定期発注方式と定量発注方式『店舗運営や工場管理の要である在庫管理の基本』
運営管理 第36回
「在庫が足りなくて売る機会を逃したとか、逆に在庫を抱えすぎて倉庫代が馬鹿にならないとか、これはビジネスをやっていると必ずぶつかるジレンマですよね」。動画はこんな問いかけから始まります。このページでは動画の流れにそって、定期発注方式と定量発注方式の違い、有効在庫や発注点の計算、安全在庫とサイクル在庫、経済的発注量(EOQ)、ABC分析での使い分け、補充点方式とダブルビン方式をまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
在庫は、足りなくても多すぎても困る
動画は「在庫が足りなくて売る機会を逃したとか、逆に在庫を抱えすぎて倉庫代が馬鹿にならないとか、これはビジネスをやっていると必ずぶつかるジレンマですよね」という問いかけで始まります。欠品による販売機会の損失と、過剰在庫によるコスト増加は、片方を避けようとするともう片方のリスクが高まるトレードオフの関係です。在庫管理は、このいわば綱渡りのバランスを巧みに取る活動だ、と動画は説明します。
その綱渡りを成功させる基本の考え方が、今回の2つの発注方式です。ポイントは、いつ発注するかを時間で決めるのか、量で決めるのかという根本的な違いです。
動画はこのあと、定期発注方式、定量発注方式、最適な発注量を求める経済的発注量(EOQ)、品目の重要度で方式を分けるABC分析、さらに簡単な補充点方式とダブルビン方式、の順に進みます。
定期発注方式:タイミングは固定、量は毎回変わる
「毎週月曜日に発注する」のように、発注するタイミングを固定する方式です。ただし発注する量はその都度変動し、発注のたびに「今回はいくつ注文しようか」を計算し直します。まず押さえたい言葉が2つあります。
- 発注サイクル:発注してから、次の発注を行うまでの期間。毎週月曜なら1週間です。
- 在庫調整期間:今回発注した商品と、次の発注で注文した商品が届くまでの間、在庫を維持しなければならない期間。在庫調整期間=発注サイクル+調達期間で、調達期間は発注から納品までの時間(リードタイム)です。
毎週月曜に発注して、届くまでに3日かかるとしますよね。そうすると在庫調整期間は、7日+3日で10日ですか。
その通りです。つまり今回する発注は、次の月曜に発注した品が届くまでの10日分を賄う必要があります。この理解が、次の発注量の計算につながります。
発注量は、次の式で求めます。動画は「試験でも問われる」と言っています。
定期発注方式の発注量
発注量=在庫調整期間の予想消費量-有効在庫+安全在庫
動画は式の中の「現在の在庫量」を有効在庫の意味で使っています。中身は「予想消費量から、手元と発注済みの在庫を引き、安全在庫を足す」ことです。
(補足:動画にない話です。過去問の解説などでは「発注量=在庫調整期間における予想消費量-(現在の在庫量+発注残)+安全在庫」と書かれ、在庫調整期間は「発注間隔+調達リードタイム」とされています。書き方は違っても考え方は同じです。この式から、発注間隔を短くするほど1回あたりの発注量は少なくなることも読み取れます。)
有効在庫:棚にある数だけでは判断しない
式に出てくる「現在の在庫量」は、単に倉庫に今ある数ではありません。動画は有効在庫という考え方を使います。目に見える実在庫だけでなく、将来の入庫や出荷の約束まで考慮した、いわば実質的に今自由に使える在庫です。
| 項目 | 意味 | 有効在庫への加減 |
|---|---|---|
| 実在庫 | 棚に実際にある数 | 基準 |
| 発注残 | 発注済みで、こちらへ向かっている途中の分 | 足す(+) |
| 引当量 | すでに注文が入るなど、行き先が決まっている分 | 引く(-) |
有効在庫=実在庫+発注残-引当量です。動画は「今まさにトラックで運ばれてきている分を足し、すでにお客さんに約束してしまった分を引く。それが本当に自由に使える在庫」と説明しています。
(補足:引当量まで含めて有効在庫とする式は、動画の定義です。過去問の解説などでは「現在の在庫量+発注残」の形で示す資料もあり、資料により引当の扱いが異なります。いずれも「棚の数ではなく、実質的に使える数で判断する」という点は共通です。)
定期発注方式の長所と短所
| 観点 | 中身 |
|---|---|
| 長所 | 毎回需要を予測して計算するので、季節で売れ行きが大きく変わる商品(動画の例はアパレル)にも強い。需要の変動に柔軟に対応でき、精度の高い管理ができる。 |
| 短所 | 毎回計算が必要で、管理が複雑で手間がかかる。発注サイクルが長いほど将来の不確実性が増し、安全在庫が大きくなる傾向がある。 |
聞き手の「毎月1回のように発注サイクルが長いと、その1か月に何が起こるか分からないから、安全在庫をたくさん持たないと不安になりませんか」という指摘に、講師は「それも大きなデメリットの1つ」と答えます。ここで、混同しやすい2つの在庫の区別が出てきます。
