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マーケットアプローチ『マルチプル法(類似会社比準法)』

財務・会計 第17回

財務・会計・資金調達・企業価値評価 01014分5秒2026年2月16日公開

「企業の価値、つまりその値段って一体どうやって決まるんでしょうね」。動画はこんな問いかけから始まります。このページでは動画の流れにそって、マーケットアプローチの考え方、上場企業の市場株価法、非上場企業のマルチプル法(類似会社比準法)、類似会社の選び方の注意点、EV/EBITDA倍率が重宝される理由をまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。

会社の値段は、どうやって決まる?

動画は「企業の価値、つまりその値段って一体どうやって決まるんでしょうね」という問いかけから始まります。今回のテーマは、企業価値を測る方法のひとつ、マーケットアプローチです。動画によれば、M&Aや投資の現場で使われる考え方であると同時に、自社の立ち位置を客観的に知る道具にもなり、試験の準備でも押さえておきたい論点です。流れは、株価のある上場企業から入り、次に株価のない非上場企業の場合へ進みます。

この考え方の一番大事なポイントは、一言でいうと比較です。隣の会社はいくらで評価されているかを基準に、市場で取引されている似た会社のデータから、いわば相場として自社の価値を出します。聞き手は、自分の家を売るときにまず近所の似た物件がいくらで売れたかを調べるのと似ていると受け、講師も「そのアナロジーは非常に的確」と応じます。

コストアプローチ純資産から計算インカムアプローチ将来の利益を予測マーケットアプローチ市場の評価と比較上場企業市場株価法株価×発行済株式数=時価総額非上場企業類似会社比準法(マルチプル法)倍率を借りて掛ける
動画の主役はマーケットアプローチ。上場か非上場かで使う方法が分かれます。

企業価値の測り方は、ほかにもあります。動画が挙げるのは、会社の持つ純資産から計算するコストアプローチと、将来どれだけ利益を生むかを予測するインカムアプローチ。これらに対して、マーケットアプローチの最大の特徴は、今の瞬間の市場の評価をそのまま反映する点だと説明されます。

上場企業は、市場が答えを出している

トヨタやソニーのように株価が毎日動いている上場企業には、市場株価法を使います。計算式は株価×発行済株式数。聞き手が「ニュースで毎日聞く時価総額ってやつですね」と整理するとおり、市場がその会社につけた値段です。動画は、誰が計算しても同じ答えになる、客観性の高い評価方法だと説明します。

数字で確かめておきます。株価が1,000円で、発行済株式数が1億株なら、1,000円×1億株=1,000億円です(動画にない設例)。

(補足:動画の「誰が計算しても同じ」は、少し単純化した言い方です。株価は日々動くので、どの日の終値を使うか、一定期間の平均を使うかで数字は変わるとされます。また、時価総額は市場で売買される株価の積み上げなので、会社を丸ごと買うときの価格と一致するとは限らない、ともいわれます。)

非上場企業の場合:マルチプル法(類似会社比準法)

ここからが本題です。近所の人気パン屋さんや急成長中のITベンチャーのような非上場企業には株価がありません。聞き手の言葉でいえば「お手本がない」状態です。そこで登場するのが類似会社比準法、通称マルチプル法です。マルチプルは「倍数」という意味です。

たとえ:不動産の坪単価

  • 近くの似たマンションが、1坪あたり100万円で売れた。この「坪単価100万円」がマルチプルにあたります。
  • 自分のマンションが30坪なら、100万円×30坪=3,000万円くらいと推定できます。

企業評価でも、同じことをします。動画が示す手順は3つです。

  • 事業内容や規模が似た上場企業を、いわば「双子」としていくつか探す。
  • その会社たちが、利益の何倍、純資産の何倍で評価されているか、つまりマルチプルを計算する。
  • その倍率を、価値を知りたい非上場企業の利益や資産に掛けて、価値を出す。

代表的なマルチプルがPER(株価収益率)です。株価が、1株あたりの当期純利益の何倍になっているかを示します。動画の例では、類似の上場企業3社のPERが13倍、15倍、17倍。平均は15倍です。評価したい非上場企業の当期純利益が1億円なら、15倍を掛けて、株式の価値はおよそ15億円と推定します。

類似の上場会社PER 13倍類似の上場会社PER 15倍類似の上場会社PER 17倍平均=(13+15+17)÷3=15倍× 非上場企業の当期純利益 1億円株式の価値 ≒ 15億円
倍率を3社から借りてきて、自社の利益に掛けます(数値は動画の例)。

利益の代わりに純資産を使うPBR(株価純資産倍率)も、考え方は全く同じです。

(補足:15億円は、あくまで計算上の推定値です。非上場の株式は市場で売りにくいため、その分を割り引いて考える場合があるとされます。動画が15億円と推定するのは、そのまま取引価格になるという意味ではないと受け止めてください。)

