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企業価値(FCFとWACC)『「割引現在価値」や「節税効果」のロジック』

財務・会計 第15回

財務・会計・資金調達・企業価値評価 00812分55秒2026年2月16日公開

「企業の価値を測ると聞くと、何を思い浮かべますか。貸借対照表に載っている資産の合計でしょうか。でも、いつも通うお気に入りの喫茶店の価値は、それだけではないですよね」。動画はこんな問いかけから始まります。このページでは動画の流れにそって、ストックとフローの違い、DCF法、フリーキャッシュフロー(FCF)、WACC、負債の節税効果と、最後の問いである借金を増やすリスクをまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。

企業の価値は、過去の資産だけでは決まらない?

企業の価値を測ると聞いて、何を思い浮かべますか。貸借対照表に載っている資産の合計でしょうか。動画は、そんな問いかけから始まります。そこで出てくるのが、あなたがいつも通うお気に入りの喫茶店のたとえです。常連さんとの関係や、マスターが入れるコーヒーの味は、貸借対照表には載りません。けれど、どちらも将来のお金を生み出す源泉です。

たとえ:喫茶店の価値

  • 貸借対照表の資産:厨房の設備やテーブルなど、いまある物の値打ち。
  • 将来のお金を生む源泉:常連さんとの関係や、コーヒーの味。

動画の整理では、企業の本当の価値は、過去に積み上げた資産だけでなく、その企業が将来どれだけのお金を生み出せるかという、未来への期待値に隠れています。投資やM&A、自分の会社の経営を考えるときにも、この未来を見る視点は欠かせません。そこで今回の本題は、「将来のお金を生み出す力」をどうやって数字にするか、です。動画は、次の3つの道具を1本の線でつなぎます。

  • DCF法(割引キャッシュフロー法):将来のお金を、今の価値に直して足し合わせる方法。
  • FCF(フリーキャッシュフロー):割り引く対象となる、企業が自由に使えるお金。
  • WACC(加重平均資本コスト):割り引くときに使う率。

このページの設例の数字は、動画にはない、わかりやすいように作った数字です。

ストックとフロー:企業価値の2つの測り方

企業価値の測り方は、大きくストックとフローの2つの考え方に分かれる、と動画は整理します。動画では、家の価値にたとえて説明が進みます。

ストック(ある一時点)コストアプローチマーケットアプローチ家:建て直すといくらか、近所の似た家はいくらで売れたか今の姿の写真フロー(将来のお金の流れ)インカムアプローチ(代表格がDCF法)家:貸したら将来にわたって家賃がいくら入ってくるか未来への流れ今回の主役は、右のフロー(DCF法)
家の値打ちにたとえると、ストックは「いま」、フローは「これから」を見ます。

ストックは、ある一時点の価値を見る考え方です。家なら、いま建て直したらいくらかかるか、近所の似た家がいくらで売れたか、を見るイメージです。動画は、会計上の簿価などをもとにするコストアプローチと、市場の株価を参考にするマーケットアプローチが、これに当たると説明します。企業の今の姿を写真に撮るような、静的なアプローチです。

もう1つのフローは、家を貸したら将来にわたってどれくらいの家賃収入があるか、という見方です。つまり未来のお金の流れです。動画が深く見ていくのは、このフローの考え方に基づくインカムアプローチです。企業が将来稼ぐ収益を予測して価値を測る動的なアプローチで、その代表格がDCF法です。動画は、実務でも極めて重要だとします。

DCF法の出発点:明日の100円より今日の100円

DCF法は、割引キャッシュフロー法のことです。ここで聞き手が、素朴な疑問を出します。

来年もらえる100万円と、10年後にもらえる100万円は、価値が全然違いますよね。この時間の壁みたいなものは、どうするんですか。

素晴らしい質問ですね。そこがまさにDCF法の出発点です。明日の100円より今日の100円のほうが価値がある、という貨幣の時間的価値の考え方です。

DCF法は、企業が将来生み出すキャッシュフローを、この時間的価値を考えて現在の価値に割り引き、それを全部足し合わせます。聞き手は、未来のお金を今の価値に換算し直すディスカウントのようなもの、と言い換えます。ポイントは次の2点です。

