開発設計・VE(価値工学)『製品価値を最大化する「VEとフロントローディング」』
運営管理 第45回
「新しい製品が生まれる時、その裏側では一体何が起きているんでしょうか。1つのアイデアがどうやって多くの人の手に届く具体的なものになるのか」。動画はこんな問いかけから始まります。このページでは動画の流れにそって、製品が生まれるまでの流れ(製品企画・製品設計・工程設計)、フロントローディング、デザインレビュー(DR)、VE(価値工学)とV=F÷C、機能の分類、使用者優先の原則、0ルックVEとセカンドルックVEをまとめました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
製品は「地図」と「コンパス」で進む
動画は、「新しい製品が生まれるとき、その裏側では一体何が起きているのか」という問いから始まります。ここで出てくる比喩が、地図とコンパスです。地図は、製品が生まれるまでの全体の流れ。コンパスは、その道のりを賢く速く進むための開発の手法です。
地図の側は、製品企画、製品設計、工程設計の3段階。コンパスの側は、フロントローディング、デザインレビュー(DR)、そしてVE(価値工学)の3つです。順番に見ていきましょう。
最初のステップは製品企画です。市場の要望、ライバル、自社の技術をふまえて、「この製品で、誰のどんな課題を解決するのか」という大きな旗を立てます。
製品設計は「機能→形→作りやすさ」の3点セット
次の製品設計は、さらに3つの小ステップに分かれます。動画の説明を、新しいコーヒーメーカーを例に表にまとめます。
| 小ステップ | やること | 成果物の例 |
|---|---|---|
| 機能設計 | 製品が果たす役割を全部リストアップし、関係を整理する(水を沸かす、豆をひく、など) | 機能系統図(機能の組織図) |
| 製品設計 | 機能を実現する部品の形・材質・寸法を決める | 組立図、部品表 |
| 生産設計 | 形を考える段階で、作りやすさ・安く作れるかも同時に検討する | 工場で作れる図面 |
動画が強調するのが生産設計です。デザイナーが最高にクールで複雑な曲線の部品を作っても、工場で「作れません」「1個10万円です」と言われたら水の泡。作り方を工場の仕事と切り離さず、形を考えるときに同時に検討します。
3つの設計が固まると、最後の工程設計です。どの機械で、どの順番で、どれくらいの時間をかけて部品を加工し組み立てるか。製造全体の詳しいシナリオを作る段階で、ここまで来てようやく工場が動き出す準備が整います。
(補足:JIS Z 8141:2001 の用語では、機能設計は「必要な機能とその関連を求め、各機能を実現させる構造を求める活動」、製品設計は「構成部品の機能・形状とその関連を決める活動」、生産設計は「機能設計の内容について、生産に対する容易性・経済性などを考慮して設計する活動」とされています。動画は「製品設計」を3点セット全体の呼び名にも、その中の2番目にも使っているので、試験では文脈で読み分けましょう。なお「工程設計」「製品企画」という語は、この規格(2001年版)の本文には見当たらず、動画(一般的な整理)の言い方です。JIS Z 8141は2022年に改正されていますが、改正版の本文は確認できていません。)
フロントローディング:先に苦労して、後で楽をする
直訳すると「前に負荷をかける」。聞き手は「ただでさえ忙しい前の工程が、さらにボトルネックになりませんか」と心配します。
前倒しで作業を詰め込んだら、前の工程が詰まってしまいませんか。
いい指摘です。作業をただ前倒しするだけでは進めなくなります。本当の目的は、知識と意思決定を前に持ってくることなんです。
知識と意思決定、ですか。
家で考えてみてください。設計図の上で壁の位置をずらすのは、消しゴムで線を書き直すだけで、費用はほぼゼロ。でも壁を立てた後でずらそうとすると、壊して作り直しです。後の工程ほど、変更のコストは爆発的に膨らみます。
たとえ話:壁の位置
