地上権と賃借権の違い|物権と債権、対抗力・譲渡転貸・地代を比較
「地下鉄に乗っているとき、その真上に誰かの家が建っているかもしれない」。動画は、こんな話から始まります。他人の土地の地下や空中を使えるのはなぜか。その答えが地上権です。地上権と賃借権はどちらも他人の土地を使う権利ですが、物権か債権かで、対抗力、譲渡・転貸、地代の扱いが変わります。このページでは動画の流れにそって、地上権と賃借権の違いを表と図でまとめ、存続期間の数字は条文で補いました。まず動画を聞いて、あとからここで復習するのがおすすめです。
3行でいうと
- 地上権は、他人の土地で建物などの工作物や竹木を所有するために、その土地を使う権利です(民法265条)。土地に直接付く物権で、地下や空中の一部だけに設定する区分地上権もあります。
- 賃借権は、土地の持ち主(賃貸人)との契約にもとづく債権です。地上権との違いは3点。対抗力、譲渡・転貸、地代(賃料)です。
- 地上権は、地主の承諾なしに譲渡・転貸でき、地代の定めがなくても成り立ちます。賃借権は、賃貸人の承諾が必要で、賃料の合意がなければ成り立ちません。迷ったら「物権か債権か」から考えます。
地上権とは?他人の土地で建物や木を持つための権利
動画は、地下鉄の話から始まります。「地下鉄に乗っているとき、その真上に誰かの家が建っているかもしれない」。トンネルが他人の土地の下を通る区間では、勝手には通れません。そこで登場するのが地上権です。
地上権とは、他人の土地において工作物または竹木を所有するため、その土地を使用する権利のことです(265条)。土地は他人のもののまま、その上に自分の建物を持ち続けるために、土地を使わせてもらいます。
「工作物」の代表例が建物で、「竹木」は竹や木のことです。木を持つためだけの地上権もあります。動画も「地上権の目的は、工作物の所有か竹木の所有、この2つ」と整理しています。
工作物って、建物のことですか?
建物は代表例です。条文は「工作物又は竹木」と書いていて、建物はその工作物に含まれる、という整理です。
地上権は、地下や空中にも設定できる(区分地上権)
動画の面白いところは、地上権が土地の表面だけの権利ではない、という説明です。土地を横から切った断面を、ケーキの層のように思い浮かべます。地下の層、地表、空中の3つです。地上権は、地下の一部だけ、空中の一部だけと、上下の範囲を区切って設定できます。これを区分地上権といいます(269条の2第1項)。
典型例が、冒頭の地下鉄とモノレールです。地下鉄は地下の層、モノレールは空中の層にあたります。鉄道会社は、公道の下を通せない区間では、その土地の地下部分について地上権の設定を受けます。土地そのものを買う必要はなく、地上の家には、そのまま住み続けられます。
上に住みながら、下だけ貸しているということですか?
そうです。土地の一定の範囲にだけ設定できる、というのが地上権の大きな特徴です。
補足:動画では「地上権は地下や空間にも設定できる」と話していますが、条文では、地下や空間を目的とする地上権(区分地上権)は「工作物を所有するため」のものと決まっています(269条の2第1項)。通常の地上権のように、竹木を所有する目的では設定できません。また、その土地に第三者の使用・収益の権利(たとえば賃借権)があるときは、その権利やそれを目的とする権利を持つ全員の承諾があれば設定でき、その権利者は区分地上権の行使を妨げられません(同条2項)。なお、区分地上権の条文は269条の2です(動画の最後の整理でも269条の2と言っています)。前半で別の番号に聞こえる箇所があっても、269条の2で覚えてください。
地上権と賃借権の違いは「物権か債権か」
地上権と賃借権は、どちらも他人の土地を使う権利です。そのため、似ているから違いは気にしなくてもよさそうに見えます。ところが、法的な性質は大きく違います。
地上権は物権、賃借権は債権です。物権は「物」に対する権利、債権は「人」に対する権利と考えます。動画の言い方では、地上権は土地そのものに旗を立てている感じ、賃借権は貸主との約束にぶら下がっている感じです。
この違いから、扱いが変わる点が3つあります。対抗力、譲渡・転貸、地代(賃料)です。
