貢献利益『意思決定会計の最重要概念』
財務・会計 第25回
「複数の事業を手掛けている会社。ちょっとイメージしてみてください」。動画はこんな言葉から始まります。このページでは動画の流れにそって、貢献利益の計算式、個別固定費と共通固定費の違い、赤字事業を続けるべきかどうかの判断、貸切パーティーの注文を受けるかどうか、職人の時間が足りないときの製品の優先順位をまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
赤字のカフェ事業は、閉鎖すべきか
動画は、複数の事業を手がける会社を想像するところから始まります。あなたが経営するのは「桜スイーツ」という会社。伝統的な和菓子の卸売り事業は好調ですが、最近オープンしたおしゃれなカフェの業績が芳しくありません。決算書ではカフェ事業は営業赤字で、役員会では「不採算部門はすぐにでも閉鎖すべきだ」という声が上がっている。さて、あなたならどうしますか、という問いかけです。
動画は、ここで「赤字だからやめる」と単純に判断すると、かえって会社全体の利益を大きく損なう危険があると言います。聞き手が驚くと、講師は、判断の鍵を握る考え方として貢献利益を持ち出します。
ちょっと待ってください。赤字の事業を続けるほうが、会社のためになる場合があるってことですか。
そうなんです。
それはなんだか直感に反しますね。ただの数字の裏に、もっと深い判断基準が隠れていそうです。
まさにその判断の鍵を握るのが、貢献利益という考え方なんですよ。
今回の動画で扱う論点は、次の4つです。
- 貢献利益の計算式と、固定費を2つに分ける理由。
- 営業赤字でも貢献利益がプラスなら、閉鎖すると会社全体の利益が悪化するという話。
- 通常より安い貸切パーティーの注文を受けるかどうか。
- 職人の時間が足りないとき、桜餅と抹茶大福のどちらを優先するか。
貢献利益とは:売上高から変動費と個別固定費を引いたもの
動画の説明では、貢献利益は、ある事業が会社全体の利益にどれだけ貢献しているかを示す指標です。計算式は売上高−変動費−個別固定費。一見シンプルですが、固定費の扱い方が肝になる、と講師は言います。変動費は、カフェならコーヒー豆やケーキの材料費のように、売上が増えれば比例して増える費用です。ここは聞き手が自分で言い当てて、講師が「完璧ですね」と受けています。
(補足:「貢献利益」という言葉の使い方は、資料により異なります。動画は「売上高−変動費−個別固定費」を貢献利益と呼んでいます。一方で、「売上高−変動費」だけを貢献利益と呼び、限界利益と同じ意味で使う資料もあります。問題文に定義が書いてあれば、その定義に従ってください。このページでは、動画の定義を「貢献利益」、売上高−変動費を「限界利益」と呼び分けます。)
固定費を2つに分ける:個別固定費と共通固定費
講師はここで、ふつうは1つにまとめられがちな固定費を、貢献利益の計算では2つに分けると話します。聞き手は、面倒なだけな気もする、と疑いますが、講師は、その一手間がものすごく重要だと答えます。
| 種類 | 動画での意味 | 桜スイーツの例 |
|---|---|---|
| 個別固定費 | その事業がなければ | 専属スタッフの人件費、 |
| 共通固定費 | どの事業をやっていても、 | 本社ビルの家賃、 |
たとえ:経理部長の給料(動画の例)
カフェ事業を閉鎖しても、経理部長の給料がすぐになくなるわけではありません。これが共通固定費の感覚です。反対に、カフェ専属のスタッフの人件費は、カフェを閉鎖すれば支払わずに済みます。これが個別固定費です。
聞き手は、ふだん損益計算書を見ていると、こうした費用が全部「販売費及び一般管理費」にまとまっているので、個々の事業の本当の実力が見えにくくなっていたのだと気づきます。講師は「そこが核心なんです」と応じます。
この図の見方を、講師はこう説明します。貢献利益は、その事業が自分で直接発生させているコストをすべて払ったあとに、会社全体で負担すべき共通固定費を払うために、どれだけお金を残せたかを表す金額です。聞き手は、各事業の貢献を全部足し合わせたもので本社の経費をまかない、それでも残ったものが最終的な会社の利益になる構造だと整理します。
営業赤字でも、貢献利益がプラスなら
動画の設例では、カフェ事業の営業利益は−100万円です。ところが貢献利益を計算すると、+200万円でした。講師は、この+200万円が極めて重要な意味を持つと言います。カフェは、自分にかかる直接のコストをすべて払ったうえで、なお200万円を会社にもたらしている。その200万円は、本社スタッフの給料などの共通固定費の支払いに回っているのです。