図面の段階なら、消しゴムで済む。立ててしまってからでは、壊して作り直す。製品開発も同じで、問題の発見が遅れるほど、手戻りのダメージが大きくなります。だから設計の初期に徹底的に問題を洗い出して潰します。
(補足:フロントローディングの定義は、経済産業省の2020年版ものづくり白書が「できるだけ開発の初期段階であるエンジニアリングチェーンに資源を集中的に投入することにより、問題点の早期発見、品質向上、後工程での手戻りによるムダを少なくする」ことと書き、注で「設計初期の段階に負荷を掛け、作業を前倒しで進めること」と説明しています。動画の「知識と意思決定を前に持ってくる」は、同じ考え方を別の言葉で言ったものです。)
白書には「製造業では、製品の品質とコストの8割は設計段階で決まると言われてきた」という記述もあります。ただし、この数字は資料によって違います。ある大学紀要が紹介する研究(田中雅康の2013年の研究を紹介したもの)では、製造原価が決まる割合は、企画・構想設計で50%、基本設計で70%、詳細設計で85%、製造準備で95%前後で、製造段階の影響は5%にすぎないとされます。
| 段階 | 累計で決まる割合 | その段階で新たに決まる分 |
|---|---|---|
| 企画・構想設計 | 50% | 50ポイント |
| 基本設計 | 70% | 20ポイント |
| 詳細設計 | 85% | 15ポイント |
| 製造準備 | 約95% | 10ポイント |
白書の「8割」は品質とコスト、こちらは製造原価の話で、同じ数字ではありません。「設計の上流で、品質とコストの大半が決まる」という方向だけ押さえれば十分です。「8割」の根拠に疑問を示す研究もあり、数字の暗記にこだわる必要はありません。
デザインレビュー(DR):設計図の公開裁判
フロントローディングを実現する最も強力なツールがデザインレビュー(DR)です。動画はこれを「設計図の公開裁判」にたとえます。図面や仕様書をめぐって、製造・営業・品質保証・購買、さらにはカスタマーサービスまで、あらゆる関係部門の専門家が集まり、多角的に「尋問」するのです。
設計者だけでは気づかない視点をぶつけ合うわけですね。
ええ。以前ある製品のDRで、部品の交換がとても大変な設計になっていました。サービス担当の人が、「お客様先で直すのに3時間かかりますよ。でもこのネジの位置を5cmずらせば5分で終わります」と一言。
それは大きいですね。
設計者は性能を追うあまり、修理のしやすさまで頭が回っていなかった。でも、この一言で将来の膨大な修理コストと顧客の不満を未然に防げました。これがDRの真価です。
この例の3時間(180分)が5分になると、修理時間は36分の1です(180÷5=36、約97%の短縮)。たった5cmの位置の違いで、後の工程のコストが桁違いに変わる。フロントローディングの「早く直すほど安い」を地で行く話です。
(補足:JIS Z 8115:2019 は、デザインレビューを「ライフサイクル全体にわたる既存又は新規に要求される設計活動に対する、文書化された計画的な審査」と定義し、要求事項や設計活動中の不具合を検出・修正する目的で行うと説明しています。動画には出てきませんが、JIS Z 8141:2001 には、設計・開発の段階で製造や購買の部門と協議して開発期間の短縮や原価低減を図るデザインイン、製品設計と製造・販売などの統合化・同時進行化を行うコンカレントエンジニアリングも載っています。どれも「関係部門を早く巻き込む」考え方です。コンカレントとサイマルテニアスの使い分けは、確認できた資料では確かめられなかったので扱いません。)
VE(価値工学):価値は V=F÷C
DRの議論では、「この機能に、本当にこのコストをかける価値があるのか」という声が出てきます。まさにその価値を突き詰めるのがVE(Value Engineering、価値工学)です。動画は、VEを「単なるコスト削減とは次元が違う、製品やサービスの価値そのものを最大化するための体系的な手法」と紹介します。