  • 何を割り引くのか:フリーキャッシュフロー(FCF)。
  • どうやって割り引くのか:加重平均資本コスト(WACC)という割引率。

(補足:動画にない設例です。年5%で割り引くと、1年後の100万円は約95.2万円、10年後の100万円は約61.4万円です。)

何を割り引く? フリーキャッシュフロー(FCF)

聞き手が、割り引く対象は単純な利益とは違うのかと確かめ、動画は、違うと答えます。使うのはフリーキャッシュフロー(FCF)で、文字どおり、企業が自由に使えるお金です。動画の流れは、次の4段階です。

  • 本業で稼いだ儲け、税引後営業利益がスタート地点。
  • 会計上の利益と、実際に手元に残る現金は、必ずしも同じではない。たとえば減価償却費は会計上は費用だが、実際にお金が外に出ていくわけではない。だから、その分は使えるお金として戻す。
  • そこから、事業を維持・成長させるための投資を差し引く。機械の買い換えなどがその例。
  • 最後に残ったものが、株主への配当や銀行への返済に自由に使えるお金、FCF。
設例(単位:万円)税引後営業利益700+ 減価償却費200会計上は費用だが、お金は出ていかない− 投資300事業を維持・成長させるための支出= FCF(自由に使えるお金)600
利益に減価償却費を戻し、投資を引いた残りが、自由に使えるお金です。

ここからは設例です。営業利益が1,000万円、法人税率が30%なら、税引後営業利益は1,000×(1−0.3)=700万円です。減価償却費200万円を戻し、投資300万円を引くと、FCFは700+200−300=600万円になります。

(補足:動画の流れは単純化されています。教科書では、売掛金や在庫など運転資本の増減も調整に加える形で出てきます。式にすると、FCF=税引後営業利益+減価償却費−投資(設備投資など)−運転資本の増加額、という形です。上の設例は運転資本の動きがない前提の簡略化です。)

どう割り引く? WACC=ハードルレート

2つ目のポイントは、未来のFCFを現在の価値に割り引くときの割引率です。ここで登場するのがWACCです。動画では、日本語で加重平均資本コストと紹介されます。聞き手が「これは一体何者なんですか」と尋ねます。

ワック。これは一体何者なんですか。

企業が事業をやるために資金を調達するのに、全体としてどれくらいのコストがかかっているかを示す率だと思ってもらえれば。

動画は、喫茶店を開く場面で説明します。自己資金と銀行からの借入れの両方を使ったとします。すると、自分のお金に期待するリターンと、銀行に払う利息の両方をまかなえるだけの利益を上げなければ、事業が立ち行かなくなります。最低限クリアしなければならないハードルです。そこでWACCは、企業のハードルレートとも呼ばれます。企業はWACCを上回るリターンを生み出さないと、価値を創造したことにならない、というわけです。

DCF法では、このWACCで将来のFCFを割り引いていきます。聞き手が計算式を確かめます。

1年後のFCFを(1+WACC)で割って、2年後は(1+WACC)の2乗で割って。それを事業計画の期間中ずっと続けて、最後に全部足し合わせるイメージでしょうか。

完璧な理解です。

割引現在価値の式(動画の説明にそって)

企業価値=FCF1÷(1+WACC)+FCF2÷(1+WACC)の2乗+FCF3÷(1+WACC)の3乗+…

FCFの右下の数字は、何年後のFCFかを表します。事業計画の期間ぶんだけ続けて足し合わせます。

将来のFCF今の価値1年後600÷1.05571.42年後600÷1.05²544.23年後600÷1.05³518.3合計 約1,634万円(3年分の現在価値)割引率(WACC)を5%とした設例(単位:万円)
遠い将来のお金ほど、割り算の回数が増えて、今の価値は小さくなります。

図は、動画にない設例です。毎年600万円のFCFが3年間あり、WACCが5%なら、現在価値の合計は約1,634万円になります。たとえば1年後の600万円は600÷1.05≒571.4万円です。「割引現在価値」とは、このように割り引いて求めた、今の価値のことです。

