NPV法・IRR法・PI法・ARR法『企業の運命を左右する投資判断の評価手法』
財務・会計 第14回
「もしあなたが1日だけCEOになったと想像してみてください。デスクの上には2つのプロジェクト案があります」。動画はこんな場面から始まります。このページでは動画の流れにそって、NPV法、IRR法、PI法、会計的投資利益率法(ARR法)の考え方と判断基準、IRRの落とし穴、手法の使い分けをまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
1日だけCEOになったら、どちらの案を選ぶか
動画は「もしあなたが1日だけCEOになったと想像してみてください」という場面から始まります。デスクの上には2つのプロジェクト案があります。1つは、設備更新で、着実なリターンが見込めるもの。もう1つは、ハイリスクだけれど、当たればものすごい利益を生む新製品開発です。予算はどちらか1つにしか使えません。さあ、どうやって選びますか。
この「企業の運命を左右する投資判断」の心臓部が、収益性の評価方法です。動画が順に解き明かすのは、次の4つです。
- NPV法(正味現在価値法):将来のお金を今の価値に直して合計し、投資額を引く。
- IRR法(内部収益率法):NPVがちょうど0になる割引率を求める。
- PI法(収益性指数法):投資1円あたり、将来いくらの価値が返るかを見る。
- 会計的投資利益率法:会計上の平均利益を投資額で割る、簡便な方法。
見るべきは、単に儲かるかだけではなく、いつどれくらい儲かるのかだ、と動画は言います。今日の1万円と5年後の1万円は、額面が同じでも価値が違います。この貨幣の時間的価値を物差しにするかどうかで、見える景色はガラッと変わります。動画は、その物差しを使う精密な方法と、あえて使わないシンプルな方法の両方を見ていきます。
(補足:動画のタイトルにある「ARR法」は、会計的投資利益率法の英語名 Accounting Rate of Return の略称です。動画の中では、会計的投資利益率法という呼び名で説明されます。)
NPV法:未来のお金を「今の価値」にして、1つの数字にする
最初は、最も重要で最も精密だと言われる正味現在価値法、通称NPV法です。将来もらえるお金を全部、今の価値に引き直して考えます。動画が強調するNPV法のすごさは、プロジェクトに関する将来の希望や夢のような不確実なものを、たった1つの数字に翻訳してしまう点です。計算そのものは単純で、将来入ってくるキャッシュ
NPV法の式と判断
NPV=将来のキャッシュ
NPVがプラスならGO、マイナスならストップ。解釈のルールは驚くほど明確だと動画は言います。
プラスならGOの理由を、動画は次のように説明します。NPVがプラスということは、そのプロジェクトが資金調達にかかるコストを上回って、文字どおり会社の価値を創造している、ということだからです。
あ、単に利益が出るという話ではなくて?
そうなんです。企業価値そのものを増やす、価値創造マシンかどうか。それを見極められるんです。
(補足:NPVは、予測したキャッシュ
設例:投資額80,000円、3年間30,000円、割引率5%
動画の設例です。初期投資が80,000円で、その後3年間、毎年30,000円のキャッシュ
3年分を1回ずつ割り引くのは手間です。そこで使うのが年金現価係数です。動画はこれを、ショートカットキーのような便利なものだとたとえます。毎年1円を3年間、割引率5%でもらい続けたとき、現在価値の合計はいくらになるか。その問いへの答えが、あらかじめ数字として用意されています。今回のケースでは2.723です。
毎年もらえる30,000円に2.723をかけると、将来のキャッシュ
(補足:係数を丸めずに計算してみました。各年の現在価値は約28,571円、約27,211円、約25,915円で、合計は約81,697円です。NPVは約+1,697円になります。動画の約81,690円は、係数を2.723に丸めた値で、結論は変わりません。)
IRR法:NPVをちょうど0にする割引率
ここで聞き手が、経営者はやはり「結局この投資の利回りは何%なんだ」と率で聞きたがるイメージがある、と問いかけます。それに答えるのが内部収益率法、IRR法です。NPVが絶対額で答えるのに対して、IRRは、このプロジェクトは年利何%の金融商品のようなものか、という問いにパーセンテージで答えます。
求め方は少しトリッキーです。NPVがちょうど0になる割引率は何%か、を探し当てます。そのNPVを0にする魔法の割引率が、内部収益率(IRR)です。