ここでカフェを閉鎖するとどうなるか。200万円の貢献が丸ごと消えます。本社の家賃や経理部門の費用といった共通固定費はそのまま残るので、これまでカフェが負担していた200万円分を、好調な卸売り事業が全部背負わなければなりません。会社全体の利益は200万円悪化します。動画は、赤字部門を切ったつもりが、会社の首をさらに絞める結果になりかねない、と話します。
(補足:動画は他の金額を読み上げていないので、ここでは、動画の数字と合う設例を置いてみます。共通固定費の合計を800万円とし、卸売り事業に500万円、カフェ事業に300万円を割り当てたとします。割り当て方(配賦の基準)は会社により異なり、割り当て額は決め方の約束で変わります。)
| 事業 | 貢献利益 | 割り当て後の営業利益 |
|---|---|---|
| 卸売り | 1,000万円 | 500万円 |
| カフェ | 200万円 | −100万円 |
| 合計 | 1,200万円 | 400万円 |
カフェの営業利益−100万円は、貢献利益200万円から、割り当てられた共通固定費300万円を引いた結果です。逆に言えば、営業赤字の正体は、割り当てられた共通固定費を回収しきれなかった分にすぎません。そして閉鎖しても、割り当てられていた300万円の共通固定費が消えるわけではありません。
(補足:「閉鎖しても共通固定費は残る」は、動画の設例の前提です。長い目で見れば、事業をやめて管理部門の人員を減らすなど、共通固定費も減らせる場合があります。どこまで減らせるかが現実の判断の分かれ目で、動画も後半で、長期の視点を問い返しています。)
撤退を考えるのは、貢献利益がマイナスのとき
では、撤退すべきなのはどんな場合か。講師の答えは、貢献利益そのものがマイナスの場合です。売上から変動費を引いても、カフェのスタッフの人件費のような個別固定費すら賄えていない状態を指します。聞き手は、事業を続ければ続けるほど赤字を垂れ流す状態で、こうなって初めて撤退が合理的になるのだと確認し、判断基準は営業利益の赤字・黒字ではなく、貢献利益がプラスかマイナスかだと受け止めます。
動画が示す判断の見方
- 事業の成績表を、営業利益ではなく貢献利益で見る。
- 貢献利益がプラスなら、共通固定費の回収に役立っているので、短期的には続ける方向で考える。
- 貢献利益がマイナスなら、個別固定費すら賄えていないので、撤退が合理的になる。
(補足:動画の基準は「貢献利益がプラスなら続ける」と短く言い切る形ですが、これは前提つきの話です。第1に、個別固定費が、閉鎖すれば本当に払わずに済むこと。たとえば専用設備の減価償却費は、機械を売却できない限り、閉鎖しても費用として残ります。解約できないリース料などが残るなら、その分も撤退しても消えません。第2に、空いた店舗や人を、もっと儲かる別の使い方に回せないこと。第3に、ほかの事業への影響がないこと。これらが崩れると、結論が変わることがあります。動画の最後の問いかけは、このうち第3の点につながっています。)
応用①:安い値段の貸切パーティーを受けるか
貢献利益の使い道は、これだけではありません。動画の次の設例は、ある大企業から、部署の貸切りパーティーを桜スイーツのカフェでやりたいという相談が来た場面です。ただし予算の都合で、通常料金5,000円のところ、1人3,000円にしてほしい。この話を受けるでしょうか。
聞き手は悩みます。通常のお客様に申し訳ない気もするし、安売りでブランドイメージが下がるのも怖い。でもまとまった売上は魅力的です。講師は、ここでも貢献利益の考え方が役に立つと言います。1人あたりの変動費は、食材の原価と追加で雇うアルバイトの時給などを合わせて1,500円とします。3,000円から1,500円を引くと、1人あたり1,500円が残る。講師は、その1,500円を貢献利益と呼び(本文の定義では限界利益にあたります)、お店の家賃や社員の人件費といった固定費の支払いに、1人あたり1,500円ずつ貢献すると説明します。
動画では、普段お店が暇な時間帯に開催できるなら、受けない手はない、と話が進みます。短期的に見れば、固定費をカバーするのに貢献する取引は、値引きしても会社にとってはプラスです。売上や単価だけを見ていると「損だ」と断ってしまいそうな案件も、変動費と比べて貢献利益が出るかどうかで判断すれば、チャンスに変えられる、という整理でした。
(補足:ここで動画が貢献利益と呼んでいる1,500円は、1人あたりの「売上高−変動費」、つまり限界利益です。先ほどの定義とは別の計算ですが、パーティーのために新しい固定費が発生しないなら、1人あたりのこの金額が、そのまま会社の利益の増加になります。そして動画が「暇な時間帯なら」と条件をつけている点が大切です。ここからは動画にない設例で、20人のパーティーとします。受ければ1,500円×20人=30,000円のプラスです。ところが同じ時間に席が通常料金のお客様で埋まるはずだったなら、(5,000円−1,500円)×20人=70,000円の貢献を手放すことになり、差し引き−40,000円です。通常のお客様に値引きの話が広がるおそれなど、数字に表れにくい影響もあります。)