企業価値=FCF÷WACC:価値を高める道は2つだけ

ここから動画は「すごく面白い」話に進みます。企業がずっと続き、FCFが毎年一定だと仮定すると、この無限に足し合わせる計算が、驚くほどシンプルな式になります。それが次の式です。

企業価値=FCF÷WACC

FCFをWACCで割るだけですか。あんな複雑そうな計算が、そんなにシンプルになるんですか。

もちろんこれは簡略化したモデルですけど、経営の核心をついているんですね。

動画によると、この式が示すのは、経営者が企業価値を高めるためにやるべきことは、突き詰めれば2つしかない、ということです。分子のFCFを最大化するか、分母のWACCを最小化するか。動画は、この式が会社のあらゆる活動を、価値創造という1つの目的に結びつける役割を果たすと言います。聞き手は、分母が小さくなるほど企業価値が大きくなるシーソーのような関係だ、と受け止めます。

企業価値=FCF÷WACC(設例・万円)基準FCF 600WACC 5%12,000万円FCFを増やすFCF 700WACC 5%14,000万円WACCを下げるFCF 600WACC 4%15,000万円分子を上げても、分母を下げても、価値は上がります
価値を高める道は、分子のFCFを増やすか、分母のWACCを下げるか、の2つです。

設例で見ると、FCFが600万円、WACCが5%なら、企業価値は600÷0.05=12,000万円です。FCFが700万円に増えれば14,000万円、WACCが4%に下がれば15,000万円になります。

(補足:動画は「FCFが毎年一定で成長する」と仮定すると言いますが、この簡単な式が成り立つのは、FCFが毎年同じ額のまま永遠に続く場合です。FCFが毎年一定の率gで成長し続けるなら、式は来年のFCF÷(WACC−g)になります(WACCがgより大きいことが前提です)。たとえば来年のFCFが600万円、WACCが5%、gが1%なら、600÷(0.05−0.01)=15,000万円です。)

動画の整理:企業価値を高める2つの道

  • 分子のFCF:自由に使えるお金を増やす。
  • 分母のWACC:資金調達の平均コストを下げる。

WACCの中身:自己資本コストと負債コスト

聞き手は、分母のWACCの正体が気になってきた、と言います。動画によると、WACCは企業が資金を調達する2つの源泉のコストを、それぞれの割合に応じて混ぜ合わせた、加重平均です。2つの源泉とは、株主からの出資(資本)と、銀行からの借入れ(負債)です。聞き手は、2種類の材料を混ぜたソースにたとえ、材料の味と混ぜる比率で全体の味が決まる、と受け止めます。

  • 自己資本コスト:株主がその会社に投資して期待するリターン(配当や株価の値上がり益)。動画は、リスクが高い企業には株主も高いリターンを要求するので、自己資本コストは高くなる、と説明します。
  • 負債コスト:銀行から借りるときにかかる利率。

節税効果:負債コストに「1−税率」を掛ける理由

ここまでの説明を聞いて、聞き手は「それだけだと何かちょっと単純すぎません?」と疑います。

WACCは、株主が期待するリターンと銀行に払う金利を、それぞれの調達額の割合で平均しただけですよね。何かトリックがあるような気がするんですけど。

良いところに気づきましたね。実は負債コストの計算には、特別なスパイスが加わります。国が借金を、ちょっとだけ後押ししてくれる仕組みがあるんです。

国が後押し? どういうことですか。

それが節税効果です。

仕組みはこうです。企業が銀行に支払う借入金の利子は、税法上、費用として認められ、利益から差し引くことができます。すると、利子を払った分だけ課税対象の利益が圧縮され、結果として払う法人税が少なくなります。聞き手が、借金で払う税金が安くなる分、負債のコストは実質的に安くなるのですね、と確かめ、講師が「その通りです」と応じます。そこで、負債コストには(1−税率)を掛けます。動画の例は、金利が3%で法人税率が30%なら、実質的な負債コストは3%×(1−0.3)=2.1%、です。

ここからは設例で、税金の動きを見ます。営業利益1,000万円、法人税率30%の喫茶店が、金利3%で1,000万円を借りたとします。

項目(設例・万円)借入れなし借入1,000万円
営業利益1,0001,000
支払利息(3%)030
課税される利益1,000970
法人税(30%)300291
利息の実質負担―30−9=21