安全在庫とサイクル在庫って、どう違うんでしょうか。なんか混同してしまいそうで。
安全在庫は、需要の急な変動や納品の遅れといった不確実性に対応する、いわば保険のような在庫です。一方サイクル在庫は、次の納品があるまでの間に通常どおり消費されると見込まれる在庫で、計算上は平均発注量÷2で表されます。
サイクル在庫は計画的な消費分で、安全在庫は計画外のアクシデントに備える保険、ということですね。
(補足:動画にない話です。この2つを足したものを、適正な在庫量を表す理論在庫と呼ぶことがあります。理論在庫=安全在庫+サイクル在庫です。)
定量発注方式:量は固定、タイミングが変わる
聞き手が「何千種類ものネジや部品を扱う工場で、毎週全部の需要予測なんてやってられない」と言う場面から、2つ目の方式に入ります。定量発注方式は定期発注方式と全く逆の発想で、発注する量は固定し、発注するタイミングが変動します。
あらかじめ発注点という基準の在庫量を決めておき、在庫がその量を下回ったら、毎回決まった量を発注します。「これを下回ったら、これだけ発注する」という、セットしてあとは忘れるようなシンプルなルールです。
発注点の式
発注点=調達期間中の1日の平均需要量×調達期間+安全在庫
在庫量を監視するときは、先ほどの有効在庫を使う点に注意します。
動画のたとえ:カフェのコーヒー豆
1日に平均10袋売れ、業者に注文してから届くまで3日かかるとします。待っている間の消費分は10袋×3日=30袋。そこへ急な団体客に備える安全在庫20袋を足すと、発注点は50袋です。有効在庫が49袋になった瞬間に、システムが自動で発注をかけます。
(補足:「発注点を下回ったら」と「発注点に達したら」は資料により書き方が揺れますが、発注点に届いたところで発注する、という考え方は同じです。)
| 観点 | 中身 |
|---|---|
| 長所 | 一度ルールを決めれば運用が非常に楽。管理の手間が少なく、自動化もしやすい。 |
| 短所 | 季節変動に弱い。動画の例では、需要のない夏でも在庫が発注点を下回れば決まった量のクリスマスケーキが届いてしまう。需要が安定している商品に向く。 |
最適な発注量は? 経済的発注量(EOQ)
ここで聞き手が大きな疑問を挟みます。「発注する量はあらかじめ決めておくということでしたが、その最適な量はどうやって見つけるのですか。少なすぎると発注の手間ばかりかかるし、多すぎると倉庫がパンクする」。この答えが経済的発注量で、アルファベットの頭文字を取ってEOQ(Economic Order Quantity)といいます。動画は試験でも問われる概念だと言っています。
在庫を持つには、大きく2種類のコストがかかります。この2つはトレードオフです。
| 費用 | 主な中身 | 1回の発注量を増やすと |
|---|---|---|
| 在庫費用 | 倉庫の賃料、光熱費など、在庫を維持する費用 | 平均在庫が増え、上がる |
| 発注費用 | 注文書を作る人件費、輸送費など、1回の発注手続きごとの費用 | 発注回数が減り、下がる |
一度にドカンと大量に発注すれば、発注回数が減って発注費用は下がりますが、平均在庫が増えて在庫費用は上がります。逆に毎日こまめに発注すれば在庫費用は下がりますが、発注の手間とコストは膨大になります。このシーソーのような関係にある2つの年間費用の合計が最も小さくなる発注量が、EOQです。
EOQで覚える概念
総費用が最小になるEOQの点では、年間の在庫費用と年間の発注費用がちょうど等しい。グラフで描くと、右肩下がりの発注費用曲線と右肩上がりの在庫費用曲線が交わる点がEOQです。
動画は「式を覚える以上に大事なのは根底にある概念」と述べています。
(補足:動画は式を示していませんが、よく使われる形は「EOQ=√(2×年間需要量×1回あたりの発注費÷単位あたりの年間保管費)」です。発注費用は「1回の発注費×年間の発注回数」、保管費用は「平均在庫量(発注量の半分)×単位あたりの年間保管費」で表します。需要がほぼ一定であることなどが前提のモデルで、需要の変動が大きいときは目安にとどまります。)
ABC分析で、品目ごとに方式を使い分ける
実際の会社は何万という品目を扱います。そこで登場するのがABC分析です。たくさんある在庫品目を重要度に応じてランク付けする手法で、パレートの法則、いわゆる80対20の法則がベースです。売上や在庫金額の大部分は、ごく一部の主要な品目が占める、という考え方です。
| 区分 | 品目の性格 | 向く方式 |
|---|---|---|
| A | 在庫金額への影響が非常に大きい上位20%ほどの最重要品目 | 定期発注方式 |
| B | A品目ほど影響は大きくない | 定量発注方式 |
| C | 品目は多いが、1つ1つの金額は小さい | 定量発注方式(さらに簡略化も) |
