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コストアプローチ(純資産法)『コストアプローチの基本概念』

財務・会計 第18回

財務・会計・資金調達・企業価値評価 01112分5秒2026年2月16日公開

「企業の価値を算定すると一言に言ってもこれなんていうかこう多面体を見るようなものですよね。見る角度によって全然違う姿が現れるというか」。動画はこんな言葉から始まります。このページでは動画の流れにそって、簿価純資産法と時価純資産法、2つの時価(再調達時価と清算処分時価)、コストアプローチの限界、3つのアプローチの組み合わせ方をまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。

企業の価値は「多面体」。見る角度で姿が変わる

動画は、企業の価値を算定するといっても、それは多面体を見るようなもので、見る角度によってまったく違う姿が現れる、という話から始まります。貸借対照表をじっと眺めて「この会社はどれだけの財産を持ってるんだろう」と考える視点もあれば、将来どれだけキャッシュを生み出すのか、その稼ぐ力に注目する視点もあります。動画では前者をストック、後者をフローと呼び、どちらも正解だが見ているものが根本的に違う、と整理します。

動画のたとえ:多面体

1つの立体でも、見る角度によって見える面が変わります。企業価値も、資産を見るのか、稼ぐ力を見るのか、市場の評価を見るのかで、姿が変わります。

株式市場で似た会社がどう評価されているかという、相対的な視点も欠かせません。そこで動画は、主要なレンズとして、少なくとも次の3つがあるとまとめます。

  • コストアプローチ:その企業が持つ純粋な資産に着目する。
  • マーケットアプローチ:市場での立ち位置を参考にする。
  • インカムアプローチ:将来の収益力にかける。

今回の主役は、このうちコストアプローチです。動画は、すべての評価の基礎、いわば土台になる考え方と位置づけます。定義をなぞるだけでなく、このアプローチが持つ本質的な強みと、現代のビジネスでは致命的ともいえる点を、じっくり話していくという予告です。シンプルなので誤解されがちだが、その限界を理解してこそ他のアプローチの価値もわかる、という趣旨の話も出てきます。

コストアプローチ見るもの:企業が持つ資産(過去の蓄積・ストック)役割:下限の目安(解散価値のようなフロア)マーケットアプローチ見るもの:類似企業の株価が利益や純資産の何倍か役割:リアリティチェック(市場の現実)インカムアプローチ見るもの:将来のキャッシュフロー(フロー)役割:期待値(成長の見込みを含む)
動画の言い方では、コストが下限、インカムが期待値、マーケットが現実の確認です。

簿価純資産法:電卓1つで誰でも同じ答え

コストアプローチの基本は、総資産から負債を引いた、つまり純資産です。ただし本当の議論は、資産の価値をどう見るかから。動画は、最もシンプルで客観的な簿価純資産法から入ります。名前の通り、すべての計算を会計帳簿上の価格、つまり簿価で行います。

株式価値=総資産(簿価)-負債(簿価)

貸借対照表さえあれば、電卓1つで誰でも同じ答えにたどり着ける。この絶大な客観性が強みで、第三者への説明もしやすい、と動画は言います。会計上の真実をそのまま反映した数値、という言い方も出てきます。

人の判断が入り込む余地がないのは、確かに大きなメリットです。でも、ここに大きな罠があるようにも感じるんですよね。

たとえば、30年前に都心の一等地の土地を、当時の価格で取得した会社があるとします。

(補足:動画は「電卓1つで誰でも同じ答えにたどり着ける」と言いますが、簿価そのものは、減価償却の方法や引当金の見積りなど、会計処理の選び方で変わります。「同じ帳簿を使えば同じ答えになる」という意味に読んでください。また、この式で出るのは株式価値、つまり株主の取り分です。「企業価値」という言葉は、負債の価値まで含めた全体を指すことも多く、使い分けは資料により異なります。)

