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FCFとNPV(投資意思決定)『「利益」と手元の「現金」の決定的な違い』

財務・会計 第19回

財務・会計・資金調達・企業価値評価 01212分38秒2026年2月15日公開

「もしあなたが友人と一緒に念願だったキッチンカーのビジネスを始めるとします。車両とかの設備とかで初期投資に300万円かかると。さてこの本当にやる価値があるのかどうやって判断しますか」。動画はこんな問いかけから始まります。このページでは動画の流れにそって、利益と現金の違い、フリーキャッシュフロー(FCF)の組み立て、減価償却費の足し戻し、運転資本、割引率と正味現在価値(NPV)、投資判断のルールをまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。

キッチンカーに300万円、本当にやる価値はあるか

「友人と一緒に念願だったキッチンカーのビジネスを始めるとします。車両とかの設備とかで初期投資に300万円かかると。さてこの本当にやる価値があるのかどうやって判断しますか」。動画は、こんな問いかけから始まります。勘や情熱も大事ですが、それだけではちょっと怖い。そこで、投資のゴーかストップかを判断するときに使う、2つの強力なツールが紹介されます。

  • FCF(フリーキャッシュフロー):事業で稼いだ、自由に使える現金。
  • NPV(正味現在価値):将来のFCFを今の価値に直して合計し、初期投資を引いた値。

動画は、これを単なる計算式ではなく、ビジネスの未来を読み解くための考え方だと言います。この一連の流れをつかめば、あらゆる投資判断に応用できる一生モノのスキルになる、という位置づけです。以下の設例の数字は動画にないものです。動画の数字に合わせ、初期投資300万円、毎年のFCF50万円が5年間、割引率10%で組んであります。

利益と現金は同じではない

動画は、多くの人が会社の健康状態を会計上の利益で判断しがちだが、それだけだと少し危ない、と言います。会計上の利益には、まだ手元に入ってきていない売上、いわゆる売掛金も含まれるからです。だから、黒字なのに現金がなくて倒産することも、実際に起こり得る、という説明です。

設例:売上100万円は全額が掛け売りで、まだ回収できていない帳簿の利益売上 100- 経費 80= +20手元の現金入ってきた 0- 払った 80= -80利益は黒字でも、現金は減っています
売掛金のように、利益に入っていても、まだ現金になっていないものがあります。

動画にない設例です。今月の売上100万円が全額掛け売りで、まだ回収できていないとします。仕入れや経費の80万円は現金で払い済みです。帳簿の利益は100−80=20万円の黒字ですが、手元の現金は80万円減っています。

これに対してFCFは、もっと正直な数字だと動画は言います。事業で稼いだ現金から、税金と、事業を維持・成長させるための投資を全部支払った後に、最終的に手元にいくら現金が残ったか。株主への配当、借金の返済、新しい事業のための貯蓄と、使い道は完全に自由です。

言葉の響きからすると、自由に使えるお金、という感じがしますが、合っていますか。

その通りです。完璧な要約ですね。

講師は、会社は現金が尽きたときに倒産するという原則を忘れてはいけない、と言います。FCFは、その生命線にあたる数字だ、という位置づけです。

FCFの組み立て:税引後営業利益からスタート

聞き手が「僕たちのキッチンカーでこのフリーキャッシュフローを計算してみましょうか」と促し、動画は次の順番で進みます。

  • 年間の売上から、人件費やガソリン代などの諸々の経費を引いて、営業利益(本業の儲け)を出す。
  • そこから法人税などを引く。これが計算のスタート地点、税引後営業利益。
  • 減価償却費を足し戻す。
  • 運転資本の増減額を調整する(増えたら引く)。
  • 将来のための投資額を引く。

これで年間のFCFが計算できる、という流れです。動画にない設例で数字を入れてみます。売上600万円、現金で払う経費500万円、減価償却費60万円(300万円のキッチンカーを5年で均等に費用にしたとします)なら、営業利益は600−500−60=40万円です。法人税率30%なら税は12万円で、税引後営業利益は28万円。ここに60万円を足し戻し、運転資本の増加8万円と、新しいグリルの購入30万円を引くと、28+60−8−30=50万円です。動画の「毎年50万円」に合う数字にしてあります。