最大の注意点:どの会社を「類似」と選ぶか

聞き手が、簡単すぎて逆に不安になる、何か落とし穴はないのかと尋ねると、講師は「まさにそこがこの手法の最大の注意点であり試験でも問われる重要なポイント」と答えます。

新しいフィンテックの企業を評価するとして、類似会社に三菱UFJのような伝統的な銀行を選ぶのか、楽天のようなIT企業を選ぶのかで、PERが全然違いそうですね。

おっしゃる通りです。前者を選べば評価は低めに、後者を選べば非常に高くなるかもしれません。下手をすれば評価額が何十億、何百億と変わります。だから、なぜその会社を類似会社として選んだのか、客観的で合理的な説明がものすごく重要です。ここに、評価する側のアートの部分があります。

動画が強調する点

  • マルチプル法は手順が簡単だが、類似会社の選び方で評価額が大きく変わる。
  • 選んだ理由を、客観的で合理的に説明できることが重要(動画の説明)。

動画は最後にも、この手法の精度はすべて、どの類似会社を選ぶかという最初のステップにかかっていると念を押します。評価者の腕の見せどころであり、最も議論が噴出する点でもあるそうです。

なぜ、M&AではEV/EBITDA倍率が重宝されるのか

聞き手は、数あるマルチプルの中でも特にEV/EBITDA倍率が強調されるのはなぜかと尋ねます。講師の答えは、PERなどが使う当期純利益よりも、会社の事業そのものの稼ぐ力を、より純粋に比較できるから、というものです。

当期純利益は、税金の払い方や、資金の調達のしかたなど財務の状況によって変わってしまいます。国によって税率も違います。M&Aを仕掛ける側が知りたいのは、そうした会計上、財務戦略上の違いを置いたうえで、この事業が毎年どれくらいの現金を安定して生み出せるのか、という根源的な収益力です。聞き手が言うとおり、買収後に財務戦略は自分たちのやり方に変えられるからです。EV/EBITDA倍率は、そういうノイズを取り払って事業のコアな収益力を比べるものさし、というのが動画の説明です。

この説明を、数字で確かめてみます(動画にない設例)。同じ事業のA社とB社があり、営業利益は8,000万円、減価償却費は2,000万円、税率は30%で共通とします。違いは、A社が借入なし、B社が借入5億円(利率4%、利息2,000万円)という点だけです。

A社(借入なし)EBITDA1億円当期純利益5,600万円B社(借入5億円)EBITDA1億円当期純利益4,200万円営業利益8,000万円・減価償却費2,000万円・税率30%は共通B社は借入5億円×利率4%=利息2,000万円
数値は動画にない設例です。借入の有無で純利益は変わっても、EBITDAは変わりません。

EBITDA(営業利益+減価償却費)は、どちらも1億円で同じです。ところが当期純利益は、A社が8,000万円×(1-0.3)=5,600万円、B社が(8,000万円-2,000万円)×(1-0.3)=4,200万円。事業の稼ぐ力は同じなのに、利息を払うB社のほうが純利益は小さく出ます。EBITDAなら、この差に惑わされません。

EV:会社丸ごとの「正味の買収価格」

倍率の分子のEVは、エンタープライズ・バリュー(企業価値)です。時価総額が株式の価値なのに対して、EVは会社丸ごとの価値を示します。動画は、あなたがその会社を完全に買収する場面で説明します。

  • 全株式を買い集めるお金が要る。これが時価総額です。
  • その会社の借金、つまり有利子負債も引き継ぐことになる。だから足します。
  • ただし現金預金をたくさん持っていれば、そのお金で借金の一部を返せる。だから最後に引きます。

式にまとめると、EV=時価総額+有利子負債-現金預金。まさに会社を手に入れるための正味の買収価格、というイメージです。

株式(時価総額)36億円+有利子負債+18億円-現金預金-6億円EV(企業価値)48億円EV = 時価総額 + 有利子負債 - 現金預金48 = 36 + 18 - 6(設例)
会社を丸ごと手に入れるときの正味の値段、と考えます。

(補足:動画の式は基本形です。資料によっては、少数株主の持ち分や優先株なども足す、事業に使わない資産だけを引く、といった扱いの違いがあるとされます。問題文の定義に従ってください。)

EBITDA:利払い前・税引き前・減価償却前の利益

分母のEBITDAは、Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization の略で、日本語では利払い前・税引き前・減価償却前利益です。金利を払う前、税金を払う前、そして減価償却という会計上の費用を引く前の、事業本来の利益を表します。実務上は営業利益+減価償却費で計算することが多い、と動画は説明します。

