複利原価係数・年金原価係数『NPV(正味現在価値)投資判断』
財務・会計 第21回
「巨額の投資をするかしないか、その運命を、まあ、たった1つの数字が左右してるように見えるんですよね。その数字というのは一体何でしょう」。動画はこんな問いかけから始まります。このページでは動画の流れにそって、割引率、複利現価係数と年金現価係数の使い分け、NPV(正味現在価値)による投資判断と、その限界をまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
たった1つの数字が、投資の運命を決める
動画の冒頭は、巨額の投資をするかしないかの運命を、たった1つの数字が左右しているように見える、という話です。その数字とは何か。答えは割引率です。ほんの数%違うだけで、有望に見えたプロジェクトが投資価値なしと判断されてしまう。動画はこれを「プロジェクトの生殺与奪を握る神の数字」とたとえます。
この割引率の根っこにあるのが、今日のテーマである貨幣の時間的価値です。なぜ将来のお金は、今のお金より価値が低いのか。この概念が、割引率の本質を理解するには欠かせません。そのうえで今回は、この概念を実際の投資判断にどう使うかに焦点を当てます。計算を劇的に楽にしてくれる「魔法の数字」、つまり複利現価係数と年金現価係数が主役です。
(補足:動画のタイトルは「複利原価係数・年金原価係数」と書かれていますが、現在価値に直すための係数ですので、一般には「現価係数」と書かれることが多いです。本文では現価係数と表記します。)
設例:エスプレッソマシンは買いか
動画の設例は、あるカフェが最新式のエスプレッソマシンを導入しようとしている場面です。初期投資は250万円。メーカーの試算では、導入すれば今後3年間、毎年100万円の追加キャッシュフローが見込めます。リターンは3年で合計300万円ですから、差し引き50万円の儲けです。一見すると、文句なしの買いに見えます。
ところが、ファイナンスの考え方だと「ちょっと待った」となります。3年後にもらえる100万円と、今手元にある100万円は、同じ価値ではないからです。そこで、将来得られるお金を現在の価値に換算して評価します。この換算に使うのが割引率です。
動画は、割引率を仮に年5%とします。この5%は、立場によって意味合いが変わります。
| 立場 | 呼び方 | 意味 |
|---|---|---|
| 投資家 | 期待収益率 | このプロジェクトから最低でも得たいリターン |
| お金を借りてくるカフェ | 資本 | 資金を調達するためのコスト |
同じ5%でも、見る立場によって呼び名が変わります。(補足:動画はお金を借りる立場で説明していますが、資本コストは借入に限らず、出資を受ける場合も含めた資金調達のコストを指すとされます。資料により説明の仕方は異なります。)
現在価値を求める:3年後の100万円はいくらか
割引率5%を使って、3年後にもらえる100万円が今の価値でいくらになるかを計算します。これが現在価値(プレゼントバリュー、PV)の計算です。考え方は将来からの逆算で、3年後の100万円を、1+0.05の3乗、約1.158で割ります。電卓を叩くと約86.4万円です。
現在価値の求め方(動画の例)
将来のお金÷(1+割引率)のn乗
100万円÷(1+0.05)の3乗=約86.4万円
つまり、割引率が5%の世界では、3年後の100万円は、今の86.4万円と同じ価値しかない、ということです。1年後の100万円、2年後の100万円も同じように計算できます。ただ、試験でも実務でも、毎回この割り算をするのは面倒ですし、ミスのもとです。特に1.05の3乗のような、小数点の計算は神経を使います。
複利現価係数:割り算を掛け算にする
そこで出てくる1つ目の魔法の数字が複利現価係数です。これは、1÷1.05の3乗という面倒な計算を、あらかじめやっておいてくれた数字です。割引率5%・3年後の複利現価係数は0.864。あとは3年後の100万円に0.864をかけるだけで、100万円×0.864=86.4万円と、割り算と同じ答えになります。
複雑な割り算が単純な掛け算になる。これが係数を使う最大のメリットだと、動画は言います。