設例(単位:万円・毎年)税引後営業利益28+ 減価償却費60費用だが、現金は出ていかない- 運転資本の増加8在庫や売掛金が増えた分- 投資30新しいグリルなどの購入= FCF(自由に使える現金)50
利益から出発して、現金が出ない費用を戻し、現金が減る分を引きます。

(補足:ここで引く法人税は、営業利益に税率をかけたものです。借入れの利息を払う前の数字で組むので、このFCFは、利息を払う前の、株主と銀行の両方に向けられる現金の流れとされます。)

なぜ減価償却費を足し戻すのか

ここで聞き手が、減価償却費の足し戻しに引っかかります。

減価償却費って、キッチンカー本体や調理器具が年々古くなって価値が下がる分を計上する費用ですよね。費用なのに、なぜ足し戻すんですか。足したら、現金が実際より多く見えてしまいませんか。

そこは、結構多くの人が混乱するポイントなんです。減価償却費は会計上の費用ですが、実際に財布からお金が出ていっているわけではありません。

動画の説明はこうです。FCFは現金の動きを追いかけるので、利益計算の段階で引かれてしまった、現金支出ではない費用は、「ごめん、これは現金支出じゃなかったね」と足し戻す必要があります。

(補足:キッチンカーの代金を払ったのは買ったときで、その300万円は、あとで見るNPVの「初期投資」の側で扱います。毎年のFCFで引く「投資」30万円は、これとは別の支出です。)

続けて聞き手が、減価償却費にはタックスシールド(税金の盾)の効果もありますよね、と挙げます。講師は、減価償却費は費用として認められるので課税対象の利益がその分だけ減り、支払う税金が少なくなる、これは企業にとって嬉しい節税効果で、キャッシュフローを増やす要因になる、と応じます。設例で確かめます。

項目(設例・万円)償却がない仮定償却60あり
営業利益10040
法人税(30%)3012
税引後営業利益7028
減価償却費の足し戻し0+60
手元に残る現金7088

償却があると、法人税が30万円から12万円へ18万円減り、手元に残る現金も70万円から88万円へ18万円増えます。18は、60×30%です。

(補足:この節税効果は、足し戻しとは別に加えるものではありません。営業利益は減価償却費を引いたあとの数字なので、税が少ないことは、すでに税引後営業利益の28万円に入っています。足し戻すのは、現金が出ていかない60万円だけです。「足し戻し+節税効果」と二重に足さないよう注意してください。)

運転資本の増加と投資:手元の現金が減るもの

次に引くのは運転資本の増減額です。動画は、キッチンカーなら日々のやりくりに必要なお金、とたとえます。

たとえ:食材として眠る現金

来年のイベントに備えて、いつもより多く肉、野菜、トルティアを仕入れたとします。在庫は増えますが、まだ売れていないので現金になっていません。仕入れのために払った現金が、食材という形に姿を変えて、すぐには使えない状態で眠っています。

このように運転資本が増えると、その分だけ手元の現金が減るので、FCFの計算ではマイナスします。聞き手が、売掛金(お客さんに付けで売って、まだ回収できていないお金)も同じ理屈ですね、と確かめ、講師は「その通り」と答えます。

運転資本の動きFCFでは
在庫が増える引く(現金が減る)
売掛金が増える引く(現金が減る)
買掛金が増える(補足:動画にない例)足す(支払いが先送りされ、現金が残る)

最後に、将来のための投資額です。来年はもっと高機能なグリルを入れよう、2号店のために新しいトラックを買おう、と決めてお金を使えば、自由に使える現金は当然減るので、マイナスします。

(補足:運転資本の定義は資料により異なります。売上債権+棚卸資産−仕入債務(売掛金+在庫−買掛金)とする説明のほか、流動資産−流動負債の意味で使う資料もあります。いずれも、増えれば現金が減り、減ればその分がFCFに戻ってくる、という向きは同じです。)