営業利益に減価償却費を足すんですか? 費用なのに、なぜ足し戻すんでしょう。

いい質問ですね。減価償却費は、会計上は費用として計上されて利益を押し下げますが、実際に会社からお金が出ていくわけではないんです。

動画の例では、1,000万円の機械を買って10年で償却する場合、毎年100万円(1,000万円÷10年)の費用が計上されますが、キャッシュが100万円ずつ出ていくわけではありません。お金が動かない会計上の費用を足し戻せば、実際に生み出されたキャッシュに近い数字が分かる。聞き手は、簡易的なキャッシュフローの指標とよく言われますね、とも触れています。動画は、金利や税金という財務活動と、減価償却という会計に左右される前の、事業が生み出すキャッシュの量が、EBITDAのイメージだとまとめます。

(補足:EBITDAは「簡易的なキャッシュフロー」ではあっても、キャッシュフローそのものではありません。運転資本の増減、設備投資、税金の支払いなどは含まれません。また、Amortizationは無形資産などの償却のことで、営業利益+減価償却費の式にこれを含めるかは、資料により扱いが分かれるとされます。)

EV/EBITDA倍率の使い方

EVが会社丸ごとの値段、EBITDAが事業の生み出す年間のキャッシュだとすると、EV/EBITDA倍率は、事業が生み出す年間のキャッシュの何倍の値段で評価されているかを表します。使い方はPERと同じです。動画の例では、類似企業の平均が8倍、評価したい非上場企業のEBITDAが1億円なら、企業価値EVは8倍×1億円=8億円と推定されます。

講師によれば、設備投資が多くて減価償却費が大きくなりがちな製造業や、国をまたいで企業を比較したいときに、実務で頻繁に使われる有効な指標です。

では、動画にない設例で一巡してみましょう。類似の上場会社3社は、EBITDAがいずれも6億円とします(金額の単位は億円)。

会社EV=時価総額+有利子負債-現預金EV÷EBITDA
S社30+15-3=4242÷6=7.0倍
T社36+18-6=4848÷6=8.0倍
U社60+12-18=5454÷6=9.0倍

平均は(7+8+9)÷3=8倍です。評価したい非上場企業の営業利益が0.7億円、減価償却費が0.3億円ならEBITDAは1億円なので、EVは8倍×1億円=8億円。ここまでが、動画の説明にそった計算の流れです。

(補足:EVは会社丸ごとの価値なので、株主の取り分にするには借金などを引く必要があります。この非上場企業の有利子負債が2億円、現金預金が0.5億円なら、株式の価値は8-2+0.5=6.5億円です。動画はEVを求めるところまでを説明しています。)

倍率ごとに、掛ける数字と求まるものの組み合わせが決まっています。この対応を整理しておきましょう。

倍率掛ける数字求まるもの
PER当期純利益株式の価値
PBR純資産株式の価値
EV/EBITDAEBITDAEV(会社丸ごとの価値)

最後の問い:赤字でも高い値段がつくのはなぜ?

動画の最後は、考えるための問いかけです。毎年ものすごい赤字を出し続けているのに、何千億円もの時価総額で評価されているスタートアップが、世の中にはたくさんあります。そうした会社のPERやEBITDAはマイナスなので、今日の方法では価値を計算できません。それでも高い値段がつくのはなぜか。動画は、投資家は現在の利益ではなく、技術の将来性や未来の市場を独占する可能性といった目に見えない何かに対して、全く別のマルチプルを頭の中で当てはめているのかもしれない、と投げかけ、価値とは一体何を基準に決まるものなのか、と問います。答えは示されません。

(補足:利益がマイナスの会社では、売上高など利益以外の数字を基準にした倍率や、将来のキャッシュフローを予測する方法が使われることがある、とされます。動画はこれらには触れていません。)

まとめ

この回のまとめ

  • マーケットアプローチは、市場で取引されている他社との比較で価値を出す方法。特徴は、今の市場の評価を反映すること。
  • 上場企業は市場株価法。株価×発行済株式数=時価総額(動画は客観性が高いと説明。基準日の取り方で数字は変わる点は補足)。
  • 非上場企業は、類似の上場会社の倍率(PER、EV/EBITDAなど)を借りて、自社の利益やEBITDAに掛ける。動画の例では、PER15倍×当期純利益1億円=約15億円。
  • 最大の注意点は、どの会社を類似会社に選ぶか。選んだ理由の説明が重要(動画の説明)。
  • EV=時価総額+有利子負債-現金預金。EBITDA=営業利益+減価償却費(実務上)。EV/EBITDA倍率は借入や税金、減価償却の影響を受けにくい。動画の例では、8倍×EBITDA1億円=EV8億円。
  • EVから出るのは会社丸ごとの価値。株式の価値にするには借金などを引く(補足)。

動画は、類似会社の選び方に精度がかかっているという念押しのあと、価値とは何を基準に決まるのかという問いを投げかけて終わります。数字の計算より、誰を比べる相手に選ぶかを意識しながら、もう一度動画を聞いてみてください。

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