価値の定義は、とても明快です。
VE の公式
V(価値)=F(機能)÷C(コスト)
価値を上げたければ、分母のコストを下げるか、分子の機能を上げればよい。
動画は、これを突き詰めると3パターンしかないと説明します。
| パターン | 中身 | 作例(基準 F=100、C=100、V=1.00) |
|---|---|---|
| ① | 機能を維持したまま、コストを下げる | F=100、C=80 → V=1.25 |
| ② | コストを維持して、機能を向上させる | F=120、C=100 → V=1.20 |
| ③ | コストが多少上がっても、それ以上に機能を大きく向上させる | F=130、C=110 → V=約1.18 |
(補足:表の数値は、仕組みを見やすくするための作例で、動画にある数字ではありません。また、価値向上のパターンの数は資料によって違います。ITmedia の用語事典などは、動画の3つに「機能を向上させてコストも下げる」を加えた4つを挙げ、大学の資料には5パターンを挙げるものもあります。「機能を下げて、それ以上にコストを下げる」は、式の上では価値が上がっても、機能の引き下げは別製品の開発とみなされVEの範囲外とする資料があります。)
(補足:VEの定義は、日本VE協会が「製品やサービスの『価値』を、それが果たすべき『機能』とそのためにかける『コスト』との関係で把握し、システム化された手順によって『価値』の向上をはかる手法」としています。JIS Z 8141:2001 の本文には「VE」「価値工学」の語は見当たらず、規格による定義は確認できませんでした(2022年の改正版は本文を確認できていません)。VEの手順(機能定義→機能評価→代替案作成)や5原則の全体像は、運営管理の別の回(生産計画 006)でくわしく扱っています。)
「機能」を分ける:使用機能と貴重機能、基本機能と補助機能(二次機能)
聞き手は鋭く突っ込みます。「機能って主観的ですよね。僕の必須機能が、あなたには余計なお世話かもしれない。Fはどうやって決めるのですか」。答えは、機能を徹底的に分解して考える、です。動画は2組の分け方を紹介します。
| 分け方 | 意味 | 例 |
|---|---|---|
| 使用機能 | 使うことで得られる機能 | 靴が足を守る |
| 貴重機能 | 所有する喜びなど、希少性や見た目から生まれる機能 | 限定モデルの靴 |
| 基本機能 | なければ製品として成り立たない機能 | カメラで写真を撮る |
| 補助機能(正式には二次機能) | 動画の説明は「あると便利だが、なくても成り立つ機能」。正式な二次機能は基本機能以外の全ての機能 | ストラップの金具 |
ただ「靴」と一括りにするのではなく、「どんな価値で勝負するのか」を決める。VEでは、製品を構成する部品やサービスを、こうした機能のレベルで分析し、「この機能は本当に必要か」「もっと低コストで同じ機能を実現できないか」と問い直していきます。
(補足:「補助機能」は動画の言い方で、正式な用語は二次機能です。青森県の「農業農村整備設計VEの手引き」は、機能を基本機能と二次機能に分類し、基本機能を「その機能を取り去ったらその対象の存在価値が無くなる機能」、二次機能を「基本機能以外の全ての機能」としています。つまり二次機能は「あると便利な機能」に限らず、基本機能以外のすべてです。また基本機能と二次機能は相対的なもので、対象の範囲により変わります(手引きの例:「桁を支える」は、橋梁下部工では基本機能、橋梁工では二次機能)。試験でも、平成22年度の運営管理第5問の選択肢に「使用機能は、基本機能と二次機能に分類される」という文が出ます(この問は「最も不適切なもの」を選ぶ形式で、各選択肢の正誤は確認できていません)。使用機能・貴重機能の公的な定義までは確認できなかったため、試験では問題文の用語に合わせて読み替えてください。)
VEの5原則と「使用者優先の原則」
