日程計画(大・中・小)『大きな戦略から現場のミクロな作業へ』
運営管理 第37回
「生産管理って、どうしても無味乾燥な言葉が並びがちですよね」。動画は、単なる用語の羅列ではなく、計画が大きな戦略から現場のミクロな作業へどう連動していくのか、そのメカニズムを紐解くところから始まります。このページでは動画の流れにそって、大日程計画・中日程計画・小日程計画の目的と期間の違い、そして現場の異変を大日程へ戻すフィードバックまでをまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
日程計画は「大から小へ」降りてくる
日程計画は、製品を「いつ・どれだけ」生産するかを決める計画です。動画は、用語の丸暗記ではなく、経営陣の描く大きなビジョンが、現場の数時間単位のアクションへどう変換されていくのか、その仕組みから入ります。
計画を作る順番は厳格に決まっていて、必ず大日程計画→中日程計画→小日程計画と、大きな視点から小さな視点へ落としていきます。しかも机上の空論ではなく、常に受注情報や注文情報を加味して作られます。
(補足:JIS Z 8141(生産管理用語。確認したのは2001年版で、現行の2022年版の本文は確認できていません)では、「生産計画」=生産量と生産時期に関する計画の備考として、大・中・小の3つに分けると書かれています。「日程計画」という見出し語は2001年版にありません。東京大学の講義資料は、日程計画を生産計画の中の「アウトプットの計画」と位置づけています。呼び名は資料で少し違いますが、大・中・小に分ける考え方は共通です。)
ちょっと意地悪な質問ですが、最初から「明日はこのラインでこれを何個」と細かく決めたほうが手っ取り早くないですか?
あなたがスマートフォン工場のコンサルに入ったとします。クライアントが「新モデルの注文が殺到したので、来週からラインを3倍に」と言ってきたら?
物理的に無理ですね。機械は発注してから届くまで何か月もかかるし、人を採用して教育する時間もかかります。
そうです。変えられるものごとに、かかる時間が違う。だから、時間のかかるものから順に決める三段構えになっているのです。
大日程計画:まず「量」の器を決める
大日程計画の目的は、人・物・金の「量」を決めることです。数か月先、数年先の市場の要求を見越して、自社の器の大きさを決める段階です。
たとえ話:レストランの開業
店を開く前に、店の規模とスタッフの人数を決めますよね。大日程計画は、まさにこの段階です。ここで器を間違えると、満席なのに席が足りない、または空席だらけで家賃だけがかさむ、という根本的な問題になります。
具体的に作る計画は、人員計画・機械設備計画・資金計画の3つです。新工場を建てる資金、高額な専用機械、人員の確保。一度決めて動き出したら、簡単には引き返せない重い意思決定ばかりです。だから対象期間は半年から数年と長く、計画の単位は四半期もしくは月単位になります。
ここを誤ると、生産能力がそもそも足りない、あるいは過剰な設備投資で資金繰りが悪化する、といった根本的な問題に直面します。
試験の注目点
動画の整理では、問題文に「半年から数年」「人員計画」「資金計画」が出てきたら大日程計画、キーワードは量、と覚えます。ただしJIS Z 8141(2001年版)の大日程計画は「月別の生産量を決める長期の生産計画」で、必要な生産能力を決める計画は別の用語「長期生産能力計画」です。動画の整理とJISの定義にはずれがあるので、期間の目安は後ろの補足の表も見てください。
(補足:期間の目安は資料で違います。JISは大日程計画を「月別の生産量を決める長期の生産計画」とし、設備や人員など必要な生産能力を決める計画は別の用語「長期生産能力計画」としています。東京大学の資料は、見込み生産では需要予測が基礎になるとし、期間は1年単位(類型表では6か月〜1年半)で、人員計画などの基礎になると説明します。試験対策としては動画のとおり「大日程=量(人・物・金)」で整理しておくとよいのですが、出題での扱いは今回確認できていません。期間は次の表で並べて見ます。受注生産と見込生産の違いは、生産方式の回で扱いました。)
中日程計画:量から「使い方」へ