(補足:係数の丸めを確かめます。1÷1.05の3乗=0.8638…で、小数第4位を四捨五入すると0.864です。100万円に0.8638…をかけると86.38…万円で、これを小数第1位に丸めても86.4万円です。)
年金現価係数:毎年同じ額なら一発で
ところが、カフェの設例は、毎年100万円ずつ3年間もらえるケースです。この場合はどう考えればよいでしょうか。
1年後、2年後、3年後と、それぞれ複利現価係数を使って計算して、最後に全部足し合わせればよいですか。
それも1つの手です。ただ、もっと賢い方法があります。それが2つ目の魔法の数字、年金現価係数です。
「年金」は、毎年同じ額を受け取ることを指します。年金現価係数の正体は、各年の複利現価係数を全部足し合わせたものです。割引率5%なら次のとおりです。
| 年 | 複利現価係数 | 100万円の現在価値 |
|---|---|---|
| 1年目 | 0.952 | 95.2万円 |
| 2年目 | 0.907 | 90.7万円 |
| 3年目 | 0.864 | 86.4万円 |
| 合計 | 2.723 | 272.3万円 |
この2.723が、割引率5%・3年間の年金現価係数です。これさえ分かっていれば、計算は毎年もらえる100万円にこの2.723をかけるだけ。100万円×2.723=272.3万円が、3年間のキャッシュフローの現在価値の合計になります。
係数の使い分け(動画の整理にそって)
- 将来1回だけもらえるお金の現在価値は、複利現価係数をかける。
- 将来にわたって毎年同じ額をもらえるなら、年金現価係数をかける。
- 動画は、試験問題ではこれらの係数が表として与えられるので、問われるのは計算そのものよりも、状況を読んで適切な係数を選ぶ判断力だと言います。
(補足:動画は「必ず表として与えられる」と言いますが、係数が与えられる形は問題によって異なりうるので、問題文で確認しましょう。また、年金現価係数は、各年のお金が年末に入る前提の係数です。0.9524+0.9070+0.8638=2.7232で、四捨五入すると2.723です。)
(補足:ここは動画にない設例で、使い分けを確かめます。同じ「合計300万円」でも、3年後に一括で300万円を受け取るなら、複利現価係数を使って300万円×0.864=259.2万円です。毎年100万円ずつ3年間なら、年金現価係数を使って272.3万円でした。合計額は同じでも、お金が早く入る分、毎年受け取るほうが現在価値は大きくなります。だから、問題文から「一括か、毎年か」を読み取ることが大切になります。)
NPV:現在価値の合計から投資額を引く
ここで、動画はNPV(ネットプレゼントバリュー、正味現在価値)に進みます。係数は、NPVを求めるために欠かせないツールです。NPVの定義は、とてもシンプルです。
NPV(正味現在価値)
NPV=将来のキャッシュフローの現在価値の合計−初期投資額
カフェの例:272.3万円−250万円=+22.3万円
NPVがプラスかマイナスかが、投資判断の基準になります。動画の整理では、プラスなら投資すべき、マイナスなら見送るべきです。カフェの案件はNPVが+22.3万円ですから、投資すべきという結論になります。
もし年金現価係数を知らなければ、1年目、2年目、3年目と個別に現在価値を計算して合計し、そこから250万円を引くことになり、かなり手間がかかります。特に複数の投資案件を比べるときは、このスピード感が重要になる、と動画は説明します。
なお、単純に足したときの50万円の儲けは、割り引くと22.3万円に縮みました。これが、時点のちがうお金をそのまま足してはいけない、という話の中身です。
(補足:動画は「プラスなら投資すべき、マイナスなら見送るべき」と簡潔に整理しています。実際の経営判断では、複数の案から選ぶ場合や、使える資金に限りがある場合など、別の考慮も加わるとされます。)
割引率が変わると、結論も変わる(補足)
(補足:ここは動画にない設例です。冒頭の「ほんの数%違うだけで」を、カフェの設例で確かめます。毎年100万円を3年間、投資額250万円は変えず、割引率だけを動かします。単位は万円です。)
| 割引率 | 年金現価係数 | NPV(−250) |
|---|---|---|
