進捗管理と流動数分析『製造現場における軌道修正の要』
運営管理 第39回
「どんなに完璧な計画を立てても、物事はめったにその通りには進まないものですよね。特に製造現場では、毎日が想定外の連続だと思います」。動画はこんな問いかけから始まります。このページでは動画の流れにそって、進捗管理の考え方、遅れの3つの原因と対策、カムアップシステム、流動数分析の読み方を、資料による用語の違いも添えてまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
計画は崩れるもの。大事なのは崩れたあと
「どんなに完璧な計画を立てても、物事はめったにその通りには進まないものですよね」。動画はこの一言から始まります。特に製造現場は、毎日が想定外の連続です。問題は、計画が崩れたあとに何をするか。そこで出てくるのが進捗管理です。
進捗管理は、「遅れています」と報告するだけの活動ではありません。なぜ遅れたのか、どうすれば追いつけるのか、次に同じことを繰り返さないためにどうするか。この一連の流れを動画は「能動的な問題解決プロセス」と呼びます。このページでは、遅れの3つの原因と対策、そして全体を一目で見る流動数分析の順に進めます。
進捗管理:計画(地図)と実績(現在地)を比べ続ける
動画の定義はこうです。進捗管理とは、日程計画と実績の差を把握し、その差を埋めるための対策を打つこと。目的は、お客様と約束した納期を死守することです。計画を「地図」、実績を「現在地」にたとえて、ずれたらすぐ対応し、また調整する。このサイクルを回し続けるのが本質だと説明されます。
資料に出てくる言い方(補足)
- JIS Z 8141(生産管理用語。確認したのは2001年版で、現行の2022年版の本文は未確認):進捗管理は「仕事の進行状況を把握し、日々の仕事の進み具合を調整する活動」で、備考に「進度管理又は納期管理ともいう」とあります。生産統制(生産現場が計画どおりに進むよう進捗を管理する活動)の一部にあたります。
- 大学の講義資料(東京大学の藤本隆宏氏):工程管理は納期と数量の面から生産を計画・統制することで「納期管理とは言わない」とし、生産統制の中に「進度管理(進捗度、納期チェック)」を置いています。
- 整理すると、JISは進捗管理・進度管理・納期管理を同じ活動の別名として扱っています。藤本資料の「納期管理とは言わない」は、進捗管理ではなく工程管理という語についての注記なので、進捗管理の呼び方とは別の話です。
でも、計画を立てる時点でトラブルはある程度織り込んでいるはずですよね。それでも狂うのは、どんなときですか。
現場の問題は千差万別ですが、試験対策としては3つに分けると整理しやすいです。生産能力の不足、稼働率・効率の低下、そして材料や部品の欠品です。
計画が狂う3つの原因と対策
動画の整理をまとめると、次の表になります。(補足:この3分類は動画(教材)の整理です。JISなど公的な規格に、この分け方の定義はありません。)
| 原因 | 起きること | 動画の対策 |
|---|---|---|
| 能力の不足 | 追加注文・ | 応援・外注、残業・休日出勤 |
| 稼働率・ | 不良・手戻り、 | IE、標準化、 |
| 欠品 | 外注先の納期遅れ、 | カムアップ |
原因1:能力の不足。短期の対策は「カンフル剤」
典型は、営業が大きな追加注文を取ってくる、急ぎの飛び込み作業が割り込む、といったケースです。計画した生産のパイに予定外のものが乗って、あふれてしまうイメージです。インフルエンザで作業者の欠勤が相次ぎ、予定の人員を確保できない、という人間的な問題もあります。
魔法のように人や機械を増やすことはできません。定石は、短期的にリソースの柔軟性を確保することです。順番は、①他部署からの応援、②外注の活用、③最終手段としての残業・休日出勤。動画は、これを短期決戦のカンフル剤にたとえます。
ここに落とし穴があります。残業が常態化すると、管理者は「計画の精度が低い」という根本原因から目をそらしがちになります。短期の解決策が、長期の問題の発見を遅らせる「麻薬」になってしまう危険です。
目先の納期を守るための残業が、会社の根本的な問題を覆い隠しているかもしれない、ということですか。
そうです。納期は守れているのに、能力不足や計画の甘さという病気は進んでいる。だから、残業が続くときこそ、原因を疑う必要があります。
(補足:動画にない話です。JIS(2001年版)では、各工程や作業者の現在の負荷と現有能力を比べ、作業を再配分して釣り合わせる活動を余力管理といい、「余力=能力−負荷」と説明します。たとえば4人×週40時間=160時間の能力に、負荷が190時間なら、余力は−30時間です。残業4人×5時間=20時間と外注10時間で、ちょうどゼロになります。)