ここから視点が戦略から戦術に切り替わります。大日程計画で確保したリソースの中で、人・物・金の使い方を決めるのが中日程計画です。
たとえば大日程計画で「従業員500人、最新の機械10台」と決めても、それだけでは来月の第2週にどの機械でどの部品を組み立てるのかは分かりません。「人と金は集めたから、あとは現場でうまくやって」では、工場は大混乱です。そこで向こう数か月の実際の注文に合わせ、確保したリソースを具体的に割り振ります。
作る計画は、部品・人員の手配、工数(負荷)計画、外注計画です。対象期間は1〜3か月、計画の単位は月・週もしくは日と、解像度がぐっと上がります。
負荷計画とは、機械や作業員にどれくらいの仕事量(負荷)を割り当てるか、能力を超えていないかを計算して、パズルのように組み立てる作業です。たとえば「来月は特定モデルの注文が多く、特殊部品の組立工程に負荷が集中しすぎる」と分かったら、一部の工程を協力会社に頼む。これが外注計画につながります。
大日程計画では「人員計画」だったのが、中日程計画では「人員の手配」になっていますね。
鋭いですね。大枠の人数を決める段階から、実際に誰をどの部門に配置するかという行動に近づいている証拠です。外注も、中日程では「外注計画」、小日程では「外注手配」と、言葉がだんだん現場の動きに寄っていきます。
(補足:JIS(2001年版)の定義では、工数は仕事量の全体を表す尺度で、一人で遂行するのに要する時間(人・時間、人・日など)、負荷は人や機械に課せられる仕事量です。負荷計画は、職場ごとの生産負荷を計算し、計画期間全体にわたって各職場に割り付ける活動。余力は能力と負荷との差で、余力管理では不足や余りを見て作業を再配分し、能力と負荷を均衡させます。)
数字で見てみましょう(補足:動画にない作例です)。機械5台、1日8時間稼働、20日、ダウンタイム10%なら、能力は5×8×20×0.9=720時間。負荷が、製品A 1,000個×0.5時間=500時間、製品B 300個×0.6時間=180時間、段取り替え20時間の計700時間なら、余力は20時間です。ここに特急でBが100個(60時間)追加されると、負荷は760時間で40時間不足します。これはBで約67個分。この不足を外注に回すかどうかを決めるのが、中日程の仕事です。
(補足:東京大学の資料は、負荷を「良品所要量×標準工数÷良品率+段取り替え時間」とし、良品率やダウンタイムも勘案するよう注意しています。上の作例は良品率を100%として省いています。)
小日程計画:「帳尻合わせ」が最後の砦
最後のフェーズ、小日程計画の最重要キーワードは、職場間の帳尻を合わせるための計画です。中日程計画で綿密なスケジュールを組んでも、計画どおりに100%進む日はありません。主要な機械が故障して半日ラインが止まる。材料の納品が遅れる。大口顧客から特急の追加注文が飛び込む。こうした突発事態は、1か月前に立てた中日程計画では予測できません。だから日々の現場でリアルタイムに微調整する仕組みが必要なのです。
作る計画は、作業実施計画・作業手配・外注手配。対象期間は1〜10日と極めて短く、計画の単位はシフトごと、時間単位の分刻みです。外注も、「来月はこの工程の何割かを外注する」という方針のレベルから、「今日の午後までに不足部品を外注先へ届け、明日の朝一までに加工を頼む」という緊急性の高い行動に変わります。
現場のリーダーが、その日の天候や作業員の体調、機械の調子を見ながら、パズルの最後のピースを無理やりはめ込むようなイメージですか。
ええ。経営層から見れば「計画」ですが、現場にとっては今日を乗り切るためのサバイバル術です。この帳尻合わせの力が、生産を止めないための最後の砦になります。
(補足:JIS(2001年版)では、小日程計画は「日々の作業予定を決める」計画です。作業手配は、JISの差立ての別名にもなっていて、機械が1つのジョブを加工し終えたとき、次に加工するジョブを決めて指示する活動を指します。また進捗管理は、仕事の進行状況を把握して日々の進み具合を調整する活動で、「進度管理」「納期管理」ともいいます。)
3つの階層をまとめて見る
| 階層 | キーワード | 作る計画 |
|---|---|---|
| 大日程 | 「量」。半年〜 | 人員計画、 |