判断は、IRRを会社の資本コストと比べて行います。動画は資本コストを、会社が事業をやるためにクリアしなければならない最低限の目標利回り、いわばハードルだと説明します。たとえば「うちの会社は最低でも8%は儲けないと話にならない」というのが資本コストです。IRRがこのハードルを超えていればGO、下回っていればストップです。IRRが15%ならハードルを軽々と超え、6%なら事業のためのお金すら賄えていないので問題外、となります。
IRR法の判断
IRR>資本コスト → GO/IRR<資本コスト → ストップ
IRRは、NPVがちょうど0になる割引率のことです。
(補足:さきほどの設例(投資80,000円、30,000円×3年)でIRRを求めると、約6.13%になります。割引率を変えたときのNPVを並べると、IRRがNPVの0になる点だとよく分かります。)
| 割引率 | 現在価値の合計 | NPV |
|---|---|---|
| 0% | 90,000円 | +10,000円 |
| 5% | 約81,697円 | 約+1,697円 |
| 約6.13%(IRR) | 約80,000円 | ほぼ0円 |
| 8% | 約77,313円 | 約-2,687円 |
割引率が5%ならNPVはプラスで、IRR(約6.13%)は5%を上回っています。もし資本コストが8%の会社なら、NPVは約-2,687円でマイナス、IRR約6.13%も8%を下回るので、どちらの物差しでもストップです。この設例では、2つの手法の結論が一致しています。
IRRの落とし穴:率は規模を教えてくれない
ここで聞き手が、IRRが高いほど良いプロジェクトなのか、と待ったをかけます。
IRRが50%でも1万円しか儲からない超小型プロジェクトと、IRRは20%でも10億円儲かるプロジェクトがあったら、IRRだけを見ると前者の方がよく見えませんか。それってすごく危ない気がします。
まさにそこがIRRの最大の落とし穴です。素晴らしい指摘ですよ。IRRはあくまで率なので、プロジェクトの規模を全く教えてくれないんです。
率の高さに目がくらむと、企業全体への貢献額、つまりNPVで見た本当の価値を見失う危険があります。だから動画は、実務では最終的な意思決定はNPVで行うのが鉄則とされている、IRRは補完的に使うのが賢い付き合い方だ、と説明します。
(補足:動画の例と同じ構造の、小さな設例です。X案は投資100万円で1年後に150万円、Y案は投資1,000万円で1年後に1,200万円を受け取ります。IRRはX案が50%、Y案が20%です。割引率8%でNPVを求めると、X案は約+38.89万円、Y案は約+111.11万円です。どちらか一方しか選べないとき、IRRで選ぶとX案、NPVで選ぶとY案になります。)
(補足:動画は、最終判断はNPVという言い方をします。ただし、案が1つだけで、採るかどうかを決める場面では、最初に支出し、あとは受け取るだけという通常の形のキャッシュ
PI法:投資1円あたり、いくらの価値が返るか
次の収益性指数法、PI法は、別の角度から光を当てます。測るのは投資効率、つまり1円あたり将来いくらの価値になって帰ってくるか、いわゆるコスト
PI法の式と判断
PI=将来のキャッシュ
たとえば結果が1.2なら、1円投資すれば1.2円の価値が返る、という意味です。判断基準は、PIが1を上回るかどうかです。
IRRと同じで、PIも率の仲間です。プロジェクトの規模は教えてくれない、と動画は言います。聞き手は、これもNPVとセットで使うのが基本ですね、とまとめます。
(補足:設例の現在価値の合計は約81,697円なので、PIは81,697÷80,000で約1.02です。割引率8%なら、77,313÷80,000で約0.97で、1を下回ります。PIが1を上回ることは、現在価値が投資額を上回ること、つまりNPVがプラスであることと同じ意味です。)
会計的投資利益率法:時間を無視する簡便法
ここまでは、将来のお金を割り引く緻密な方法でした。では、電卓を叩かなくても暗算でできそうな、もっと直感的な方法はないのか。ありますと動画は言い、貨幣の時間的価値をあえて無視する方法として、会計的投資利益率法を紹介します。
計算は非常に直感的です。投資によって将来得られる会計上の平均利益を、投資額で割って利益率を出します。動画の例は、投資額100万円で、5年間で合計50万円の利益が見込める場合です。
| 手順 | 設例の数値 |
|---|---|
| 年平均の利益 | 50万円÷5年=10万円 |
| 利益率 | 10万円÷100万円=10% |
| 判断 | 会社が決めた目標利益率を超えるか |