比べてみよう:地上権と賃借権
| 観点 | 地上権 | 賃借権 |
|---|---|---|
| 権利の性質 | 物権土地に直接付く | 債権貸主に対する権利 |
| 対抗要件 | 地上権の登記建物所有目的なら建物の登記でも可 | 賃借権の登記建物所有目的なら建物の登記でも可 |
| 登記への協力 | 地主に協力する義務がある | 賃貸人に協力する義務はない |
| 譲渡・転貸 | 地主の承諾不要 | 賃貸人の承諾が必要612条 |
| 地代・賃料 | 要素ではない無償の地上権もある | 要素601条 |
| 存続期間条文から補足 | 民法に上限・下限の定めなし定めがなければ268条 | 50年以内604条 |
動画で整理されたのは、対抗力、譲渡と転貸、地代の3点でした。表の最後の「存続期間」の行は、条文から補った項目です(くわしくはこのページの後半で触れます)。なお、建物を所有する目的の場合は、地上権でも賃借権でも借地借家法の借地権として、存続期間は30年からになります。
① 対抗力:新しい持ち主に「この土地を使う権利があります」と言えるか
対抗力とは、契約の当事者以外の第三者にも、自分の権利を主張できる力のことです。たとえば、使っている途中で土地の持ち主が変わったとき、新しい持ち主に権利を主張できるかどうか、という場面で問題になります。
地上権は、地上権の登記をすれば第三者に対抗できます(177条)。しかも、地上権者が登記をしたいと求めたら、土地の所有者は応じなければなりません。つまり地上権者は、自分から登記を進められます。
賃借権も、賃借権の登記をすれば第三者に対抗できます(605条)。しかし、賃貸人には登記に協力する義務がありません。貸主が応じてくれなければ、現実には登記ができないのです。ここが賃借権の弱点です。
補足:「地主に登記の協力義務がある・ない」は、条文にそのまま書かれているわけではなく、判例・通説による整理です。権利に関する登記は、登記権利者と登記義務者が共同で申請するのが原則です(不動産登記法60条)。地上権者は登記を請求でき、賃借人は、特約がなければ、貸主に賃借権の登記を請求できない、と理解します。
建物を所有する目的の場合は、地上権でも賃借権でも、土地の上にある建物の登記があれば、第三者に対抗できます。借地借家法10条1項は、借地権は、その登記がなくても、土地の上に借地権者が登記されている建物を所有するときは、第三者に対抗できると定めています。自分名義の建物を登記しておけば、それが土地を使う権利の目印になる、という考え方です。動画の言葉でいえば、建物という看板が立っているようなものです。
補足:借地借家法でいう「借地権」は、建物の所有を目的とする地上権または土地の賃借権のことです(2条1号)。竹木を所有する目的の地上権や、駐車場のように建物を建てない目的の賃借権には、この建物の登記による対抗は使えません。また、対抗要件を備えた賃借権は、土地が譲渡されると、賃貸人の地位が新しい所有者に移ります(605条の2第1項)。
② 譲渡・転貸:地上権は自由、賃借権は承諾が必要
転貸とは、借りているものを、さらに別の人に貸すこと、つまり「また貸し」です。地上権では、地主の承諾があるかないかを問わず、地上権者は権利を譲渡したり、土地を転貸したりできます。地主は何も言えません。
賃借権では、賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、賃借権を譲り渡したり、賃借物を転貸したりできません(612条1項)。承諾なしに第三者に使用・収益をさせたときは、賃貸人は契約を解除できます(同条2項)。
差がつく理由は、理屈で押さえると忘れません。地上権は物権として独立性が強く、権利者が自由に処分できる権利です。これに対して賃借権は、当事者の信頼関係を基礎とする債権です。「この人になら貸してもいい」と思ったのに、知らない人に変わられたら困ります。だから賃貸人の承諾が必要なのです。友達に貸した自転車を知らない人が乗っていたら驚く、という動画のたとえがそのまま当てはまります。
承諾がいるかいらないかは、丸暗記しないといけませんか?