法人税が300万円から291万円へ9万円減るので、利息30万円の実質負担は21万円、つまり借入額の2.1%です。3%×(1−0.3)と一致します。

WACCの式(動画の説明にそって)

WACC=自己資本の割合×自己資本コスト+負債の割合×負債コスト×(1−税率)

聞き手は、単なる平均ではなく加重平均で、しかも負債コストにだけ税金分のディスカウントが入る、とまとめます。

自己資本割合 60%コスト 8%60%×8%=4.80%負債割合 40%3%×(1−0.3)=2.1%40%×2.1%=0.84%+WACC=4.80%+0.84%=5.64%節税効果を入れないと 4.80%+1.20%=6.00%
株主の分と銀行の分を、割合に応じて混ぜたものが、WACCです。

図の設例は、自己資本60%(コスト8%)、負債40%(金利3%)、税率30%です。WACCは、0.6×8%+0.4×3%×0.7=5.64%になります。節税効果を入れなければ6.00%です。この設例でFCFが毎年600万円で永遠に続くなら、企業価値は、600÷0.0564≒10,638万円、600÷0.06=10,000万円です。節税効果を入れた分だけ高くなり、その差は約638万円です。ただし、自己資本コストを8%に固定した設例での差で、MM理論の「税率×負債額」とは一致しません(下の補足の1つ目を参照)。

(補足:2点あります。1つ目、この設例は、自己資本コストを8%に固定した計算練習です。そのため、ここで出る約638万円の差は、MM理論の「負債がある会社の価値=負債がない場合の会社の価値+税率×負債額」とは一致しません。実際には、負債の割合を変えると株主の要求リターンも動くとされています。2つ目、FCFは利息を引く前の税引後営業利益から出発するので、利息の節税効果はWACCの側にだけ入れ、二重に数えないようにします。また、節税効果が出るのは、利息を引いても課税される利益がある場合の話です。)

動画は、なぜ負債にだけ節税効果が考慮されるのか、この構造を理解することが第一歩だ、と述べるにとどまり、理由の説明まではしません。(補足:理由の一つは、株主への配当が税引後の利益から支払われ、費用にならないことです。)

最後の問い:借金を増やしてWACCを下げるべきか?

動画の最後で、講師は思考を深めるための問いを投げかけます。WACCの式を見ると、節税効果があるぶん、負債コストは自己資本コストよりも安く見えます。では、企業価値を最大化するために、つまり分母のWACCを最小化するために、企業はできるだけ多く借金をして、コストの安い負債の割合を高めるべきなのか。その戦略に潜むリスクは何か。動画は答えを示さず、この問いを、公式の暗記を超えて、企業の資本構成、つまり財務戦略そのものを考えるきっかけにしてほしい、と位置づけます。

(補足:動画にない話です。借入れが増えると、返せなくなる危険が大きくなり、貸し手が求める金利も、株主が求めるリターンも上がっていく、とされています。そのため、「負債は安いから、増やすほどよい」とは単純に言えません。最適な資本構成の考え方は、資料により説明が異なります。)

まとめ

動画のまとめです。

動画のまとめ

  • 企業の価値は、過去に積み上げた資産だけでなく、将来どれだけ自由に使える現金を稼げるかという、未来への約束で決まる。
  • その将来のFCFを現在の価値に換算する手法がDCF法。未来のお金は、割り引いて考える。
  • 割引率に使うのがWACC。資金調達のコストであり、事業が生み出すべきリターンの最低ライン(ハードルレート)。
  • WACCの中身は、株主が期待するリターン(自己資本コスト)と、銀行への利息に節税効果を加えた負債コスト。この2つを、資金調達の割合に応じて混ぜ合わせたもの。
  • DCF、FCF、WACCの3つの関係を、大きな流れとして押さえることが大切。

最初の喫茶店も、厨房設備がいくらかだけでなく、どれだけのFCFを生み出すか、資金調達のコストはどれくらいかという視点で、より本質的な価値を考えられます。動画の終わりの問いは、資本構成を考える入り口です。

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