時価純資産法:土地が30年前の値段のままだったら

聞き手の例の続きです。その土地は、帳簿上は数千万円でも、現在の価値は数十億円になっているかもしれません。この場合、簿価はもはや実態を表しているとはいえないのではないか、という問いです。講師は「まさにその通り」と受けて、会計上の数値と現在の経済的な実態とのギャップを埋める手法が、もう1つの主要な手法、時価純資産法だと説明します。

簿価の客観性を一部犠牲にしてでも、よりリアルな価値に迫るアプローチです。帳簿上の数字を現在の市場価格(時価)に洗い替える対象は、土地、建物、保有している有価証券などです。

株式価値=総資産(時価)-負債(簿価)

ここで聞き手が、面白い点に気づきます。

資産は時価で評価するのに、負債は簿価のまま。どうしてでしょう。

負債の性質を考えれば、非常に合理的です。たとえば銀行から1億円を借りた場合、金利の変動はあっても、返済義務の元本が1億円であるという事実は、市場の状況で変わりません。

つまり負債は、簿価と時価がほぼ一致すると考えられます。だから通常は簿価のまま計算するのです。

借金が時価で変動したら、たまったものじゃないですもんね。

(補足:「ほぼ一致する」という動画の説明は、簡便化した言い方です。固定金利の借入金などは、市場金利が動けば時価が変わりうるとされますが、簡便に簿価を使うのが一般的です。)

設例:簿価と時価で、純資産はどれだけ違うか

動画の土地の話を、数字で確かめましょう。次の設例は、動画にはない数値例です(単位は万円)。資産は現預金2,000、売掛金3,000、棚卸資産2,000、建物・設備5,000、土地3,000、投資有価証券1,000で、合計16,000。負債は9,000とします。土地は30年前に取得して簿価が低いまま、という想定です。時価の列は、事業を続ける前提(再調達時価)で置いた数字とします。

項目簿価時価
現預金2,0002,000
売掛金3,0003,000
棚卸資産2,0002,000
建物・設備5,0006,000
土地3,00015,000
投資有価証券1,0001,500
総資産16,00029,500
負債(簿価のまま)9,0009,000
純資産(株式価値)7,00020,500

簿価純資産法なら7,000万円、時価純資産法なら20,500万円。差は13,500万円で、内訳は土地12,000、建物・設備1,000、有価証券500です。ほとんどが土地の含み益だとわかります。同じ会社なのに、見る手法で、価値が約3倍も違って見えるのです。

簿価純資産法総資産16,000負債9,000純資産7,000時価純資産法総資産29,500負債9,000純資産20,500単位:万円(設例)
資産だけを時価に洗い替えると、黄色の純資産がふくらみます。

(補足:動画にない話です。時価に洗い替えて出た含み益には、将来、税金がかかりうるため、評価差額に対する法人税等相当額を差し引く扱いがあるとされます。資料や評価の目的により異なります。仮に税率を30%とすると、13,500×0.3=4,050を差し引き、20,500-4,050=16,450です。)

時価は1つではない:再調達時価と清算処分時価

聞き手は、さらに突っ込みます。特殊な製造ラインや、特定の目的のために建てられた工場など、一般の市場で売買されないものの時価は、どう決めるのか。講師は、ここが時価純資産法の最も奥深く、評価者の腕が試される部分だと答え、時価には大きく2つの考え方があると説明します。

  • 再調達時価:会社が事業を継続する(ゴーイングコンサーン)前提に立つ場合。今、同じ資産をもう一度手に入れるとしたら、いくらかかるか、というコストの視点です。資産が事業に貢献し続ける価値を、再取得コストで測ります。
  • 清算処分時価:会社を清算する、つまり事業をやめて解散する前提に立つ場合。今すぐ資産を売却処分したら、いくらの現金になるか、という視点です。専門性が高い資産は買い手が限られるため、再調達時価よりかなり低くなることがほとんどだと、動画は言います。