原因2:稼働率・効率の低下。力技ではなく「科学」で
こちらは、じわじわと生産性をむしばむ、より厄介な問題です。不良品が多くて手戻りや作り直しに時間を取られる。設備が頻発して止まる。工場のレイアウトが悪く、運搬経路が錯綜して、作業者が部品を探してうろうろする。1つ1つは数分でも、積み重なると膨大なロスになります。大きな事件がないぶん、原因の特定も難しくなります。
残業のような力技では解決しません。必要なのは科学的なアプローチ、つまりIE(インダストリアルエンジニアリング)です。動画は「科学の目で無駄を探す活動」と説明します。
- 熟練作業者の動きをビデオで撮り、1秒単位で「価値を生む動き」か「ただの移動」かを分析する。
- 物の流れを地図に落とし込み、どこで渋滞しているかを可視化する。感覚ではなくデータで非効率の原因を特定し、排除する。
- 分析にもとづいて作業の標準化を進め、誰がやっても同じ品質・同じ時間でできるようにする。
- 現場の作業者が主体のQCサークル活動で、ボトムアップに改善する。地味ですが、現場力を高める王道です。
(補足:JIS(2001年版)はIEを「経営工学」とも呼び、経営目的に沿って人・物・金・情報を最適に設計・運用・統制する技術・技法の体系と定義します。動画の「無駄を探す」は、そのうち時間研究・動作研究といった伝統的なIE技法にあたる部分の説明です。QCサークルは、石川馨が現場第一線の作業者への品質管理の教育・普及のために結成を提唱し、1962年に日本科学技術連盟にQCサークル本部が置かれました。また、稼働率と効率(能率)は別の指標で、JISは「総合能率=稼働率×能率」と整理しています。)
原因3:欠品。管理の範囲を「社外」まで広げる
どんなに優秀な作業者と効率的なラインがそろっていても、作るための材料がなければ動けません。これは典型的なサプライチェーンの問題で、原因が自社の外にあることが多いのが特徴です。外注先の納期遅れや、自社の発注ミスが直接の原因になります。「早く作ってください」とお願いするだけでは解決しません。
そこで、管理の範囲を自社工場の中からサプライヤーまで広げる発想が必要になります。有効なのがカムアップシステムです。動画の説明では、外注先への注文を納期順にリスト管理し、納期が近づいた案件について、こちらから「進捗いかがですか」と能動的に確認に行く仕組みです。
たとえ:待つ側から、迎えに行く側へ
ただ納品を待つのではなく、こちらから迎えに行く。受け身から能動へ、ということです。ただし価値は、進捗の確認そのものではありません。定期的なやり取りで外注先との信頼関係ができると、「ちょっと問題が起きそうなので早めに相談します」とトラブルが表に出る前にサインを出してくれます。問題が起きてから対処する事後処理から、兆候をつかんで先手を打つ事前管理へ移れるのです。サプライヤーを単なる業者でなく、パートナーとして巻き込む発想です。
(補足:JIS(2001年版)のカムアップシステムは、一品ごとの作業開始を命じる帳票を日程順に整理して保管しておき、所定の時期に自動的に命令・督促し、完了の報告を受けて納期をフィードバックするシステムです。ティクラーシステム、フォローアップシステムともいいます。定義は外注先に限っていません。外注先の納期管理に使うという説明は、教材での用い方です。)
流動数分析:生産ラインの「心電図」
ここまでの3つの原因を、一目で把握できるツールが流動数分析です。動画は、生産ラインの「心電図」にたとえます。お医者さんが心電図から不整脈を見つけるように、このグラフから生産の不整脈を読み取るわけです。
グラフはシンプルです。横軸に日付、縦軸に累計の数量をとり、折れ線を2本描きます。1本は累計受入数(生産を始めるために工程に投入されたものの累計。インプット)、もう1本は累計払出数(完成して工程から出ていったものの累計。アウトプット)です。2本の線の間隔に意味があり、その意味は生産方式によってガラリと変わる、というのが動画のいちばんの面白いところです。
(補足:動画は工程内の仕掛品の読み方には触れていません。投入と産出の累計では、縦の差=仕掛品の量(2001年版のJISでは、「仕掛品」は原材料の払出から完成品の入庫手続きまでの品物)、横の差=滞留時間(リードタイム)、線の傾き=投入・産出の速度です。下の数値例は自作で、Pythonで検算しています。)