5年後の50万円は、今の50万円と同じ価値か

聞き手が、今後5年間、毎年50万円のFCFを生むと予測できたとして、5年後に手にする50万円と今すぐもらえる50万円では価値が全然違いますよね、と確かめると、講師は「全く違います」と応じ、理由を2つ挙げます。

  • 時間:今すぐ50万円あれば、銀行に預けて利息をもらうことも、別のビジネスに投資することもできる。5年後の50万円には、その機会がない。
  • リスク:5年後に本当にそのビジネスが続いているか分からない、という不確実性がある。

この時間とリスクを計算に入れるのが、2つ目のツール、NPV(正味現在価値)です。動画の説明では、将来生み出される一連のFCF(今回は50万円の5年分)を現在価値に割り引いて合計し、そこから初期投資額(300万円)を差し引きます。

割引率は、期待する最低限のリターン率

割り引くときに使うのが割引率です。動画は、これをその投資に期待する最低限のリターン率、いわばハードルだと説明します。やりとりの中では、たとえばキッチンカーをやらずに300万円を市場で運用すれば年5%のリターンが見込めるとして、わざわざリスクを取ってキッチンカーをやるからには年5%以上は欲しいのではないか、という例が挙がり、それはもちろんだ、と確かめられます。この期待するリターン率が割引率のベースになり、動画は例として10%に設定します。

すると、1年後の50万円の現在価値は、50÷1.1=約45.5万円。2年後の50万円は、50÷1.1²=約41.3万円です。遠い未来のお金ほど、大きく割り引かれます。聞き手は、将来のお金の価値を複利の逆計算で現在まで引き戻すイメージだ、と受け止めます。

NPVの式(動画の説明にそって)

NPV=各年のFCFの現在価値の合計−初期投資額

各年の現在価値は、FCF÷(1+割引率)の「年数」乗、で求めます。

(補足:割引率を何で決めるかは、資料により説明が異なります。会社全体の資金調達コスト(加重平均資本コスト、WACC)を使う説明もあります。動画は、その投資に期待する最低限のリターンとして話を進めています。)

NPVの計算と、動画の数字のずれ

動画は、こうして計算した各年の現在価値をすべて合計し、仮にそれが350万円になったとします。そこから最初に払った初期投資300万円を引くと、プラス50万円。この最終的な数字がNPVです。

(補足:動画の数字には、ずれがあります。動画は、現在価値の合計を「仮にそれが合計で350万円になったとしましょう」と置きますが、毎年50万円を5年なら、割り引く前でも合計は250万円です。割り引けばもっと小さくなります。割引率10%で計算すると、下の図のとおり合計は約189.5万円で、300万円を引いたNPVは約−110.5万円、つまりストップです。合計が350万円になるには、同じ条件(5年・割引率10%)で、毎年約92.3万円のFCFが必要です。動画の「NPVが50万円」は、判断ルールを説明するための仮の数字として読んでください。なお、設例では初期投資は今、各年のFCFは各年末に入る前提です。)

毎年のFCF 50万円を、割引率10%で割り引く(万円)1年後50÷1.145.52年後50÷1.1²41.33年後50÷1.1³37.64年後50÷1.1⁴34.25年後50÷1.1⁵31.0現在価値の合計 約189.5- 初期投資300 = NPV 約-110.5(ストップ)
遠い年のお金ほど小さくなります。合計しても、初期投資の300万円には届きません。(表示は四捨五入のため、足し合わせると0.1ずれます)

判断ルール:プラスならゴー、マイナスならストップ

講師は、判断基準は驚くほどシンプルだと言います。NPVがプラス、つまりゼロより大きければ、投資すべきというゴーサインです。その投資は、設定したハードル(割引率10%)をクリアしたうえで、さらに50万円の価値を生むと予測されるからです。逆に、NPVがマイナスなら、投資すべきではないというストップサインです。動画は、これを投資額を回収できない可能性が高いことを示すものと説明します。