応用②:制約があるときは、制約時間あたりで比べる
もう1つの応用は、好調な卸売り事業です。主力商品は桜餅と抹茶大福で、どちらも人気ですが、製造には熟練の和菓子職人の手作業が欠かせません。その職人の労働時間が限られている。これが生産のボトル
聞き手は「1個あたりの貢献利益が高い方を売るべきじゃないですか」と答えます。桜餅が1個100円、抹茶大福が1個120円なら、抹茶大福です。講師は「一見そう思いますよね」と受け、時間という制約を加えます。桜餅は1時間に30個作れますが、手間のかかる抹茶大福は1時間に20個しか作れません。
| 項目 | 桜餅 | 抹茶大福 |
|---|---|---|
| 1個の貢献利益(動画の呼び方。売上−変動費にあたる) | 100円 | 120円 |
| 1時間に作れる数 | 30個 | 20個 |
| 1時間あたりの貢献利益 | 3,000円 | 2,400円 |
1個あたりの儲けは抹茶大福の方が大きいのに、限られた時間で考えると、桜餅を作った方が会社全体では儲かるんですね。
その通りです。機械の稼働時間や専門スキルを持つ人の労働時間など、事業に制約があるときは、1個あたりではなく、制約時間あたりの貢献利益が最も大きい製品を優先する。それで会社全体の利益を最大化できるんです。
(補足:応用②の貢献利益も、売上高−変動費にあたる金額です。個別固定費は、桜餅と抹茶大福のどちらを作っても変わらないので、順位は変わりません。ここからは動画にない設例で、職人の作業時間を1日8時間とします。桜餅は1個2分、抹茶大福は1個3分なので、1分あたりの貢献利益は桜餅が50円、抹茶大福が40円です。8時間(480分)をすべて使うと、桜餅は24,000円、抹茶大福は19,200円で、差は4,800円になります。ただし、これは桜餅がいくらでも売れる前提です。桜餅の需要が1日150個までなら、桜餅に300分を使って15,000円、残り180分で抹茶大福を60個作って7,200円となり、合計22,200円です。制約となる資源が1つだけのときは、その資源あたりの貢献利益が高い順に、売れる分まで作る、という考え方になります。制約が複数あるときは、線形計画法という別の手法で解くとされています。)
動画の締めくくり:数字に現れない価値
動画のまとめは、次のとおりです。セグメントの業績を正しく評価するには、営業利益ではなく貢献利益を見ることが欠かせない。そのために、固定費を個別固定費と共通固定費に分ける一手間が重要になる。貢献利益は、赤字事業の撤退判断だけでなく、特別な注文の価格決定や、限られた資源の中での製品の優先順位といった、実践的な意思決定で武器になる。目先の赤字や黒字に惑わされず、会社全体の利益を最大化する冷静な判断を可能にする。これが貢献利益の価値だ、という内容です。
そして最後に、視聴者への問いかけが1つ置かれます。カフェ事業の貢献利益はプラスなので、短期的には続けるという判断になった。しかし営業赤字がこの先何年も続くとしたら、短期的な存続は正しくても、長期的な戦略としてはどうか。カフェが持つ、今の数字には現れないブランド価値や、卸売り事業との相乗効果、将来性といった無形の価値について、あなたならどんな問いを立てて存続を考えますか、という問いです。
まとめ
動画の流れのまとめ
- 貢献利益は、動画の定義では売上高−変動費−個別固定費。共通固定費を払うための元手になる。
- 固定費は、その事業がなければ発生しない個別固定費と、会社全体で発生する共通固定費に分ける。
- 設例では、カフェの営業利益が−100万円でも貢献利益は+200万円。閉鎖すると会社全体の利益が200万円悪化する、と動画は説明する。
- 動画では、撤退を考えるのは貢献利益がマイナスのとき。判断の物差しは営業利益ではなく貢献利益。
- 貸切パーティーの設例では、3,000円−変動費1,500円=1,500円が固定費の回収に回る。動画は、暇な時間帯なら受けない手はない、と話す。
- 職人の時間が制約なら、1個あたりではなく制約時間あたりの貢献利益(売上−変動費にあたる金額)で比べる。桜餅は3,000円、抹茶大福は2,400円。
- 最後の問いは、短期では続けるべきでも、長期ではブランド価値や相乗効果などの数字に現れない価値をどう考えるか。
補足の部分も合わせて整理すると、動画の判断基準は、固定費が思いどおりに回避できるか、別の使い道がないか、といった前提のうえに成り立っています。「貢献利益」という言葉の定義にも資料による違いがあります。試験では、問題文の定義と前提に合わせて計算してください。
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