図の例です。毎日100個を投入し、産出は毎日60個。6日目の終わりで、投入は累計600個、産出は累計360個なので、縦の差は600−360=240個が工程の中に残っています。その600個目が産出されるのは10日目の終わりなので、横の差は4日です。「仕掛量=リードタイム×処理速度」(リトルの法則)で確かめると、240個=60個/日×4日で一致します。
| 方式 | 縦の間隔 | 横の間隔 |
|---|---|---|
| 見込み生産 | 製品在庫の量 | 製品在庫の期間 |
| 受注生産 | 受注残 | 平均納期 |
見込み生産は、スーパーのお菓子のように、需要を予測して先に作っておく方式です。縦の間隔が開き続けるのは、売れていないのに作りすぎて在庫が積み上がっている危険な状態。横の間隔が広いのは、製品が倉庫で長く眠っていることを意味し、資金繰りが悪化している兆候と読めます。
受注生産は、注文を受けてから作るオーダーメイドの家具のような方式です。縦の間隔は受注残、つまり注文は受けたがまだ届けられていない量。横の間隔は平均納期、お客様をお待たせしている平均的な時間です。
受注生産で縦の間隔が開くのは、人気があって仕事がたくさんある良いサインでもありますよね。
そのとおりです。でも横の間隔が開きすぎているのは、お客様を待たせすぎで、顧客満足度が下がる危険信号です。縦と横は、セットで見てください。
このグラフを毎日、あるいは毎週、定点観測します。計画線と比べて大きく乖離したり、線の間隔の開き方が急に変わったりしたら、何か異常が起きているサインです。すぐに、先ほどの3つの原因のどれに当てはまるのかを分析し、タイムリーに対策を打てます。進捗管理が「数字合わせ」から、生き物である生産ラインの健康診断に変わります。
遅れに気づいたあとの打ち手
数値例の続きです。6日目に遅れに気づき、産出を毎日100個に引き上げたとします。すると2本の線は平行になり、仕掛品は240個のまま、それ以上増えません。対策しなければ、差は開き続けます。(補足:動画にない話です。JIS(2001年版)のキャパシティコントロールは、仕掛量を管理するためにワークセンタへの投入量を調整する活動です。つまり、産出を増やすだけでなく、投入を絞る手もあります。)
もう1つ大事なのは、動画の結びです。残業や他部署の応援といった短期の対策は、目の前の納期遅れを解決する特効薬になり得ます。しかし常態化・長期化すると、より根本的な計画の問題や能力不足という「病気」を覆い隠します。解決策が、いつの間にか新しい問題の一部になる。応急処置のあとに、必ず原因を直す、という流れを忘れないでください。
資料による用語の違いを整理
| 語 | 資料での扱い |
|---|---|
| 進捗管理・進度管理・納期管理 | JIS(2001年版)は進捗管理の備考で「進度管理又は納期管理ともいう」。藤本資料の「納期管理とは言わない」は工程管理についての注記で、進捗管理とは別の語の話です |
| 流動数曲線・流動数分析 | 動画は「流動数分析」、藤本資料は「流動数曲線(累積カーブ)」。JISに見出し語はありません |
| 流動数管理 | JIS(2001年版)では別物。基準仕掛量を持ち、当期仕込量=当期生産量+基準仕掛量−前期仕掛量でワークを供給する統制方式(例:100+30−40=90個) |
| ガントチャート | 作業の予定と実績を横棒で並べて進み具合を見る表。ヘンリー・ガントが1910〜1915年ごろに考案(資料により「約1910年代」「第1次世界大戦期」と書き方が違います。確認できたのは解説資料で、原典は未確認です) |
(補足:ガントチャートは「いつ・どの作業が・予定どおりか」を見るもの、流動数曲線は「累計の量の差」から仕掛品・在庫・待ち時間を見るもの、と使い分けると整理できます。試験での出題のされ方は、今回の確認では取得できていません。)
まとめ
- 進捗管理:日程計画と実績の差を把握し、差を埋める対策を打つ。目的は納期の死守。報告だけで終わらない。
- 遅れの原因は3つ:能力の不足(応援・外注・残業は短期のカンフル剤。常態化は根本原因を隠す)、稼働率・効率の低下(IE・標準化・QCサークル)、欠品(カムアップシステムで外注先と信頼関係を築き、事前管理へ)。
- 流動数分析:横軸は日付、縦軸は累計数量。累計受入(インプット)と累計払出(アウトプット)の2本の線の間隔を読む。
- 見込み生産は縦=製品在庫、横=製品在庫の期間。受注生産は縦=受注残、横=平均納期。工程内なら縦=仕掛品、横=滞留時間。
- 大事なのは、計画どおりに進める技術ではなく、計画からずれたとき、いかに早く本質的な手を打てるか。
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