聞き手が「小学生でも計算できそう」と言うほど簡単です。ところが動画は、シンプルさには大きな代償があり、この方法には決定的な欠陥が2つあると言います。
- 計算に使うのが、手元のお金であるキャッシュではなく、会計上の利益だという点。
- 貨幣の時間的価値を完全に無視している点。1年目の10万円の利益も、5年後の10万円の利益も、まったく同じ価値として扱ってしまう。
それって金融の世界では最大のタブーみたいなものではないですか。なぜそんな方法が今でも使われているんですか。
理論的には欠陥だらけですが、計算が圧倒的に簡単で、会計の帳簿と連動しているので分かりやすいんです。だから、重要性が低い小さな投資の一次スクリーニングなど、ざっくりと当たりをつける目的では、今でも使われることがあります。
聞き手はこれを「ピントの甘い白黒写真」にたとえます。大体の様子は分かるけれど、細かい違いは全く見えない、というわけです。大規模で重要なプロジェクトの判断に、これだけを使うのは無謀だと聞き手が言い、講師も「その通りです」と応じます。それぞれの手法の長所と短所、つまり見えるものと見えないものを理解したうえで、状況に応じて使い分けることが重要だ、と講師は話します。
(補足:割る分母は、動画では投資額です。資料によっては、投資額の半分などの平均投資額で割る流儀もあり、その場合は上の設例で10%でなく20%になります。問題文の指示に従う必要があります。)
4つの手法を、車の運転にたとえると
講師は、4つの手法の関係を車の運転にたとえます。
動画のたとえ:車の運転
- NPV:目的地にどれだけ近づいたかという絶対的な距離を示してくれる、ナビ。
- IRR:燃費、つまり1リットルで何キロ走るかという効率を示してくれる、メーター。
- 会計的投資利益率法:燃料計も地図も見ず、ただスピードメーターの数字だけを見ているような状態。
聞き手は、結局、目的地にたどり着けるかが一番重要だから、ナビであるNPVが一番大事なんですね、とまとめます。動画のたとえにPI法は出てきませんが、IRRと同じ率の仲間として、NPVとセットで見ます。
| 手法 | 答え方 | 判断の目安 |
|---|---|---|
| NPV法 | 金額(絶対額) | プラスならGO |
| IRR法 | 率(利回り) | 資本コストを超えたらGO |
| PI法 | 1円あたりの価値 | 1を上回ったらGO |
| 会計的投資 | 会計上の利益率 | 目標利益率を超えたらGO |
動画の整理にそって
- 絶対額で最終判断を下すのは、NPV法。
- IRR法とPI法は率の手法。魅力度や効率は見えるが、プロジェクトの規模は教えてくれない。
- 会計的投資利益率法は、時間的価値を無視し、キャッシュではなく会計上の利益を使う。ざっくりした一次スクリーニング向き。
動画は、「IRRが30%を達成」みたいな見出しに踊らされず「NPVはいくらなの」と心の中でツッコミを入れられれば、CFOのような視点を持っていると言えます、と話します。聞き手は、数字の本当の意味を理解することが本質なんですね、と受けます。
動画の最後の問い:不確実な投資をどう評価するか
動画は最後に、思考をもう一段階深めるための問いを投げかけます。ここまでは、将来入ってくるお金が確実だという前提で話を進めてきました。でも現実のビジネスは、不確実性のかたまりです。もし、成功するかどうか分からない、非常にリスクの高いベンチャー投資を評価するとしたら、今日学んだ計算方法に、どんな工夫を加えれば不確実性を反映できるでしょうか。動画は、この問いの答えが、実務における意思決定のさらに奥深い世界への入り口になる、と言って終わります。
(補足:ここは動画にない答えの例です。一般には、割引率にリスクの分を上乗せする、キャッシュ
まとめ
- 投資判断の物差しは、貨幣の時間的価値を考えるかどうかで分かれる。NPV法・IRR法・PI法は考え、会計的投資利益率法は無視する。
- NPV法は、将来のキャッシュ
フローの現在価値の合計から投資額を引く。プラスならGO、マイナスならストップ。動画の設例では約+1,690円でGO。 - IRR法は、NPVがちょうど0になる割引率。資本コストというハードルを超えたらGO。ただし率なので、規模は分からない。
- PI法は、現在価値÷投資額。1を上回ったらGO。これも率の仲間なので、NPVとセットで使う。
- 会計的投資利益率法は、会計上の平均利益÷投資額。簡単だが、キャッシュでなく会計上の利益を使い、時間的価値も無視する。小さな投資の一次スクリーニング向き。
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