いいえ。「物権は自由、債権は信頼関係」と考えれば導けます。理由から思い出せると、試験でも迷いにくくなります。
補足:動画は、賃借権の譲渡・転貸には「原則として」賃貸人の承諾が必要と話しています。この「原則」には例外があります。建物を所有する目的の土地の賃借権で、借地上の建物を第三者に譲渡しようとするとき、賃借権の譲渡・転貸で賃貸人に不利となるおそれがないにもかかわらず賃貸人が承諾しないなら、借地権者の申立てにより、裁判所が承諾に代わる許可を与えることができます(借地借家法19条1項)。また、無断で譲渡・転貸があっても、賃貸人に対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情があれば、判例は解除を認めていません。
③ 地代と賃料:なくても成り立つか、必須か
土地を使う以上、お金は払うのが当たり前に思えます。ところが、地上権では地代の支払いは要素ではありません。権利が成り立つために絶対に必要な条件ではない、という意味です。地代の定めのない地上権も成立します。ですから「地代の定めがない地上権は無効」という選択肢は、誤りです。
地代を定めた場合には、注意点があります。地上権者が引き続き2年以上地代の支払いを怠ったときは、土地の所有者は、地上権の消滅を請求できます(266条1項、276条)。1年分をためた段階では、まだこの請求はできません。2年分たまって初めて出てくる話です。
賃借権では逆に、賃料は賃借権の要素です。賃貸借は、使用・収益をさせることと、賃料を支払うことなどを約して成立する契約だからです(601条)。賃料の合意がなければ、賃貸借契約そのものが成立しません。地上権との、いちばんきれいな対比です。
補足:賃借権の賃料不払いは、債務不履行による解除(541条)の問題として扱います。地上権の「2年以上」という数字は、賃借権には当てはまりません。
存続期間の数字も条文で確認しておく
補足:動画には、存続期間の話は出てきません。ただ、地上権と賃借権の比較では数字が混ざりやすいので、条文で確認しておきます。
- 地上権:存続期間は設定行為(契約)で定めます。定めなかったときは、別段の慣習がなければ、地上権者はいつでも権利を放棄できます。ただし地代を支払うべきときは、1年前に予告するか、期限の到来していない1年分の地代を支払います。放棄しないときは、裁判所が当事者の請求により、20年以上50年以下の範囲で存続期間を定めます(268条)。
- 賃貸借(民法):存続期間は50年を超えられません。契約でこれより長く定めても、50年になります。更新もでき、更新後の期間も更新の時から50年が上限です(604条)。この上限は、2020年4月1日施行の民法改正で、それまでの20年から50年に延びました。
- 建物を所有する目的(借地権):地上権でも賃借権でも借地借家法が適用され、存続期間は30年です。30年より短く定めても30年になり、これより長く定めたときはその期間になります(3条)。更新後の期間は、更新の日から10年(最初の更新は20年)です(4条)。
「20年以上50年以下」は、存続期間の定めがない地上権で裁判所が定める場合、「50年」は賃貸借の上限、「30年」は建物を所有する目的の借地権、と場面ごとに分けて覚えましょう。
具体例:鉄道会社が地下にトンネルを通す
動画の例:地下鉄の区間
鉄道会社が新しい路線をつくります。原則は、公道の下にトンネルを通します。公道なら、個人の土地を避けられるので、トラブルになりにくいからです。ところが、一部の区間では、どうしても個人が所有する土地の地下を通さなければなりません。そこで鉄道会社は、その土地の地下部分について地上権(区分地上権)の設定を受けます。土地そのものを買わなくても、地下の一定の範囲だけを使わせてもらえるので、地上の家の持ち主は、そのまま住み続けられます。
まとめ
- 地上権は、他人の土地で工作物か竹木を所有するための物権(265条)。地下や空中の範囲を区切る区分地上権もあり、地下鉄やモノレールが典型例(269条の2)
- 地上権と賃借権は、物権か債権かが出発点。対抗力は、地上権は登記に地主の協力義務あり、賃借権は協力義務なし。建物所有目的なら、どちらも建物の登記で対抗できる
- 譲渡・転貸は、地上権は承諾不要、賃借権は承諾が必要。地代は、地上権は要素ではない(2年以上の滞納で消滅請求)、賃借権の賃料は要素
試験ではここに注目
- 「地上権は土地の表面にしか設定できない」は誤り。地下や空間にも設定でき、これが区分地上権。ただし区分地上権の目的は工作物の所有に限られる
- 地上権の目的は工作物または竹木の所有。建物は工作物に含まれる
- 地上権者は地主の承諾なしで譲渡・転貸できる。賃借人は賃貸人の承諾が必要で、無断で第三者に使わせると賃貸人は解除できる(612条)
- 「地代の定めがない地上権は無効」は誤り。地代は要素ではない。地代を定めた場合は、引き続き2年以上怠ると消滅を請求される。賃借権は賃料の合意が必要
- 建物を所有する目的なら、地上権でも賃借権でも土地の上の建物の登記で対抗できる(借地借家法10条)。存続期間は、賃貸借が50年以内(604条)、借地権が30年(借地借家法3条)
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