| 中日程 | 「使い方」。 | 部品・人員の手配、 |
| 小日程 | 「帳尻 | 作業 |
以上が、動画の整理です。次に、資料によって区分や期間の言い方が違う点を並べます。
補足:資料で違う「期間の目安」
動画は上の表の期間(半年〜数年/1〜3か月/1〜10日)で整理しています。今回確認した資料では、次のように幅があります。
| 階層 | JIS Z 8141(2001年版) | 他の資料 |
|---|---|---|
| 大日程 | 月別の生産量を決める | 東大:1年単位 |
| 中日程 | 部門別の | 東大:1か月 |
| 小日程 | 日々の | 東大:1日 |
期間の数字は、企業の方針や生産方式によって変わり、MONOistも「各事業所の事情で決めればよい」としています。ある企業コラムも、期間の長さではなく何を決めるか(設備と人員/個別オーダーの納期/作業順序と段取り)で区別するよう勧めています。数字そのものより、大から小へ短く・細かくなる順序と、量・使い方・帳尻という役割の違いで押さえるのが安全です。
補足:生産計画まわりの用語地図
動画では触れていませんが、「生産計画」の単元では、次のような用語が出てきます。JISの定義を、実務の流れに並べるとこうなります。
手順計画は、製品の設計情報から、必要作業・工程順序・作業順序・作業条件を決める活動です。基準生産計画(MPS)は、受注や予測で必要時期・必要量を決める「独立需要品目」(最終製品など)について、品目ごとにタイムバケット(期間の区切り)単位で設定した生産予定。資材所要量計画(MRP)は、生産計画・部品構成表・在庫の情報から、資材の必要量と時期を求める仕組みです。東京大学の資料は、中日程計画をMPS(基準生産計画)、小日程計画を最終組立のスケジュールになぞらえ、「厳密には一致しない可能性がある」と注記しています。
なお、中日程計画の手法として「山積み・山崩し」が挙げられることがあります(東京大学の資料にも、負荷を「工数山積表」で分析する記述があります)。ただしこの語はJIS Z 8141(2001年版)に見出し語がなく、定義は資料で確認できていません。各用語の詳しい中身は、該当する回で改めて見ていきます。
下から上へ:現場の小さな異変が、大日程を動かす
動画は最後に、少し挑発的な問いを投げかけます。計画は基本的に大から小へ(トップダウンで)流れますが、小日程の最前線で、想定外の大きな変化に気づいたらどうなるか。たとえば「特定モデルの特急追加注文が妙に増えている」「新素材の加工で機械の消耗が激しく、頻繁にラインが止まる」といった、現場の小さな異変です。
トップダウンで降りてきた計画に、今度はボトムアップで情報を逆流させる、ということですか。
そうです。現場が日々泥臭く帳尻を合わせる中で得られる生きたデータの中に、次の巨大な設備投資や、新しいスキルを持った人員の採用計画といった、大日程計画の方向性を決める重要なシグナルが隠れているかもしれません。上から下へ流すだけでなく、現場の事実を下から上へ吸い上げるサイクルが、環境変化に強い組織の姿です。
(補足:計画を周期的に見直して部分的に修正することをローリングプランといいます。ITトレンドは、たとえば大日程計画を毎月か2か月おきに見直し、その修正を中日程・小日程にも反映させるとよいと説明しています。上の図の「上へ戻る矢印」は、この見直しの入口だと考えるとイメージしやすくなります。)
まとめ
- 日程計画は大→中→小の順に、大きな視点から小さな視点へ落とす。常に受注情報・注文情報を加味して作る。
- 大日程計画=「量」。人・物・金の量を決める。人員計画・機械設備計画・資金計画。半年〜数年、四半期か月単位。
- 中日程計画=「使い方」。確保した資源の割り振り。部品・人員の手配、工数(負荷)計画、外注計画。1〜3か月、月・週・日単位。
- 小日程計画=「帳尻合わせ」。作業実施計画・作業手配・外注手配。1〜10日、シフト・時間単位。
- 期間の目安は資料で幅がある。数字より「何を決めるか」で区別する。
- 計画は上から下へ流すだけでなく、現場の異変を下から上へ戻す循環が環境変化に強い。
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