| 3% | 2.829 | +32.9 |
| 5% | 2.723 | +22.3 |
| 8% | 2.577 | +7.7 |
| 10% | 2.487 | −1.3 |
割引率が高いほど将来のお金は小さく評価されるので、NPVは小さくなります。この設例では、10%になるとNPVがマイナスに転じ、同じ案件が「見送り」になります。割引率の選び方しだいで、結論が変わりうるのです。
NPVの限界:数字にならない価値
NPVがプラスだという計算結果だけで投資を決めるのは、少し危険な気もします。新しいマシンのコーヒーが評判になって、ブランド価値が上がったり、ケーキの売上が伸びたりする効果は、この計算に入っていませんよね。
まさに、それがNPVの限界、あるいは罠とも言える部分です。
動画の説明では、NPVはあくまで計算可能なキャッシュフローだけを評価するツールです。ブランド価値の向上や相乗効果のような、数字に表しにくい戦略的価値を無視してしまう危険があります。
では、NPVがマイナスでも、投資に踏み切る経営判断はあり得るのか。動画は、十分にありえると答えます。例として語られるのは、ITシステムの導入プロジェクトです。NPVを計算するとわずかにマイナスでしたが、社長は、これは目先の利益ではなく、将来、会社が業界で生き残るために必要な一手だとして進めました。結果的に、そのシステムが基盤となって新しいサービスが生まれ、会社は大きく成長した、という話です。
だからこそ、NPVは唯一絶対の答えではなく、合理的な意思決定を助ける強力なツールの1つとして冷静に捉える必要がある。その特性を理解したうえで使いこなすことが重要だ、と動画は整理します。
(補足:このITシステムの話は、結果がうまくいった事例の紹介です。NPVがマイナスなら進めてよい、という意味ではありません。数字にしにくい効果を、キャッシュフローの見積りに織り込もうとする考え方もあるとされますが、資料により説明は異なります。)
動画の最後の問い:割引率を何%にしますか
動画は最後に、考えてみてほしい問いを残します。今回の話では、割引率は5%と、あらかじめ与えられていました。でも、実際のビジネスで、このカフェの投資判断をするなら、割引率を何%に設定しますか。
たとえば、絶対に成功すると言えるような手堅いプロジェクトと、成功するかは5分5分だけれど、当たれば大きく報われるハイリスクなプロジェクト。この2つを、同じ5%の割引率で評価するのは、なんだかフェアではない気がしませんか、と動画は問いかけます。割引率をどう決めるかという一点こそが、実は投資の成否を分ける、アートの領域なのかもしれない、と結ばれます。動画は答えを示さないまま終わります。
(補足:動画にない話です。上の設例のとおり、割引率が高いほどNPVは小さくなります。リスクが高いお金には高めの割引率を使う、と説明されることが多いようですが、具体的な決め方は資料により異なります。)
まとめ
- 割引率がほんの数%違うだけで、投資の結論が変わりうる。根っこにあるのは貨幣の時間的価値。
- 250万円の投資で毎年100万円を3年間。足し算では50万円の儲けでも、時点のちがうお金は同じ価値ではない。
- 割引率5%は、投資家から見れば期待収益率、お金を借りるカフェから見れば資本コスト。
- 複利現価係数は、1回だけ受け取るお金用。3年・5%は0.864で、100万円×0.864=86.4万円。
- 年金現価係数は、毎年同額を受け取るお金用。各年の複利現価係数の合計で、3年・5%は2.723。100万円×2.723=272.3万円。
- NPV=現在価値の合計−初期投資額。カフェの例は272.3−250=+22.3万円で、動画の整理ではプラスなので投資する。
- NPVは計算できるキャッシュフローだけを見るツール。ブランド価値などは入らず、割引率の決め方も難しい。最後は総合的な判断が求められる。
なお、動画の順では最後の問いの前になりますが、講師は、計算方法を覚えるだけでなく、その概念が持つ意味と限界まで理解することが、本当の意味で使いこなすということだと思います、と言います。
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