(補足:NPVがマイナスとは、割引率として置いたハードルのリターンに届かない、という意味です。動画の「投資額を回収できない可能性が高い」は、おおまかな言い方として読んでください。割り引く前の合計では投資額を回収できる案でも、ハードルのリターンに届かなければ、NPVはマイナスになりえます。)

聞き手は、複数の案を比べる場面も尋ねます。

キッチンカーのほかに、移動式カフェという別の投資案もあって、そちらのNPVがプラス80万円だったらどうでしょう。

複数の投資案を比較する場合は、原則としてNPVが最も大きい案を選択します。その方がより多くの価値を生み出し、会社を豊かにするからです。この場合なら、移動式カフェの方が有望だと判断できますね。

NPV>0ゴーサインハードルを超えたうえでさらに価値を生む見込みNPV<0ストップ割引率のハードルに届かない見込み複数の案最大を選ぶカフェ +80キッチンカー+50→ カフェハードル(割引率)を超えるかどうかが分かれ目です
プラスならゴー、マイナスならストップ。複数案なら、いちばん大きい案を選びます。

(補足:「NPVが最大の案」は、どれか1つを選ぶ場面の原則です。投資額が大きく違う案や、使えるお金に限りがある場合は、投資1円あたりの価値を見るPI法など、別の見方もあわせて使うとされています。)

聞き手が、情熱や勘だけに頼らず、リスクや時間を考えてもこれだけの価値を生むと数字で語れるわけですね、と受け止めると、講師は「そうなんです」と応じます。将来のFCFの予測が外れる可能性は常にありますが、なぜこの投資が良いと考えたのかを、自分自身や他の出資者に論理的に説明できる。これは大きな違いだ、というのが講師の主張です。

動画の最後の問い:NPVが+10万円、でもライバルが出店するかも

動画の終わりに、講師が問いを投げかけます。キッチンカーのNPVを計算したら、プラス10万円だったとします。ギリギリですが、数字の上ではゴーサインです。ところが、すぐ近くに強力なライバルのキッチンカーが出店するという噂を耳にしました。さて、あなたならどうしますか。

動画は、NPVの計算には、競合の出現やブランドイメージへの影響、自分たちがそのビジネスにどれだけ情熱を注げるかといった、数字にしにくい要素は含まれていない、と言います。数字が示す答えを信じるか、計算に現れないリスクなどを重視して見送るか。そこから先が、単なる計算を超えた経営判断の、面白くて難しい世界だ、という締めくくりです。

(補足:動画の単純化を1つ直します。競合の出現は、売上の見込みが下がる話なので、FCFの予測を見直せば計算に反映できます。設例で、毎年82万円のFCFが5年間、割引率10%なら、NPVは約+10.8万円です。ライバルの影響でFCFが約5%減って78万円になれば、NPVは約−4.3万円とマイナスです。小さなプラスは、予測のわずかなずれで判断が逆転します。)

まとめ

動画のまとめです。

動画のまとめ

  • ビジネスの実力は、会計上の利益だけでなく、実際に手元に残るFCFで見る。会社は現金が尽きたときに倒産する。
  • FCFの各パーツの意味を、自分の言葉で説明できるようにする。減価償却費は現金が出ていかないので足し戻し、運転資本の増加は現金が眠るので引き、投資も引く。
  • FCFで将来を予測しても、時間とリスクを考えないと不十分。NPVは、将来の現金を割り引いて現在の価値にし、初期投資を引く。
  • 判断ルールは、NPVがプラスならゴー、マイナスならストップ、複数案ならNPVが最大の案。
  • 動画の最後の問いは、NPVの数字の先にある、計算を超えた経営判断。

最初のキッチンカーの問いに戻ると、勘や情熱に、FCFとNPVという数字の裏づけを足すことで、漠然としたアイデアが、具体的な投資案件として見えてきます。動画は、この数字の根拠を出資者にも説明できることを、大きな強みとして挙げています。

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