A品目は会社の売上の根幹をなすスター選手たちです。管理に手間がかかっても、欠品や過剰在庫は絶対に避けたい。だから精度の高い管理ができる定期発注方式を適用します。
花形商品には専属のマネージャーがついて、毎週コンディションをチェックするようなイメージですね。残りのその他大勢は、シンプルなルールで自動的に回す方が管理コストに見合う、と。
そうです。在庫管理を一律にせず、商品の重要度にメリハリをつけて、エネルギーを注ぐべきところに集中投下するのです。
(補足:動画の「上位20%ほど」はパレートの法則にそった言い方で、実際の区分は累積構成比で行います。品目を売上金額の大きい順に並べ、品目数と売上金額の累計百分率からA・B・Cの3群に分け、パレート曲線を描く手順です。区分の目安は資料により異なり、「累積70%まで=A、70〜90%=B、残り=C」とするものや、金額で「80%・15%・5%」とするものがあります。管理方針も資料によって幅があり、BはAに準ずるかCに準ずるかを見極める、とする大学の資料もあります。)
さらに簡単な方法:補充点方式とダブルビン方式
特に重要度の低いC品目には、定量発注方式をさらに簡略化した方法が使われることもある、と動画は続けます。
- 補充点方式:在庫が発注点を下回ったら、補充点として定めた在庫の上限まで発注するやり方。動画は、居酒屋でビールのジョッキが残り少なくなったら店員さんが来て波々と注ぎ足してくれるイメージ、とたとえます。
- ダブルビン方式(二棚法):同じ在庫を2つの箱(ビン)に入れておき、まず1つ目の箱から使い、空になったら2つ目の箱に手をつけます。1つ目の箱が空になったという事実そのものが発注の合図で、空になった箱1杯分の量を発注します。
在庫数をいちいち数えなくても、箱が空になったという物理的なアクションが発注になるんですね。これなら誰でも管理できます。オフィスのコピー用紙なんかはまさにこれですね。新しい箱を開けたら、総務の人が新しいものを注文する、みたいな。
その通りです。そうやって、品目の重要性に応じて管理の手間と精度を最適化していくわけです。
| 方式 | 発注の合図 | 発注量 |
|---|---|---|
| 定量発注方式 | 発注点を下回る | 毎回一定 |
| 補充点方式(動画の説明) | 発注点を下回る | 補充点(上限)まで補う量 |
| ダブルビン方式 | 1つ目の箱が空になる | 空になった箱1杯分 |
(補足:ダブルビン方式は、単価が比較的安く、消費量が安定していて、短納期で確実に供給される品目(ネジ類や消耗品など)に向くとされ、安全在庫が大きくなる傾向があります。また「補充点方式」という名前は、大学の講義資料などでは定期・不定量の方式(発注時に在庫量が補充点になるように発注量を決める)を指すことが多く、動画の説明と同じ使い方をする資料もあり、分類は資料により分かれます。呼び名は資料により違うので、動画の整理として理解しておくと安全です。)
動画の最後の問い:予測が完璧になったら?
動画は最後に、考えを深める問いを出します。「近年、AIによる需要予測の精度は飛躍的に向上している。もし未来の需要がほぼ完璧に予測できる世界が来たら、不確実性に備える役割だった安全在庫はどうなるでしょうか。そして、手間はかかるが精度が高い定期発注方式と、シンプルで効率的な定量発注方式の境界線は、どう変化していくでしょうか」。答えは動画では示されず、ご自身で考えてほしい、と締めくくられます。
(補足:ここは正解のない問いなので、考え方のヒントだけ。安全在庫が備えるのは需要の不確実性だけではありません。納品の遅れなど、供給側のばらつきもあります。予測が当たるほど定期発注方式の手間が報われやすくなる、という見方もできますが、これは一つの考え方にすぎません。)
まとめ
この回の要点
- 定期発注方式はタイミング固定・量が変動。在庫調整期間=発注サイクル+調達期間。発注量は、予想消費量と安全在庫から有効在庫を引いて求める。需要の変動に強いが手間がかかる。
- 定量発注方式は量固定・タイミングが変動。発注点=調達期間中の平均需要量+安全在庫。運用は楽だが季節変動に弱い。
- 安全在庫は不確実性への保険、サイクル在庫は計画的な消費分(平均発注量÷2)。
- EOQは、年間の在庫費用と発注費用の合計が最小になる発注量。そこでは2つの費用が等しい。
- ABC分析で、A品目は定期発注方式、B・C品目は定量発注方式(Cはさらに補充点方式やダブルビン方式で簡略化)と、重要度に応じて使い分ける。
在庫管理は、どの商品にどれだけの手間とコストをかけるのが最適かを見極める経営そのもの、と動画は結びます。まず動画を聞いて、あとでこのページで数式と使い分けを見直してみてください。
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