼ばれる、改善を進める上での5つの重要な考え方があります。これに照らして現状を見直すと、効果的な打ち手が見えてきます。
運搬の5つの原則(動画の整理)
動画が紹介する5つの原則を、まず表で並べます。
| 原則 | ひとことで | 改善の例 |
|---|---|---|
| 活性荷物の原則 | 活性示数を高く保つ | 床置きをやめて、パレットに乗せる |
| 直線化の原則(流れの原則) | 移動はなるべく直線的に | Uターン・逆流がない |
| スペース活用の原則 | 空間を立体的に使う | 床置きを、棚や |
| 継ぎ目の原則 | 積み替え・載せ替えをなくす | 最初から |
| 自重軽減の原則 | 運搬具を軽くする | 重い台車を、軽い台車に替える |
活性荷物の原則は、先ほどの活性示数の話と直結します。とにかく物の活性示数を高く保て、ということで、基本中の基本は、床に直置きしないこと。まずは0点の状態をなくす、と覚えれば分かりやすいでしょう。
直線化の原則は、流れの原則とも言われます。物の移動はなるべく直線的に、Uターンや逆流がなく、一定方向に流れるようにレイアウトを工夫する、という考え方です。工場の中を線がスパゲッティのように入り組んでいるなら、それは無駄の温床です。
スペース活用の原則は、単に整理整頓するだけでなく、立体的に使うことも含みます。床に直置きされていた物を棚に入れたり、高く積んだりすることで、床面積を有効に使え、移動距離の短縮にもつながります。
継ぎ目の原則は、物の移動における積み替えや載せ替えをなくそう、という原則です。動画の例を見てみましょう。トラックから荷物を降ろして、いったん床に置き、それをフォークリフトが拾って棚に運び、そこからまた作業員が台車に載せ替える。この「床に置く」「台車に載せ替える」という行為が継ぎ目で、付加価値を生まない無駄な工程です。
最初からパレットに乗った状態でトラックから降ろし、そのままフォークリフトで棚まで運べば、継ぎ目は0になります。
最後の自重軽減の原則は、運搬に使うパレット、台車、コンテナといったマテハン機器自体が重いと、それだけ運搬のエネルギーが無駄になるので、できるだけ軽いものを選びましょう、という考え方です。動画は「軽いスーツケースを選ぶのと同じ」とたとえます。
(補足:運搬の原則は、数が多く、教材によって挙げ方や名前が違います。動画の5つには入っていませんが、物をまとめて運ぶ回数を減らす「ユニット化の原則」も、診断士試験の過去問の選択肢に出ています(解説ブログの掲載問題で確認)。動画の5つ+ユニット化、と押さえておくと安全です。名前の暗記にこだわるより、選択肢の改善例が運搬の手間を省くことにつながるかを判断できるようにしておくのが近道です。)
試験の注目点:改善例を原則に結びつける
- 床に直接置いていた製品を、パレット上で保管するようにした → 活性荷物の原則
- 複数の原材料を、パレットにまとめてフォークリフトで一度に運ぶようにした → まとめて運ぶ回数を減らす考え方(ユニット化の原則。動画の5つには入っていません)
- 工程ごとに台車で運んでいたのを、ラインでつないで動かしながら加工する → 継ぎ目の原則
運搬は「情報」にも当てはまる
動画は最後に、この考え方は、工場の物の運搬だけにとどまらない、と話を広げます。自分の普段の仕事にも応用してみてほしい、というのです。たとえば、仕事の中でやり取りする情報を、運搬だと考えてみます。
承認を待っている時間は、情報が停滞している状態ですね。では、その情報の活性示数は何点でしょうか。紙の書類なら、箱に入っていても、せいぜい1点。もしそれが共有サーバーの上にあって、関係者全員がいつでもアクセスして承認できる状態なら、コンベアに乗っているのと同じ、4点の価値があるかもしれません。
なるほど。データの再入力なんて、まさに非効率な情報の継ぎ目そのものですね。
物の動きを分析する視点は、身の回りのあらゆる業務の無駄を発見するための、強力なレンズになります。
まとめ
この講義のまとめ
- 運搬分析は、移動と取り扱いを記録して、価値を生まない運搬をゼロに近づける技術。
- 運搬工程分析は、物の流れを図にして、戻り・交差・長距離を見つける。
- 空運搬係数=空移動距離÷物を運んだ距離。0に近いほど良い。
- 活性示数は物の動かしやすさの点数(0バラ置き、1箱、2枕・パレット、3台車、4コンベア)。大きいほど動かしやすい。
- 平均活性示数=活性示数の合計÷停滞の数。低い工程から、費用対効果を見ながら段階的に上げる。
- マテハンの改善は、動画の運搬の5原則(活性荷物・直線化・スペース活用・継ぎ目・自重軽減)に照らして考える。試験ではユニット化の原則も出る。
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