問い直しのための指針がVEの5原則です。動画は、5原則があること、覚えるための語呂合わせ「組織価値で」があることに触れ、その中から使用者優先の原則を深掘りします。5原則の名称は動画の中では挙げられていません(名称は下の補足を参照)。
典型例が、昔のテレビやビデオのリモコンです。同じような小さなボタンが50個ほど並び、どれが何のボタンか分からない。結局使うのは電源とチャンネルと音量くらい。技術者が「こんな機能もつけられます」「あれもできます」と詰め込んだ結果、使用者を完全に無視した形になっています。
最近のスマートテレビのリモコンは、ボタンがすごく少ないですよね。
あれは、使用者が本当に優先する機能は何かを突き詰めた結果です。たくさんの機能を手放すことで、使いやすさという価値を劇的に向上させたんです。
機能を増やすことだけが価値向上じゃない。目から鱗です。
(補足:5原則の名称は書き手の補足で、大分県の設計VEガイドラインや日本語版Wikipediaでは、使用者優先・機能本位・創造による変更・チームデザイン・価値向上とされています。語呂合わせの「組織価値で」は動画の紹介で、公式の覚え方とは限りません。)
0ルックVEとセカンドルックVE:いつ使うか
VEは、どの時期に適用するかで呼び名が変わります。ゼロから新製品を企画する段階で使うのが0ルックVE、すでに市場に出ている既存の製品を改良するために使うのがセカンドルックVEです。動画の例えでは、0ルックVEは建築家が省エネで住みやすい家をゼロから設計すること、セカンドルックVEは10年住んだ家のリフォームをコンサルタントに頼んで改善してもらうことにあたります。
(補足:動画では触れていませんが、間に設計段階の1stルックVE(ファーストルックVE)があります。ITmedia の用語事典は0ルックを設計前の企画段階、1stルックを設計段階、2ndルックを製造段階・購買段階、日経クロステックは2ndルックを製品ができている段階としていて、動画の「既存品の改良」とほぼ重なります。段階の呼び方や区切りは資料で少し違うので、問題文の定義に合わせてください。)
最後の問い:機能を減らすことは、価値を高めるか
動画は最後に問いを投げかけます。VEの基本はV=F÷Cで、原則として機能Fは下げない。しかし現代は機能が過剰な製品にあふれている。使用者にとって本質的ではない機能を取り除いてシンプルにすることこそが、最も価値を高める行為ではないか。多機能と高価値はイコールではない、という話です。
式だけを見ると、機能を落とすほどVが上がるように見えます。たとえばF=90、C=60なら V=90÷60=1.5(基準の1.00より上)です。ただ、先ほど触れたとおり、機能の引き下げは別製品の開発とみなしてVEの範囲外とする資料があります。(書き手の整理:使用者が求めない機能は「必要な機能」に数えない、と考えれば動画の主張と矛盾しません。)
まとめ
- 製品開発の地図:製品企画 → 製品設計(機能設計・製品設計・生産設計の3点セット)→ 工程設計。
- フロントローディング:知識と意思決定を前に持ってきて、設計の初期に問題を洗い出し、後工程の手戻りを減らす。
- デザインレビュー(DR):関係部門が集まって設計を多角的に審査する、フロントローディングのツール。
- VE:V=F÷C。維持・向上・コストの組み合わせで価値を上げる。機能は使用機能と貴重機能、基本機能と補助機能(正式には二次機能)などに分けて考える。
- 使用者優先の原則:使用者が本当に求める機能を突き詰め、不要な機能は手放す。
- 0ルックVEとセカンドルックVE:新製品を企画する段階か、既存品を改良する段階かで呼び名が変わる。
試験の注目点
製品設計は「機能設計・製品設計・生産設計」。フロントローディングは「設計の初期に負荷をかけ、手戻りを減らす」。VEの公式V=F÷Cと価値向上のパターン、そして機能の分類(問題文の用語に注意)を、セットで押さえておきましょう。
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