先ほどの設例で、清算の前提を置いてみます。これも動画にない仮定で、売却にかかる費用や税金は考えません。売掛金は9割の2,700、棚卸資産は6割の1,200しか回収できず、建物・設備は専用設備で買い手が限られるため2,000とします。現預金、土地、有価証券は先ほどと同じ値です。総資産は2,000+2,700+1,200+2,000+15,000+1,500=24,400、負債9,000を引いて、純資産は15,400万円。再調達時価で見た20,500万円より、5,100万円低くなりました。

時価純資産法の「時価」は1つではない事業を続ける前提再調達時価同じ資産をもう一度手に入れるといくらかかるか純資産 20,500万円事業をやめて解散する前提清算処分時価今すぐ売却処分するといくらの現金になるか純資産 15,400万円
数値は動画にない設例です。前提が変わると、同じ会社でも金額が変わります。

ということは、どの時価を使うかで、評価者がその企業を、まだ戦える存在と見ているのか、もう解体すべき存在と見ているのかが、透けて見えるわけですね。

コストアプローチは静的な評価だなんて言われますが、どの時価を採用するかに、評価者の動的な未来予測が、実は反映されるんです。

限界:コストアプローチは過去の蓄積しか見ていない

ここまでで解像度が上がったところで、聞き手は、このアプローチの根本的な限界を指摘します。結局のところ、企業の過去の蓄積を評価しているにすぎず、これからどれだけ稼ぐかという未来の収益性、稼ぐ力をまったく見ていない、という指摘です。講師は「それがコストアプローチの最大の弱点であり、限界」と認めます。

動画の例は、優秀なエンジニア集団が作ったばかりのソフトウェア会社です。資産は数台のパソコンと賃貸の机くらいで、コストアプローチで評価すれば、価値はほぼ無に等しくなります。けれど、彼らのソフトウェアが数年後に世界を変える可能性を秘めているなら、その価値は青天井のはずです。

さらに動画は、現代の企業価値の源泉が、工場や土地のような有形資産から、ブランド、技術、特許、顧客ネットワークといった無形資産へ大きくシフトしている、と指摘します。コストアプローチは、貸借対照表に載らないこれらの価値を完全に無視してしまう。聞き手が「現代の企業を評価する上ではかなり致命的じゃないですか」と問うと、講師は「致命的です。だからこそコストアプローチだけで企業価値を語ることはまずありません」と答えます。

貸借対照表に載っている資産土地・建物・有価証券など(コストアプローチの視野)貸借対照表に載らない価値ブランド技術・特許顧客ネットワーク将来の稼ぐ力(収益性)
点線の下の価値が、コストアプローチの弱点にあたります。

(補足:「完全に無視する」は、動画の強い言い方です。時価純資産法では、特許権のように個別に価値を見積もれる資産を加える場合もあるとされます。ただ、ブランドや顧客基盤が将来生み出す稼ぐ力そのものを反映しにくい点は、動画の指摘のとおりです。)

3つのレンズを組み合わせる:下限・期待値・現実の確認

では、他の2つのアプローチは何を補うのか。動画はまず、コストアプローチが無視した将来の収益性を評価するのが、インカムアプローチだと説明します。インカムアプローチは、企業が将来にわたって生み出すキャッシュフローを予測し、それを現在価値に割り引いて価値を出す方法です。先のソフトウェア会社なら、将来のライセンス収入などをもとに評価します(割引の計算は、同じ単元の別の回で扱われています)。

コストアプローチが、解散価値や最低保証値のような下限としての役割を担うなら、インカムアプローチは、成長ポテンシャルを含めた期待値を示す。では、マーケットアプローチは、その中間でバランスを取る役割でしょうか。

非常に良い表現ですね。マーケットアプローチは、いわば市場の知恵を借りる方法です。上場している類似企業の株価が、純資産や利益の何倍で取引されているかを分析し、その倍率を評価対象の会社に当てはめます。

理論上どうあるべきかを考えるコストアプローチやインカムアプローチに対して、現実として市場ではどう評価されているかを確かめる、一種のリアリティチェックの役割を果たします。

アプローチ見るもの動画での役割
コストアプローチ企業が持つ資産少なくともこの価値は下回らない、という確認
マーケットアプローチ類似企業の倍率市場の現実を確かめる
インカムアプローチ将来のキャッシュフロー成功したときの価値(夢)を描く

聞き手が「実際のM&Aの現場なんかではこの3つのアプローチを駆使して多角的に価値を分析するんですね」とまとめると、講師は「その通りです」と受けます。3つを付き合わせることで、初めて説得力のある企業価値のレンジが見えてくる、というのが講師の説明です。たとえば、インカムアプローチで出した価値が、マーケットアプローチの示す価値より著しく高ければ、自分たちの事業計画は楽観的すぎるのではないか、と考えられます。逆に、市場がまだこの会社のポテンシャルに気づいていない、絶好の買い時かもしれない、という考察にもつながります。聞き手は、その議論の出発点として、コストアプローチが示す揺るぎない財産の価値が重要になるのですね、と受けます。

(補足:コストアプローチを「下限」とする動画の整理は、わかりやすい目安です。ただ、純資産がいつでも下限になるとは限りません。清算処分時価は売却や処分の費用の分だけ低くなりえますし、収益力の低い会社は、事業を続ける価値が純資産を下回ることもあるとされます。その場合は、清算したほうが価値が高いという見方になります。)

動画の最後の問い:時価総額と純資産のギャップの正体は?

動画は最後に、考えるための問いを出します。企業の市場価値、つまり時価総額と、コストアプローチで算定した純資産価値の間には、しばしば大きなギャップが生まれます。特に成長企業では大きく、動画では、市場価値が純資産を何十倍も上回ることも珍しくない、と語られます。このギャップは、貸借対照表に載っていない無形の価値、つまり将来への期待を、市場が価格に折り込んだものだと考えられる、という説明です。

そこで講師は、ビジネスコンサルタントとして企業を分析するときは、ただ計算するだけでなく、このギャップの正体を探ってほしいと呼びかけます。それは卓越した経営者のビジョンなのか、他社が模倣できない特許技術なのか、あるいは熱狂的なファンを持つブランド力なのか。その見えない価値の正体を突き止め、持続可能性を評価することこそが、真の企業分析ではないか、という問いかけです。

(補足:時価総額を純資産で割った値が、株価指標のPBRです。動画の「何十倍」は成長企業を念頭に置いた強い言い方で、PBRの水準は業種や時期によって大きく異なります。1倍を割る会社もあります。)

まとめ

この回のまとめ

  • 企業価値評価の主要なレンズは、コスト、マーケット、インカムの3つ。コストアプローチは、企業が持つ資産に着目する。
  • 簿価純資産法は、株式価値=総資産(簿価)-負債(簿価)。電卓1つで同じ答えが出る客観性が強み。ただし、土地の含み益のような実態とのズレが罠になる。
  • 時価純資産法は、株式価値=総資産(時価)-負債(簿価)。資産は時価に洗い替え、負債は簿価と時価がほぼ一致すると考えて簿価のまま使う(動画の説明)。
  • 時価には、事業継続を前提とする再調達時価と、解散を前提とする清算処分時価がある。どちらを使うかに、評価者の見方が反映される。
  • 最大の限界は、過去の蓄積を見るだけで、ブランド・技術・顧客ネットワーク・将来の稼ぐ力といった無形の価値を評価できないこと。
  • 実務では、コストで下の目安、インカムで期待値、マーケットで現実の確認、と3つを付き合わせて、価値のレンジを見る(動画の説明)。

動画は、時価総額と純資産のギャップの正体を探るという問いを投げかけて終わります。簿価と時価の違い、2つの時価、そして限界。この3点を意識しながら、もう一度動画を聞いてみてください。

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